第12話
「どうしてこうなった……」
訓練用の木製のポールアックスにもたれかかりながら、目の前の伊達男を見ながら現実逃避的に呟く宏。周囲には、結構な数のギャラリーがいる。
「逃げずにちゃんと来たか」
「そもそも、何でこんなことせなあかんのかは、いまだに腑に落ちてへんけどなあ……」
やけにやる気のデントリスに対して、非常に嫌そうに答える。
「きっぱり振られてんねんから、こんな仰々しい真似せんとさっくり諦めたらええやん……」
「一度二度失敗した程度で引きさがっては、欲しいものを手に入れる事は出来ないのでね」
言いたい事は分かる。非常にまっとうな言い分だ。だが、男女の間柄においては、そのガッツは時にマイナス方向にしか働かない。
「それと、僕がデントリスさんと決闘なんざせなあかんのとは、まったく因果関係あらへんで……」
「ここまで来たら、問答無用。さっさと構えたまえ」
「はいはい」
どうにもテンションの上がらぬまま、もたれかかっていたポールアックスの刃先を地面に向けるように構える。
「では、約束通り、この決闘に私が勝ったら、ハルナ君から手を引きたまえ」
「手ぇ引くも何も、そもそも付き合うてすらあらへん、っちゅうに……」
ようやく多少はやる気を見せた宏を見て、上機嫌に口上を述べるデントリス。そんなデントリスの自分勝手な言い分に、とことんテンションも低く突っ込みを入れる宏。
「すまんのう、工房主殿」
「そう思うんやったら、あの人何とかしたってください……」
「残念ながら、言って聞くなら、このような事態にはなっておらぬよ」
「さいでっか……」
女王の申し訳なさそうな言葉に脱力しながら、どうにか目の前の事態に対処する事に意識を集中させる。勝ったところで得るものはなく、かといって負けることも許されないという非常に割に合わない決闘。負けたところで当事者の同意を取らず無理やり決行しているため、ファーレーンが介入して国際問題化すればあっという間にチャラになる話ではあるが、そこまでの間が非常に面倒な上、仲間から何を言われるか分かったものではない。
「さて、最後にもう一度確認しておこうかのう」
限りなくテンションは低いながらも、一応決闘に応じる構えになった宏を見て、女王が切り出す。
「勝負の方法は一対一、お互いの得意とする武器で、どちらかが戦闘不能になるか降参するまで戦うこととする。余りに威力がありすぎる技、最初から殺す前提の技は使用禁止。破れば結果いかんにかかわらず負けと認定する。敗者はトウドウ・ハルナに対する今後一切のアプローチを禁止する。以上、異存はないな?」
「もちろん」
「もう、それでええです……」
立会人である女王が述べた確認事項に同意する二人。それを聞いた女王が一つ頷くと、腕を上げて決闘の開始を宣言する。
「グラムドーンを仕留めた実力は認めるが、それでも君はハルナ君にふさわしくない!」
「いや、それを僕に言われても……」
気勢を上げながらいきなり割と殺傷力の高い大技を叩き込んでくるデントリスを、何処までもテンションが上がらないままとりあえず迎撃する。
十分後、考えなしに大技を連続で叩き込み続けたデントリスは、武器が壊れてスタミナが切れ、無防備になったところを宏のスマッシュ連打で何度も宙を舞う羽目になるのであった。
試合終了後、宏にいろいろと確認したい事が出来た女王は、他のメンバーに断って宏一人を例の東屋に連れ込んだ。無論、周囲には隔離結界を展開済みである。
「ほんに、面倒をかけたのう」
「面倒やと思うんやったら、部下の手綱ぐらいきっちり握ったって下さい……」
「実にもっともではあるが、残念ながら客人というたところで国賓という訳ではなく、表向きは単なる冒険者の一人となると、たとえ妾が肩入れしているという事実があったとしても、男女の間柄については個人の事情として処理せざるをえんのじゃ」
「その癖、女王様が肩入れしとるっちゅうだけでいろいろ言いたい放題言うてくる連中も多いとか、ほんまに権力の中枢とかと関わるとろくな事ありませんで……」
「耳の痛い言葉じゃ」
宏の遠慮のないぼやきに、本当に耳が痛いと言う表情で同じようにぼやく女王。
「それにしても、妙な感じじゃのう」
「妙?」
「うむ。デントリスは下半身に忠実ではあるが、そこまで頭が悪い訳ではない。あのようなやり方で歌姫殿がなびくはずが無い事ぐらい、言われずとも分かっているはずじゃが……」
「瘴気の匂いはせえへんかったし、春菜さんの歌聞いても普通やったから、そっち方面でそんなにおかしなことにはなってへんはずや、とは思うんですけどねえ」
「とは言えど、普通ではない事も間違いではない。工房主殿も、戦っている最中におかしいと思わなんだか?」
「っちゅうか、あの決闘は、内容そのものがおかしい事だらけでっせ?」
