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大陸英雄戦記  作者: 悪一
士官学校
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大陸史 その2(改)

 年頃の女の子と二人きりでお勉強会。心躍るものがある。

 ただしエロい意味はない。


「で、結局その壮大な兄弟喧嘩はどうなったのよ」


 俺とサラは放課後に自主練・勉強会をするのが日課になっている。

1日ずつ交替で、昨日はサラが馬術を教えてくれた。


 今日は俺の担当、戦史の授業。しかし、サラは基本的な大陸史すら理解してなかったようなのでそっから教えている。初級学校でお前は何を習ったんだ。


 今回は俺らが住むシレジア王国ができる前、大陸帝国時代の歴史のおさらい。大陸帝国末期時代は戦史的にも文化的にも重要な時代だ。


「んー、まずは大陸帝国を名乗る国が3つできたね。自分こそが正統な第33代皇帝だ! とかなんとか言って」

「3つとも同じ国なんて紛らわしいわね」

「そうだね。だからそれぞれ『西大陸帝国』『東大陸帝国』『南大陸帝国』って当時から呼び分けてたみたい」


 西大陸帝国は前世で言う所のイベリア半島+フランス、南大陸帝国はアナトリア半島+中東に位置していた。東大陸帝国はそれ以外全部。でかい。


「その3つの国は戦争したの?」

「したと言えばしたかな」

「は?」


 ここら辺の事情は割と複雑だからなぁ。サラにもわかりやすく説明するのは大変だ。


「まず、3人の皇帝はそれぞれの皇帝に対して非難声明を出したよね?」

「えぇ。確か……マナントカが姉と弟を召還しようとして、それに対して姉が『お前が暗殺犯だー!』とかなんとか言って……んで、末っ子が不正を告発したんだっけ?」

「そう。でもその後、末っ子は姉に対する不正告発を撤回してるんだ」

「……仲直りでもしたの?」

「いいや。相変わらず仲悪かった」

「???」


 わからないか。

 まぁわからないよな。俺も最初意味わかんなかったし。


 ゲオルギ・ロマノフが統治する南大陸帝国は、非常に短い期間だけ存在した短命国家である。

 3人の皇帝が互いを非難しあったのは大陸暦300年8月。その時に南大陸帝国が誕生したと仮定すると、滅亡したのはその僅か半年後の301年2月だ。


「ゲオルギは大陸帝国皇帝の座を捨てて、独立宣言をしたんだよ」

「……それに何の意味があるのよ」

「西大陸帝国と共同戦線……要は同盟が組める」

「?」


 つまり、3人が3人とも大陸帝国皇帝を名乗ったんじゃ政治的妥協なんてものはできない。しかし分裂時点では東大陸帝国が圧倒的に経済力も軍事力も上だったから、西南大陸帝国が手を握って共同で対処しないといけない……とゲオルギは考えたそうだ。


