そして物語は動き出す(改)
大陸暦632年3月1日、俺とサラとラデックその他大勢の士官候補生たちは懐かしの学び舎に帰還した。
そしたら上半期期末試験の真っ最中だったでござる。
うわー、うわー……。全教科60点以上とか完全に無理ゲーだわ! 特に弓術とか完全に忘れてるよ! 60点どころか6点も取れる自信ねーよ!
ちらりと横を見てみるとサラが真っ青な顔していた。そう言えば戦術とか戦略の授業全然してあげられなかったね。
はぁ、退学かぁ。授業料払えるかな……。
と思っていたけど単位の心配はしなくて良いらしい。
そういや忘れていたけど、士官学校から出発する際に先生がそんなこと言ってたな。
まぁ学校であるが故、何かしら評価はつけなければならない。
そいうことを考慮して、士官学校にはある制度――というより慣習かな?――がある。
それは軍に配属されてる間の直属の上司が成績評価をする、というもの。軍紀に反していないかとか武勲をどれだけあげたとかを、上司の主観で決定するのだそうだ。なお嫌がらせを防止するため評価点は60点以上と決められているらしいので、余程悪い事してなければこの範囲内の点数となる。
……俺悪いことしてないよね? スピリタスをばら撒いたことは不問にしてあげるよ、って小隊長殿が言ってたし。
この評価制度は元々、貴族の坊ちゃんに媚びを売りたい軍の現場指揮官が始めたものとされている。こんなちんけな媚びが売り物になるのかと思うが……。
ま、今回の場合は貴族の坊ちゃんが上司で俺はただの農民だけどね。
士官学校に帰還した数日後、タルノフスキ大尉から成績書が届いた。
早速教務課に呼び出されて、成績表が渡される。えー、と、どれどれ……?
剣術 78点
弓術 60点
魔術 80点
馬術 60点
算術 89点
戦術 99点
戦略 99点
戦史 98点
……随分と過大評価されてる気がする。弓術と馬術が最低点なのは見せる機会がなかったからなのは良いとして、戦術・戦略99点ってなんやねん。残り1点ってなんなんやねん。気になるわ。
剣術78点は……サラのおかげと思うことにしよう。
魔術80点はよくわからないな。そんなに魔術使った覚えないんだけど。
そして算術89点と戦史98点はなんぞ。意味不明だ。
サラの成績もよくわからない高評価だったようだ。特に戦術の点数が跳ね上がって75点になってたらしい。うん、本当に基準が分からない。
ラデック? あいつは元々赤点なかったから興味なかった。
そうそう、タルノフスキ大尉で思い出した。
例の敵騎兵隊長の剣は大尉に没収された。本当は自分の寮室まで持って行きたかったのだが
「何の後ろ盾もない君たちが、謀略の証拠品足り得るその剣を持ち続けるのは危険だろう。これは私が預かっておく」
だそうだ。
……タルノフスキ大尉が証拠隠滅を図ろうとしている、と思ってしまうのは穿ちすぎだろうか。
そんなこんなで上半期後の休暇、前世で言う所の春休みを貰った。期間は2週間ほど。短くもなく長くもない。だが不幸なことに
「お前ら出征組は教育課程が他の生徒に比べて遅れている。これは仕方ないことだが、遅れたままだと下半期や来年以降の授業に支障が出る。だから、春休暇中に特別補講を開くから参加するように」
つまり非出征組が青春を謳歌する中、俺たちは勉強漬けだったということだ。なんもかんも戦争が悪い。
◇ ◇
3月15日、王立士官学校下半期が開講する。
と言っても別段何も語るべきことはない。
いつも通り授業を受けて、戦前のようにサラに教えたり殴られたりしながらラデックと愚痴を言い合う毎日が始まるのだ。あぁ、早く卒業したい。
「えー、では今日は授業を始める前に新入りを紹介する」
……? 転校生ってことか? え? 士官学校にもそう言う制度あるの?
「……では、どうぞお入りください」
……お入りください?
「敬語は不要です、先生。ここではあなたの方が立場が上なのですから」
教室に入ってきたのは、エミリア・シレジア王女殿下にとてもそっくりな女子だった。
「この度、王立士官学校に入学しました。エミリア・ヴィストゥラと申します。以後、よろしくお願いします」
こ、こいつはいったい何者なんだ!?