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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ダール編

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第6話

「お腹減った……」

 いざ階段を下りよう、という段階になって、澪がぽつりとつぶやく。妙なテンションに押されて探索に専念していたため、昼食をとるタイミングがつかめなかったのだ。

「言われてみれば、お腹減ったよね」

「ここは、先に飯やな」

 澪の訴えにつられ、意識してなかった空腹感を今更自覚する一同。こういう時は身体の訴えに逆らわず、ちゃんと食事をするにこした事はない。

「とりあえず、下のサロンスペースで食うか」

「だね。この階段降りてからだと、食べる余裕があるかどうかが分かんないし」

 食うと決まれば行動が迅速になる。話が出てから五分後には、サロンスペースで弁当と飲み物の準備が完了する。

「今日の昼飯は?」

「ダール料理に挑戦してみました。確か、イネブラとジャッテ、だったかな?」

 あってる? という疑問を込めた春菜の視線を受け、弁当の中身を確認して頷くプリムラとジュディス。イネブラは一同がダールに来て最初に食べていたスパイスの塊のようなシチューの具材違いで、昔のダールの言葉で鳥のシチュー、という感じの意味である。これがメインの具材が魚介になるとバネブラ、牛肉や羊の肉になるとドネブラとなるらしい。宏達が初日の晩に食べていたのは、バネブラという事になる。

 ジャッテは羊乳とスパイスを混ぜたタレに具材を漬け込んだものを焼く料理の総称で、鳥を焼けばイネジャッテ、魚介だとバネジャッテ、牛肉だとドネジャッテとなる。もっとも、最近はファーレーンから輸入する食材の幅も広がっているため、イネジャッテと呼ぶより鳥のジャッテと呼ぶ事の方が多いのだが。

「うへえ。また辛そうだなあ……」

 弁当箱に入っていた料理を見て、思わず達也が呻く。韓国料理ほど暴力的に赤い訳ではないが、それでもどちらの料理にもスパイスに加えて唐辛子のようなものが結構な量使われており、見ているだけで口の中が辛くなってくる。

「まあ、そんなに辛くならないように色々工夫してるから、ね」

「もっとも、いじってある分、プリムラさんとジュディスの口にゃ合わんかもしれへんけど」

 料理というのは基本的に、その地域で最も多く採れる食材や調味料に依存すると同時に、その地域に住む人間が好むように進化していく。ファーレーンに比べてスパイス類が多く採れ、それ以外の調味料が少なくなるという地域性があったといっても、達也の舌だと辛さしか感じないというレベルになるのは、そう言う料理を好む人間が多かった、ということだろう。

 それを日本人好みに調整したと言う事は、生粋のダール人であるプリムラとジュディスの口に合わない可能性は高い。日本料理の味付けも万能ではないし、日本人の味覚も全世界で受け入れられるようなものではないのだ。

「……このイネブラ、確かにイネブラなのですが、初めて食べる味わいです」

「イネブラでも、こんなにさっぱり辛さが引く味付けとか出来るんですね」

 春菜の作ったイネブラは、身体がかっと熱くなるような辛さはそのままに、後味がさわやかにすっと引くよう工夫されていた。その味付けは間違いなくイネブラだが、ただのイネブラではない。

「作った魚醤の中に、ちょっといい感じのがあったから試してみたんだ。後、ジャッテがあるから肉を控えめにして、その分野菜の種類と量を増やしてみたの。思った以上に後味がさわやかになって、びっくりしたよ。お口に合ったかな?」

「お姉ちゃん、私はこっちの方がいいかな」

「そうですね。イネブラはお酒が無ければ喉が渇きますが、これはそれほどでもありませんし」

 意外とダール人の二人にも高評価なイネブラに、見えないところでひそかにガッツポーズをとる春菜。料理人のはしくれとしては、やはり自分達の好む味付けで本場の人間に気に入ってもらえるのは嬉しい。

「気に入ってもらえて、よかったよ。ジャッテの方は?」

「これは、何のお肉ですか?」

「ブラッディウルフ。スラッシュジャガーでもよかったんだけど、カツカレーにも使ったからあえてこっちにしてみたんだ」

 またしても登場したモンスター食材、それも南部大森林の比較的奥の方でしか遭遇しないそれなりの強さの肉食獣の肉の名前に、何かをあきらめたように首を左右に振って料理をかじる姉妹。因みに余談ながら、南部大森林はダールから見れば位置的には北部になるが、一般名称になっているためダールでも南部大森林で通じる。

「やっぱり臭いが強い肉食獣の肉は、こういうスパイスをたくさん使う料理とは相性がいいよね」

「だな。後、思ったより辛くねえんだな、このジャッテって料理」

「羊乳のおかげで、意外と辛さがマイルドになるんだよね」

「まあ、スパイスの組み合わせもいじったし、すりつぶした野菜を隠し味にたれに入れたりいろいろ実験はしとるけどなあ」

 やたらめったら手間暇をかけて作られた料理に、思わず沈黙してしまうノートン姉妹。こう言っては何だが、イネブラもジャッテも、それほど手間をかける料理ではない。普通のイネブラは、適当に混ぜたスパイスを少なめの水と共に入れ、一緒に入れた野菜から出る水で煮込むと言うやや金のかかる手抜き料理だし、ジャッテに至っては何も考えずに羊乳にスパイスを入れて大雑把にかき混ぜたものに肉を浸し、何も考えずに焼くだけという簡単料理である。

