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大陸英雄戦記  作者: 悪一
エミリア
37/496

 オストマルク帝国。

 前世で言う所のオーストリア=ハンガリー二重帝国があった場所に位置している。


 前世でもこの世界でもこの国は多民族国家として有名で、ひとつの国の中に10近い民族が住んでおり、すべての民族は皇帝の名のもとにみな平等である、とされている。

 現在の皇帝はフェルディナント・ヴェンツェル・アルノルト・フォン・ロマノフ=ヘルメスベルガー。なげぇよ。


 そしてオストマルク帝国は、かつて反シレジア同盟に参加していた。




---



 ここはオストマルク帝国の帝都エスターブルク。華やかな街並みを持つその城塞都市の中心にはロマノフ=ヘルメスベルガー皇帝家が住む広大な宮殿がある。

 今日ここでは、皇帝フェルディナント以下略の30歳の誕生日を祝う盛宴が開かれていた。


「シレジア王国と言えば妙な噂を聞きましてね」


 そう口を開いたのは帝国の内務大臣補佐官のコンシリア男爵だ。右手にはワイングラスを持ち、彼も少し酔っていた。

 貴族の噂は大抵、他の貴族が流したものである。貴族特有のネットワークによってその噂は貴族社会を駆け巡る。駆け巡る過程で情報は劣化し改変されていくものだが。


「ほほう? どんな噂かな?」


 コンシリア男爵の語る“噂”に興味を持ったのは、資源省次官のウェルダー子爵。


「いやぁ、あくまで噂なのですが……。シレジア王国の王女……名は確かエミリア、でしたかな。その王女が士官学校に入学したそうです」

「それはそれは、突飛な噂だ」


 シレジアの王女はまだ10歳、そのような幼子が士官学校に入った、などという噂はにわかには信じ難かった。


「あくまで噂です。おそらく、似たような名の人間が入学しただけなのでしょう」

「だろうな。もしそうだとしても、長くは持つまい。シレジアの士官学校が並の士官学校であればな」


 どこの国でも士官学校と言うものは厳しい訓練が待っている。箱入り娘たる王女にその生活に耐えられるはずがない。


「だがシレジアも先の戦争で人材が不足してきているという話だ。そういう一面があるやもしれんな」

「そうですな。なんせ1万の将兵を失ったそうですから」

「だが我が国にとっては喜ぶべき結果かもしれん。彼の国はもはや外征することはできないだろう」

「ゆっくりと滅亡を待つだけ。問題はどこの国が滅ぼすか、ですかな?」


 シレジアをどこの国が奪うか、これがこの時代のトレンドだ。


「おお、そう言えば私もシレジアに関して妙な噂を聞いたな」

「おや、子爵もですか」

「あぁ。シレジアのフランツ国王の弟であるカロル大公が、東大陸帝国と繋がっている……という噂だ」

「……これまた、そちらも随分大層な噂ですな」


 シレジア国王フランツの弟、カロル大公は公明正大・文武両道で名君たる素質を持つ人物であると聞くが、意外とそういう一面もあるのだろうか。


「しかしあくまで噂でしょう?」

「あぁ、あくまで噂だ」


 そう言って男爵と子爵はこの話題を打ち切り、次の話題に移った。




---




 パーティーからの帰途、馬車の中で彼は熟考していた。先ほど聞いた噂。酒の席で、なおかつ出所不明の噂であったが、全くの嘘とは思えない。

 このような噂は、多分に真実を含んでいるものである。


 シレジア王国の次期国王候補が東大陸帝国と接近している。もし本当であれば、憂慮すべき事態である。

 すべて事実ではないとしても、調査すべき情報だ。


「……御者、外務省庁舎に行ってほしい」

「わかりました」


 直属の上司に、相談せねばならない。


「あの国が今滅亡して貰っては困るからな」

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