“シテイ”(改)
しんみりした話の後に容赦なく俺をボコボコにできる切り替えの良さは見習いたいところである。
誰の事かは言うまい。
寮に戻り服を脱いでみると、案の定体中が痣だらけだった。俺はまだ10歳だし完全に児童虐待、もしくはいじめである。
女子が相手じゃなかったら訴えてた。
「なんだその痣?」
体中の痣の数を数えていたら、同室の奴が話しかけてきた。
名前はラスドワフ・ノヴァク。通称ラデック。16歳、イケメン。以上。
「居残り授業だよ」
「なんの居残り授業をしたらこうなるんだ?」
まじまじと見るな。男に見られても嬉しくないぞ。……触るな! 痣に触るな痛いだろ!?
「剣術の稽古つけてもらったんだよ。そしたらこうなった」
「ほほーん。マリノフスカ嬢も容赦ねぇなぁ……」
「待て、誰もサ……マリノフスカさんの事だとは言ってない」
誰にも放課後のアレのことは教えてないのに。てか嬢ってなんだ嬢って。あいつはそんなお上品な奴じゃないぞ?
「あ? 有名だぞ?」
「え、そうなの?」
「そりゃばれるだろ。毎日毎日、いちゃいちゃしやがって」
「マジか……って、いちゃいちゃはしてないぞ?」
俺の知っているいちゃいちゃで痣はできません。
「そうかぁ? だってお前ら結構親密そうじゃねーか」
「そうでもないよ」
「嘘つけ。名前で呼び合ってるくせに。なにが『マリノフスカさん』だ。教室じゃ割と大声で『サラ』って呼んでただろ羨ましい!」
それもそうでした。てへ。
うーん、しかし疾しいことは何もしてないとは言え、少し恥ずかしいな。
「ま、お前の恋路を邪魔するつもりはないから安心しろ。なんだったら俺が手ほどきを」
「いらないし第一そんなんじゃないって」
くそっ、今から学生課行って部屋変えてもらうことできないかな。こいつと関わるのはもう御免だ。
……と言っても数少ない男友達だ、無碍にもできまい。
6歳も年上ってだけあって、ラデックは結構親身に相談に乗ってくれるし。前世分加算すると俺の方がダブルスコアになって勝ってるけど。
「そういやラデックって2年になったら科はどうするんだ?」
「んー? 俺は……ぶっちゃけどこでもいい。戦術研究科以外はな」
「なんでそれ省いたし」
「戦術云々はお前に任せた方が良いって知ってるからさ」
「そらどーも」
士官学校の科は全部で10個ある。学生自身が得意分野や興味のある分野を選択するのが普通だが、教官が推薦する場合もある。
剣術は剣兵科。
弓術は弓兵科。
馬術は騎兵科。
魔術は魔術兵科、もしくは魔術研究科。そして治癒魔術専門の医務科が独立して存在する。
戦略・戦術は戦術研究科。
算術・兵站・通信・工兵等の後方支援は輜重兵科。
法律は警務科。いわゆる憲兵さん。
そして最後に情報戦のプロを養成する諜報科がある。
その科を無事卒業できれば、科に対応した部隊の士官として配属されるのが基本だ。
サラは剣兵科。
俺は戦術研究科。
ラデックはどうでもいい。一番人気がない輜重兵科にでも行けばいいんじゃないかな。
「マリノフスカ嬢はどこだって? 馬が似合いそうだから騎兵かな?」
「彼女は剣兵だってさ」
「ほーん、剣兵ね。そりゃ大変そうだ」
どの科も大変なのは変わらないが、剣兵科は特に大変と言われている。だが名誉ある兵科でもあるため人気も高い。
「んで、どうしたんだ急に。兵科の話なんて」
この察しの良さ見習いたいね。きっとコミュニケーションが円滑になる。
「ん? あぁ、実はさ……」
さっき卒業試験の話をラデックに聞かせる。所々恥ずかしいところがあるので、そこは適当にぼかしながら説明した。
彼はうんうんと真剣に聞いてくれて……るよね? 適当に頷いてないよね?
「だいたいわかった」
「ほほう? 何が?」
「お前って意外とモテるよなって」
うわこいつ絶対話聞いてない。
「まぁ全部言うのも無粋だから、俺が言うのはひとつだけだ」
はいはいなんでしょうか聞いてあげますよー。
「お前とマリノフスカ嬢は、シテイカンケーみたいなもんなのさ」
「は?」
意味がわからなかったから追求しようとしたが、彼は何も答えてくれなかった。
師弟関係? そりゃまぁ俺は彼女にいろいろ教えてくれるけど、俺も教えてるんだぜ?
……ぶえっくしゅ。
うー。そう言えば服脱ぎっぱなしだったな。部屋の中とは言え冬に上半身裸はきつい。