 王宮や高級なレストランならともかく、普通の宿や屋台、一般家庭でこの二つの料理にここまで手をかける事はまずない。せいぜいちょっとこだわりのある店がスパイスの組み合わせを工夫する程度で、それでもその店は行列が出来るレベルだ。

 間違っても、こんな風に魔改造一歩手前と言われそうな工夫をするような料理ではない。

「そう言えば、このパン、食べ応えがある割にえらくサクサクだけど、使ってるのは小麦?」

「砂麦。折角だから、いろいろ遊んでみました」

 真琴の質問に、微妙にドヤ顔で答える春菜。ノートン姉妹の事もあるためあまり米料理をしておらず、その反動でかなりフリーダムにパン作りをした成果の一つである。

「春姉。そっちの二人が、いろいろと価値観が壊されて悩んでますって顔してる」

「そんなに変かな?」

「変とは言わんが、普通は来たばかりの国の料理を、ここまで大胆にこねくりまわしたりしないんじゃないか?」

「そこはそれ。食べる事とものづくりには全力投球の日本人ですから」

「春菜の見た目で日本人を語られても、正直違和感しかないわ」

 何ともとぼけた会話を続ける一行に、ため息とともに首を左右に振るプリムラ。いい加減食事がらみで宏と春菜のやることに驚いても無意味だと思っているのに、ダール料理の魔改造品ごときにここまで動揺する自分に情けなさを感じてしまう。

「毎度のことながら、よくもまあそんなに工夫するところが思い付くもんだ」

「美味しいものを食べるためには、手間と工夫と実験を惜しんじゃいけないんだよ?」

「それは分かるんだけど、よくその情熱が続くわよね」

「師匠と春姉に言うだけ無駄だと思う」

 何処となく投げたような事を言う澪に、思わず視線を泳がせる二人。澪はある意味、こいつらの食道楽の一番の犠牲者である。何しろ、あれこれ試そうとする二人にとことんまで付き合わされ、違いが分からないレベルの差で議論しながら微調整し、その結果に対していちいち感想を聞かれるのだ。いくら美味しいものが食べられると言っても、たまにものすごく面倒くさくなる。

 しかも、最初からワイバーンを調理できる程度の腕があった事が災いし、エアリスのように頑張って料理してもあまり褒めてもらえず、胃袋をつかもうにも宏の方が腕がよく、しかも春菜という強大な壁も存在している。その上、人生経験の差か、二人ほど工夫するポイントが思い付かないため、創作料理となると手も足も出ない。美味しいものは大好きだが、たかがテローナにうどんをぶちこむだけで、ダシの調整から具材の選定からうどんのかたさまでとことんこだわって調整する思考回路には、残念ながらとてもついていけない。

 そこまでしないと料理がアピールポイントにならないのなら、女子力というやつは正直いらない。最近はそんな事を思ってしまう澪である。

「まあ、実のところは他に没頭できるものがあんまりないから、つい手の込んだ事をしちゃうだけなんだけどね」

「歌は?」

「歌は別に練習とかしないし、どっちかって言うとながら作業みたいな感じだから、酒場とかで歌う時以外は基本的に何かしながら歌う感じ?」

「まあ、普通はそんなもんだろうなあ」

 腹式呼吸からファルセットにビブラート、歌手と呼ばれる人間が使う高等技術を普通に使いこなした歌を、料理や作業の合間に鼻歌のような感覚で歌う女。それはそれでどうかと思うが、多分身に染みついた癖なのだろう。

「あ、そうだ、宏君」

「何?」

「余裕があったら、でいいんだけど、ギターか何か作ってくれると嬉しいかな」

「ええけど、弾き語りでもすんの?」

「うん。毎回アカペラって言うのもなんだしね」

 なんだかんだと人前で歌う機会が少なくない春菜。ウルスに居た頃はそれほどでもなかったが、ダールに来てからは屋台とセットになったため、歌う回数が激増している。

「了解や。ついでやから、三味線なんかも作っといた方がええか?」

「あ、そうだね。演歌とか民謡だったら、そっちの方がいいし」

 宏の提案に頷く春菜。この口ぶりでは、地味に三味線の演奏もできるらしい。つくづく変なところがハイスペックな女だ。

「……なんか宏の作る楽器って、さあ」

「ん?」

「こう、ロックンローラーがやるみたいに思いっきり振り下ろしたら、無傷で岩とか粉砕しそうよね」

「だよな。後、適当に鳴らすだけで凄い衝撃波が出たり、呪歌じゃねえのに相手が状態異常になったりとかもありそうだ」

「師匠だと、子供の身長ぐらいありそうなバイオリンとか、総重量五百キロの黄金のピアノとか作った揚句、バイオリンミサイルとかピアノボンバーとか言ってぶん投げるとか普通にネタにしそう」

