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大陸英雄戦記  作者: 悪一
エミリア
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それは紛れもなくヤツさ

 コ○ラではない。でも紛れもなく王女殿下だった。


「……というのがだいたいの事情だ。わかってくれたかな?」

「わかったような、わからなかったような」


 放課後、俺とサラはこの女性に呼び出された。ラデック? あいつはエミリア殿下に名前覚えてもらってなかったから呼び出し食らわなかったようだよ。羨ましい限りだね。


 彼女の名前はマヤ・ヴァルタ。エミリア・シレジア王女殿下の護衛兼世話役兼監視役兼その他諸々。17歳。本名かどうかは不明、だけど王女殿下がヴィストゥラって姓になってたから、少なくともヴァルタの部分は偽名(偽姓?)だろうな。


「ヴァルタさん。いくつか質問してよろしいでしょうか」

「構わない。あぁ、それと私には敬語は不要だ。歳は離れているが同じ学年だからな」


 私には、という言葉の裏には「王女殿下にはタメ口許さん」って意味があると思われる。そんな釘刺さなくても敬語使いますよ。敬語知らないけど。

 あとヴァルタさんには敬語使います。とりあえず丁寧な言葉遣いを心がけます。怖いから。


「なぜその話を、私たちにしたんです?」


 その話とは、王女が士官学校に来たあらましだ。

 要約すると「引き篭りニートじゃやばいから士官学校行くわ」である。たぶん。


 ちなみにさっきからサラはポカーンとしている。これは戦史の自主勉強時に見たことある表情だ。全然話が読めてないんだろうな。


「簡単さ。あの方の正体を知っている生徒が君たちしかおらず、そしてそれなりに信用できると殿下が仰られていたからさ」


 あのー、もう1人知ってる奴がいるんですが……。

 と、言う勇気は今はない。だってヴァルタさん顔つき怖いんだもの。ヤンキーなんだもの。


 てか、俺たち本当にそんなに信用されるようなことしたっけ? 護衛任務でちょっと顔合わせて任務果たしただけだよ? ただの農民だよ?

 でも、これを指摘する勇気もない。だって以下同文。


「そうですか……。じゃあ『ヴィストゥラ』ってなんです? 私は寡聞にして聞いたことないのですが」

「ヴィストゥラは断絶した公爵家の家名だ。かつての戦争で武勲を立て公爵にまで上り詰めた知る人ぞ知る英雄の家さ」

「なぜ断絶したのです?」

「第二次シレジア分割戦争の時に、爵位を継ぐはずだった子息が全員戦死したのさ。当主は高齢で、戦後すぐに死んだ。そして爵位を継ぐ者がいなくなり断絶、と言うわけだ」


 戦争で名を立てた家が戦争で断絶したのか。なんとまぁ皮肉なことで。


 第二次シレジア分割戦争ってのは大陸暦572年に起きた、反シレジア同盟に対する復讐戦争だ。でも「分割戦争」なんて名前の通りシレジア王国がフルボッコ(10年ぶり2度目)にされた。あぁ、哀れ。


「ヴァルタの方は?」

「秘密だ」


 王女殿下の方は話すのに自分の事は話さない。普通逆だろ。


「さて、他に質問はあるか?」

「……ないです」


 あまりズケズケと踏み込んだら地雷も踏み抜きそうで怖い。


「そうか。では本題に移ろう」

「え、今までのは前座だったんですか?」

「当たり前だ。昔話をするためだけに卿らを呼んだわけではない」


 まじか。


「エミリア様の手伝いをしてほしいのだ」


 ヴァルタさんは俺とサラに頭を下げた。つむじが時計回りだった。

 いやそんなことはどうでもいいか。


「手伝いって、なにすればいいのよ?」


 やっとサラが口を開いた。よかった、生きてたのか。


「エミリア様が、今後起こるであろう宮廷内闘争に勝つための手伝い、だ」


 はい?


「頼む」

「頼むも何も俺は農民、サラは騎士(カヴァレル)ですよ? 宮廷内闘争なんてそんな盛大なことの手伝いなんてできるわけが……。その前に王女殿下は自らの能力向上のために来たのでは?」

「……宮廷内闘争云々は私の独断だ」


 でしょうね。10歳の王女様が宮廷内闘争を視野に入れて士官学校入学とか意味わからんし。貴族学校行け。


「私は、エミリア様こそが王位につくべきだと思っている」

「理由は?」

「カロル大公が嫌いだからだ」


 ここで感情的な理由かよ。


「確かにカロル大公は文武両道で実力もあるお方だ。だが、まだ10歳のエミリア様の暗殺を謀るお人を好きになれ、と言う方が無理がある」


 なるほど。それは確かに言えてる。

 カロル大公がもし本当に宮廷内闘争を本気でやるとしてもそこらへんがネックだよな。10歳の子供を手に掛けるなんて、心証が悪いどころの話じゃない。

 ん? だから敵国に殺させようとしたのか? そうすればカロル大公がああだこうだ言われることはないし……。


「士官学校は、貴族学校ほどではないがコネを作ることもできる。卿らにはその手伝いをしてほしいのだ」

「手伝いと言われても、具体的には何をすれば」

「そう難しい話ではない。エミリア様の友人になってほしい」

「え?」


 素っ頓狂な声を出したのはサラだった。


「どうしたのサラ?」

「あ、ひゃ、や、なんでもないわ!」

「そんなに慌てといてなんでもないわけあるか!」

「なんでもないわよ!」


 殴られた。綺麗な右ストレートだった。


「……話の続きをしてもいいか?」

「ど、どうぞ」


 最近サラの拳の鋭さが増してる気がする。


「つまり、エミリア様の友人となり、話を聞いてやってほしい。彼女も私も士官学校に来たばかりで右も左もわからないし、王宮での暮らしが長く友人付き合いというものがわからない。だから、エミリア様の友人になって、交友関係を広げる手伝いをしてほしいのだ」


 なるほど。そういうことなら何とかなりそうだな。


「それくらいなら、お手伝いできます。サラも大丈夫だよね?」

「え、えぇ、大丈夫、よ!」


 サラがまだ挙動不審だった。本当お前は何があった。


「ありがとう。では、私はエミリア様の元へ戻るよ。あまり待たせては護衛にならないからな」


 そう言ってヴァルタさんは駆け足で走り去っていった。お勤めご苦労様です。



 ……にしても士官学校でコネ作りか。うまくいくのか不安だな。


 確かに士官学校にも貴族の子弟は多い。だがその半数は爵位を継ぐ長子ではなく、次子以降だ。

 長子は貴族学校に行く。特に名の知れた大貴族はね。


 でも武門の名家みたいな貴族の子供はみんな士官学校に行くから、そこらへんとコネを作れるのは良いのかな。軍務尚書の息子とかも探せばいるんじゃないか?


 となるとエミリア王女とカロル大公の派閥争いは「軍部 VS 大貴族」みたいな構図になるのだろうか。うーん……不安だな。



 ま、とりあえずはエミリア・ヴィストゥラ公爵(・・・・・・・・)様と親睦を深めるとするかね。話はそこからだ。

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