後日談その2
「今日も疲れた~」
「じっとしてると、寒いのです……」
年越しまでもう何日もない、と言うその日。スラム地区の土壌改良事業と言う一大プロジェクト、その土木作業の手伝いを終えたアズマ工房の見習い一同は、帰ってくるまでの間にすっかり冷え切った体をひっつけあいながら工房にかけ込んできた。因みに、見習いでは無く弟子、もっと言うなら助手である澪は、土壌改良プロジェクトの目途がついたぐらいからずっと、大工の訓練も兼ねて工房の一室を改装しており、この日も作業には加わっていない。
「おう、お帰り。風呂沸かしてるぞ」
「ありがと~」
段取りよく準備を進めてくれていた達也に礼を言い、着替えを取って風呂に急ぐ一同。全員が風呂場に移動するのを見送った後、時間差で帰ってきた元締めに視線を向ける。
「お前も、今日は上がりか?」
「もうじき日も落ちるし、土木関係の作業もあらかた終わりやから、しばらくは現場監督が口はさむ事もあらへんし」
土壌改良プロジェクト自体は、もうほとんど終わりかけている。幸いにも汚染された土は表層五センチ程度で、スラムの人間全員とあちらこちらの土木関係者をかき集めての人海戦術により、除去そのものは老朽化した建物の取り壊しが終わるのとほぼ同時に完了している。
汚染された土の処理は宏と澪に加え、城の魔法使いのうち手が空いている人員や民間人の中で手伝える人間、そして何よりアルフェミナ神殿の神官が大勢協力してくれたため、こちらも除去が終わって数日で完了した。現在は浄化の済んだ土を戻し、農地として整備しているところである。
普通なら三カ月で終わらないような大工事だが、人員も道具も十分にあり、かつ宏のような土木の上級を持っている人間が現場監督をやれば、一カ月もあれば十分にめどがつく範囲だ。因みに、土木のエクストラ「神の道」をマックスまで上げれば、同じような工事を一週間で終わらせる事が出来たりする。ゲームでは道尾康司というプレイヤーが土木エクストラを極めており、ほとんどの工事を一週間以内で終わらせるという神技を見せていた。本人はただひたすら道を掘って整地するのが好きな、年末年始によくいるただの変態ではあるが。
「どうでもいいが、ヒロ」
「何?」
「澪や弟子連中はともかく、春菜まで土木作業やらせる必要はあるのか?」
「本人が裁縫ぐらいは極めたい、っちゅうとるから、メイキングマスタリーぐらいは覚えさせた方がええやろう、思うたんやけど?」
「メイキングマスタリー?」
不思議そうな顔をしている達也に、生産がらみのあまり知られていない要素を説明する。
「なるほど、そう言う事か」
「納得してもらえた?」
「おう。ゲームの時、澪に土木系のクエやらせてたの、理由が分からなくて首ひねってたんだが、ようやく納得した」
「まあ、無きゃ無いで、根性でどうにかできるんはできるんやけどなあ」
確かに、成功率も歩留まりも作業時間も、根気があればカバーできる問題ではある。だが、全部複合して噛んでくるとなると、あまり根性でカバーしたくはない。
「流石に、春菜にそれを求めるのも酷だろうなあ」
「兄貴もそう思うか?」
「ああ。正直、材料がある程度自力調達できてた俺ですら、製薬が中級の三分の一も行かずに折れたからな」
「裁縫は製薬とか錬金と違うて、別のスキルが噛むから余計やで」
宏の指摘に、しみじみ頷くしかない達也。
「それはそれとして、裁縫で思い出したんだが……」
「ああ、霊糸の事? 今の織機やと加工出来へんから、当面は倉庫に積み上げっぱなしやな」
「なるほどな。いつまでも加工しないから、おかしいとは思ったんだ」
「流石に霊布を織るんやったら、最低でも大霊峰の四合目から上に居る樹木系モンスターか、オリハルコンクラスの金属を材料にして織機を作らんと、一枚織る前に壊れおるで」
「それでよく糸巻きが大丈夫だな」
「単に巻きつけるだけの糸巻きと、布に加工する織機とではやっぱちゃうで。まあ、糸巻きにしたかて、かなりがっちり強化かけとかんと、巻きつけた時に切れおるけどな」
ワイヤーか何かの間違いじゃないのか、などと小一時間ほど問い詰めたくなる話に、思わずげんなりしてしまう達也。糸としての手触りは最高なのに、加工に際しては随分と物騒な話が多い。