 楽器という単語について好き放題コメントする真琴達三人。特に澪のネタは、そもそもそれは楽器として成立してるのか、と小一時間ほど問い詰めたくなるものである。

「まあ、素材から言うて鈍器として使える程度の強度はあるとして、や。流石に春菜さんが使う楽器で、そこまでネタに走る気はあらへんで」

「春菜が使う楽器なら、ねえ」

「僕とか澪が使うんやったら、まず真っ先にイロモノに走るやろうけどなあ」

「師匠、それ差別……」

「いや、僕らのキャラ的に、まともな楽器とかあり得へんやん、普通に」

 宏の身も蓋もない意見に、反論できずに沈黙する澪。最近は肉付きも良くなり、黙っていれば見事な和風の美少女に見える澪だが、その言動は何処までもネタキャラである。本人も自覚しているため、楽器をやるにしてもイロモノ枠である事は否定の余地が無い。無いのだが、自業自得とは言え地味にへこむ話である。

「あの、皆さんの故郷では、子供の身長ほどもあるようなバイオリンや黄金のピアノがあるのですか?」

「無い無い」

「あれは単なる冗談」

「冗談の割には、妙に内容が具体的だったような……」

 ジュディスの質問に、全力で否定する達也と澪。とはいえ、ギターを振り下ろして壊したり、ギターで誰かの頭をかち割ったりする、というのはあながち冗談とは言い切れないのだが。

「とりあえず、こっちに来る前から換算して三年ぐらいまともに演奏してない事になるから、流石にきっちり練習して勘を取り戻さないと」

「流石に、楽器演奏までエクストラ持ってる、とか言う事はないよな?」

「無理無理無理。一応スキルは持ってるけど、せいぜい一割程度だったよ」

 歌ほどには演奏の才能は持ち合わせていない春菜は、楽器演奏は歌の邪魔にならない程度にしか身につけていない。恐らく本気を出して習得すれば一流の端っこぐらいには引っかかるだろうが、音楽は趣味の範囲でと考えている春菜にはその気はない。

「まあ、今すぐどうって事やないし、切実に必要なもんでもないし、そこはのんびりやっとこうや」

「そうだね。音楽は余暇の範囲で楽しく、だね」

「飯も終わって結論も出た事だし、そろそろ行くか?」

「せやな」

「次は何が来る事やら」

 遅めの昼食を終え英気を養った彼らは、どう考えても碌な仕掛けが施されてはいないであろう隠し階段の先へと向かうべく、一発気合を入れるのであった。







 建物の構造上あり得ない場所にある階段を下りた先は、中途半端な人工物の通路、といった感じであった。三人並んで戦闘するには少々狭いが、二人で並ぶ分には片方は長物を振り回してもさほど問題にならない程度の道幅がある。

「なんか、上とはえらい雰囲気が違うやんか」

「お姉ちゃん、なんかすごく冒険って言う雰囲気になってきました!」

「ジュディス、落ち着きなさい」

 素人目にも冒険をやっているように見えるこの状況に、相当テンションが上がっている妹を窘めるプリムラ。確かに冒険という雰囲気になってはきたが、先ほどまでの遺跡のあれこれを考えると、この先もきっと碌でもないネタがたくさん仕込まれているに違いない。

 それが分かっている状況で、素人が見た目に飲まれて無駄にテンションを上げるのは、いろんな意味で危険だ。さっきみたいに無理やり身体を張らせて笑いをとるようなトラップならまだしも、場合によっては本当に命の危険があるかもしれない。自分達のような素人は、出来るだけ冷静に落ち着いて行動しなければならないのである。

「こら、由緒正しい遺跡のパターンかもなあ」

「そんな感じだよね」

 それなりに広がれるところまで十フィート棒で足元や壁をチェックしていた宏と春菜が、感触やら何やらでそんな感想を言い合う。この場合、由緒正しいと言うのはイン○ィ・ジョー○ズのパターンを指す。

「とりあえず、隊列組むぞ。ヒロと澪が先頭、俺とノートン姉妹が真ん中。真琴と春菜は殿で頼む」

「了解」

 達也の指示に従い、隊列を組み直す一行。トラップの探知能力が高い澪と、そう簡単には使いべりしない壁役の宏が先頭に来るのは、この場合定石とも言える。問題があるとすれば、背後で発動するパターンのトラップに対しては、能力的にはともかく技能的には専門家に劣る春菜では少々不安があることだろうか。

 そんな、今までほぼ使う事が無かったダンジョン用のシフトを組み、じりじりと慎重に進んで行く。エルフの森のダンジョンのように、シーフの技量に関係なく対応しようが無いトラップがあるかもしれないが、それを理由に何もしないのはただの自殺志願者だ。