 そもそもゲオルギは皇帝にはなりたくなかったみたいだしね。魔術研究に力を入れていたみたいだし、研究家になりたかったのかも。あくまで想像だけど。


 だけどそういうこともあってか、西大陸帝国皇帝オリガはこの独立宣言を承認し来たる脅威に対して共同で対処すると約束した。


 ただし条件付きで。


「条件って?」

「改名すること」

「何を?」

「国の名前と、ゲオルギの姓名」


 いつまでも大陸帝国って名乗られても困るし、お前はもう私の弟じゃねぇ! って意味だ。


 ゲオルギはその条件を受け入れ、改名する。

 新国家「キリス第二帝国」の誕生である。初代皇帝の名はゲオルギオス・アナトリコン。


「聞いたことあるわ!」

「聞いたことないと困るんだけど」


 今でもこの国あるしな。


「ていうか『第二』って何? 第一があるの?」

「勿論。大陸帝国が大陸を統一する前に存在してた国のひとつさ」


 と言っても領土は都市国家レベルの小ささだったらしいが。

 ちなみにゲオルギオスというのはゲオルギの古代キリス語読みで、アナトリコンは地域名だ。


「で、ついに戦争?」

「うん。最初に戦端を開いたのはキリス第二帝国だね」


 時に大陸暦302年、キリスは東大陸帝国に対して先制攻撃を仕掛けた。

 ゲオルギオスの基礎魔術研究の成果か、キリスの魔術兵集団は東大陸帝国のそれより精強だったらしい。


 この戦争に対し、西大陸帝国は人員や物資を提供し、キリスの進撃を支えた。それと同時に、ある工作もした。


「西大陸帝国は、東大陸帝国内各地にいる反動分子や不平派を糾合して反乱を起こさせたんだ」


 西大陸帝国はオリガの内政改革と経済政策のおかげで、かなりの経済力があった。それを東大陸帝国の反政府組織にばら撒いたのだ。

 これ、戦略的にはかなりえげつない方法だ。


「どういう意味があるの?」

「まず、各地の反乱を鎮圧するために軍を動員せざるを得なくなる。国内全土にね」


 キリスの進撃を必死で支えてる間に背後からゲリラ組織が近づいて突き殺す、なんて東大陸帝国軍にとっちゃ悪夢だ。

 そのゲリラ鎮圧のために軍を使えば前線を支える部隊に補充ができなくなる。困ったことに鎮圧部隊が丸ごと反乱を起こす時もあった。


 ゲリラを鎮圧するために鎮圧部隊を送ったらその鎮圧部隊が反乱を起こし、その鎮圧部隊を鎮圧するために前線から兵を抽出し鎮圧させようとしたら、キリス軍の攻勢作戦が始まり戦線が崩壊した。なんて笑うに笑えないコントみたいな事件も起きている。


 そしてさらに軍を混乱させることが起きる。


「いくつかの貴族領が、独立を宣言したんだよ」

「もしかして、シレジア王国もそのひとつ?」

「正解。東大陸帝国から独立した最後の国だけどね」


 思い出してほしい。キリス第二帝国の宣戦布告は大陸暦302年、そしてシレジア王国が独立したのは大陸暦452年だ。

 つまり150年の間、東大陸帝国は反乱、ゲリラ、パルチザン、独立戦争祭りだったのである。


 悪夢だ。


 おかげで数百年間の黄金時代の貯金を、この150年の暗黒時代にすべて使い切ってしまった。それどころか借金もした。軍事力も経済力もゴッソリと削られて、国は困窮した。


 そしてそんな貧乏国を見限って独立運動やら亡命やらが相次ぎ、さらに衰退した。


「なんだか可哀そうになってくるわね……」


 東大陸帝国民には同情の念を禁じ得ない。皇帝はどうでもいい。


「安心して、この東大陸帝国破滅の時代はもう終息し始めてるから」

「え? そうなの?」


 誰にとっての不幸かは知らないが、東大陸帝国の内情は安定しつつあるらしい。無論反乱はまだあるが、以前と比べたら全然マシになった。

 東大陸帝国第55代皇帝パーヴェルⅢ世の内政改革と外交政策が成功したからだ。


「何をしたの?」

「農政改革と産業振興、それと独立の承認かな」

「独立承認って単なる敗北宣言だと思うんだけど……」

「まぁ、そう思われても無理はない。でもちゃんと意味のあることだよ」


 独立を承認して、長い内戦を終わらせた。


 独立国家との関係回復によって経済交流を活発化させ、それによって経済復興を成し遂げたのである。

 この「独立承認して貿易した方が良いんじゃね?」という案はパーヴェルⅢ世以前の皇帝も考えなかったわけじゃない。

 ただ、事実上の敗北宣言であるところの独立承認という決断をする勇気がなかったのだ。


 結果的に、貿易によって経済振興を成し遂げて国民が飢えることはなくなった。今でも裕福な暮らしをしているとは言えないが、帝国にとって最悪の時期に比べたら全然マシなのである。


「うーん……」

「どうしたの?」

「頭が混乱してきた」


 ふむ、少し長く喋りすぎたか。サラの脳内容量も限界のようだし、今日はこれまでにするか。


「じゃ、今日は解散だね」

「そうね。明日は剣術の授業よ。ビシバシと鍛えてやるわ」

「お手柔らかに」

「するわけないでしょ。今日の仕返ししてやるんだからね!」


 ……明後日からはもうちょっとハードル下げた方がいいみたいだ。


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