表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大陸英雄戦記  作者: 悪一
シレジア=カールスバート戦争
25/496

逆襲(改)

 防御に徹することが難しいのなら、こちらから攻撃に出て、敵騎兵が拠点としている地点を叩けばいい。というのが俺の提案だ。


 ゲリラ的な戦いができる騎兵とは言え、兵士の休息ができる拠点は必要だ。

 この辺でそういう拠点を設営できる場所はそう多いとは思えないし、それに敵国に深く侵入してる以上、発見される可能性が高い昼間は迂闊に行動できないだろう。


「小隊長殿、この辺りの地図はありますか」

「あぁ、あるよ」


 タルノフスキ中尉は少し大きめの地図を持ってきた。国境の町コバリや、東にある地方都市ヴロツワフが一面に収まるくらいの大きさだ。


 現在地はコバリとヴロツワフの間にあるレグニーツァ平原のどこか……。

 街道の位置やコバリから歩いた時間からすると……おおよその現在地を地図に書き込んでみる。


「敵は東南東からだったな」

「そうですね。しかし東に行きすぎるとヴロツワフがあります。街道から外れてるとはいえ見つかる可能性が高い都市周辺は避けるでしょう」


 既に拠点を引き払っている可能性も考えたが、その可能性はそんなに高くないだろう。

 西に拠点を移す訳ないし、東にはヴロツワフが、南にはシュフィドニッツァという町がある。


 ヴロツワフはこの辺りで一番大きな都市で人口も多い。交易も活発で人通りも多いはずだ。

 シュフィドニッツァは町レベルで小さいが、それなりに人はいる。発見されたら厄介だ。


 つまり敵騎兵部隊の拠点は、ここから東の位置にあって、ヴロツワフやシュフィドニッツァ、そしてそれらの町から伸びる街道から離れていて、なおかつ兵と馬の休息ができそうで、出来れば死角が多い場所ということ……。


 このあたりだと、そうなりそうな場所はひとつしか見当たらなかった。

 タルノフスキ中尉も同じ結論に至ったようで、大きく頷いた。


「敵の拠点は、ミエトコフスキ湖周辺だろう。あそこには林がある」


 これで敵の居場所はわかった。

 だが、敵拠点に逆撃を加えるにあたって障害になるものが1つある。王女様だ。

 ここに放置するわけにもいかないし、かと言って護衛と攻撃で戦力を分散するのは心細い。一緒に連れて行くか? とも思ったが王女様の行軍速度なんてたかがしれてるし、それにケガでもされたら困る。


 うーん……仕方ないか、一度最寄りの農村に行ってそこで匿ってもらうか。ついでに重傷の兵も幌馬車載せて移動。王女様が物凄く嫌そうな顔してたけど、緊急事態だから、ね? それに貴族用馬車には載せてないからいいでしょ?