「……今のところ、何もなし」

「内容が馬鹿馬鹿しかったとはいえ、さっきまでのトラップの量を考えると不気味ね」

「だよね」

 上層の遺跡は、それこそ目につく場所には漏れなく、という感じで何か仕込まれていた。多分引っかかったところで、一番ひどくて爆発に巻き込まれて煤だらけになって髪の毛がアフロになるレベルだろうとは思うが、その分数だけは嫌になるほど多かった。

 それに比べると、まだ探索開始から十分ほどとはいえ、全くトラップらしいトラップが無いと言うのは不気味すぎる。

「……突き当り、T字路」

「何やろうなあ、この微妙に面倒くさいネタが仕込んでありそうな状況は」

「とりあえず調べる」

 かなり不審な感じのT字路に、警戒心をむき出しにしながら慎重に丁寧にしつこくしつこく確認する澪。どうにも嫌な予感しかしない。

「……通路自体には、これと言って何も仕掛けはない」

「せやけど、なんか違和感あんで」

「うん。何かおかしい」

 仕掛けは無いが、これだけははっきり言える。何かがおかしい。罠の類はないが、二人の高い感覚値が何かを訴える。

「こういう時は、構造そのものが騙し絵レベルでなんか変やねん。せやから、土木とかそういう方面から攻めれば、なんかわかるはずや」

 そんな事を言いながら、土木作業の時に使った水平器を取り出し、それをまず自分の足元に置く宏。どうやらこのあたりはちゃんと水平が出ているようで、水平器の気泡はちゃんと中央に来ている。

「次は、っと」

 間違って踏み込まないように、手前から届く範囲で水平器を置く。傾きを示すように、気泡が右側に上がっていく。

「通路が傾いとんな。多分、ビー玉置いたら転がるレベルや」

「そんなに傾いてるの?」

「凄い技術で手間暇かけて誤魔化しとるわ、これ」

 宏の言葉に、首をかしげるしかない春菜。彼女で辛うじて多少違和感を覚える程度で、達也や真琴、ノートン姉妹などの目にはまったく違和感が無い仕上がりである。並の冒険者なら、罠が無いからとごく普通に通路に侵入するレベルだ。

「で、や。通路が傾いとる、っちゅう事は、このパターンやと」

「定番はローリングストーン?」

「やろうなあ」

 こういう状況でよくある罠を提示し、全員の意見を一致させる。

「実際の傾斜はどんなもんだ?」

「人間の体やと、傾いとる事に気がつくかどうか、っちゅうレベルやな。で、いろんなやり方で徐々にこう配がきつくなってんのが分からんよう錯覚させて、まっすぐ歩いてるつもりやのに実は下ってた、みたいな感じになると思うわ」

「いわゆる幽霊坂とか、あんな感じか?」

「そんな感じや」

「……陰険だな……」

「何をいまさら」

 手の込んだ陰険な構造の遺跡について、面倒くさげに確認し合う宏と達也。とはいえ、陰険な構造ではあるが、不思議と殺意は感じない。恐らくだが、この遺跡はお約束を悟らせないために陰険なやり方をしているだけで、ちゃんと回避方法が設定されているのがなんとなく分かるからだろう

「この場合問題になるんは、岩が最後まで転がるんを防いだ方がええんか、途中でよけて最後まで転がした方がええんかやな」

「えっと、もう岩が転がってくるのは確定なんですか?」

「今までの流れから言うて、こういうお約束は絶対はずさんやろう」

 不思議そうなジュディスに、力強く断言する宏。上のフロアがあれだけある意味でのお約束に忠実だったのだ。このフロアがイン○ィ・ジョー○ズ的お約束を外すとは思えない。

「岩が転がってくると言うのは、なんとなく理解しました。防いだ方がいいか否か、というのは?」

「この手の仕掛けって、大きく分けて二つのパターンがあるんだよね。一つ目が、岩をよけて突き当りに落とす事で、別のフロアや通路に行くためのルートを確保できるパターン。もう一つが突き当りに当った時点で、別のトラップが作動するパターン」

 プリムラに対して、丁寧にお約束を解説する春菜。この罠が厄介なのは、転がしてみないと分からないところだろう。しかも、岩のせいで道が通れなくなるなどといった派生パターンも少なくない。

「今の段階だと、どっちのお約束なのかを判断する材料が少ないのが問題」

「そうだな。真琴、何か思い当たる事はあるか?」

「あたしにそう言う観察力を求めないでよ。それが分かってたら、そっちの二人か春菜がとっくに見つけてるわよ」

「だよなあ」

 ノートン姉妹に対する澪の補足説明を受けて、基本こういう状況では役に立たない達也が、同じく役に立たない真琴に形ばかりの確認をとる。基本的に引っかかってみるしかない、というのが本気で面倒くさい。

