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銭(インチキ)の力で、戦国の世を駆け抜ける。(本編完結) 作者:Y.A
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第六十二.五話 南方開発と抹茶ラテ

「うわーーーっ、完全に未開の地だなぁ……」

 占領した台湾に降り立った光輝は、そのよく言えば自然豊かな、悪く言えば未開な台湾の光景に驚くばかりであった。

「取ってしまったものは仕方がない。ちゃんと開発すれば、十分に旨みのある土地だ」

 といういわけで、光輝は早速開発計画を立てる事にする。
 まずは台湾を統治する責任者であったが、これは内政官として名をあげつつある田中吉政に任せる事にした。

「これまた、厄介な土地ですな」

「開発できれば旨みはあるぞ」

「大殿からのご期待に可能な限り応えられるよう、努力いたしましょう」

 などと言いつつも、吉政はこの大抜擢に喜んでいた。
 前にいた浅井家は縁故重視で、自分のような小者がこれほどの仕事を任される事などあり得なかったからだ。
 勿論待遇も段違いなので、決心して近江を出てきてよかったと思っている。

「まずは、民心の把握だな」

 現在の台湾は雑居地である。
 明、日本、ポルトガル、スペインから移住して住んでいる者がおり、日本人は新しい支配者が日本人なので協力的な者が多かった。
 抜け目なく、津田家に仕官した者も多い。

 明と南蛮の人間の大半は津田軍による台湾制圧作戦に抵抗し、討たれるか、中国本土やルソンなどに逃げて行った。
 現地の住民は最初は様子見であったが、津田家が病人への無料診断やマラリアなどの治療薬を配布したため、ほとんどが素直に支配下に入っている。

 彼らからすると、今まで絶対に治らなかった病気を治療できる薬を持つ津田家は、神にも等しい存在に見えたからだ。

 聡い吉政は津田家ならばこの地の統治も可能だと思い、この人事を抵抗なく受け入れている。

「して、開発の方針は?」

「まずは、農業だろうな」

 光輝が知る歴史でも、台湾は一時日本の統治下にあった。
 未来では日本列島と共に核攻撃で沈んでしまったが、日本統治時代の資料がカナガワに残っていた。

「これが台湾の地図でだな」

「台湾ですか?」

「そのように命名した。第一、高山国なんて存在しないからな」

 光輝の言うとおりに、日の本ではあると思われていた高山国なるものは存在しなかった。
 吉政はなぜ台湾という命名なのかがわからなかったが、光輝は現地の詳細な地図を持っており、相当前から津田家による領有を目指して調査を進めていたのだなと理解する。

 本来であれば吉政がしなければいけない現地情報の把握を津田家側でやってくれている以上は、台湾開発は成功する確率が高い。
 そう判断した吉政は、この地で生涯を終えても悔いはないと感じた。

「この平原は農業生産に向いていると思うが、問題なのは河川の少なさだ。そこで……」

「治水ですか?」

「そうだ」

 別の世界では烏山頭ダムと呼ばれるダムを建設し、嘉南大シュウと呼ばれる農業用水の他、台湾全土で水路と耕作地の整備を津田家は計画した。

「大規模な工事ですな」

「勿論、時間はかかるさ」

 他にも、台湾を交易の拠点とすべく大規模な港の整備、防衛用城塞の建築、中心となる都市の建設など、多くの計画が立案された。

「技術者は送るし、駐留部隊の一部にも工事を負担させるとして、あとは現地住民を工事に駆り出さないとな。ちゃんと飯と日当を出して気持ちよく働いてもらおうか。最初は強制するなよ。あとは、日の本の人間と賃金などに差をつけるな。そういう部分は、敏感に感じ取るのが人間という生き物だ」

「畏まりました」

 光輝は普段はあまり細かい事を口にしないが、たまに鋭い意見を言う事がある。
 確かに吉政は、最初は現地の住民を強制的に働かせ、賃金も日の本の人間と差をつけて費用を節約しようと考えていた。