決闘に至るまでの流れも含めて、突っ込みどころが満載の決闘の内容について、何処から突っ込むべきか分からないといった体で何処となく面倒くさそうにコメントする宏。
「そもそも、何をどうすれば決闘っちゅう話になるんかが理解できへん、ってのは置いとくとしても、あの人、あんな脳筋みたいな戦い方、せえへんでしょ?」
「うむ。そもそも根本的な話として、奴の剣術は工房主殿とは相性が最悪じゃ。先に何回有効打を与えるか、というタイプの勝負ならともかく、実戦形式では万に一つも勝ち目はない。グラムドーンとの戦闘を見ているのじゃ。あやつにもそれぐらいの判断は出来よう」
「せやのにああいう勝負を持ちかけてきた、っちゅうんは、考えるまでもなくおかしいですやん」
「そうじゃな。あからさまなぐらいおかしい」
「なんか、その先の事、聞きたないんですけど……」
愚痴愚痴と鬱陶しい宏に苦笑しながら、それでも容赦なく聞くべき事は聞く事にする女王。宏の心境も分からなくもないが、ここで手を緩めては重要な情報を逃してしまう。
「とりあえず、似たような事例について心当たりはないか?」
「まあ、あるんはありますわ。面倒くさい事に」
「ほう、やはりか。重ねて確認するが、バルドの絡みか?」
「以外、ありませんやん」
二人とも、バルドは死んだはずだ、などというくだらない話はしない。ファーレーンで宏達が仕留め、ダールでは女王自身が始末し、その癖灼熱砂漠でもバルドらしい生き物と遭遇しているのだから、何体仕留めたところで全滅したと考えることは出来ない。
「で、具体的には?」
「ファーレーンでの事件の時、一人、マインドコントロールされとったらしいんですわ。瘴気に侵されて頭がおかしくなったんとは違うから、春菜さんの歌とか神官の浄化とかにも反応がのうて」
「なるほど。どんな感じでおかしくなっていた?」
「僕らに対する憎しみだけが、度を越してひどくなっとった感じでしたわ。それ以外はまったく普通やったから、それまでの経緯の問題で、いわゆる逆恨みみたいな状態になっとったと判断してまして」
「ふむ。確かに、今のデントリスと状態が似ているな」
宏から受けた説明をもとにデントリスの行動を頭の中で検証し、あっさりそう結論を出す女王。特定の要素が関わらなければまともなところなど、まったく同じである。
「どういう方法でマインドコントロールをしているか、それは分かっているのか?」
「残念ながら。ただ、その人の場合、おかしな人間と接触しとった様子はなかったんで、恐らくぱっと見てもそれが原因やと分からんような道具とか使うてやったんちゃうか、っちゅう風には当りつけとります」
「洗脳された人間を元に戻す手段は?」
「今ぐらいのレベルやと、まともな状態に戻すんは、ひたすらカウンセリングで自分の思考とか行動がおかしなってる事を自覚させる、以外無理ですわ。もっと進んで、遠隔操作で意識のっとられて、っちゅうレベルになると、遠隔操作自体は万能薬で一発です。ただ、それで洗脳が解ける訳やないんですけどね」
「不便よのう」
「洗脳の厄介なところは、いわゆる状態異常とは違う、っちゅうところですわ。話術とかでじわじわ考え方を捻じ曲げられた場合、いろんな経験して自然と考え方が変わったんと区別がつかんので、薬とか魔法ではどうにもならんのんですよ」
「本気で、不便よのう……」
宏の説明を聞き、渋い顔をする女王。面倒事は一発で解決したいところだが、残念ながらそうは問屋がおろさないらしい。
「本当に、どうにもならんのか?」
「薬では、どうにもなりません」
「薬では、という事は、抜け道はあるんじゃな?」
「そらまあ、大概の事には抜け道はありますわ。ただ、正直褒められた方法やないんですよね」
「一応、大まかな方法だけでいいから教えてくれぬか?」
「理屈としては簡単です。精神系魔法使うて、洗脳し直せばええ」
確かに簡単な理屈だが、褒められた方法ではないどころの騒ぎではない。下手をすれば後々人格崩壊につながりかねないし、洗脳の方向を間違えれば、今以上に手をつけられなくなる。捕まえた下っ端を使い潰すならともかく、デントリスのような国の中枢近くにいる、それもまだ後継ぎがいない貴族にそれをやるのは問題が多すぎる。宏が最初にこの方法を提示しなかった理由に納得しつつ、聞いた瞬間に即座に頭の中で除外する女王。
「なるほど、分かった。原因を排除したうえで、地道にやるしかない、という事じゃな?」
「そうなりますわ。しかし、何っちゅうか、ファーレーンの時に比べるとやり方が荒いっちゅうか、あんまり計画が練られてる感じがせえへんっちゅうか……」
「ファーレーンの事件については、流石にそこまでの詳細を調べる事は出来なんだが、そんなに違うのか?」
「そらまあ、こんなすぐ発覚するようなやり方はしてませんでしたで。おかげでぎりぎりまで気が付かへんかって、一番やばいタイミングで春菜さんが刺されて、思いっきり冷や汗かきましたわ」
