第5話
今回、一発ネタのために少々露骨な性的描写があります。
スルーしてもぜんぜん問題ないネタなので、苦手な方はスルーしてください。
どのあたりかというのは、その描写の直前ででてくるネタで分かるかと思います。
「なあ、ヒロ……」
「何や?」
「同じ事を何度も確認するのもあれだが、今回俺達は砂漠に砂を取りに来たんだよな?」
「せやで。そろそろポーション瓶とか作り足す時期やし」
「じゃあ、ここはどこだ?」
「砂漠の地下に隠れとった、いわゆる超古代遺跡っちゅう奴やな」
どうしてこうなった。辺りの景色を何度も確認しながら、内心でその言葉を延々と繰り返す達也。本来の予定では、日帰りで回収できるだけの砂を回収して、とっととダールに戻るはずだったのだ。間違っても、こんな正体不明の遺跡に突入するはずではなかったのだ。
「ねえ、宏」
「何や?」
「何であたし達、ここにいるのかしら?」
「そら、ドリル使うて地中深くに潜ったからやん」
「いや、そうじゃなくて、砂を集めに来て、何で地中深くに潜る必要があったのか、って話よ」
「そんなん、砂漠に来たらいっぺんは地下に潜りたいっちゅう、男のロマンが発動しただけの話やん」
発動させるな。そう言いかけて言葉をため息にかえる真琴。残念ながら、今更言っても手遅れである。そもそも、ドリルのついた潜水艇というある種のロマンが詰まった乗物を見て、本来突っ込みであるはずの達也と真琴まで乗ってみたいと思ってしまった時点でアウトだ。
「まあ、来てしもうたんやから、腹くくって遺跡探検しようや」
「そうだね。折角来たんだし」
宏の提案に、何のためらいもなく同意する春菜。惚れたはれたの問題に関係なく、元からこういうケースでは春菜がブレーキ役になった事はない。ましてや、今は宏に対してかなり熱烈に好き好き光線を飛ばしている状態だ。アクセルを踏む事はあっても、ブレーキをかけることなどあり得ない。
「……師匠、春姉、あそこに面白そうなものが」
「どれどれ? あ、本当だ」
「よし、まずはあそこからやな」
和気藹々と探索モードに入った学生組を見て、深く深くため息をつく達也。帰るだけなら転送石か長距離転移で一瞬だが、今更それを使って強引に帰還するのは、いくらなんでも空気が読めて無さ過ぎる。それによくよく考えれば、別段この遺跡を調査する事に対して、特別問題も不利益も存在しない。あるとすればせいぜい、イグレオス神殿に対して日帰りだと言ってきた事ぐらい。これに関してはプリムラの方から連絡を入れさせれば済む話である。
「……しゃあない。あいつらを野放しにすると何やらかすか分からん。俺達も行くぞ」
「あ、あの、いいのですか?」
「私とお姉ちゃんは、これといって特別に準備とかしてきてないんですけど……」
ノートン姉妹に水を差されるような形で突っ込みを受け、もう一度ため息をつきながら荷物その他の確認をする達也。鞄が倉庫とダイレクトにつながっている関係上、元々こういう状況であまり特別に準備などをした経験はないが、流石に心構えすらできていない状況というのは初めてである。多少は確認した方がいいだろう。
「本当に、どうしてこうなったのかしら……」
しみじみとぼやく真琴に呼応するようにため息をつき、荷物から必要そうなものを取り出しながら、何処で間違えたのかこれまでの経緯について再確認する達也であった。
事の起こりは昨日の晩。夕食を済ませた後の事。
「そろそろ少しはほとぼりも冷めてきたし、ちょっくら外に出たいんやけどええ?」
「外に出る? 具体的には?」
「瓶の材料集めるために、砂漠の方まで行きたいんよ」
宏の提案に、頭の中でいろいろ検討する一同。とはいえ、宏達三人が砂漠に対する出入りに若干ランクが足りない事以外は、これと言って他に思い付く問題も無い。ランク制限があるといったところで、陽炎の塔と違って別段見張りが立っている訳でもない。この場合のランク制限は、特例を除き砂漠に出入りする類の依頼を受けさせてもらえない、という程度のものでしかなく、勝手に入る分には自己責任である。
「そうだな。別にそれぐらいは大丈夫だろう」
「砂集めてる間ぐらいだったら、あたしと達也でプリムラとジュディスを守るぐらいは余裕だろうしね」
砂漠のモンスターはそれなりに強いが、あまり深くまで入り込まない限りは囲まれたりもしない。澪がちゃんと探知役をこなしてくれれば、不意打ちを食らう事もないだろう。その条件であれば、戦闘能力のない姉妹を守るぐらいは全く問題ない。
「で、どのあたりまで行くんだ?」
「ワンボックスで日帰り圏内やから、七時頃出発でこの辺までかな、っちゅうとこや」
そう言って宏が指示したのは、地図上で街道が砂漠に差し掛かったあたり。ダールから距離にして約二百キロ少々。ワンボックスなら三時間はかからない、どころか本気で飛ばせば二時間でお釣りがくる程度である。