「そこで節約しても、あとで反乱を起こされればかえって赤字なんだがな。削っていい経費と駄目な経費がある。そこは見極めないと」

「確かにそうです……」

 光輝の言い分に、吉政は納得するばかりである。
 光輝が帰った後、吉政は台湾の開発を開始した。
 もっとも詳細な地図はあるし、開発計画も設計図込みで既に存在していた。
 江戸から応援の技術者達が来たので、あとはいかに人を動かして開発を進めるかだ。

「開墾に成功したら、土地を平等に分配するぞ。耕作開始から二年間は無税である」

 吉政の宣伝により、多くの現地住民が工事に参加して徐々に耕作地が広がっていく。
 トラブルがないわけでもないが、吉政ならば十分に対処可能であった。

「まずは、米、甘蔗サトウキビ、大豆などかな」

 開発が進むと、今度はとうもろこし、パイナップル、バナナ、その他熱帯産の果物の栽培も始まった。
 苗が江戸から到着し、実際に栽培が始まる。
 開墾が終わった土地は次々と現地住民や移住者に分け与えられ、彼らは農業により生活を安定させていく。

 製糖事業も始まり、砂糖と熱帯産果物は主要な輸出品として彼らに現金をもたらした。

 こうして順調に台湾開発が進んでいくが、台湾最大の耕作地嘉南平原に嘉南大シュウと、烏山頭ダムが完成したのは吉政の死後大分時が経ってからであった。






「さて、琉球はかなり発展しているんだな」

 続けて光輝は、琉球の首里城にいた。
 先の津田軍による琉球侵攻で降伏した尚寧王とその一族は、江戸で禄を与えられて生活している。
 かの地の統治責任者は日根野高吉であり、石田正澄、片桐且元、御宿政友などが補佐としてつけられている。
 高吉は、日根野弘就の嫡男で既に日根野本家の当主であった。
 父ほどの才能はないが、手堅い仕事をするので光輝に琉球担当を命じられている。
 分家の当主となっている弟三人も、高吉を支えていた。

「琉球は明の冊封国だった。その交易がなくなった以上は新しい交易相手を……まあ、うちなんだけどな」

 日の本と明が交戦している以上は、台湾、海南島と合わせて琉球と明の交易を制限しないといけない。
 沿海州~津田領、日の本~台湾~海南島~ルソン~東南アジアという順で交易路を整備し、明と交易しなくても大丈夫なようにしてしまう。
 交易窓口を沿海州のみにして交易品の値を釣り上げ、明の経済にダメージを与える作戦であった。

 完全ではないが、津田水軍は懇意の商人達と共に交易をしつつ、明を海上封鎖している状態であった。
 戦力の関係で抜けも多いが、明では交易品の値段が高騰して景気が悪くなりつつある。
 津田水軍に倭寇が狙われ、彼らは交易もしていたのでダメージが大きかったのだ。

「中国大陸との交易は後に復活するであろうから、それまでに港の拡張などを済ませておくか」

 他にも、ダムの建設、治水工事、開墾なども進めておく。
 作物は熱帯用に品種改良された米に、甘蔗サトウキビ、ゴーヤ、スイカ、マンゴー、シークヮーサー、ドラゴンフルーツ、ビワ、パッションフルーツ、パパイヤなどの栽培が津田家によって指導される事となる。

 養豚と養鶏も行われ、現地の豚の品種改良も開始していた。

「しかしまだ、『これぞ沖縄!』って名物が薄いような……」

 農業、漁業関連の開発には時間がかかるのでこれは継続するとして、まずは貿易中継点としての琉球を整備する事になった。
 光輝は、まずは沖縄と命名するところから始める。

「大殿、なぜ沖縄なのでしょうか?」

「ええと……何となく?」

 まさか未来からの知識とは言えないので、適当に命名したと家臣には答えておく。
 高吉達も、主君がそういうのではと反対もしなかった。

「それよりも、琉球の先にはルソンがあるからな」

「港の整備を急ぎます」

 光輝の目は、ルソンへと向いていた。
 かの地も落とし、これを津田領にする計画も立てていたからだ。

「ただいま」

「お帰りなさい、みっちゃんお土産は?」

「そんなに大した物はないよ」

 実は、砂糖と泡盛の原型である蒸留酒くらいしかお土産がなかった。
 酒は引き続き惑星ネオオキナワで名産になっていた泡盛の開発に、砂糖が獲れるので黒糖焼酎などの開発も進める事にしている。
 あとは、大薯と呼ばれるベニイモの栽培を広げるくらいであろう。
 琉球は水利の関係で、稲作よりも他の作物の栽培を重視する事にしていた。