「お主らはともかく、向こうの王太子や国王が全く気が付かなかったという事は、余程だったようじゃのう」
「おかしかったんはおかしかったんやけど、理由が納得出来へん訳でもなかったもんで。その上、城で働いとる一般人避難させるどさくさで担当者が間違えて、王族付きの侍女として扱うてしもうたとか、色々ミスも重なったんですわ。もっとも、そういうミスが出るように、裏でバルドがかく乱しとったとは思いますけどね」
そこまで地道に策を巡らせたバルドですら、宏達というファクターのせいで大失敗したのだ。やるのならこんな中途半端で荒っぽい稚拙なやり方ではなく、もっと大雑把に予測できない方向で物理的に暴れるか、不確定要素である宏達の存在を前提とした、突発事態に対応しやすく対処されにくい策を練らないと話にならない。
「色々参考になった。後は妾の方で適当に調べてみる事にしようかのう」
「もしかして……?」
「義賊向きの案件じゃと思わぬか?」
「……頼むから、デントリスさんの二の舞にならんといてくださいよ……」
「分かっておるよ。まあ、それはそれとして」
聞くべき事を聞き終えたと判断したか、女王の雰囲気が為政者のそれから、女盛りの色を持ったものに変わる。そのゾクリとするほどの過剰な色気に青ざめ、元々大きく取っていた距離を更に広げ、部屋の片隅でガタガタ震えはじめる宏。例の事件後、宏を絞め殺そうとして殺人未遂で捕まった女子生徒が、丁度こんな感じで妙な色気を持っていたのだ。無論、その女子生徒には宏に対する恋愛感情は無く、自業自得による環境でいろんな所が壊れていたが故に、宏を殺した時の快感を想像して勝手に発情していただけなのだが。
「折角だからやらないか、と言おうと思うておったが、流石にその反応は傷つくのう」
「女怖い女怖い女怖い女怖い……」
「いやいや、女体は怖くないぞ?」
「女怖い女怖い女怖い女怖い……」
「しまったのう。妾としたことが、完全に見切りを間違えてしもうた。これは、実に申し訳ないことをしたのう……」
「女怖い女怖い女怖い女怖い……」
「しかし、やらかしてしまった妾がいっていい事ではないかも知れんが、これは歌姫殿も姫巫女殿もエルフ殿も、実に大変な道を選んだものじゃ」
宏の過剰な反応にちょっとやりすぎたと反省しつつ、一つ肩をすくめてその場を立ち去る女王。仮にこの場に第三者がいたならば、さりげなく澪をはぶっているあたりが無意識なのか意図的なのか気になった事だろう。もっとも、宏にはそんな余裕はないが。
「宏君、お話終わったんだよね……?」
結局、宏が正常に戻ったのは十分後、女王に謝られた春菜が様子を見に来た時の事であった。
「とりあえずデントリスさんの方はまあ、片が付きそうやとして」
仲間たちと合流する道での事。最近では珍しく二人きりの状況にドキドキしている春菜に対して、彼女が期待しているのとは全く正反対の方向で妙な緊張感を醸し出している宏が声をかける。宏の側が積極的に声をかけた割に二人の間の距離が普段より随分と開いているのは、先ほどの状態を考えれば仕方が無いことだろう。
「本当に?」
「女王陛下が動くんやから、何らかの結果は出るやろう」
「そっか」
デントリスの問題が片付く。そう聞いてあからさまにほっとした様子を見せる春菜。正直、とにかく鬱陶しかったのだ。
「とりあえずバタバタしてて渡しそびれとったもん、渡しとくわ」
「渡しそびれてたもの?」
「霊布で作った服がな、とりあえず一着完成してんねん。っちゅうてもブラウスだけで、ズボンとかはまだ作ってへんねんけど」
「私でいいの?」
「春菜さんは防御薄めやのに、割と前に出る機会も多いからな。その上補助魔法とか回復魔法とか、生命線になりがちなスキルようさん持っとるし、兄貴とセットで優先的に防御面を改善せんとやばいねん」
「あ~、なるほど」
自分が優先される理由に納得し、差し出された無地の白いシンプルなブラウスを受け取る。前が女合わせになっている事を除けば、性別に関係なく誰が着ても問題ないような、毒にも薬にもならないタイプのデザインである。もっとも、使っている生地が生地だけに、その毒にも薬にもならないデザインがかえってものすごい気品と高級感を醸し出す結果となっているが。
「一応、サイズ自動調整とかは縫った段階でかかっとるから、微調整とかはせんでええはずやで」
「了解。後でちょっと着替えてくるよ」
一瞬、装備的な意味ですぐにこの場で着替えてしまいたい衝動にかられる春菜だが、流石にいつ誰が通るか分からない場所なので自重する。それに、春菜自身は見られても問題ないどころか、むしろお互いに堂々と見せあえる関係になりたいところではあるが、今の宏に着替えのシーンを見せるのは、余計なダメージを与えるだけで何の意味もない事ぐらいは理解している。そもそも、慎みという奴を忘れては女として終わりだ。これがゲームだったらその手の問題は発生しないため、何のためらいも無く即座に装備を交換していたところである。
