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大陸英雄戦記  作者: 悪一
エミリア
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エミリア先生の魔術教室

 今日は居残り授業で初めて私が教える番だそうで緊張します。先週は、その、男爵子息の問題があってできませんでしたから、今日が初めてになります。


 それからと言うもののマヤはションボリしています。サラさんは私とマヤの仲を修復しようと何かと首を突っ込んできています。嬉しい、のではありますけど……。

 私はマヤに対して怒ってはいません。失敗は誰にでもあります。私の人生も失敗だらけでしたし。

 それにマヤは私を助けてくれました。私の身は無事なのですから、失敗をこれ以上責めようなどとは思いません。

 気に入らないのは、マヤが「私の今後の為のコネ作りをしようと企んでる」事を今の今まで隠していたことです。なんで言ってくれないのですか。せめて相談くらいしてくれればよかった。

 だから年甲斐もなくマヤにきつく当たってしまいました。気まずいですから早くなんとかしたい……でもタイミングが掴めません。


 どうしましょう。




---




「え、えーっと、みなさんは今日使われている基礎魔術理論はどなたが構築されたかご存知ですか?」

「誰だっけ?」


 前に俺が教えたはずなんだけどなー。忘れられてるのかしら。


「ゲオルギオス・アナトリコン。キリス第二帝国初代皇帝だな」

「ラデックさん正解です。元は大陸帝国皇帝の第三子で、大陸帝国から初めて独立宣言した人でもあります」


 政治の天才、戦争の天才、あるいは政戦両略の天才と言われる指導者と言うものはそれなりにいるものだ。だが科学や魔術に秀でた研究者にして国の指導者、ってのはなかなか聞かないな。俺が無知なだけかもしれないけど。

 例えるならエジソンがアメリカ大統領やってるイメージ。違うか。


「彼のエピソードには色々と面白い物がたくさんあるのですが今回は関係ないので省きます。彼の研究成果である『基礎魔術理論』は、言い換えると『人はどうして魔術を扱えるのか』ということです」

「なるほど、そういうことだったのね」


 サラが理解してるって結構珍しい。……俺ももうちょっとわかりやすい説明を心がけないとダメかな。


「でもなんでそんなこと必要あるのよ。私は原理とか理論とか全くわからないけど、魔術はちゃんと撃てるわよ?」

「まぁ、そうですね。でもこの基礎魔術理論が完成されなければ、サラさんはおそらく一生魔術を扱うことはできなかったでしょう」

「どういう事よ」

「はい。元々魔術と言うものは、限られた人しか使えない、神から授けられた奇跡の力だと信じられてきました」


 この辺の事情は前世と一緒だな。神の代行者だか預言者だかがこの世の力とは思えない不思議な力で海を割ったり全盲の老婆に光を与えたりした。


「魔術理論構築前の大陸は、そう言った奇跡の力を持つ者を集めて魔法兵士として採用しました。積極的に魔法の力を使ったのが大陸帝国で、それが大陸統一の原動力となったという説もあります」


 無論魔法使いを戦争に投入したのは大陸帝国が最初じゃない。だけど、大陸帝国初代皇帝ボリス・ロマノフは、その魔法使いを集中運用し、魔法兵集団が最大限の力を発揮できるような戦術を編み出したのだ。これがボリス・ロマノフが天才と言われる所以でもある。


「でも、そんな強い力だとわかってるなら、もっと早く魔術の研究進んだんじゃないの?」

「いえ、そうはなりませんでいた」

「なんで?」

「大陸から戦争がなくなったからです」

「?」


 前世においても科学の進歩と戦争は切り離せない関係にあった。例えばコンピューター。アレはもともと砲弾の弾道を計算するための機械だった気がする。

 この世界でもそれは言えるようで、戦争がなくなって平和になった大陸では魔法の研究が行われなくなった、あるいは鈍化したのだそうだ。


「そんな中生まれたのが……」

「ゲオルなんとか?」

「そうです。ゲオルギ・ロマノフ。第32代皇帝アレクサンドル・ロマノフの三男にして、後のゲオルギオス・アナトリコンと呼ばれる人です」


 そんでなんだかんだあってゲオルギは魔術理論を完成させ、またなんだかんだあってキリス第二帝国を作ったわけだ。

 軍事的な観点から言えば、ゲオルギオスは自ら作った魔術理論によって魔法の才能のないものでもある程度魔術を扱えるようにできる教育方法も発明した。才能ある人を集めただけの東大陸帝国魔術兵部隊と、威力はまだ弱いもののほとんどの兵士が魔術を使えるキリス第二帝国魔術兵部隊。どっちが強いかは言うまでもない。