「……ここまで、日帰りでいけるのですか?」
地図を見て、胡散臭そうに宏に視線を向けるプリムラ。最高級で移動速度に特化したゴーレム馬車なら確かに可能だが、その条件でも行って帰ってくるだけで二時頃になる計算だ。食事や休憩、採取の時間なども考えると、日帰りではかなり厳しい。
「俺達の移動手段は、普通のゴーレム馬車より速いからな」
「そうなのですか?」
「ああ。ダールからウルスまででも、十日あれば余裕でつくぞ」
ウルスからダールまでは、南部大街道を利用して大体六千キロちょっと。平均時速で八十キロ、八時間前後走り続けて九日程度というところである。これが馬車となると、スキルの影響で時速二十キロ以上出るといっても、普通に一カ月では到着しない大旅行だ。
もっとも、陸路という制限を考えたとしても、現代日本では移動だけで十日などという旅行はほとんど無い。首都と首都を繋ぐだけでこれだけの移動距離が必要と言うだけでも、ファーレーンとダールという二つの国の広大さがうかがえよう。
「それで、ワンボックスの方は砂漠仕様になってるのか?」
「とうの昔に対策済みや」
「なら、明日朝から行くか?」
「屋台の方、いきなり休みだとちょっと問題にならないかな?」
「それは、朝行く前に近場の店のおやっさん達に言付けしてもらえばいいんじゃないか?」
春菜の問題提議に、対応策を提示する達也。賄賂と歌とその他もろもろで仲よくなった近場の店の店主たちなら、上手い事取りなしてくれるだろう。お客さん達も彼らの本職が一応は冒険者である事を知っているため、こういう突発的な休みがあるかもということも承知している。
「じゃあ、明日の朝早起きして支度して、広場で言付けするのをお願いして、そのまま砂漠まで一直線?」
「せやな。っちゅう訳やから、今日ははよ寝よか」
「了解」
その言葉を皮切りに、それぞれ明日のための準備に入る。そして翌日の昼。
「本当に、二時間ほどで到着するんですね……」
「そんなにスピード出てる感じはしなかったのになあ……」
時速八十キロで立てていた予定より早い、約二時間という経過時間で目的地に到着した一行。砂漠方面はもともと交通量が少なく、徒歩で近隣の農地などへ向かう人や塔へ向かう馬車などを追い越せば、後は容赦なく百キロオーバーで走って問題が無かったことが最大の要因だろう。たまにストーンアントなんかを弾き飛ばしているのはいつもの事だ。
なお、ジュディスが余りスピードが出ている感じがしなかったのは、車が完全に覆われているために外の風が入ってこなかったことに加え、外の景色が基本的に変化に乏しかった事が原因である。他にも、自動車というやつは案外速度というものを感じ辛いと言う特性も理由としてあげられる。
流石に砂漠だけあって、まだ十時前だと言うのにすでになかなかの気温になってきている。これが出発したぐらいの時間帯だったら、氷点下までは行かないにしてもかなりの低温になっている訳で、自然というのはやはり過酷なものだ。
「で、砂をとるんだろう?」
「まあ、そう慌てな」
車を片づけながら、あまり結論を急がないようにと別のカプセルを取り出す宏。新たに出てきたカプセルを見て、怪訝な顔をする達也。
「そいつは?」
「折角砂漠に来るんやからって、こう言うんも作ってみたんよ」
そんなコメントと共にカプセルを展開すると、中から出てきたのは艦首にドリルがついた潜水艇。全長は大型バスよりやや大きい程度で普通の潜水艦よりは小型だが、それでも艦首に取り付けられたドリルは中々のサイズだ。そのたくましくも武骨な掘削用のドリルに、妙な胸の高鳴りを感じる達也と真琴。澪の視線はすでに釘づけである。
「……聞くだけ野暮だとは思うが、これは何のために用意したんだ?」
「そらもう、砂漠の海を潜るために決まっとんで」
「……これ、表面が革製みたいだけど、大丈夫なの? 潜りました、生き埋めになりました、ってのはあたし流石に勘弁して欲しいんだけど」
「余りに余ったケルベロスの皮とかロックワームの皮をガチガチに固めて表面に張っとるし、水圧耐性とか地中耐性向上もガンガン重ねがけしとるから、一キロぐらいの深さまでは大丈夫なはずやで」
宏の言葉を確認するため、軽く表面を叩いてみる。やたらと硬質で、そのくせ妙に弾力のあるその感触に、少々の圧力ではびくともしないだろうと結論を出す。
「外側がいくら丈夫でも、骨格がヤワだったら駄目だと思うんだが、そっちは?」
「ファーレーン居った時にようさん買いだめした魔鉄とミスリルあるやん。あれ使って作ったし、革の下にも魔鉄製の鉄板張ってあるから、骨格強度も悪うないで」
「何その資源の無駄遣い……」
