挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
モブの元RPGの進め方 作者:O.F.Touki

一章 ビンセントの歩み

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

23/49

一章 22話 『騎士の知らせと宿屋』

ネスタ森に樹木の伐採と切り株抜きをしていたビンセント達は、クロイス国へ戻ると食事を済ませて宿屋に向かう。
【クロイス国 宿屋クル】
 三人が早めの夜ご飯を食べて宿に行くと、サリバンが待ち構えていた。
 行き先でサリバンに待ち伏せされることは三人の中ではよくある出来事となっている。
 ビンセントは最初こそ疑問を全開にして驚いていたが、そんなことを重ねるうちに状況やパターンを察し始めて驚かなくなった。
 今回もそうである。
「皆様こんばんは」
「「「こんばんは」」」
 無論残りの二人はビンセントより先に慣れており、急な出会いによる挨拶に普通に挨拶を返した。
「サリバンさん、外で話すのもなんですし、宿のロビーにで話しましょう」
「わざわざすみませんビンセントさん。できるだけ手短にお話しさせていただきます」
 ビンセントがサリバンを宿の待合スペースまで連れていき、四人がそれぞれテーブルを挟んでイスに座る。
「まず第一に、商人ギルドの登録が完了しました」
「おー!ありがとうございます! 」
 平常で素直に喜ぶビンセント。
「おめでとうビンセント」
「おめでとう! 」
 二人もビンセントを祝福する。
「第二に、商人ギルド登録を完了し、そのギルドからビンセントさんの商材に対して多くの買い手報告があり、その中でも北国の地域が製鉄所の燃料として買いたいとのことです。欲しい量が報告書の中で一番多く、ビンセントさんが限在所有中約十五万本の四割程、六万本の見込み。買値も高額で、木片単価北域単価三万L(ラピス)、中西域貨幣換算で五万G(ゴールド)、木一本単価百三十五万L(ラピス)、中西域貨幣換算で二百二十五万G(ゴールド)です。コレに現所有量四割を重ねると、推定収益約八百十億L(ラピス)、中西域貨幣換算で約一千三百五十億G(ゴールド)となります。これだけ資産があれば、問題はないでしょう」
「お、うん。えぇ?! 」
 平常を通り越して、驚くビンセント。
「おー、すごい収益ね」
 少し驚くカミラに対し、ミルはよくわかっていない。
「第三に、北が製鉄を始めているので、こちらも製鉄を始めようと考えておりますが、如何でしょうか? 」
「製鉄を、ですか。確かにこちらに燃料はほとんど無尽蔵にありますし、いいと思います」「ありがとうございます。ではそちらも進めさせていただきます」」
「無尽蔵とはいっても、全部伐採してしまったら生えてこないんですけどね」
 ビンセントとカミラが、今日解かったネスタ森の樹木の繁殖力の高さの話をする。
「なるほど、承知致しました。私の方もそれを踏まえて製鉄所の計画をしたいと思います。情報ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ。ここまでしていただいてありがとうございます」
 お礼を言うごとにサリバンの笑みは強くなってくる。
「これは第三に付け加えてですが、製鉄をする前に鉄を掘ります。私どもが調べた結果、ネスタ山に連なるネスタ山脈には多くの鉱脈がありますので、そこを掘ります。その際に、現在サラスト区が所有している、山脈の地権をビンセント様に譲渡いたします」
 ミルと同じくポカンとしているビンセント、カミラからしてもそれは予想外だったのか驚いている。
「山脈の地権を譲ってくださるのですか? 」
「さようでございます。そっくりそのままお渡しいたします。正式にお渡しできるのはまた少しだけ時間が掛かりますが、できるだけ急ぐようにします」
「わかりました。ありがとうございます」
「それは、当然でござ――」
 突如笑みを浮かべて大きな声で叫ぶサリバンの口は、三人の起立によって防がれた。
 幸いロビーには他の客はおらず、受付が一人ぽかんとこちらを見つめているだけであった。
「は、申し訳ございません。以後自重します」
 このセリフを何度聞いたのだろうか。ここ以外は欠点なしなのだが、コレに関しては三人とも諦めていた。
「夜分にすみません、報告は以上になります」
「いえ、こちらこそすみません。報告ありがとうございます」
「それでは失礼いたします」
 ピシッとお辞儀をするサリバンに対し、三人もいつものようにお辞儀を返す。
 サリバンが宿を出て見えなくなり、三人は再び椅子に座る。