「こうして今日、シレジア初級学校で教えているこの初級魔術教育はこのゲオルギオスの基礎魔術理論と教育方法を元にしています」

「ほぇ~」


 改めて考えると結構偉大な人だよなゲオルギオス。皇帝としては微妙だったらしいが。


「というわけで、今からその偉大な基礎魔術理論を皆さんに教えます!」

「え? 今までのはなんだったの?」


 今までのはただの魔術史ですよ。何一つ理論を教わってないよ。


「でもなんで俺らがそれ学ばなきゃならねぇんだ? 別に撃てるからよくね?」

「いえ、魔術の仕組みを理解できれば、新しい魔術の開発も可能になります」

「新しい女を開発するならまず相手のこと知らなきゃいかん、ってわけだな!」


 童貞が言うとなんか悲しいものがあるよなこの台詞。そう言えばラデックもエミリア殿下に物怖じせずにフランクに話しかけるんだな。


 エミリア先生はラデックの冗談(?)を無視して授業を続けた。


「え、えーっと、魔術発動の仕組みは、一般的には水に例えられ……」



 こうして基礎魔術理論の授業は日暮れまで続いた。そしてサラは撃沈した。初日からハードだったもんね、仕方ないね。




---




 はぁ、疲れました。人前で長々と喋るのは初めてなので緊張してしまいましたね。私はどうやら緊張すると早口になってしまうようです。おかげでサラさんが時々ぽかんとしてました。この癖早く直さないと駄目ですね。


「エミリア様、少しお時間よろしいですか?」

「はい?」


 放課後の授業終了後、ワレサさんが話しかけてきました。はて、何のご用でしょうか?


「大丈夫ですよ」

「ありがとうございます。えーっと、人払いをお願いできませんか?」

「? いえ、ここにいるのは私とマヤだけですよ?」

「ヴァルタさん抜きで、お話したいことがあるのです」

「はぁ……」


 何の話をするのでしょうか。まぁ変なことはしないと思いますが。


「マヤ、すこし教室の外で待っててくれませんか?」

「……御意」


 相変わらず彼女はよそよそしいです。むー。

 彼女が扉を閉めるのを見計らってから、私はワレサさんに向き直ります。


「で、話とはなんでしょうか」

「えぇ、ヴァルタさんについてです」


 ……その話が来るとは少し予想外でした。


「まだ、仲直りしてらっしゃらないのですか?」

「仲直りも何も、私と彼女は仲違いなぞしていません」


 嘘です。早く仲直りしたいです。


「エミリア様はそう思ってるかもしれませんが、ヴァルタさんはそうは思ってないのですよ」

「?」

「彼女、ここ最近悩みっぱなしのようで、この世の終わりのような顔をしています」


 ……それは、気づきませんでした。そういえば、あれ以降私は彼女の顔をよく見ていませんでしたね。


「エミリア様、どうか彼女にご宥恕賜りたく存じます」

「宥恕も何も、私は彼女の失敗を責めるつもりはありません」

「であれば」

「しかし、どうすれば良いのかわかりません」


 私は謝るというのもおかしな話ですし、謝っても彼女が申し訳なく思うだけでしょう。


「簡単でございますよ」

「そう、ですか?」

「はい」


 そんなに簡単な方法があるのなら私もすぐ思いつきそうですが……。


「では、その方法を私に教えてくれませんか?」




---




「で、その簡単な方法って何よ」


 翌日、サラに問い詰められた。壁ドンで。後ろの壁がミシミシ言ってるのは気のせいだ。

 どうやらサラは俺が殿下によからぬことを吹き込んだと思ってるようで、あの、目が怖いです。あと顔近いです。


「いや、あの、言うから。ちょっとどいてくれます?」

「教えてくれたらね」


 教えづらいわ!


「あー、うん、まぁそんなに難しい事じゃないんだよ。エミリア様そもそも怒ってないってことがヴァルタさんにわかればいいんだから」

「つまり?」


 なんかぐいぐい来るね今日のサラさん。


「だから、うん。『助けてくれてありがとうって言えばいい』ってことで」

「ふぅん?」


 そこで疑問持たないでくれます?


「上司から嫌味なく皮肉なく素直に褒められて喜ばない部下はいないから」


 だから退いてくれると私はサラさんに全力で感謝申し上げるよ。


「…………」


 あのー? なんか言って?


「あの、お二人とも何をしてらっしゃるんです?」


 救いの女神(王女殿下)、降臨。


「あぁ、エミリア様、ご機嫌麗しゅう」

「……エミリア、おはよう」


 エミリア殿下の後ろには満面の笑みのヴァルタさんがいた。分かり易いなオイ。


「ヴァルタさん、何かいい事でも?」

「いや、なにもないよ」


 何もないような顔してないだろ!


「サラさん、何があったかわかりませんけど、ワレサさんが困ってるようなので、そろそろ許してあげてくれませんか?」

「……元々怒ってなんかないわよっ」


 そう言うとやっと俺を開放してくれた。助かった……。おっと、忘れる前に。


「ん、ありがと。サラ」

「……な、なによ! 気持ち悪いわね!」


 殴られ……なかった。その代わり胸を軽く叩かれただけで終わった。おい、そんな中途半端なことするならいっそ殴って。


「なにこれ?」


 そして最後に事情を知らない落ち担当(ラデック)が来た。俺もよくわからんぜよ。

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