「ええやん。どうせ武器の修理か作りなおし以外に使い道ないんやし」
ロマンあふれるその乗物に心を奪われてか、どうにも真琴の突っ込みもいまいち力が無く、無駄遣いを糾弾するには至らない。しかもこの時は彼らは知るよしもないが、後のちこの潜水艇(この場合は潜地艇と呼んだ方が正しいかもしれない)、別の場所で本来の使い道とは全く違う形で役に立つ事になる。材料自体の使い道が乏しいと言うだけでなく、そういう面でも無駄遣いという非難は正しいとは言えなかったりする。
「まあ、何にしても、せっかく作ったんやから、軽く地下に潜ってみたいんやけど、どない?」
「……最低限、ちゃんとテストしてからかしらね」
「水圧の方ではテストし終わっとるから、少なくとも浅い場所でバラけたりはせえへんはずや」
「あんた、単独だと本気でろくなことしないわね……」
「高レベルの職人系プレイヤーは、大概こんなもんやで」
他に知り合いがいないために比較しようのない事を言われ、思わず疑わしそうな視線を向ける日本人一同。言葉の意味が分からないため、とりあえず会話をスルーして潜地艇をまじまじと観察するノートン姉妹。
「っちゅう訳やから、特に問題あらへんねんやったら、軽く潜りたいんやけど、どない?」
もう一度やりたい事を主張する宏。その言葉を吟味する、というよりお互いに結論を押し付け合う達也と真琴。春菜は潜地艇そのものにはこれと言って興味も何もないが、それゆえに宏がやりたいと言っていることに反対する事はあり得ない。ある程度の安全性が確保されているのであれば、なおのことである。
澪に至っては、むしろ潜る気満々だ。年長者二人の手前、あえて強く主張はしていないが、出来る事ならこのロマンあふれる乗物でギュンギュン地下を潜りたい。割と表情の変化に乏しい彼女にしては珍しく、きらきらと期待に輝いた目で達也と真琴の結論を待っている。
「……まあ、いいか……」
「……そうね。正直、あたしも地中って言葉に抗いがたい魅力を感じてるし……」
「ほな、軽くレッツゴーや!」
そんな掛け声で一同を潜地艇へ追い立て、誰にも邪魔をさせないようにさっさと操縦席に落ち着く。そして
「いくで! 限界深度へGoや!」
「ちょっと待て!」
いきなり物騒な事を言いながら、思いっきり操縦桿を潜る方へと落としこむ宏。どうやらこの潜地艇、操縦システムは航空機の類に近いらしい。物騒な事を言い出した宏を止めようにも、操縦席と客席の間に隔壁がある上にシートベルトをしていた事が災いして、止めるどころか割り込みに行くことすらできない達也。
そのまま十五分ほど潜航した後、岩盤らしきものに突撃をかけてぶち抜いて行った潜地艇は古代遺跡がある超巨大な空洞に突入し、冒頭へとつながる事になる。なお、地面を潜っているとは思えないスピードで動いていた潜地艇のせいで、何体かの砂鮫やサンドマンタ、ロックワームなどがドリルの犠牲になった事をここに記しておく。
「ここは飲食店の類やったみたいやな」
「そうだね」
冒頭で見つけた、他の建物と比較しても違和感のある造形の建物。その中を見てそう分析する宏と春菜。外観とは違って中身は割と普通にテーブルと椅子が並び、テーブルの端にはメニューらしき冊子が立てられている、割と普通の飲食店のような構造になっている。
問題があるとすれば、ファーレーンでもダールでも、こういうタイプのメニューがテーブルに備え付けられている飲食店を見た事が無い、という所だろうか。
「……この文字、残念ながら読めない……」
「キッチンの構造は、そんなに特殊なものじゃないよ」
「置いてある調度品は、全部魔道具の類やな。もっと細かあ言うんやったら、バッテリー式の奴や」
それぞれに調査結果を告げる。全体を通して言える事は、ベースとなっている技術や文明レベルが地上のほとんどの国と隔絶した水準にあると言うことだろう。
「なんちゅうか、滅んだんか放棄したんか、それとも壮大なドッキリなんかがいまいちはっきりせえへんなあ」
「ドッキリって?」
聞き捨てならない宏の発言に、少し離れた場所をあれこれ調べていた真琴が怪訝な顔を向ける。
「ドッキリ、っちゅうか、ダメージの少ないブービートラップ、っちゅうか……」
「どういう事よ?」
「いや、な。なんかところどころに妙な精神的干渉をかましてくる設備とか道具とかその他もろもろが置いてあってなあ」
そう言って、宏が指さしたのが天井からぶら下がっている紐。何事もない様子を装って、丁度昔の蛍光灯のスイッチのような感じで垂れ下がっている。ここが飲食店というカテゴリーであれば不自然なことこの上ないのだが、そうと思わずに見た場合妙に自然な上に、やけに引っ張りたくなる。
「……言いたい事は、なんとなく分かったわ」
「やろ?」