「トラップの構造上、下手に単独で確認とかしたら分断されかねんのが厄介やで」

「ここは腹をくくって、皆で引っかかってみよっか」

「それやったら、僕が一番後ろやな」

 最悪、生身で転がってくる岩を受け止める必要があるが、このメンバーでは宏以外に直径数メートルの丸岩をどうこうできる人間はいない。

「場合によっちゃあ、岩砕かんとあかんから、モール持っといた方がええやろうなあ」

「頼む」

「ごめんね、危ない役任せちゃって」

「こんなん、ハニトラに比べたら全然怖ぁないで」

 引っかかったら根性の悪い女に嘲笑われ、引っかからなかったら根性の悪い女に存在を否定するような罵詈雑言を投げかけられる。罵詈雑言といったところで、達也あたりなら負け犬の遠吠えと普通に無視するような事柄だが、宏にとってはいろいろときつい。

「相変わらず、物理的な危険は女性関係のトラブルより脅威度が下なのね……」

「真琴さんかて、モンスターよりノンケのパンピーの方が怖いって経験、しとるやろ?」

「……言いかえせないわねえ」

 そんな事を言い合いながら、若干隊列を変更してT字路に入って行く。色々と時間を稼ぐために宏は傾斜を登って行き、他のメンバーは通路の構造、というよりは逃げ場所を確認するために下っていく。

 澪を先頭にした調査側の集団が十数メートル歩き、そろそろつきあたりが目視できるかどうかというあたりに来たところで、ガタンッと通路に大きな振動が走る。

「来た!」

「宏君、大丈夫!?」

「まだ大してスピードも乗ってへんから、余裕やで!」

 目の前からゆっくり転がってくる大岩に対して突っ込んで行き、ヘヴィウェイトで自重を増加、完全に受け止めて見せる宏。それなりに本気の重量ではあるが、その気になれば片手で支えられるあたり、どうにも密度はそれほどでもないような印象である。はっきり言って、最大速度で直撃したところで、ノートン姉妹でも命を落とす事はないだろう。

「この岩、ほとんどハリボテやで」

「重量はどんな感じ?」

「僕のモールよりちょっと重いぐらい。表面は岩のように硬いけど、密度で言うたらかなりスカスカや」

 やはり、陰険な割に殺意はないらしい。油断させておいてと言う可能性も無い訳ではないが、この遺跡がある種のアトラクションであると考えるなら可能性は低い。

「そっちはどない?」

「通路の奥にちょっとした仕掛け。岩がはまって通路がふさがる感じ?」

「ほな、この岩砕いた方がええな」

「いや、むしろ一回はめこんでから砕いた方がいいんじゃないか?」

「さよか。もしかしたら最大速度で無いとあかん可能性もあるから、ちょっと戻して仕掛けして、そっちに合流してから転がるようにするわ」

「了解」

 方針を決めたところで、えんやこらと大玉転がしのように岩もどきを押し上げて行く。通路の天辺まで押し戻した後、楔を二本用意して位置を固定し、一本に霊糸をくくりつけてひっこ抜けるように細工する。この時、地面の方にも多少細工をして、くさびが確実に壁際に抜けるようにするのも忘れない。直径が道幅一杯といっても、固定された楔を避ける程度の遊びはあるのだ。

 その様子を見ていた達也が、いまだにこういう便利グッズ扱いから完全には脱却できていない霊糸に対して、心の中で十字を切った事は言うまでもない。

「細工完了。回避場所はここか?」

「だと思うよ」

「割とこの人数やとぎりぎりやな」

「うん。ごめんね?」

「いや、しゃあないって」

 五人を超えると割と鮨詰めになる回避スペースを見て、微妙に顔を青ざめさせながらももの分かりのいい事を言ってのける宏。とりあえず、何かあった時の壁役をまっとうする必要性と仕掛けを起動させるためという大義名分のもと、密着度合いが比較的マシになる一番外側に入る。この時、いざという時に補助魔法をかけるため、という言い訳で宏に一番密着するスペースを確保した春菜は、密着した時点でそのスペースが自分にとって、いかに危険かを思い知る。

(うわあ……)

 革鎧越しとはいえ、惚れた男に密着すると言うのが、これほど心臓に悪いとは思いもよらなかった。至近距離に見える宏のやや青ざめた顔に申し訳なく思いながらも、普段意識する事のない男の匂いと見た目の印象よりはるかに逞しい体、そして比較的鎧や布が薄い場所から伝わってくる肌の感触と体温が、徐々に春菜の思考を停止させようとする。

「ほな、行くで」

 そんな春菜の様子に気がつく気配すら見せず、鎧越しだと言うのに妙に柔らかい春菜とジュディスの体の感触に青ざめながらも(春菜以外の位置は、とりあえずくじ引きで決めた)、すべきことを宣言して思いっきりよく楔を引っこ抜く宏。次の瞬間、重力に引かれてゆっくりと転がり始めた岩もどきは、何か仕掛けでもあったのか傾斜から予測される以上のスピードで転がってゆき、なかなかの勢いで突き当りに衝突する。

 なお、傾斜の分か、このあたりは天井が意外と高いため、仮にいろいろ失敗して岩もどきに挽きつぶされても、身体の上を転がって行くだけでそれほどのダメージにはならない。澪ですら気がつかなかったが、ご丁寧に妙な超技術で、わざわざ地面がクッションになる構造になっていたりするところも、製作者がアトラクションのつもりである事がありありと分かる要素である。

