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大陸英雄戦記  作者: 悪一
ラスキノ独立戦争
52/496

包囲

 第33小隊がラスキノで防衛作戦実行準備をしている頃、シレジア・オストマルク義勇軍の連合部隊はオゼルキで苦戦していた。


「閣下、右翼から敵の騎兵隊です。数およそ1000!」

「第7、第8歩兵中隊に迎撃させろ。初級魔術で牽制するのを忘れずにな!」

「ハッ!」


 この部隊を指揮しているのはシレジア軍のシュミット准将。オストマルク義勇軍の司令官だった少将が先の戦いで戦死したため、次に階級の高かったシュミットが全軍の指揮を引き継いだ。


「やれやれ。このままだと全滅だな」


 シュミットは冷静に状況を判断できている。

 義勇軍部隊の総数は既に7,000を切っている。一方帝国軍はラスキノ攻略のため数を減らしたものの、まだ3個師団、およそ30,000の兵力を残している。敵の指揮官も有能らしく、逃げ出す隙も付け入る隙も与えてくれないまま、ジリジリと義勇軍部隊はその数を減らしている。


「まさにジリ貧という訳か」


 シュミットが無能故にこのような結果になっているわけではない。もしこれがラスキノ警備隊隊長であるゲディミナス大佐が指揮を執っていれば、義勇軍は確実に全滅していたであろう。


「閣下!」

「どうしたルット中尉。また敵の新手か?」

「いえ、本国からの連絡です」


 ルット中尉はそう言うと、シュミットに本国からの連絡文書を渡した。


「……この状況下でよく届いたな」

「敵がラスキノ包囲のために部隊を動かしたため、一時的に隙ができたようです」

「不幸中の幸いというわけか」


 シュミットはその文を一読すると、特に何も言うことなくルットに見せた。


「……本国から増援ですか?」

「あぁ。シレジアから3個師団、オストマルクから8個師団の義勇軍が増援としてラスキノに派遣されるらしい」

「そんな大規模な……。それだけ動員できるのであれば、なぜ最初からそうしなかったのでしょうか」

「オストマルクの場合、ラスキノから遠く離れている関係上大兵力を送り込み辛い。戦死したオストマルクの将官が言うには、商人や旅人と偽って東大陸帝国に入国したそうだ」

「なるほど。それを考えると1個連隊送り込めたのはむしろすごい事ですね」

「あぁ。今回はシレジア領内の一時通行権が認められたようだ」

「そして、それと一緒に我が国も増援を出すと?」

「そういうことだ。伝文によれば増援は1ヶ月後に到着と言うことだ」

「……それまでに持つでしょうか」

「さぁな。敵さんに聞け」


 問題はラスキノの方である。城郭都市とは言え、1個連隊しか持たぬ守備隊。1ヶ月も持つか問われれば、疑問符がつくだろう。


「とりあえずこの情報をラスキノに伝えませんと」

「あぁ、そうだな。難しいだろうが早急に頼む」

「ハッ!」


 ラスキノも心配だが、今はまず眼前の敵をなんとかするしかない。

 シュミットはそう考え、増援到着までの時間稼ぎに専念した。




---




「ラデック、食料の備蓄はどれくらいある?」

「旧市街と新市街、かき集めるだけかき集めて約1ヶ月分ってとこだな」

「それだけか? 確か洪水に備えて3ヶ月分の備蓄があると聞いたけど」

「それは旧市街の住民だけの計算だ。今は旧市街に新市街の住民も入れてあるから1ヶ月分しかない」

「そうか……」

「それに生鮮食料品は3、4日でなくなると思った方が良い。さすがにそれ以降は傷んで食えなくなる」

「そこは仕方ないだろうな」


 準備はほぼ計画通り済んだが、問題がいくつかある。


 一つ目。いつまで籠城すればいいかわからないこと。

 籠城戦は、敵包囲軍の外側から多くの友軍で包囲するか、敵包囲軍の交戦意思を挫くかが鍵だ。前者についてはわからない。一応ラスキノには王女殿下がいるってことは本国も分かってはいるだろう。王宮内で何があるかは知らんが、建前として増援を出さなければならない状況下にはあるはず。ただ、それがいつになるのか、どれくらいの規模なのかが分からない。だから俺らは後者に賭けるしかない。敵の交戦意思を壊す。例えば兵糧不足とか兵士の士気を挫いたりとか。それを前提に計画は立ててあるが、1ヶ月で交戦意思の破壊なんてできるだろうか……。


 問題の二つ目は、旧市街に市民を集めたことによって衛生上の問題が出る可能性があること。人口が一気に3倍になったのだ。旧市街の下水処理能力を上回っているだろう。医者と治癒魔術師はフル動員だな。


 で、三つ目の問題は、上記二つより深刻かもしれない。ラスキノ民兵の指揮と士気の問題だな。こればっかりは始まってみないとわからん。

 ラスキノ民兵は勿論ラスキノのために戦っている。彼らにとって俺らは外国人だ。外国人が作った作戦計画に従ってくれるのかが心配だ。従ってくれたとしても士気(やる気)が低ければやっぱり意味がない。


 うーん。演説かまして兵を鼓舞するって言う手もあるけど、俺のキャラじゃないな。エミリア殿下か准将あたりの仕事だろう。もしくはこっちが積極的に動いて「俺らラスキノのみんなのために働いてるんだぜアピール」するか。何もせず後ろからホイホイ指示されても腹立つだけだしね。


「ユゼフ!」


 乱暴に司令部の戸を開けたのは我らがサラ先生である。ドアが壊れるからもうちょっと静かに開けて?


「どうした?」

「敵が来たわ。新市街外縁、南北にそれぞれ1個師団ずつ」


 いよいよ来たか。


「サラ、一緒に行こうか」

「ユゼフも来るの?」

「さすがに安全な旧市街に引き篭るのは申し訳ないから」

「……私は別に構わないわよ?」

「俺の気持ちの問題だよ。それに、どうせ死ぬなら一緒の方が寂しくないだろ?」


 ひとりぼっちは寂しいもんな、てか?


「ばーか」


 サラは笑うでもなく怒るでもなく、そう言って歩き始めた。


「ユゼフを死なせるわけないでしょ」

「そっか」


 んじゃ俺もサラを死なせるわけにはいかないな。

【参加兵力】


東大陸帝国 ラスキノ市鎮圧部隊  総司令官:ユーリ・サディリン少将

 ・第52師団(ユーリ・サディリン少将) 10,280名

 ・第55師団(ウラジーミル・シロコフ少将) 9,400名

 総兵力 19,680名


ラスキノ独立派  防衛司令官:ニコラス・フォン・カーク准将

 ・オストマルク帝国第199特設連隊第5大隊(ニコラス・フォン・カーク准将) 440名

 ・シレジア王国第38独立混成旅団第33歩兵小隊(ヤヌス・マエフスキ中尉) 30名

 ・ラスキノ独立軍(指揮代行 ニコラス・フォン・カーク准将) 3,180名

 総兵力 3,650名

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