頭の中でそんな事を考え、新装備に対する期待をどうにかなだめ、次の話題に話を切り替える春菜。
「それはそれとして、王宮に招かれてる形になってる訳だけど、何か献上品とか、考えなくていいのかな?」
「せやなあ。何かあった方がええかもなあ。何がええやろう?」
「ダールは水が貴重だから、水がらみ?」
春菜のコメントに、いろいろと考え込む。確かに水がらみの何かがあれば、王室としては非常に助かるだろう。だが、直接的に水を扱うようなものを渡すのは、非常に危険な気がする。
「水を作るような魔道具は、流石にまずいやろうなあ」
「私もそう思う。こういうところだと、水利権ってかなり大きいだろうし」
「渡すとしても、いざという時の伝家の宝刀、みたいな形にしとかんとやばいやろうなあ」
酒より水が高いような土地だ。いざという時の渇水対策に、王家が水を作る事が出来る魔道具を持っておくのはいいことだろう。だが、それが余りホイホイ使えると、国全体にとってはいい事なのは間違いないにしても、利権に絡む大きなトラブルが起こってかなりの混乱を起こしかねない。
「まあ、王家の人しか使えんようにした上で、一日一回とか貯水湖が空のときしか使われへんとか、貯水湖満タンにする量しか作られへんとか、後は魔力の消費量を王族でも空になるぐらい大きいするとか、そこらへんの制限かければいけん事はないか」
「そだね。まあ、少なくとも、今の女王様とかはそこらへんもちゃんと分かってると思うから、制限かけておけばその意味も理解してくれると思う」
「せやな」
「ただ、それだけじゃなくて、大した影響はないけどちょっと便利な物とか、あってもなくても何も変わらないけど、あると嬉しいものとかも渡したいかも」
「となると、便利グッズか嗜好品の類やなあ」
春菜の提案に、頭の中で作れそうなものをリストアップして検討する宏。ちょっとしたもの、なので、材料はそれほどいいものにこだわる必要はないだろう。
「……王宮のトイレ、全部ウォッシュレットにするか?」
「……ありだとは思うけど、そこに貴重な水作成の魔道具を持ってくるのは、いろいろ騒ぎにならない?」
「反感買わんように、ウォッシュレットの設置とセットで、下水処理関係のシステム整備するか?」
「規模が大きすぎるって」
「ほなまあ、マッサージチェアぐらいにしとこか」
「それぐらいがちょうどいいんじゃない?」
いきなり規模がグレードダウンした宏の提案に、内心でほっとしながらも軽い感じでOKを出す。別に王城の上下水工事を徹底的にやる事になっても、それはそれでかまわないとは思っている。思ってはいるのだが、あまり派手に動くと、いろいろ面倒なことになる。
そもそも、その面倒事を避けるために、水作成の魔道具を可能な限り使い勝手の悪いものになるよう調整するのだ。折角施した小細工が無意味になるようなプレゼントをしては意味が無い。
「ほな、いっぺん戻って用意してくるか」
「手伝える事、ある?」
「マッサージチェアの方は、いろいろあるで。何脚ぐらい用意したらええと思う?」
「五脚ぐらいでいいんじゃないかな?」
「了解や」
大まかに必要な事を確認し終え、達也達との合流を急ぐ。話しているうちにいつの間にか、互いの距離が普段と同じになっている。そんな些細な事でも幸せを感じ、ますます二人きりである事を意識する春菜。
(こっちに来た当初は、ずっと二人きりだったんだけどな……)
ファーレーンに飛ばされたばかりのころをどこか懐かしく思い出しながら、久しぶりの二人きりの時間をひそかに楽しむ春菜。かつては、二人だけで行動するのが当たり前だった。その頃の春菜は、宏を恋愛対象になりうる相手として意識していなかったため、特に緊張する事も幸せを感じることも無く、ごく自然にすべき事をこなしていた。もっとも、そもそも飛ばされた当初は、目先の事と宏の女性恐怖症に対する対応にいっぱいいっぱいで、恋愛なんて考えることもできなかったのだが。
(今から思えば、あの頃はずいぶんと贅沢な時間の使い方してた気がする……)
後悔はしていないが、ちょっともったいないかもしれない、などと過去を思い出して内心でため息をつく春菜。宏という自分をスペックだけで見るような真似をしない男がすぐ近くにいたのに、自分を好きになってもらえるよう努力する気がまったくなかったのだから。
あの時間が今の距離を得るために必要だったのは間違いなく、また、春菜が宏を好きになるために必要なステップだったのも確かなのだから、時間を無駄にしていた訳ではまったくない。故に、後悔はしていないが、あの頃の穏やかな時間とそれを当たり前のように享受していた当時の自分が、今となっては羨ましくてたまらない。
(向こうに帰ったら、ああいうのはちょっと無理かな?)