「さて、どうなった事やら」

 SAN値が直葬されそうな状態から一刻も早く抜け出すべく、いそいそと回避スペースから出て行く宏。余りに忙しなく離れて行く宏の体温が妙に寂しく、思わず小声であっ、と呟いてしまう春菜。普通の男なら戦うべきは性欲だとか理性のぐらつきとかであろう状況でも、この男は本気で発狂しそうな恐怖と闘う羽目になるのだ。

「まあ、理由は分かってるんだけど春菜、あんた顔真っ赤よ?」

「ジュディス、あなたもですよ」

「お姉ちゃんにだけは言われたくないです」

 なんだかんだと言って、合法的に合意の上で意中の男と密着する機会を得た女性陣は、全員顔をこれでもかというぐらい赤く染めて妙なテンションになっている。

「で、感想は?」

「……皆には悪いけど、ある意味においては誕生日の時より幸せだった気がする……」

 意地の悪い顔で春菜をからかう真琴に対し、うつむきながらどことなくとろけそうなかすれた声で、小さくつぶやいて答える。普段は身体つきの割に驚くほど色気が無い春菜だが、この時ばかりはありとあらゆる煩悩を解脱した賢者や僧侶でも道を踏み外しそうなほどの色香を漂わせていた。はっきり言って嫁さん以外女としては眼中にない達也ですら思わずくらっときそうになったのだから、相当である。むしろ、普段が普段だからこそ、そのギャップが余計に大きいのかもしれない。

「まあ、こんな機会でも無きゃまともに物理的接触が出来る相手じゃないしねえ」

「春姉もジュディスもずるい……」

 くじ引きに負けた澪が、目だけで二人を非難する。そんな女性たちのやり取りを頑ななまでに無視し、岩が転がってきた坂の上と岩が直撃した行き止まりを確認、調査する宏。今だけとはいえ、過剰に色気を発散している女など、宏にとっては起爆スイッチの入った核弾頭のようなものである。

「坂の上は、行き止まりのままやな。引き返す道は普通に塞がっとる。新しい道は出来てへんけど、軽く叩いた感じから言うて本気でしばけば通り道ぐらいは作れそうやで」

「要するに、森のダンジョンと同じやり方か?」

「そんな感じや」

 あくまでも力技で平常運転に戻る男二人を見て、どうにか力技で意識を切り替える女性陣。まだまだ鼓動が収まらない春菜だが、いつまでも引きずって宏に負担をかけては、何をやっているのか分かったものではない。

「ほな、一発行くで」

「おう」

 達也の許可を受け、思いっきりモールを振り下ろす宏。実のところ、ちゃんと調べれば坂の上の行き止まりに小さなスイッチが見つかり、それを押せば普通に隠し通路が出てきたのだが、そんな事は知る由もない宏達は、結局力技で道を切り開いたのであった。







 いくつかのフロアを突破した先の、休憩可能なスペース。一行は一息つきながら、微妙にうんざりした顔でこれまでの事を振り返っていた。

「定番の罠、一杯あった」

「ほとんど漢解除で潰した気がするんは気のせいか?」

「まあ、それが一番早かったのは事実だしなあ」

 上から横から飛び出してくる槍に吊り天井、迫ってくる壁など、ここに来るまでに定番と言える罠がほとんど出尽くした。出ていないのはテレポーターとアラームぐらいである。テレポーターが出てこないのはおそらく元ネタに存在しないからで、アラームはガーディアンなどの仕込みが面倒だったからに違いない。

「いやまあ、あれが本当にやばい罠だったら、あたしか達也が漢解除以外の方法を提案したけどさあ」

「槍とか矢とかが、全部おもちゃ同然だったよね、あれ」

「迫ってくる壁も、人間挟んだらそれ以上動かんぐらいのパワーしかあらへんかったしなあ」

「その癖、まともに解除できる構造になってなかった」

「何というか、もとから四苦八苦しながら漢解除で突破させる前提だった感じね」

 イン○ィ・ジョー○ズ的お約束だと、全ての罠は引っ掛かって突破という事になる。そして、あくまでアトラクションという立場を崩していないこの遺跡、発動した罠は全部致命傷には程遠い性質になっていた。槍や矢は穂先や鏃がゴムのような柔らかくて弾力のある素材でできており、目にでも当たらない限りはまともなダメージになりようが無かった。吊り天井も迫る壁も、まるで昨今の電動シャッターや自動ドアのように、ちょっと硬い物が挟まるとそれ以上進まなくなると言う安全設計で、余程の事が無い限りはそれで命の危機に陥ると言う事はない仕様である。

 とはいえ、全くペナルティが無い訳ではない。吊り天井や迫る壁は結構がっちりロックがかかる構造だったため、力技で突破するには結構な苦労があった。槍や鏃は当ると軽い麻痺や混乱などのちょっとした状態異常になり、その場はともかく後々に結構響いた。いずれも致命的ではないが、スタミナや精神力といった要素は確実にがりがりと削られている。