「で、宏としてはどう思ってる訳?」
「あの紐引っ張った結果によるんやけど、引っ張った後の展開がイン○ィ・ジョー○ズかド○フかで判断が変わってくんで」
非常に分かりやすいたとえに、思わず深く納得してしまう真琴。
「で、や。これが単なるブービートラップやったらともかく、ド○フ的な方向性やったら、場合によっちゃあどっかでその様子を見てにやにやしとる連中が居るはずや」
「そのためにこの規模の遺跡を作るとか、相当な暇人集団ね」
真琴のコメントには同意せざるを得ない宏。宏も趣味に走りがちだが、流石に映画かテレビ番組の収録でもない限り、この規模の遺跡を一発ネタのために作り上げるような真似はしない。
「とりあえず、判断するためにはあの紐を引っ張らないといけないのよね?」
「せやねんけど、なあ」
「何よ?」
「なんとなく、あそこまで見え見えの振りに素直に従うんって、芸人的にちょっとなあ」
「誰が芸人よ……」
言わんとしている事は分からなくもないが、そこで芸人根性を発揮されても困る。
「とりあえず、もうちょい他のところ調べてから考えよ」
「そうね。高確率で何かあるって分かってるものを、まだ調べる場所が残ってる状態で触る必要もないわね」
「っちゅう訳やから、ちょっと他の場所見て回るわ」
他のメンバーにそう声をかけ、最初に調べていた飲食店っぽい建物を後にする。単独行動だと何があるか分からない、という理由で春菜と達也、それからジュディスの三人がついてくる事に。
「で、何処をどういう風に探すんだ?」
「とりあえず、文献ありそうな所を探そうや」
「でも、文字が読めそうな感じじゃ無かったから、見つけてもこの場ではどうにもならないかもしれないよ?」
「もしかしたら、ダール語かファーレーン語に近い言語で書かれた文献があるかもしれへんし、あかんかったとしても文字適当に写して帰って、神殿かどっかの書庫当って見ればええだけやし」
「だったら、遺跡の入口あたりに転移ポイントを設定しておいた方がいいな」
「せやな。ここは特に転移妨害とかかかってへんみたいやし、登録しとけば何回も行き来するんも楽になるし」
達也の提案を受け、一旦入口あたりに戻ってくる一行。転移ポイント設定を行った後、公的機関がありそうな大型の建物を覗いて回る。
「探れば探るほど、不自然な遺跡だよな」
「こう、あれや。ネタに引っかかって笑ったら、どっかからアウト! みたいな宣言が来てケツ一発しばかれそうな感じや」
「宏君、ジュディスさんがついていけないから、向こうのネタは控えようね?」
「了解や」
春菜にたしなめられ、余計なネタを言う口を閉ざす宏。とはいえ、この時点でファンタジー的な意味で普通の遺跡である、という可能性はほぼ完全に消えている。
「それにしても、こういう遺跡って、宝箱とか宝飾品とかが出てくるのが普通だと思ってたけど……」
「宝飾品はともかく、普通に考えて墳墓とか神殿とかの類やない遺跡の場合、宝箱がある方がおかしいわなあ」
「まあ、考えてみればそうだよね。そもそも、宝箱って何? って話だし」
「ロマンのねえ話だが、現実だと遺跡ってのはそう言うもんだしな」
これと言ってお宝らしいものが見つからない事に対し、そんなロマンのない会話を始める一行。実際のところ、副葬品だの宝物殿だのがあるタイプの遺跡でもない限り、宝箱などというものは転がっていない方が普通だろう。ゲームのように、何の変哲もない普通の部屋にやたら強力なアイテムが入った宝箱が置いてある、などというのは現実的に考えるならおかしな話だ。
「まあ、遺跡とダンジョンは別モンやで」
「そういうものなんですか?」
「そういうもんや」
そんな生々しい話題で駄弁りながら、抵抗力の低いジュディスが妙なものに引っかからないように注意しつつ、図書館らしき建物を探し出す。
「それにしても、本当におかしな遺跡だよね」
「妙なのは今更じゃねえか?」
「まあ、今更なんだけど、そういう種類のおかしさじゃないと言うか……」
そんな事を言いながら、本棚を人差し指で軽くなぞる春菜。その動作で、言いたい事を理解する宏と達也。
「そういや、そこら辺は全く気にしてなかったな」
「確かに、正真正銘古代遺跡やのに、妙に埃とか汚れとかの類が少ないわな」
「だよね?」
春菜の指摘に感心する宏と達也。流石は基礎女子力は一応高い女の子。その手の観察力は男どもとは一味違う。
「えっと、あの、どういう事でしょう?」
掃除が行き届いている、という事について、何がおかしいのかすぐにはピンとこない様子のジュディス。人のいない古代遺跡、というものについていまいち理解できていない様子である。
「いや、な。普通に千年単位は昔の遺跡だってのに、掃除が行き届いてるってのはおかしいよな、って話だ」
