第33歩兵小隊第4班
詳しい編制と任務が伝えられたのは翌日の事である。
「それで、なんでまたこのメンバーなわけ?」
俺の所属しているのは第38独立混成旅団第3中隊第3歩兵小隊第4班、略して第33歩兵小隊第4班。もっと略すと第33-4部隊。うん、どうやらこの世界でも例の呪いはあるらしい。なんでや。
第33-4部隊の構成は、俺、ラデック、サラ、エミリア様、ヴァルタさんの5人。
恣意的なものを感じる。
「そんなことはどうでもいいわ」
「どうでもいいのか……?」
「いいじゃねぇか。知らん奴と肩並べるよりお前らと一緒の方が何かと安心だ」
それもそうか。
「私は納得できません」
「エミリア様? どうしてです?」
「だって、与えられた任務はラスキノの後方警備ですよ! 結局後方待機ではないですか!」
「いや、私たちは士官候補生で素人ですから……」
「徴兵された農民兵は前線に行ってます!」
俺たちの任務は、現在戦火から遠く独立派の拠点でもあるラスキノの町の警備である。これは人事参謀殿が空気読んだ結果かな。
「しかしエミリア様、後方警備とは言っても前線でもありますよ」
「どういうことです?」
「独立派は各国から義勇兵を集めていますが、それでも帝国軍の方が数で圧倒しています。いつ戦線が崩壊してもおかしくはないでしょう」
現在、戦線はラスキノから東にある便乗で独立宣言した都市の近くにある。川を挟んでの睨み合いとなってるらしく、それでかろうじて戦線を維持してるようだ。このまま続いて帝国が独立派と停戦すれば万々歳だがそうは行くまい。
「じゃあワレサくんは、ラスキノが戦場になると?」
「帝国軍が本気ならそうなるでしょう」
「本気じゃなければ?」
「そしたら私たちはクリスマスまでにシレジアに帰れます」
「くりすます?」
おっといけね、この世界にはキリストはいないんだった。
「間違えました。年末年始は家族と一緒に過ごせますよ」
帝国軍が本気を出すかは五分五分かな。ラスキノは特に産業も資源もあるわけではない。純軍事的な観点で言えばこんな反乱頻発地帯を必死で守る必要もない。ただこれに貴族の威信だとか武人の名誉とか皇帝の意地とかが入ると泥沼になる。
「なるほど? さすが戦術研究科というわけかな?」
「茶化さないでくださいよ。こんなの、ヴァルタさんだってわかるでしょう」
「私には思いもつかなかった」
絶対ウソだ。
「ま、私としては帝国軍の動向よりも王国軍の方が気になりますよ」
「どういうことよ?」
「サラ、俺たちの階級はなんだ?」
「えっ。えーっと、たしか准尉待遇って言ってたわね」
「そこが気になるんだよねぇ」
「なんでよ。私たち卒業したら准尉か少尉に任官されるんだから真っ当だと思うんだけど」
「俺たちが准尉なのはいいさ。けど、准尉だけで構成された班ってなんなんだ? 特殊部隊じゃあるまいし」
班は伍長や兵長が指揮官となり、上等兵以下の隊員数人を率いるのが普通だ。今回の場合は義勇兵だし、寄せ集めと言った感じが強いから通常とは異なるのは仕方ない……けど准尉だけで班を作るのは変だ。
「そこに恣意的なものを感じると?」
「はい。この人選についても」
偶然なわけないだろうな。
「でもよ。こんなことして何になるんだ?」
「……わからん!」
ラデックがずっこけた。
「なんか全部知ってそうな口聞いてたのにわかんねーのかよ!」
「わかるわけないだろ! こんな曖昧な情報だけで!」
俺は神でも釈迦でもない。
「でもユゼフさんの言うように、これが恣意的な編制であるのなら、やはり私たちの任務にも何か裏があるのでしょうか」
「そう考えるのが普通でしょう」
これが「最前線に行け」とか「司令部の補佐をしろ」とかならまだわかるけど「後方で警備してろ」ってのがわからん。俺たちに後方警備させて何になるんだか。
「とやかく言ってもどうしようもないわ。どういう事態になっても生き残れるように準備するだけよ」
「マリノフスカさんの言う通りだな。私たちに選択肢はない」
そうだな。結局それしかないか。人事にどうこう言えるほどまだ偉くないし。
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ユゼフが人事に違和感を覚えたのとほぼ同じ頃、ある場所で、ある人物は興奮を隠せずにいた。
「そうか、うまくいったか」
「はい。王女らはラスキノに配置されます」
計画がやっと始動したのだ。興奮を抑えきれないのは無理もない。
「計画通りに頼むよ大佐」
「わかっております。それと失礼ですが」
「なんだ?」
「私は、既に大佐ではございません」
「おぉ、そうか。そうだったな。昇進おめでとう、准将」
「ありがとうございます」
「私はそろそろ戻らねばならん。後は頼むよ。念を押しておくが、王女の身に何かあれば……」
「承知しております」
「なら、良い。では、准将また会おう」
「閣下もお元気で」
「うむ」
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大陸暦636年9月2日、俺たちはラスキノに到着した。