 因みに、一番きついペナルティは、最後の最後にジュディスが引っ掛かった槍衾トラップでの状態異常「空腹」であろう。

「途中、何故かレーザーと赤外線で罠張っとったんは、思わず笑ってしもたで」

「あれだけ、ネタの傾向が違う」

 途中、何故かスパイものか何かのような警備態勢をとっていた一角があり、センサーに引っかかるとガーディアン代わりのボールがヒットアンドアウェイで攻撃を仕掛けてくると言うトラップがあった。とても全部よけられるような配置になっていなかったため、結局宏がすべてフルスイングでホームランして始末し、回避できる範囲でだけセンサーを避けて力技で突破したのだ。

「で、まあ、あれや」

「うん。言いたい事は分かってるよ」

「ここまで来て、何の仕込みもあらへんっちゅうことはまずあり得へんとして、この場合何から突っ込んだったらええと思う?」

「定番だもんね、不自然なところにあるやけにしっかりした作りの妙に真新しいトロッコ」

 宏と春菜のコメントが示す通り、部屋の奥には妙に真新しいトロッコがあり、そこから空洞の上をレールが走っている。空洞の底をよく観察すると、パッと見には分からないように巧妙にカモフラージュされた安全ネットが張ってある。これに関しては、落ちても大丈夫と安心すればいいのか、落ちるかもしれないような仕掛けが施されている事を心配すればいいのか、かなり微妙なところだろう。

 この手の突っ込みを入れるのは無粋ではあるが、明らかに古代遺跡だと言うのに、何故かトロッコのレールが錆一つ浮いていないのはものすごく不自然である。中途半端に古く見せる偽装が入っているトロッコが、余計にその不自然さを強調している。恐らく分かっていてわざとだろうが、実に余計なところでいいセンスをしている。

「とりあえず、この場合ありそうなネタ、あげてこか」

「まず基本は、こうもりか何かに攻撃食らうってとこだな」

「後、途中でポイント切り替えないと地底に転落、はありそうね」

「ジェットコースターも定番。トロッコなのに宙返りとかレールがねじれてたりとか」

「だけど、何故か乗ってる人は絶対落ちないんだよね」

 トロッコという事でありそうなネタを出し合い、今後の展開を予想する。どれもこれもある意味定番のネタである以上、絶対に仕込んであるはずだ。

「まあ、ある意味今までよりは大したことあらへんわな。基本的にはジェットコースターの亜種やし」

「だなあ。となると問題は」

「トロッコ、もうちょい容積欲しかったで……」

 本日二度目の密着タイムとなりそうな大きさのトロッコに、思わずため息をつく宏。流石に先ほどのようにぎゅうぎゅう詰めという事はないが、少なくとも武器を振るう余裕はない。

「もう一つ問題なんが、そろそろええ時間やっちゅう事やな」

「あ~、言われてみれば、いい加減晩御飯ぐらいの時間だよね」

「せやから、どないする? ここで一泊して明日の朝からトロッコ攻略するか?」

「先がどうなってるか分かんねえのが厄介だな」

「かといって、トロッコで終わりとは思えないし、こういう精神的に疲れそうなネタを明日の朝一でって言うのも気が進まないのよねえ」

 いい加減いろいろあって疲れているので、今日のところはこれ以上余計なイベントは勘弁してほしい。だが、明日の朝一番から宏が使い物にならなくなりそうなイベントをこなすのも、それはそれでどうかという気がする。

「面倒だから、コインでもはじいて決めるか」

「それでいいんじゃない? どっちに転んでも碌な事にならないし」

「じゃあ、私、配置のあみだくじ作っとくね。宏君と達也さんは一番前で」

 宏が一番ダメージが少なくなるよう最初に男性陣の位置を固定し、残りのメンバーをくじで適当に決める。その間に達也がはじいたコインの結果は表。今日のうちにトロッコを終わらせることが確定する。

「トロッコ終わってすぐぐらいのところに、野営に向いた場所があったらええんやけど」

「まあ、ところどころセーブポイントっぽい場所もあったし、大丈夫だと思うよ」

 そう言って、やたら強力なくじ運で宏の真後ろというポジションを確保した春菜が妙に嬉しそうにトロッコに乗り込む。本日二度目の接触タイムだ。同じ列には澪を挟んで真琴が入り、ノートン姉妹が一番後ろとなる。

「とりあえず動かすから、しっかりつかまってろよ!」

 達也の警告に従い、つかまれる場所にしっかりとつかまる一行。どの程度の速度が出るかは不明だが、安全バーだのシートベルトだのの類は無いフリーなトロッコだ。恐らく妙な仕掛けでそう簡単に落ちる事はないだろうが、しっかりつかまっていないと怖いことこの上ない。