 商品作物としては、中国から密輸したハゼノキの栽培を計画している。
 なぜなら、これは蝋燭の材料になるからだ。
 他にも、坐薬や軟膏の基剤、ポマード、石鹸、クレヨンなどの材料になるので、琉球の人達が現金収入を増やせるように栽培を奨励する事にする。
 製糖工場と合わせ、蝋燭などの工場も立り上げて現地住民達の雇用を確保するつもりだ。 

「あとは、これ」

「小汚いツボだね」

 今日子の言うように、光輝にもただの小汚い壺にしか見えなかった。
 江戸で研究中の焼き物の参考にと光輝が琉球で安値で入手したのだが、何でもルソンでは便器として使われているものだそうだ。
 元は中国で作られた中国製の焼き物で、そもそもの用途は輸送用の雑器であり、値段もさほどではない。

「納屋助左衛門を名乗る怪しい商人が、台湾を中心に稼いでいてな」

「ふーーーん。どんな人?」

「胡散臭い若造だった」

 光輝がいた時代にも、ああいう若者はいた。
 口が上手くていかにも高価な品でございと言って、安物を高額で売りつける。
 この時代の貿易は危険なので利益を大きく取るのは当たり前であったが、あまりに暴利を貪ろうとするので光輝はあまり信用していなかった。
 完全な詐欺師ではないが、グレーゾーンにいる人物だと思ったからだ。

「最初は、雑器如きをとんでもない値段をふっかけやがってな。こちらが相場を知っていると、急に下手に出てきたけど」

「油断ならない人だね」

「津田家では、完全にブラックリストな商人だな。ボッタクられないように気をつけないと……」

 そんな話をしてから暫くの後、今日子は茶道の師匠である田中与四郎の下を一人で訪ねていた。
 たまには弟子として茶を飲みにきてくれと誘われたのだ。

「あっ! この壺!」

 与四郎の茶室にあのルソンの壺が置かれており、茶壺として使われていた。

「ルソンの品だと、納屋助左衛門なる人物が持ってきましてな。姿がいいので、茶壺として使っております」

「そうですか、確かにいい姿ですね(本当、ただの小汚い壺だなぁ……)」

「そうでしょう。他の方々にも勧めているのですよ。ところで、今日子殿もお一ついかがですか?」

「実は、夫がお土産に買ってきてくれたのです」

「ほほう、津田様もなかなかの目利きですな」

 津田家の関係者は誰一人として引っかからなかったが、豪商、大名、文化人、公家などの間にもルソンの壺が広がり、とんでもない高値で取引されるようになっていく。
 今日子も、まさか茶道の師匠である与四郎にルソンの壺の正体を言えず、ついそのままにしてしまった。

 ルソンの壺に高値がついたのは織田家茶道頭である与四郎の目利きのせいでもあり、彼は他にも生活用品でしかない高麗茶碗に箱と箱書きをつけて高値で販売し、暴利を得ていたりもしている。

 彼の本業は商人であるので、金稼ぎも行っていたからだ。
 勿論彼は一流の茶人ではあるのだが、この行為がそう遠くない未来に納屋助左衛門共に彼らの没落の原因となってしまう。
 だが、それはまた別の話であった。

「与四郎様、お土産に砂糖菓子をお持ちしました」

 今日子は最近津田領内で生産量が増えた砂糖を使い、上白糖、三温糖、グラニュー糖、パウダーシュガー、ザラメ、氷砂糖、角砂糖などの生産を光輝に頼み、試作品を完成させている。
 これは、彼女がお菓子などをよく作るからだ。
 販売も計画しており、まずは元堺の会合衆で、今は政商にまで成り上がっている与四郎に試作品を献上した。
 彼のツテで、砂糖製品の情報が広がるのを期待してだ。