「これはちょっと僕が迂闊やってんけどな。よう考えたら、残ってるもんの傷み具合が、ちゃんと保管された状態で千年以上経った、っちゅう感じやってん」
「えっと、つまり?」
「予想される回答は二つ。この遺跡がまだ生きとる可能性と、千年単位で気長にドッキリしかけて待っとる暇な連中が居る可能性や」
「あっちこっちにある不自然な紐とか妙な仕掛けとかを考えたら、暇人説が有力って感じ?」
「せやなあ」
他の結論に持って行きづらい考察を終え、とりあえず下手な仕掛けを起動させないように慎重に本棚を調べて行く。古今東西、本棚というのはゲーム的な方向でもド○フ的な方向でも仕掛けの宝庫である。たとえば
「さっきちゃんと入っとったのに、えらい入れんのがかたいなこの本」
「……いてっ!」
出っ張って入らない本を押しこんだら、別の本が飛び出して顔面に直撃したり、
「なんだろう? この本、大きさも分類もすごく不自然なんだけど……」
「下手な事すんなよ?」
「って言われても、出したら入らなくなっちゃったし」
「感じから言うて、こっちやったら入るんちゃうか?」
「あ、本当だ。って……」
「お約束っつうか、古典的っつうか……」
並べ方を変更したら、本棚が動いて隠し階段が出てきたり、それはもういろいろとおかしな仕掛けがたくさんあるのだ。
「とりあえず、隠し階段は放置として、読めそうな感じの本は見つけたで」
「本当?」
「っちゅうても、なんとなく英語かなんかが近そうな本があった、っちゅうだけで、僕の語学力やと中身は分からへん」
「そっか。ちょっと見てもいい?」
「頼むわ」
宏に渡された本を開いて、少し眉間にしわを寄せる春菜。読めてしまった内容が、かなり予想外の代物だったからだ。
「えっとね。表紙の文字は読めなかったけど、中表紙のタイトルは読めたよ。タイトルはエルメット夫人。多分小説か何かだと思う。最初のページ見た感じ、文法とか単語は、フランス語と英語とドイツ語が入り混じってる感じ」
「なんか、非常に嫌な予感がするタイトルやな」
「奇遇だね。私もなんだかいやな予感がするよ」
「正直、読まない方がいい気はするんだが、予想通りの内容とは限らないのが悩ましいよなあ……」
出てきた本のタイトルに全力で引きながら、対応について相談する三人。ダールでは小説という文化がそれほど浸透していないからか、宏達がなにに引いているのかが理解できないジュディス。そんなジュディスを放置してごちょごちょと相談し、意を決した春菜がページをめくっていく。
「……うわぁ、うわぁ……」
「もしかして、予想通りか?」
「うん。えっとね。『坊や、いらっしゃい』 エルメット夫人は自らその豊満な胸元をくつろげながら、まだ精通も始まったかどうかというあどけない少年を挑発的に誘う。まだ性に関しては未成熟な、それゆえに好奇心を押さえきれないうぶな少年は、夫人の壮絶な色香に飲まれ、我を忘れて魅入られたようにその熟れた肢体にむしゃぶりつく……」
「やっぱりポルノ小説かよ!!」
淡々とした口調で朗読する春菜に、というより朗読された書籍の内容に、思わず全力で突っ込みを入れてしまう達也。表紙に書かれたタイトルが誰も読めない古代文字で、しかも本自体が普通に扱っても崩れたりしないぎりぎりという傷み具合なのが、いろんな意味でひどい。
「なんか、ものすごく生々しい描写が……」
顔をリンゴのように真っ赤にしながら、それでもついついという感じで開いたページを全て読んでしまう春菜。残念ながら、彼女も性行為に対する好奇心を押さえきれないお年頃なのだ。特に、尋常ではないレベルで恋をしてしまったが故に余計に。その隣では、同じくリンゴのように顔を真っ赤にしながら、続きを催促するように春菜を見つめる耳年増な神官見習いが。
「遺跡で見つけた本が古代のポルノ小説とか、ものすごいトラップやんなあ」
「まったくだ……」
ページをめくるべきか否かで葛藤している様子の春菜を横目に、のんきな口調でコメントする宏と非常に疲れた様子の達也。いくら古代文明といっても、書籍というものがある以上はその手の本があるのもおかしなことではないが、わざわざピンポイントに図書館風の建物に蔵書として置いておくとか、これがいわゆるドッキリの類でなければ一体どういう神経をしているのか疑わしい話である。
「とりあえず春菜。そういう本は、後で夜中にこっそり、自分の部屋で読んだ方がいいぞ」
「あ、う、うん。そ、そうだね」
達也にたしなめられ、羞恥心より好奇心が勝りそうになった自分を恥じるように本を閉じ、空いているスペースに適当に突っ込む。流石に自分がものすごくはしたない事をした自覚があるのか、何処となく残念そうながらも文句を言う様子はない春菜。
