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大陸英雄戦記  作者: 悪一
シレジア=カールスバート戦争
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敵襲(改)

「で、そのやんごとなきご身分のお方とやらはどんな奴なんだ?」


 王都に向かう道中、ラデックは暇そうにそんなことを言う。

 実際暇だから仕方ないのだが、護衛の最中に気を抜くのは死亡フラグだぞ。一応国内だけど。


「知らないよ。ただ徹底して機密にしてるから結構なご身分だと思うよ。公爵くらいじゃないの?」

「女よ」


 サラが突然言った。なんで知ってるの。


「中尉が私たち女子にだけ言ったのよ。護衛対象は女性だからその辺の気遣いもするように、ってね」

「ほほーん」


 性欲盛んな士官候補生が間違い犯したら大変だもんね。気遣いとか配慮とかそういうのだろう。


 ふむ。


「護衛対象が女ってのは、やる気が出てくるなワレサ兵長殿」

「同感だよラデック兵長殿」


 ちなみに俺たちは兵長待遇らしい。下っ端だね。


「…………」


 あの、サラさん? なんでそんなに睨んでくるんですか?

 そう思ったのも束の間、


「ふんっ!」


 ゴリッ。


「いっ!?」


 足の甲を全力で踏まれた。半端なく痛い。


「ここにも女がいたなユゼフ」

「あいつは女でいいのか?」


 そこら辺の男より男らしいと思う。


 2月3日22時。コバリを発ってから8時間が経過した。


 戦場は既に遠く、時々見える光が地平線の向こうに見えるだけだ。

 現在護衛対象は休憩中。馬車の中でも体力は消耗するし、狭い馬車だと精神的な疲労が地味に溜まるしね。


 護衛部隊は総勢30名、1個小隊の歩兵。半分が士官候補生の剣兵で、残りが徴用された農民による槍兵だ。

 普通は1つの兵科に纏めるけど、急な戦争に急な任務だったから編成もゴチャゴチャになってしまったのだろう。


 護衛対象は貴族用馬車に乗っているやんごとなきお方、ついでに何かを運んでいる幌馬車。何運んでるかは知らん。もしかしたら金銀財宝でも積んでるのかな。


 俺たち護衛部隊は順番に周囲の哨戒をしている。

 いかに国内とはいえまだ戦場近くだし、それに盗賊の類がいないわけではない。護衛対象にケガひとつ、いや毛が1本でも抜き取られたら責任問題になる。


「ふぁぁぁ」


 ……失敗したらこの緊張感のないラデックに全責任を押し付けるとしよう。


「……」


 一方、剣術の師であるサラ先生は不気味な程静かにしている。

 こういう時の彼女は頼りになるが、もうちょっとこう殴る蹴るがないと不安と言うかなんと言うか。だが殴る蹴るがない代わり、彼女はボソッと静かに言った。


「ねぇ、聞こえない?」

「何が?」


 どこから何が聞こえるのか、という言い方をしないのが実に彼女らしいところである。


「馬よ。馬の足音」

「馬?」


 騎兵隊と言う事か? 国境へ向かう増援部隊だろうか。


「……どこから聞こえるの?」

「ここから、東……ちょっと南よりの方向からね」


 と言うことは東南東ってことか。でも、おかしいな。王都は北だし、東はただの平原と畑で街道も何もない。馬で踏み荒らすだけになって……。


「サラ、それは確か?」

「私は嘘は吐かないわ」

「そうか。じゃこれは敵だ」

「は、敵?」

「そうだよ。敵。敵襲! サラ、上空に火球(ファイアボール)を撃って!」

「なんだかよくわかんないけどわかったわ!」


 哨戒部隊が火球(ファイアボール)を撃つことは緊急事態を知らせる信号弾の役目を果たす。

 盗賊か? それとも共和国軍? いずれにしても護衛の任務を果たさなければならない。


 サラが上空に火球(ファイアボール)を打ち上げた。夜だし結構目立つだろう。タルノフスキ中尉の目にも映ったはずだ。無論、敵の目にもね。


「とりあえず3人じゃどうにもならない。本隊と合流しよう」

「わかったわ」

「了解!」




  ◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




「隊長、敵の哨戒網にかかったようです!」

「国内だから油断しているだろうと思ったが、想定外だったな。それに随分耳が良いようだ」

「どうします? 追撃しますか?」

「構うな。俺たちの仕事は兎狩りじゃなくて白鷲を捕えることだ。あんな雑魚に構わず、このまま隊列を整えつつ敵本隊に突っ込め!」

「了解!」




  ◇◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇




 敵が騎兵で俺たちは歩兵。本来なら向こうの方が先に本隊につくのだが、サラのおかげでかなりの距離差があったらしく、間一髪俺たちの方が先に本隊についた。

 運がいいね。


「状況報告!」


 到着早々、少隊長殿が報告を求めてきた。周りを見回してみると他の哨戒部隊も全力で本隊に戻ってきたようで、1個小隊の戦力はあった。


「報告します。東南東より所属不明の騎兵集団。総数は遺憾ながら不明!」

「敵か?」

「十中八九敵だと思います。国内で味方が街道を外れて行軍する理由がありません。盗賊か、共和国軍かはわかりませんでしたが」

「それだけわかれば十分だ。総員戦闘配置! 君らは護衛対象の傍につき護衛を。残りの者は東側に展開! 敵を迎撃するぞ!」

「はい!」


 小隊長殿の命令によって、休んでいた小隊員が一斉に動き出した。そして小隊長殿は全員が集まっていたことを確認すると、敵騎兵がやってくると思われる東南東の方向に行軍していく。


 そして俺とサラとラデックはここで待機。場合によっては、3人の初陣となる。



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