お互いに何も言わずに黙々と歩きながら、春菜はとりとめのない事を考え続ける。少なくとも、当時や今のように同居する、というのは無理だろう。そもそも、春菜が持つ恋愛感情は一方通行のもので、まだカップルにすらなっていないのだ。その上、余程改善したところで、宏の女性恐怖症が今の春菜と二人きりで生活するのに耐えられるところまで行くのは難しそうである。
春菜自身、自分でもはしたないとは思うが、今の彼女は宏と同棲する事になったとして、まったく何もなしに日々を過ごすことに耐えられる気がしない。現在のように同居と言っても複数の人間と一緒ならブレーキもきくが、邪魔が一切入らない環境で自分を律する事が出来ると思うほど、春菜は自身の自制心を評価していない。
一緒にいれば触れ合いたくなる。触れ合う事が出来れば、いずれ口づけが欲しくなり、口づけを交わしてしまえば、その先に踏みこみたくなるのも時間の問題だろう。幸いにして、春菜の身内は真剣な恋愛ならそういう事にも理解を示してくれるが、宏の家族や宏本人は、恐らくそうではない。
(……我ながら、先走った事を考えてる……)
自分のあさましく都合のいい思考に、思わず大きなため息を漏らす春菜。その間も、視線はずっと宏をロックオンし続けていたのだから、自分のことながら本気で呆れるしかない。
「どないしたん?」
「ん? あ、何でもない。ちょっと考え事してて」
「さよか」
どうやら、宏に心配をかけてしまったらしい。ちょっと反省しながらも、こんな些細な事でも気にしてくれる宏の態度に嬉しくなってしまう。
(とりあえず、当面の問題は、どうすれば宏君が怖がらずに私達の事を真剣に考えてくれるようになるか、かな?)
先ほどまで恐ろしく先走った事を考えていた思考を整理し直し、自身の感情に素直に従ってなすべき事を考える。まずは、少しでも宏の恐怖心が軽くなるように努力しなければいけない。恐らく、自分達の中の誰かが恋愛を成就させるには、最低でもあと三歩ほど宏が歩み寄れるようにならないと、話にもならないだろう。
(向こうに帰った時、こっちでの記憶もこの気持ちもそのまま残ってたらいいんだけど……)
恋愛感情という奴が必ずしもいいものではない。宏への恋心を自覚してからこっち、毎日のようにその事実を思い知ってなお、春菜は恋をしなければよかった、などとは思ってもいない。たとえどのような結果になったとしても、この気持ちは向こうに持って帰りたい。宏に向ける恋心と同じぐらい切実に願う春菜であった。
「珍しいわね、達也。あんたがこんな真昼間から酒に走るなんて」
「ちょっとあいつらにあてられて、な……」
同じ日の昼下がり。あてがわれた部屋に引きこもっていた達也は、砂牡蠣の燻製をつまみに日本酒をあおっていた。どう見てもやけ酒である。
「ああもまっすぐに惚れたはれたをやられると、どうしても我が身の現状がなあ……」
「まあ、あんたの立場じゃしょうがないとは思うけどさ」
「惚れた女と結婚して、二人での生活がようやく軌道に乗った矢先に引き離されてみろ。ひとり寝の夜が堪えるぞ……?」
そんな風にぼやきながら、グラスに注いだ酒をグイッとあおる。日ごろは年長者として無様な姿を見せまいと気を張っている達也だが、所詮まだ三十路にも届かない若造だ。新婚の嫁と引き離され、唯一まともな社会人経験がある人間として陰で色々な役割をこなし、あまり深刻な愚痴はこぼす事も難しいとなれば、誰も見ていないところで酒におぼれたくなってもしょうがないだろう。
「まったく、神様も意地が悪いわよねえ。何も新婚の男を嫁から引き離さなくてもいいのに」
「本当に、何で俺だったんだろうな……」
酒臭い吐息を漏らし、牡蠣を食いちぎって新たな酒を飲み干す。宏達三人が工房に戻っているからこそ、油断して酒におぼれる事が出来る。そんな態度を隠そうともしない。
「達也、あんた色々溜まってるみたいだけどさ。嫁さん一筋とか言って意地張ってないで、娼婦でも買って発散してきたらどうなの? お金は十分あるんだからさ」
「前から思ってたんだが、真琴。お前、そういうところに妙に理解があるよな」
「あたしはあんた達より三カ月長くいるのよ? しかも、面倒見てくれたのがドルおじさんだから、必然的に騎士連中や警備隊なんかと関わることも多かった訳よ。流石にこっちの男の方の事情にも詳しくなるし、理解も進むわよ?」
「そうか。ヒロに春菜を抱くようにけしかけたのも、そういう事情か?」