これが澪ならば、何をいまさらという感じで堂々と読みふけるのだろうが、流石に春菜にはその手の開き直りは不可能だ。そこまで羞恥心が無い訳でもないし、先ほどは我を忘れていたとはいえ、好きな男の前で読むには内容に問題がありすぎる。
「それにしても、お前さんがあの手の本に、あそこまで食いつくとは思わなかったぞ」
「あ~、それは、あの、その……」
流石に自分でも、先ほどの事はうら若き乙女としてはあり得ない行動だった自覚があるだけに、湯気でも出そうなほど真っ赤な顔でもごもごと言葉にならない何かを呟くことしかできない。一応恋する乙女としてのある種の本能も先ほどの行動に走った原因の一つにはなっているのだが、本人も漠然としている感じなのですぐに言葉にできない。
「あ~、でも、えっとね。あれって、いわゆる男の人の妄想とか願望とか、そう言う感じなんだよね?」
とりあえず、ようやく明確な言葉になった考えを達也に告げる。その内容を聞いて、宏には聞こえているであろうことを承知の上で、それでも声をひそめて内緒話をする事にする達也。
「まあ、全部が全部って訳じゃないが、大抵はそうだろうな」
「だったら、ああいうのを参考にして頑張れば、喜んでもらえるのかな、とか、ちらっと」
「普通ならともかく、いくらなんでも相手があれだからなあ」
「やっぱり、無謀かなあ?」
「というか、そこに行く前に越えにゃならんハードルがなあ」
結局のところ、らしくない行動も大抵はそこに行ってしまうあたり、恋愛感情というのはなかなかに業が深い。こう言う何もしていない状況だとついつい宏の方に視線が向きがちな春菜を見ていると、ため息しか出ない達也。目が合うたびに宏が怪訝な表情か何処となく困ったような表情を浮かべるのを見ると、春菜がどうにも哀れでしょうがない。
澪ではないが、双方のためにせめて恋愛感情の存在を受け入れられるぐらいには立ち直ってほしい所だが、それこそ澪に何度も口を酸っぱくして言っているように、ここで焦ってこじらせる方が余程害が大きい。可哀想だとは思うが、春菜にしろエアリスにしろアルチェムにしろ、もうしばらくは辛抱してもらうしかない。手負いの獣にちょっかいを出しても、碌な事にはならないのだ。
「なあ、春菜」
「分かってるんだけど、心も体も思い通りにはいかないんだよね……」
「そっか。まあ、頑張れ」
「ん」
そう言って、気持ちを切り替えるために図書館の探索に戻る春菜。結局、古代のファーレーン語やダール語で書かれたポルノ小説と妙な経済理論が書かれた論文以外にすぐに読めそうなものは発見できず、とりあえず隠し階段を調べるために真琴達と合流する事にした宏達であった。
一方、同時刻の真琴達はと言うと……。
「まったく、何処までもふざけた遺跡よね……」
「真琴姉、ちょっとは落ち着く」
「分かってるわよ……」
今までちゃんと回避できていたブービートラップを、プリムラがうっかり発動させてしまっていた。
「それにしても、かなり見事なタライ罠」
「紐引っ張ったプリムラじゃなくて、あたしに直撃したのが釈然としないところだけどね……」
「も、申し訳ありません!!」
「いやまあ、いずれ誰かはやるだろうなあ、とは思ってたんだけどね……」
そう。だんだん紐を引っ張りたい、レバーを倒したい、という誘惑に抵抗し辛くなってきていたため、いずれ三人のうち誰かがやってしまうだろうとは思っていた。思っていたのだが、それをやったプリムラではなく、何故か離れた位置にいた真琴の頭上から金ダライが落ちてきたのが真琴の不機嫌の原因である。
しかも、落ちてきたのは一個だけではない。痛みに驚いて飛びのいた先に一回り大きいのが、余りの衝撃によろめいて踏み出した先に特大のが落ちてきた。まるで誰かが見ていて、真上から狙って落としているかのような正確さで真琴の頭に直撃した三つのタライ。かなり痛かった。特に最後の一つなど、その気になれば澪とライムが一緒に行水できるサイズがある。
役所のような建物だけに注意はしていたのだが、本人の努力とは関係ない形でひっかけられた挙句に道化にされた。そんなおちょくられた感が、真琴の神経をこれでもかという感じで逆なでしたのだった。
「……怪しげな文字発見」
「どうせ読めないんでしょう?」
「今回は読める」
澪の台詞に驚き、思わず駆け寄る真琴とプリムラ。
「で、なんて書いてあるの?」
「上を見ろ、だって」
「……なんだか非常に嫌な予感がするわね」
「というか、先ほど見えた感じでは、この上にはこれと言って変わったものはありませんでしたよね?」
「うん。無かった」
などと言いあいながら頭上を見上げると。
「今度は下を見ろ、か……」
「足元には何もなかった。間違いなく」
「って事は、非常に嫌な予感がするわね」
「ボクも。といっても、おちょくられてそうとかそういう方向だけど」