「凄いじゃないのビンセント。これで資金に困ることはなさそうね。それに付け加えて山脈の土地も手にしちゃうわね」
「いや、流石に驚いたよ。あの山が俺の物になるのか、どうしてこうなったのだろうか。それに北国には行ったことないけど、お金持ちだな」
「製鉄って言ってたわね。私は北国に何度か行ったことあるんだけど、そこで北には鉱脈がたくさんあるって聞いたことがあるわ。ネスタ山脈にも埋まってるっていうのは初耳だったけどね。採掘の為にネスタ山脈の地権を渡すっていうのも、私達への狂信を感じるわね……」
「まったくだ」
 二人は苦笑するしかなかった。
「私よくわからないや、何が起きてるの? ビンセントが王様になるの? 」
 状況がいまいち掴めずに、話においていかれた感じが寂しさを生み、ミルは悲しそうで、頬をぷくーっと膨らませった少しの怒り表情で二人を見ていた。
「そうねー、私たちがお金持ちになって、ビンセントが王様になって、ここの地域を守るための準備が進められているのよ」
「そうなの? 」
「そうだよ。サリバンさん達が俺達に協力して、俺達で地域を守る……んだよな? 」
「そうよビンセント。いずれは山脈だけじゃなくて、この国の土地も含めて守るわ」
 なんとなく状況を理解したミルは次第に表情がいつもの笑顔に変化しながらコクコク頷いている。
「そうなんだ! 」
「そうなれば、デリツィエだけでなく、街のいたるところでお店が開かれて、にぎやかで明るい国になると思うし、そうなることを信じてるわ」
「町中があそこみたいになるの!? 」
「これから俺とカミラとミル、サリバンさん達を含めてそうしていくんだよ。そう考えたら俺もわくわうしてきた! 」
「お――! それ楽しそう! 」
 ミルのはじける程明るい笑顔はいつものように輝いていた。
「これから、いつもみたいに三人合わせて頑張りましょうね」
 カミラもミルを笑いながら撫でてそういうと、ミルはカミラの手に頬を当ててスリスリとすり寄った。
 騎士からの報告を受けた三人は、ほほえましい光景を生んでいる。
 騎士の仕える王ビンセントは自覚なく、それでも理解しようと考えるが、一生三人一緒に幸せになることを想う。それに加えて街の人と一緒に楽しく暮らすことを想いながら胸が躍っている。
 一人目の王女カミラは理解しながらも、いつ何時、どんな状況であってもこうして三人で楽しく暮らせることを祈り想っていた。
 二人目の王女ミルは最愛の二人から愛されていて幸せであり、後は何でもよかった。
 彼女はこの愛が崩れることをみじんも考えないでいる。
 愛に包まれ、それが絶対のものだと想っているからだ。
 二人からのミルへの想いは確かな愛。
 ミルから二人へ贈る思いも確かな愛。
 矛盾はなく、三人はいつも三人のことを想っている。
 そんな微笑ましい光景を受付カウンターで両手で頬杖をついて、満面の笑みを浮かべて三人を見ている宿のお姐さんからは、さっきのサリバンの叫びを見てポカンとした表情は消え去っていた。
 微笑ましい雰囲気を受けたカウンターのお姐さんは、三人を見て癒されながらも、どこか羨ましそうにしている。
(いいなぁ、私も結婚したいなぁ。あんなふうに子供と一緒に笑って、はぅー、うらやましいです。それにしても、娘さんをなでているお母さん若いなぁ。旦那さんの好みなんだろうな。ロリコンっていうやつなのかな、見れば見る程、なんだか幼く見える。……大丈夫かな、もしかして無理やり――!? それは違うわよね、三人であんなに幸せそうなんだもの。……はぁ、結婚したい。本当に。誰か、もう本当に)
 カウンターのそれなりに美人なお姉さんが三人を見つめながらいろいろ思い馳せているが、それは見当違いだ。
 ビンセントは結婚をしていないし、カミラもしていない。ミルは二人の子供ではなく、二人から愛されているドラゴンなのだ。
 そんなふうに見られているとも知らない三人は、いつもの通り和やかな雰囲気を醸し出す。
「ハハハ、カミラ、そんなに引っ張ったら戻らなくなるぞ! 」
 うに―っとミルの頬を両手で引っ張るカミラ。
 よく伸びる。
「やわらかーい」
「うー、カミラぁ、やめふぇよぉ」
「はーい」
 カミラが頬から手を離すと、形勢が逆転する。
 神速でカミラにも見えないスピードをもって、間合いを零まで詰めるところは流石ドラゴン。
 最強の生物である。
「わお! 」
 視覚で追えず、気が付けばハグをされていたカミラは驚きの声をあげる。
「カーミーラー! 」
 最強の生物の手は、カミラの脇腹を襲う。
「あっはっはっはっは! ミル! そこ駄目! あはは」
「えへへ。逆転だー! 」
 三人とも笑っているが、静止役のビンセントが動く。