 村は湖とは反対方向に5キロ先にあった。その分敵から離れるのはいいんだけど、その代わり俺たちの歩行距離が往復10キロばかし伸びる。うげえ。


 ……あの王女様がこの田舎の貧しい村で一時的にせよ滞在することができるのか、村民と問題を起こさないかが心配だなぁ。


「1人では心細いので、何人か残してくれると助かります」


 王女様は意外にも空気を読んだ。この一連の流れで我が儘を言うべきではないと学んだのかもしれない。意外と聡いね。

 なので世話役兼護衛として士官候補生の女子2人を王女様の傍に置くことにした。個人的にはサラにも王女護衛役として残ってほしかったのだが……。


「私はユゼフと一緒に行くわ」

「え、いやでもサラって剣術得意だし王女様に何かあっても対処しやすいでしょ」

「剣術が得意だからこそ、この攻撃に参加しなくちゃダメでしょ」

「あー、うー……でもなぁサラに何かあったら」

「弟子に何かあったら私も嫌だからあんたがここに残れば」


 どうにも言うことを聞いてくれないので結局俺とサラは攻撃参加組になった。ラデック? あいつは強制参加だよ。ケガもないし男だし本人は行く気満々だし。


 村人には「もし彼女が無事でいられたら国からそれなりの『お気持ち』が出ますよ」とでも言っておけば村総出で守ってくれそうだ。

 後は王女殿下の身分を伯爵令嬢くらいにしておけば大丈夫。かも。


 ついでに村には負傷兵を残しておいた。迷惑かもしれない、とも思ったが村人たちは献身的に負傷兵たちの介護をしてくれた。曰く、


「私たちを一生懸命守ってくれた方を無碍にはできないですから」


 と、いうことらしい。列強に囲まれた落ち目の国家故か、こういう小さな村にも愛国心というか愛郷心というものがあるのだろうか。

 つい先ほど、シレジアの暗部を聞かされた自分とはずいぶん対照的である。


 それはともかく、負傷兵の問題は何とかなりそうだ。


 問題は遺体の方だ。知り合いの士官候補生を含め、敵味方の遺体はあの場所に放置してある。運ぶ余裕がなかったからとはいえ、申し訳ない。


 でも、いつまでも物思いに耽る暇も、遺体に謝る暇もなかった。


「敵の拠点があると思われる湖はここから東南東にあるが時間がない。日暮れまでに敵の拠点を発見、攻撃しこれを撃滅する」


 現在時刻はだいたい午前11時。日の入りはだいたい午後5時頃なので、タイムリミットは6時間か。農村から敵拠点までの距離を計算すると……だいたい片道4時間くらいだ。

 結構きついっす。


「では、行くぞ!」

「はい!」


 こちらの戦力は、僅か素人歩兵19人。




  ◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「隊長、どうしましょうか」


 一度目の襲撃で成功させる予定だった。それ故に正確な情報が渡され、工作で護衛は弱体化させておいた。

 なのに失敗した。とんだ大失態だ。このままでは本国に帰還できない。


「隊長」

「聞こえている」


 我々はどうするべきか。ここで後退してしまえば、おそらく白鷲、もといあの幼い王女は我々の手の届かない場所まで離れてしまう。


 では再攻撃すべきか? 危険は大きいが、それしかない。

 おそらく敵は今回の襲撃のせいで損耗、疲弊しているはず。王女の気を落ち着かせるために近くの村に寄っている可能性が高い。


 それを確かめるために偵察を出したい……が、敵の護衛隊の抵抗が思ったよりも激しかった。

 歩兵隊を足止めしていた2班と3班は合わせて4騎を失い、私と一緒に馬車を調べた1班は3人が、つまり私以外が重傷を負った。応急治癒魔術は施したが、もはや戦える状態ではない。つまり我々には偵察する余裕がないのだ。


 私と、2班と3班の残存戦力、そして拠点に残していた居残り部隊合わせて9騎。

 これでは昼に襲撃は無理だ。再び夜襲するしかない。


「今夜、村を襲撃する。準備を怠るな」

「ハッ!」


 これが、最後の機会だ。

 もし、それが失敗したら……。


「た、隊長……て、敵!」

「なんだと!?」


 敵の護衛隊が、襲ってきたのである。




  ◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 湖周辺は、タルノフスキ中尉の言う通り林があり、外部からは非常に見えにくかった。そのため敵拠点を見つけるのに時間がかかってしまった。

 だが林で見にくいのは敵も一緒。それにどうやら警戒を怠ってるようだ。俺たちが湖近くに来てることに気付いていない。

 昨夜の襲撃で疲弊しているのか……。うん、そうだろうな。夜に襲撃したら昼には眠くなる。


 留守番組がいるとしても数はそう多くないだろうし、警備もザルなんだろう。


「サラ、何人いる?」

「見えにくいけど……立ってるのは2人だけね」


 2人か……つまり残りは座ってるか寝ているかしてるわけだ。この隙を狙えれば……。


「サラ、戻って小隊長殿に報告しよう。静かにね」

「わかってるわ」


 偵察を終えた俺らは、タルノフスキ中尉が待機している場所に戻る。敵に気付かれないよう、何も装備せず、一応足音が鳴らないように裸足で歩いて。

 小隊長殿は俺らの偵察報告を聞き終えると、早速部下全員に命令した。


「よし、部隊を3つに分け拠点を包囲する。1班は東から、2班は北から、3班は西から。敵を包囲撃滅するか、湖に追い落とす。一人も生かして帰すな」

「……わかりました」


 俺とサラとラデック、そして農民兵3人、合わせて6人が1班だ。中尉は2班、北から。


 ……ついに人を殺すのか。卒業試験を早めに受けることになってしまったな。


「よし、では各々配置につけ。くれぐれも見つかるなよ」


 10分後、この長閑な湖の畔で戦闘が開始された。


距離と時間に関する矛盾点を修正しました。ご指摘ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