「まあね。無理やりそういうことする連中を容認する気はないどころか、片っ端から見つけ出して切り刻んで魚の餌にでもしてやりたいところだけど、残念ながらいくら春菜だって、防げないときは防げない。だったら、初めては好きな男に、ね」
マイグラスを取り出し、達也の対面に座って酒を注ぎながら、茶化す訳でもなく真剣な声色で思うところを告げる真琴。騎士団や警備隊などと行動を共にするという事は、そういう過酷な現実を目の当たりにする機会が多いと言う事でもある。
「で、まあ、話を戻すけど、あたしはあんたが我慢できなくなって女を抱きに行ったところで、軽蔑したりは絶対しない。我慢しておかしくなるぐらいだったら、お金で解決できる事は後腐れなくお金で解決してほしいぐらいよ」
「お前も春菜も、たまにものすごく男前だよな……」
「随分な言いようね」
「そう、むくれるな。が、まあ、そうもいかないんだよな、現実的に」
新しい瓶を取り出しながら、苦笑交じりに話を続ける。夕食には宏達も戻ってくるのだが、そんな事を気にして飲むような心境ではない。とはいえ、出来あがった状態で夕食の席に行くのは流石にまずいので、アルコールを抜くための万能薬も用意しておく。
「男ってのは、お前さんが思ってるよりデリケートなもんでな。残念ながら、詩織以外じゃ反応しないんだよ」
「……そんなもんなの?」
「ああ、そんなもんだ」
「……あたし、男って頭と下半身は別物だと思ってたわ」
「まあ、実際のところそういう男が多いのは事実だが、こうと決めた一人にしか反応しない奴も結構いるもんだぞ?」
子供には聞かせられない赤裸々で生々しい話をしながら、コップに注いだ酒を一息にあおる。自分から振ったからかそれとも腐女子だからか、一歩間違えればセクハラになりかねないエロトークに顔色一つ変えずに付き合う真琴。適齢期の男女とは思えない会話である。
「その割りには、遺跡のときは春菜のエロい空気にぐらついてたじゃない」
「あれにぐらつかない男なんて、それこそ精神的にどうかしてると思うんだが、どうだ?」
「まあ、そうだけどさ」
ちょっと前にあった事件について真琴につつかれ、とりあえず開き直ったことを言う達也。あれは本気で修行僧でもノーダメージでは無理、そんな次元だ。普段が普段だけに、ああいうときの色気が度を越す。それについては真琴も同感らしく、むしろ達也がぐらついたという事実に安心している節が無きにしも非ず、である。
「それで、反応しなかったって事は、試した事はあったんだ?」
「試したってほどの事じゃないんだがな。ユリウスに誘われて、一度だけ性的な出し物が売りの夜の劇場に行った事があるんだよ」
「あ~、何処だか大体分かった。アレでしょ? 金と交渉次第では、気に入った踊り子一人お持ち帰りできるところ。まあ、そう簡単にお持ち帰りできるほど甘い連中でもないけどさ」
「お前がそれを知ってること自体、かなり微妙な気分なんだがな。まあ、男同士のつきあいって事で、顔だけは出したんだが……」
「もしかして、あの店でも反応しなかったの?」
「そう言うことだ」
達也の嫁一筋は、どうやら筋金入りらしい。出し物の内容と、それに対する男たちの反応を知っている真琴からすれば、宏とは別のベクトルで達也が病んでいるようにしか思えない。
「……あの店行って反応しないとか、ほとんど病気の域じゃないの?」
「残念ながら、詩織相手だったら、夢だろうが妄想だろうが反応するんだよ。だから、不能になった訳じゃない」
「や、多分それ普通に病気だから。あそこ、アルチェムぐらいのエロボディ持ったお姉さんとか、澪みたいな体つきなのにやたら妖艶でエロい娘とか、様々なニーズにばっちり応えてたと思うんだけど……」
「お前さん、今の自分の言動が澪の事を言えないって気が付いてるか?」
「うっ」
達也に痛いところを突かれ、思わず返事に詰まる真琴。とはいえ、こういう未成年の異性が一緒にいる場では口にしづらい話をする事が出来て、ずいぶん気分的には楽になった気がする達也。正直、真琴は達也的には性欲の対象には絶対にならない娘であるが、それゆえに友人としては得難い人物である。
「まあ、俺の話ばかりってのも不公平だし、そっちもちょっとつつかせてもらおうか」
「な、何よ?」
「いや、お前さん、宏と春菜の事をせっせと応援してるようだが、自分自身はどうなんだ、ってな?」