「はい二人ともそこまでー」
 二人を抱きかかえて椅子から降ろすと、手を離した。
 激しい攻防の後のため、二人とも息が切れている。
「続きは部屋に行ってからね」
 その一言にカウンターのお姐さんは声にこそ出さないが、表情が反応する。
(つ、続きだと!? ……いったいどうなるんだろう、あのくすぐり合いから。もしかして旦那さんも参加するのだろうか。うーん、気になる。……見たい)
 そんなふうに見られてるとも思わない三人は、部屋に入るために受付から鍵を貰いに行く。
「じゃあ俺が鍵貰ってくるから、部屋に行くまでそんなにはしゃいだら変な目で見られるかもしれないぞ」
「「はーい」」
 ビンセントが受付まで歩いていった。
 受付のお姐さんはなぜか気が気でない。
(わぁ――! 旦那さんがこっちきた! どうしよう、いやむしろ何しよう。違う、そうじゃない。鍵を渡そう。うん)
 ビンセントが受付までくると、お姐さんはなぜか赤面しながらビンセントと後ろの二人を交互に見る。
「あのーすみません。昨日から306号室に泊めさせてもらってるビンセントです」
「ありがとうございます。宿帳を確認いたします、少々お待ちくださいませ」
「はい」
「……確認できました。ビンセント様、カミラ様、ミル様ですね」
「はいそうです」
 鍵をカウンター下の鍵入れから出すと、お姐さんの鍵を握る力が何故か強くなる。
「こ、こちらが306号室の鍵です」
「ありがとうございます」
 しかし、鍵を渡さずカウンターから出るお姐さん。
「へ、部屋へご案内いたします」
「あ、いいですよ。昨日と同じ部屋なので分かりますから」
「さようでございますか、しかしお客様とお会いするのは初めてなので、務めさせていただけないでしょうか」
「そ、それでしたら、宜しくお願いします」
「ありがとうございます」
 お辞儀をする受付のお姐さんに、ビンセントもお辞儀を返すと、二人を呼ぶ。
「カミラ、ミルー部屋に行くぞー」
「「はーい」」
 てててっと走ってくるミルとそれを追いかけるカミラがビンセントのもとへ行く。
「それでは、お部屋へご案内いたします」
 受付の左手の階段を上がる。
 二階を通り三階へ上り、通路を歩いて右手の角部屋に到着する。
「こちらのお部屋でございます」
 お姐さんはそう言って丁寧に鍵をビンセントに渡す。
「ありがとうございます」
「何か不備や必要なものがありましたら、いつでもお声がけください」
「わかりました。わざわざすみません」
 ビンセントがお礼を言って、カミラも礼を言う。
「ありがとうございます」
 カミラの礼は、幼い顔からもどこか上品なものを感じる。
 それを見たお姐さんは、カミラの笑顔に頬をほんのり染めてしまう。
「当然のことです。奥様、どうぞごゆっくりとお休みくださいませ」
 お姐さんはお辞儀をして通路を渡り、階段を下りていく。
(奥様?! )
 カミラはそう言われて内心出さず疑問に思う表情を浮かべていたが、少し頬が赤くなっていた。
 ビンセントが部屋の鍵を開けて、扉を開けると、ビンセントが部屋の魔力スイッチに魔力を込める。
 魔照明明るいの光が三人を迎える。
「ゆっくり休もうか、奥様」
 ビンセントがニヤッとカミラにそう言うと、頬をさらに赤く染めたカミラの突進で部屋内に倒れた。
「わーい私も! 」
 ミルもそんな二人に飛び乗る。
 部屋の扉はゆっくり閉まって、魔力スイッチに込められたビンセントの魔力により鍵が閉まる。
 部屋の中では第二次くすぐり対戦が開始され、笑い声と明るい悲鳴が部屋を埋めた。
 そんなことが起きてるとは知らない宿のお姐さんは、三人が思わないような妄想を膨らませる。
(昨日からの宿泊なのか、昨日話私の当番じゃなかったが、今日からは暫く私だし、あのお客様を観察できそう……、というよりしたい。今頃部屋の中ではあんなことが起きて、お子さんが眠ったらさらに……、うふふ。いいなぁ、私も結婚したいなぁ)
 クロイス国サラスト区の宿屋クル。
 この宿屋の受付とサービスを当番制で務める彼女の名前はドロアドル。
 数年後、この地の国で自分の宿を構えることになるとは思いもしないだろう。
 何故なら彼女の今の想いは、『結婚したい』この一言に尽きるからである。
 彼女にとって宿屋とは、ただ生活費を稼ぐための手段。
『今は』それだけだからだ。

 誰もいないロビーでただ一人、カウンターを挟んで椅子に座る彼女は妄想に耽っていた。
宿屋のお姐さんのドロアドルの妄想力は、エリスとカミラの『力』に匹敵する程の無限である。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