そんな感じで非常に嫌な予感を覚えながら、それでも素直に足元を見ると、そこには「ざまあ見ろ」の文字が。
「……無茶苦茶腹立つわね……」
「流石ド○フ的古代遺跡。いろんな意味で外さない」
「澪、あんたは腹が立たないの?」
「真琴姉みたいに、殺意を覚えるレベルじゃないかな?」
無駄に冷静な澪に、それはそれでいらっとくる真琴。とはいえ、流石に年下に八つ当たりをする訳にもいかない。年長者としていろいろなものをぐっとこらえる。
「……腹が立つのは目に見えてるけど、他の場所も調べましょうか……」
「了解」
「今度は気をつけます……」
真琴の号令に従い、建物の中を家捜ししていく一同。当然のごとく、碌なものが出てこない。例えば……。
「そっちは何かあった?」
「箱の中に読めない文字が書いてあったぐらいですね」
「どれどれ……。これ、日本語?」
日本語のメモが出て来たので読んでみると、
「えっと、アホが見る、ブ……」
「真琴姉、それ以上はいろいろと危険!」
とか版権に引っかかりそうなネタを仕込んであったり、
「何この気持ち悪い人形……」
「真琴姉、知らないの?」
「知らないって?」
「その昔瞬発的に流行った、死に○け人形って奴」
「こっちには不思議な服を着た猫の絵が……」
「な○猫とか……」
年齢を疑われそうな(特に全部分かる澪が)、昔流行ったマスコットとかその類のものが大量に置いてあったり。ド○フかと思えば笑ってはいけない方に近い傾向のネタが仕込んであるという統一性の無さが、どうにも鬱陶しい感じである。
「予想通りとはいえ、碌なものが無いわね……」
「オクトガルもそうだけど、この手のネタってどこから仕入れてくるんだろう?」
「あんたは人の事は言えないとは思うけど、それも確かに疑問ね。今回はあの謎生物共と違って、あんまり最近のネタはなさそうだけど」
「いくつか前の方で外れるのもあるけど、ざっと見て平均は、昭和の終わり頃から平成の中期に差し掛かるぐらいまで?」
「本気で、それが分かるあんたも大概だと思うわ……」
某牛丼が好きな筋肉男の消しゴムを並べながら、あっさり年代を特定してのけた澪に呆れたようにコメントをする真琴。
「それにしてもなんか、動きまわれば回るほど、この遺跡を作った連中の思うつぼにはまりそうなのが面倒くさいわね」
「イラッと来るだけで大した害はないから、適当に調べよう」
「しかないか……」
澪の言葉にもう一度疲れたようにため息をつき、座っていた椅子から立ち上がる。続いてプリムラが席を立とうとテーブルに手をついたところで……。
「っ!?」
思いっきりテーブルの天板が跳ね上がり、プリムラの顔を強打する。コントなどでよく見る光景ではあるが、実際に不意打ちで目の前で起こると、とにもかくにも物凄く痛そうだ。
「だ、大丈夫!?」
「ら、らいじょうぶれふ……」
真っ赤になった鼻を押さえながら、もごもごと不明瞭な発音で健在を主張しようとするプリムラ。ネタの傾向が変わっていたため、思いっきり油断していた。今回はプリムラだったが、もしかしたら再び真琴が餌食になっていたかもしれない。それぐらい際どいタイミングだった。
「そうだったわ。結局、今のあたし達はコントの登場人物なのよね」
「地味に普段とあまり変わらないという説あり」
「その辺はあたしのせいじゃないわよ……」
気を引き締め直そうとして、澪からあまり言われたくない種類の指摘を受けて肩を落とす真琴。正直なところ、普段からコントじみた行動をとっている原因という点では、主犯格の宏と春菜ほどではないだけで澪は決して人の事は言えない。
「まあ、それはともかくとして、もう少し調べるだけ調べましょ。ただし、あくまでもコント的展開に対して警戒は必要だけど」
「了解」
「分かりました」
真琴の号令に従い、気を引き締め直して探索を再開する一同。ここまでくれば、流石にプリムラもコントというのがどういう意味かというのは大体理解しているらしい。不自然なものになるべく手を出さないように、ひたすら慎重に慎重に調査を進めていく。
そんな羹に懲りてなますを吹くようなやり方で一階部分の大まかな調査を終え、いよいよ二階に上がろうかというところで、ピタッと足を止める真琴と澪。
「ねえ、澪……」
「真琴姉も同じ事考えた?」
「この展開って、普通そうよね?」
「普通そうなる」
代名詞で微妙な会話を続ける二人に、よく分かりませんという表情を向けるプリムラ。コントの意味は理解しても、ではよくある展開というのがどういうものなのか、となると流石に分からないのである。
「階段、ちょっと徹底的に調べてみて」
「了解」
「あの、階段に何か?」
「この後の展開が予想通りだとすると、絶対にあるだろうって仕掛けが、ね」