真琴的にはうやむやのままごまかしたかった所を突っ込まれ、途端に目線が宙をさまよう。
「どうしても、言わなきゃダメ?」
「ヒロみたいな事情があって絶対無理だ、ってんだったら言わなくてもいいが、な」
「……そこまでじゃないのが困りものなのよね……」
達也の示した条件に、本気で困った顔をするしかない真琴。こっちに来たことがきっかけで、そろそろ真琴の中では過去の事になりつつある話ではあるが、自分の恥部もあって、あまり口にしたい類の内容ではない。もう少し時間が過ぎれば笑い話にできそうな感じではあるが、男が聞いて楽しい種類の話ではないのが問題である。
「ま、いっか。宏の女性恐怖症を何とかしようってのに、あたしが自分の失敗を笑い話にできないのはダブルスタンダードだしね」
「失敗、なあ。もしかして、引きこもってたのもそこが原因か?」
「そそ。まあ、半分自業自得な部分があるし、今にして思えば、甘ったれた話だって気もしてるしね」
「自業自得、ねえ」
何やら存外重い話になりそうだと察して、牡蠣の燻製以外のつまみを取り出す。取り出したのはクラッカーと、ゴブリン達からもらったマルガ鳥の燻製卵である。
「で、何やらかしたんだ?」
「一言で言うと、大学時代にパンピーの彼氏と付き合ってて、うっかり彼とその友人掛け算した、それも下の名前は実名出しちゃってた本を見られたって話」
「……そらまた、ダメージの大きい話だな……」
「見られただけでもショックだったんだけど、それがいつの間にか大学中に広がっててさ。彼氏だけじゃなくていろんな人間から、もう無茶苦茶言われた訳よ」
「なるほど、引きこもる訳だ」
半分自業自得、という真琴の言葉にひどく納得する達也。ボーイズラブというやつは、小ネタレベルならともかく、本気の内容になると普通の男が受け入れるのは難しい。それが明らかに自分をモデルにした、どころか実名バリバリだとなると、引くか怒るかするのが当然である。
「腐女子である事を恥じる気は全然ないけど、流石に自分の彼氏をその友達と掛け算するのは、人としての礼儀に欠けるどころの騒ぎじゃない訳じゃない。だけど、当時は結構ガキだったから、見つからなきゃいいじゃん、なんて軽いノリでやらかしちゃったわけよ」
「……お前さんとその彼氏、どっちも擁護出来ねえ種類の話だな、まったく」
「擁護してもらう必要もないわ。もっとも、こっちの趣味を黙認してくれるような男じゃなかったから、その事件が無くてもいずれやらかして破局してたとは思うけどね」
「なるほどな」
真琴が腐女子的な意味以外で男に興味を示さない理由を、なんとなく納得してしまう達也。経験上、腐女子だからと言って男を作らない訳ではない事を知っていたため、ここまで無反応である理由が分からなかったのだ。
「そんな事があったから、正直当分の間は自分の恋愛はお腹一杯、って感じなのよ」
「まあ、その手のダメージって、結構抜けるまでに時間がかかるもんだしな」
「強制的に、みたいな感じだったけど、ようやく引きこもりから脱出した身の上だからね。まだまだ男が欲しいって気分にはなれないのですよ」
「てか、初対面の頃からそんな感じはしてたんだが、その言い方だとやっぱり経験済みか?」
「経験済み」
達也の、女性に対して正面から聞くのはハードルが高い質問に、あっさり端的に応える真琴。
「因みに、それがあたしの唯一の恋愛経験ね」
「……ヒロもそうだが、お前さんも難儀な人生を歩んでるな……」
「達也だって、今現在人の事は言えないじゃない」
「まあ、俺はこっちに飛ばされなきゃ、せいぜい澪の世話がある以外はそんなに難儀な事情は抱えてなかったがな」
達也の自嘲気味の台詞に、澪も大概重たい人生を送っていた事を思い出す真琴。春菜にしても、勝ち組っぽい分普通とは言えない生活をしていた節があるため、ここに飛ばされる前に平凡な人生を送っていたのは達也だけ、という事になりそうだ。
「そういや、引きこもってたって話だが、生活費は親のすねか?」
「ん? あたし、ちゃんと収入あったわよ?」
「ほう? 因みにどんな?」
「いわゆるデイトレードって奴。元手は引きこもる前までイベントとかで同人誌売って稼いだお金。引きこもる前二年ほどはちゃんと完売してたから、そこそこ蓄えはあったのよ」
「なるほどな。だが、何部ぐらい刷ってたかは知らねえけど、同人誌の売上ぐらいじゃ、生活費をデイトレードで稼ぐ原資にするにゃ少なくねえか?」