 他にも和三盆の製造を命令し、茶道に使える干菓子を作って持参していた。

「口の中でスっと溶けて、爽やかな甘さで口に残りにくい。お茶の味を邪魔しないし、出しゃばる事もなくいいお茶請けですな」

 和三盆の干菓子を利休は気に入り、彼が認めた事で茶道のお茶請けとして最もよく使われるお菓子となっていく。

「いい物を紹介していただきました。今日子殿は、茶道の研鑽を怠っていないのですな」

 ご機嫌な与四郎の元を辞した今日子は、その足で石山城にいる信長に挨拶に向かった。
 すぐに森成利によって通されると、彼は書状の整理を行っている。
 支配者である彼には毎日大量の書状が届くのだ。

「今日子か。何か飲み物でも出してくれ」

「お茶でも点てますか?」

「与四郎もおらぬし、もっと気を抜いて何かを飲みたいな」

 わび茶とは言っても、やはり作法のある茶道は堅苦しい面がある。
 家臣に教養を身につけさせ、彼らの統制のために茶道を重視している信長は、実はそこまで茶道が好きというわけでもなかった。
 名物を収集しているのは、それを持っていると名のある大名、武士、公家などに対して優位に立て、豪商との商売などで有利になるからである。

 下手な領地よりも褒美としても有効で、合理主義者である信長がこれを集めないはずはなかった。

「わかりました。少々お待ちください」

 今日子は、持っている食材で抹茶ラテを作って信長に献上する。
 砂糖と抹茶は沢山持っていたし、牛乳はそろそろ賞味期限が近かったので早めに使ってしまおうと思ったからだ。

「どうぞ」

「茶か? いや、ただの茶ではないな」

 信長は、興味深そうに抹茶ラテを観察してから味見をした。

「茶の香りと甘さが疲れを癒してくれるようだ。これは気に入ったぞ」

 信長は、今日子に抹茶ラテの作り方を教えてくれと頼んだ。

「抹茶にこのような淹れ方があるとはな。与四郎は何と言っておった?」

「さすがに、与四郎様にはこれは出せませんよ。怒られてしまいますから」

 真面目な茶席で抹茶ラテなど出したら、与四郎に怒られてしまうと今日子は首を横に振った。

「かもしれぬな。という事は、我は得をしたのだな」

 信長は抹茶ラテが気に入り、お替りをした。
 その日今日子は津田屋敷に泊まり、翌朝に港から船で江戸へと戻ろうとする。
 すると、港には田中与四郎の姿があった。

 どうやら、江戸に戻る今日子を見送りにきてくれたようだ。

「わざわざすいません、与四郎様」

「いえいえ、私の弟子の見送りですから。茶道に使う美味しいお菓子の紹介に、商人としても製糖業の拡大に期待が持て、これも素晴らしい」

「砂糖はこれから需要が増えますからね」

「楽しみですね。ところで今日子殿」

 与四郎の顔が急に真面目になった。
 どうやら是非に聞きたい事があるようだ。

「はい、何でしょうか?」

「昨日、大殿に新しい抹茶を使った飲み物を提供されたそうで……」

 与四郎は、今日子が信長に抹茶ラテを提供した事実を掴んでいた。
 茶道頭にして政商でもある与四郎の情報収集能力に、今日子は驚きを隠せない。

「あれは、少し邪道といいますか……茶席で出せるようなものでもありませんし……」

 茶道の師匠である与四郎に対し、今日子はとても茶会では使えないものだと説明する。

「今日子殿、そのような既成概念に捕らわれてはいけません。茶道に決まりなどなく、ただ一期一会の精神をもって客をもてなすのみなのですから」

「はあ……」

「というわけで、まだ出航まで時間もありますし、私にも一杯いただけませんかね?」

「はい……」

 今日子は与四郎に頼まれて、彼にも抹茶ラテを淹れる羽目になってしまう。

「確かに、茶道の席で使うには色々と試行錯誤が必要ですな。ですが、これは美味しい。疲れた時に飲むと心が休まりますな」

 結局、与四郎は抹茶ラテを茶会では採用しなかった。
 だが……。

『一人で抹茶らてを淹れ、それを喫して贅沢な時間をすごす。素晴らしきかな』

 与四郎は空いた時間に一人で庵に籠り、抹茶ラテを楽しむようになるのであった。
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