そんな事を言いながら、澪の調査結果を待つ。が……。
「ごめん。怪しいところは見つからなかった」
「……妙な継ぎ目とか変な仕掛けとかは?」
「少なくとも、ボクに分かるレベルではなかった」
「そっか。厄介ね……」
十中八九は仕掛けがある。それが分かっているのに対策が立てられない。恐らく二階に上がっても碌なネタは仕込んでいないだろう以上、いっそ無視してしまえばいい。そう考えて二人に告げようとしたところで
「真琴姉。さっき調べたんだけど、建物入り口の扉が特殊な鍵でロックされてた。解除不能」
「つまり、全部のイベントを起こせってことね……」
「ボクが行ってロープ結んでくる。ボクだけ何も引っかかってないっていうのも不公平だし」
「いいの?」
「どうせ致命的な罠じゃない」
澪の、珍しく男前な発言に目を見張る。確かに今回遭遇したトラップは、どれもこれも致命的なものではない。だが、うら若き乙女が食らいたい種類のものでもないのだから、犠牲者は少ない方がいいだろう。だと言うのに、このチーム最年少の少女は、自分からそんな汚れ系トラップに引っかかりに行くと言う。
「それにね、真琴姉。こう言う時自分だけ引っかからないのって、画面的には全然美味しくないんだよ?」
「画面って何よ?」
いきなりメタな事を言い出す澪に、思わず全力で脱力する真琴。やはり澪は澪だと言うところか。
「きっと見てるはず、おそらく、多分」
「それで見て無かったら、あんた引っ掛かり損じゃないの? いや、女の身の上でああいうのに引っかかるのが美味しいかどうかは別にして」
真琴の突っ込みに、明後日の方向を向いて鼻歌なんぞでごまかす澪。結局言い出したら聞かない上に他にできる事も無いので、彼女に任せる事に。
「じゃあ、行ってきます」
そう言って身軽に軽快に階段を駆け上って行き、
「あっ!」
「やっぱり来た」
予想通りパタンと倒れてスロープとなる階段に足を取られながらも、
「てい」
きっちりと手すりにロープをひっかけて登る態勢を作り上げる。
「顔面打たなかったから、微妙に美味しくなかったかも」
「そういう汚れ思想はいいから……」
どうにも汚れ系芸人の思想を普通に体現しようとする澪に、呆れながら突っ込むしかない真琴。なんだかんだでちゃんと二階に上がった三人は、同じような汚れ系コントトラップの嵐に巻き込まれ、すっかり体を張った芸人にされてしまうのであった。
「……なんか、そっちも大変そうだな」
「……遺跡探索で身体を張るって、普通こういう方向じゃないわよね……」
「……あ~、なんかお疲れさん」
「そっちも春菜が妙に挙動不審なんだけど、何かあったの?」
「……なあ。古代遺跡で見つけた文献が、ポルノ小説だったってのはどう思う?」
「……納得したわ……」
予想をはるかに超えてあれで何な遺跡。ファンタジーな世界だからといって、必ずしも物語のような出来事ばかりではない、などというのは十分に理解していたつもりだったが、現実というのは何処までも斜め上を突っ走るようだ。
「で、隠し階段を見つけたんだって?」
「ああ。それも、構造的に絶対にここに階段があるのはおかしいって位置にな」
「どういう事よ?」
「あれだ。下の階の同じ位置、普通に喫茶スペースみたいなのがあったんだよ」
「あ~、ある意味お約束よね。主にアメリカ映画とかで」
アメリカ映画のお約束、物理的にあり得ない構造の建物。それを現実に見る事になって複雑な顔をしている達也。その気持ちには同意するしかないが、同じシーンなのにアップが終わると登場人物の顔や服装が変わっているとかその手のネタと同じで、こういう場合は細かい突っ込みはしないのがお約束というかある種のマナーである。
「そう言えば、二階に上がった時、階段とか大丈夫だったの?」
「階段? ……ああ。コントでよくあるあれか」
「そそ。こっちはもろにやってくれたんだけど」
「そう言うのは無かったな。本棚には色々と仕込んであったが」
「やっぱり、徹底的にふざけてる訳ね、この遺跡」
ざっと情報を交換して、思わずため息をつく年長者二人。ここまで来たのだから、調べられるところは調べて帰りたい。だが、この展開が延々と続くのは、それはそれで勘弁してほしい。そんな気持ちのこもった重いため息である。
この後、良くも悪くも達也と真琴の懸念は外れ、隠し階段を降りた後から遺跡のパターンがガラッと変わるのだが、最初の時点で予想されていた別のパターンと更にそれ以外のパターンに切り替わるところまでは、この時点では誰一人予想できないほどド○フのコント的パターンに慣らされてしまっている一行であった。
ヘタレを一人放置してた結果がこれだよ。
あと、澪の年齢詐称疑惑がしゃれになっていない件について。
そろそろオッサンホイホイタグ入れたほうがいいかなあ……。