「いくつか大穴当てたからね。とりあえず、税金払っても生涯の手取り分になるぐらいは稼いだわよ?」
さらっととんでもない事を言い出した真琴に、思わず口に入れた酒を噴き出しそうになる達也。
「ちょっと待て、お前。それはいくらなんでも稼ぎ過ぎだろう……」
「あたしも、そんなに当り引くとは思わなかったのよ。値動きが分かりやすい奴適当に買って十万ぐらい小銭儲けた後、冗談半分で適当に選んだ屑に近い値段の安い株に、その十万の儲けを全部突っ込んで放置してたら、二カ月ほど後に何かその会社が世紀の大発見をやったとかで一気に買い注文が入って、あっという間に百倍以上になったのよ。発行株数の割に元値が安かったから、上がり方も半端なかったわよ?」
「それを三回か四回繰り返した、と?」
「うん。あの時のあたしは、冗談抜きで神がかってたわ……」
当時の自分のツキ具合を、遠い目をしながらそんな風に述懐する真琴。どうせあぶく銭だからと素人特有の大胆さで下調べもせずにそう言う事をやり続けた結果、大胆なM&Aの対象となったために急騰した株だの、社員がノーベル賞レベルの商品開発に成功した会社の株だのを話題になる前に買い付け、ほぼ最高値で売り抜けることに成功し続けたのである。
真琴のちゃっかりしているところは、元手となった同人誌の売り上げは、ほぼ満額そのまま残してあったところであろう。そっちの方は堅実な売買を繰り返し、これまた十倍程度には増やしていたりする。
「で、こっちに飛ばされる前も、デイトレードはやってたのか?」
「そっちはもう、手を引いたわよ。引きこもるには十分なお金をゲットしたんだから、欲かいてもしょうがないじゃない」
「なるほどな。堅実だ」
「博打なんてものは、そう何度もするもんじゃないってことよ」
「道理だな」
真琴の、元引きこもりとは思えない実に正しい意見に、思わず苦笑しつつグラスをあける。
「しかし、そんなに年も変わらねえのに、そっちは億単位の金持ってて、こっちは住宅ローンにひいひい言ってるしがないサラリーマン、ってのもなあ」
「あたしとしては、そっちの方が人として魅力的だと思うわよ。あたしみたいなのは、いつか絶対痛い目見るって」
「そんなもんかねえ」
「そんなもんよ。正直、向こうにいた時はあのお金のせいで、いろんな意味で疑心暗鬼にかられたもんだし」
「大金持つのも、いろいろあるんだな」
真琴の意外な一面を教えられ、色々感心しながら互いのグラスに酒をつぐ。そろそろ新しい瓶も空になりそうだから、いい加減酒盛りも終わりにすべきだろう。
「最後に一つ、前から思ってた疑問があるんだが」
「何よ?」
「引きこもりだってのに、よくフェアクロを続ける気になったよな。さっきの話だと、普通に対人恐怖症に近い状態になってたと思うんだが?」
「ん? ああ、それね」
達也のもっともと言えばもっともな質問に、苦笑しながら酒に口をつける。軽く喉を潤した後、ゲームを続けられた理由をあっさり告白する。
「そりゃ、あたしネナベだったし。アバターも筋骨隆々の巨漢だったから、誰もあたしが大学でやらかした腐女子だなんて思わないって」
「あ~、なるほどなるほど」
筋骨隆々の巨漢が刀を使ってたのか、とか突っ込みたいところはいろいろあるが、そこを置いておけばいろいろ納得させられる話ではある。
「お前さん、本気で平凡なのは見た目だけだよな」
「アンタも、中身が普通とは言い難い部分がある事、気が付いてる?」
「俺ぐらいのねじれ方なら、そんなに珍しくもないだろう?」
「まあ、そうかもしれないけど……」
達也の主張に微妙に釈然としない何かを感じつつ、最後の一杯をあける真琴。
「それにしても、この状況」
「ん?」
「ギャルゲ脳の澪だったら、あたし達の間にフラグが立った、とか言いそうよね」
「あ~、そうだよな。普通ならそうだろうなあ」
「まあ、恋愛不感症のあたしと嫁以外に対しては性的不能のあんたじゃ、フラグなんて立ちようが無い訳だけど」
身も蓋もない真琴の言い様に、久しぶりに腹を抱えて笑う達也。お互い、どうあっても相手の事を恋愛対象としては見る事が出来ない人種ではあるが、飲み友達としてはこの上ない人材だと認識している。
「さて、そろそろ酒を抜いとかねえと、いつヒロ達が戻ってくるか分かんねえな」
「そうね」
もう少しこの酔っぱらった状態を楽しんでいたいと思いつつ、大人としてさっさと万能薬で酒を抜いて、普段の自分に戻る二人であった。