表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大陸英雄戦記  作者: 悪一
ラスキノ独立戦争
50/496

指揮権

 急報が入ったのは、王女殿下とカーク准将の会見中のことである。


「失礼します。哨戒部隊より急報です」


 それは、帝国軍の1個ないし2個師団がラスキノを包囲せんと動き始めた、というものである。


「まずいなこれは」


 准将はここに来て初めて焦りの色を見せた。王女の会見時には汗ひとつかいてなかったのに。


「ゼーマンさん。義勇軍本隊はどうなっているかわかりますか?」

「本隊は依然として敵3個師団に足止めされているようです。後退は難しいかと思います」


 これは、本格的にまずいな。


 本隊はラスキノの東、オゼルキで足止めを食らっている。もし不用意に後退すれば敵の攻勢を受け潰走するだろう。

 だが本隊なしだとラスキノにいる義勇軍じゃ数が足りない。とてもじゃないが守りきれないだろう。


「閣下、ラスキノの民兵を動員しましょう」

「そうだな。この状況下では大佐に要請するしかあるまい」


 ゼーマン軍曹とカーク准将は冷静に事を受け止めている。うん、この二人優秀かも。

 問題は肝心の大佐の方だ。あの大佐が指揮権をこちらに渡すとは考えられない。

 大佐のバカ! アホ! 無能!


 でも罵ってる暇も意地張ってる暇もない。さっさと大佐の司令部に行くしかないね。


「殿下、話の続きはまたの機会に」

「わかりました」


 この戦いが終わったら、カーク准将と会見するんだ……。

 あ、これダメだ死ぬ。





 大佐の司令部に我が第33小隊の隊長、ナントカ中尉さんとカーク准将、そして俺。小隊長になんか来いって言われた。口喧嘩要員であることは間違いない


「大佐、よろしいですか」

「誰だ」

「オストマルク義勇軍准将のカークです」

「ふん。准将閣下が私に何の用かな」


 他国の軍人とは言え格上相手にやたら偉そうな大佐である。


「帝国軍がラスキノに対し攻勢をかけてきました。我が義勇軍は数が少なく、組織的防衛は不可能です」

「それで?」

「ですので、大佐の指揮下にあるラスキノ独立軍の指揮権を一時お貸し願いたい」

「断る」


 即答だった。予想通りだけど。


「むしろ君たち義勇軍部隊の指揮権を私に渡せ」

「なぜです?」

「その方が効率がいい。我が精鋭なる独立軍はこの町に3000名の人員を保有しているが、貴様ら義勇軍は500名にも満たないそうではないか。であれば、500名を私の指揮下に置くのが合理的だとは思わないかね?」


 思わないよ。だってあんた合理的な判断できなさそうじゃん。ていうか民兵3000人を精鋭と言える大言壮語ぶりやばいです。


「では、仮に大佐に指揮を預けたとして、何か有効な防衛策はあるのですか?」

「……ある」


 嘘だな。


「では、その策とやらを私達に教えてもらいませんか?」

「機密につき、話すことはできない」


 作戦を機密にしてどうやって動けと言うのだ。

 もう我慢ならん。大佐ァ!


「……大佐、指揮権をお貸しください」

「断る!」

「では、我々シレジア義勇軍はこの国から撤退します」

「なに!?」


 まぁそんな権限俺にないし、それに今撤退すれば戦線崩壊して死傷者たくさん出るからやろうと思ってもできない。これは単なる趣味の悪い嘘だ。

 小隊長を見てみるとポカーンとしていた。一方准将はニヤニヤしていた。俺の考えに気付いたかな。


「そうですな。指揮権もこちらに渡さず作戦も教えてくださらないとなれば我々にはどうしようもありません。我がオストマルク義勇軍も撤退しましょう」


 ここでラスキノを絶対死守しなければならないというわけではない。というかさっさと帰りたい。


「大佐、ではお元気で。と言っても、皇帝陛下に弓を引いたのです。大逆罪に問われるでしょうな」

「た、たた、大逆罪、だと!?」


 大逆罪。東大陸帝国では最も重い罪だ。

 量刑は一族郎党皆殺し。歴史の教科書に「帝国に刃向った極悪人」として記載されることになる。


「ま、待ってくれ!」

「なぜ、待たなければならないのですか?」

「ま、まだ私は死にたくない!」

「奇遇ですね。私もです」


 俺だって友人は大事だからこんなところで死なせたくはないのだ。だから逃げ……じゃないな、転進する。


「お願いだ、ここで君らが引けばラスキノは防衛できない!」

「大丈夫でしょう? なんてったってラスキノには精鋭部隊3000と大佐の防衛作戦があるのですから」

「そ、それは……その」

「なんです?」


 大佐はその場でのた打ち回ってる。哀れすぎて笑うこともできない。


「……カーク准将と言ったな」

「なんでしょう、大佐」

「…………貴官に、全軍の指揮権を委ねる」


 大佐は床にへこたれると、掠れた声でそう言った。


「指揮権、戴きました」


 やれやれ。






 小隊長にしこたま怒られた後、なんか褒められた。あれ、なんかデジャヴが……。


「とりあえず早急に防衛作戦を練らねばならないな。防衛司令部はこの城を使うとして……」

「カーク准将、防衛作戦はある程度できています」

「なんだと?」

「ワレサ准尉が作ってくれました」


 小隊長に促されて、俺は例の地図を出す。書き込みがすごいことになってるから准将に理解できるかな……。


「……これは、君1人で?」

「いえ、ゼーマン軍曹と、私の友人に手伝ってもらいました」


 2人がいなかったらここまでできなかったよ。


「……わかった。この作戦案を採用する」

「ありがとうございます」

「とりあえず、新市街の非戦闘員を旧市街に避難させるとしよう。現場指揮は、小隊長殿にお任せしてよろしいかな?」

「了解です。ワレサ准尉、手伝ってくれ」

「はい!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 誰が話してるか分からない。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