「早速こうもりか!」

「定番やな!」

 予想通りの展開に舌打ちしつつ、マジックブリットで落とせるものを落としていく宏と達也。他のメンバーは場所や角度が悪いため、流石にこれといった対応は取れない。

「わわ!?」

 宏が撃ち漏らしたこうもりが、春菜の頭上をかすめてどこかへ飛んでいく。とっさに頭を下げて避けたところで、大きなカーブに差し掛かる。

「わわわっ!」

 姿勢が崩れた状態で大きく曲がったものだから、思いっきり前につんのめる春菜。物理法則に逆らいきれず、そのまま宏にしがみつく。

「……っ!」

 思わず悲鳴を上げそうになり、必死になって飲み込む宏。いかに女性恐怖症といっても、このどうしようもない状況でそう言う理由で悲鳴を上げるとか、流石にそれなりの期間同居している相手に失礼すぎる。SAN値が厳しいが、最大値さえ下がらなければ、シナリオが終われば全快するのだ。ここは必死になって我慢するしかない。

 などとかなり間違った方向でゲーム脳的な事を考えているうちに、恐らく危険地帯であろう切り替えポイントが見えてくる。このまま地底に落とされると、春菜に押しつぶされることになって余計にSAN値がピンチだ。そんな駄目駄目な思考のもと、反射的にポイントを切り替えると……。

「きゃあああああああああああああああああああああああ!!」

「ちょっとまてえええええええええええええええええええ!!」

「この低速で宙返りは余計に怖いわよ!!」

「うひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 ある意味予定通り、レールがジェットコースター仕様に変わる。トロッコの低速でジェットコースターのような挙動を取られるのは、いろんな意味で不安がよぎる。しかも、何故か一定以上床から足が離れないと言うだけで、振り落とされそうになる不規則で不安定なGは、妙に物理法則に忠実にかかってくるのである。落ちないと分かっていても床から完全に足が浮いたりするのは、正直不安などという次元では済まない。

 結果として

「わああああああああああああああああああああああああ!!」

「怖い怖い怖い怖い!!」

「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」

 春菜と澪が恥も外聞も思いやりも完全に投げ捨ててやたらと立ち方が安定している宏にしがみつき、その結果ジェットコースターでは感じないはずの恐怖で叫ぶ羽目になる宏。そこに蝙蝠が不規則にヒットアンドアウェイをやらかし、春菜と澪が更に力一杯しがみついて宏が叫ぶと言うある意味素敵な流れが完成する。

「……なんか、ものすごく怖かった……」

「ご、ごめんね、宏君。ちょっとまだ普通に立てない……」

 普通のジェットコースターとはある意味で比較にならないほど怖いトロッココースターのせいで微妙に足が震え、宏から手を離さねばいけないと分かっていても、どうにも離れる事が出来ない二人。今はやたら安心感のあるこのぬくもりを手放せそうにない。

「……」

 そんな二人に対し、完全に真っ白に燃え尽きた宏は何の反応も示さない。恐らく、トロッココースターが怖いと感じなかった唯一の人物ではあろうが、間違いなく何の慰めにもなっていない。

「と、とりあえず、いろんな意味で今日はこれ以上は無理だな」

「そ、そうね。正直、ここが野営出来そうなスペースがあってよかったわね……」

 そう言いながら後ろを振り向くと、

「……」

「……」

「プリムラとジュディスが、目をあけたまま気絶してる!?」

 絶叫マシーンに全く耐性の無いノートン姉妹が、見事に気絶していた。






「連中が帰ってきておらん?」

「はい。早朝に砂を取りに行くと言って街を出たらしいのですが……」

「それなら、一日二日戻って来ぬのは、不思議でもなんでもなかろう?」

「いえ、それがですね……」

「ああ、そう言えば、連中はゴーレム馬車を持って居ったな。それならば、確かに日帰りで砂漠まで行けん事はないか」

 宏達の情報を思い出し、少々顔をしかめる女王。明日あたりに神殿から手を回し、そろそろ正式に王宮へと招き入れる予定だったのが台無しである。

 それだけではない。ゴーレム馬車を持っていて、しかも早朝に砂を取りに行くと言った連中が戻ってきていない。それはすなわち、なにがしかのトラブルに巻き込まれている、という事である。

「連中からの連絡はないのか?」

「とりあえず、ノートン姉妹からは一度、少し予定が変わったから帰るのが多少遅くなりそうだ、という連絡はあったそうですが」

「多少、という単語がある以上、普通は日をまたぐなどとは考えぬか」

「はい」

「この目で確かめた実力を考えれば滅多なことでは命の危険はなかろうが、一体何処で何をしているのやら」

 余りに不穏当な状況に顔をしかめつつ、一応一行の身を案じる女王。とはいえ、いかな女王といえども流石に

「あ、砂牡蠣発見」

「おっ、牡蠣か! 毒とか大丈夫か?」

「こいつは加熱さえすれば、いつ捕まえても食えるで」

「牡蠣は燻製にすると美味しいのよねえ」

「カキフライ、カキフライ」

 きっちりトロッココースターの恐怖から立ち直った上で古代遺跡に生息する食材を発見し、平常運転で夕飯を作っているとは想像もしていないのであった。
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