「高級素材ってのは、あれもこれも面倒なんだな……」
「面倒やから、性能がええねん」
「なるほど……」
妙に説得力のある話に、思わず心の底から納得してしまう達也。
「まあ、作れない物に関しては置いておこう。さっき連絡があって、今からエルがこっちにくるそうだ。泊まって行くそうだから、レラさんが部屋の準備してる」
その急な連絡に、何とも言い難い表情を浮かべる宏。もうすでに日が落ちて暗くなり始めている時間だ。年が明けてすぐぐらいが誕生日だと言っても、それでもまだ十一歳。そんな子供が出歩くのはどうか、と言う時間である。
なお、レラと言うのはファムの母親で、二十五歳の未亡人だ。七歳のファムと五歳のライム、二人の娘を一生懸命育てている若きシングルマザーでもある。言うまでも無い事だが、この世界では十七、八で子供を産むのは珍しい話ではない。
「こんな時期のこんな時間から? よう周りが許したな」
「何でも、急に環境が変わった上に姫巫女としての役割が忙しくなりすぎてて、ちょっとグロッキーになってるそうだ。役目の方は三日やそこら抜けても大丈夫なぐらいには落ち着いたって事だから、気分転換も兼ねてこっちに遊びによこすんだと」
「なるほどなあ。まあ、王宮組はいろいろ大変そうやし、ええ加減グロッキーにもなるやろう」
急な話に相手の環境を思い出し、うんうんと頷く宏。特に姫巫女は現状、エアリス以外は誰も代わりが出来なくなっている。資質を持っているエレーナが毒の後遺症やら何やらで儀式に耐える事が出来なくなって久しく、また、新しい姫巫女として実績を作る必要があるため、式典や法話の類も出来るだけたくさんこなさなければならないと来ている。責任感の強いエアリスがグロッキーになるのも、仕方が無いと言えば仕方が無い。
「そう言えば、真琴さんはまだ戻ってへんの?」
「そっちもさっき連絡があった。同じ仕事に駆り出された女冒険者と気があったから、今日は外で飲んでくるんだとさ」
「なるほど。出先の飯がまずくても知らんで」
二十歳を過ぎた女の行動に、ケチをつけても仕方が無い。そもそも真琴の実力なら、少々酒が入ったところでそこらのチンピラや酔っ払いにどうこうされる事はあるまい。それに、その女を連れて帰ってくるかどうかはともかく、戻ってからシメを食って寝るのは目に見えているのだから、明かりが全部消えるほど遅くはなるまい。
「兄貴は飲みに出るとか、ええん?」
「今日はいいさ。そのうち噂集めも兼ねて、適当に飲みに行くつもりはあるがね」
「了解や。まあ、どうせ真琴さん戻ってきたらシメになんか食わせろとか言うてくるやろうし、エルが好きそうなメニュー考えよか」
などと話をしているうちに、レラとライムが二階から降りてくる。
「お部屋の支度が終わりました」
「ご苦労さん」
「おてつだいしました~」
「お~、えらいえらい」
ドヤ顔で胸を張って宣言するライムをよしよししてやる達也。レラには構え気味の宏も、ライムには普通だ。この対応がライムが子供だからか、それとも小動物枠なのか、と言う割としょうもない事で女性陣が盛り上がっている事を宏は知らない。
もっとも、同じ程度に子供であるファムにも微妙に構えるところがあるので、どちらかと言うと小動物枠だというのが正解に違いない。同じ小動物枠に入りそうなエアリスは、いろいろと育ちすぎてプレッシャーを与えてしまうのが不憫である。
「さて、そのお姫様はいつ来るんやら」
既に真っ暗になっている外を見ながら、王宮を出てからでもなんだかんだと良く顔を合わせるエアリスの事を案じる宏。とは言え、あれから工房の方に顔を出した事は無く、雇われ職人たちと顔を合わせるのはこれが初めてだ。
「こんばんは」
噂をすれば影。ようやくエアリスが到着した。匿われていた頃に使っていたアイテムでエルの姿になっている。時間が時間なので、歩いてではなく自前の転移魔法を使ってここに来たらしい。
「いらっしゃい。えらい遅い時間に来るんやな」
「勤めが終わったのが、先ほどでして……」
「ほな、風呂とかまだやろう? 女の子らは今入っとるから、混ぜてもらってき」
エアリスの体が微妙に震えているのを見て、そんな風に提案する。野外での儀式やらお清めやらを済ませた後、体を温める間もなくこっちに飛んできたのだろう。上機嫌な表情とは裏腹に、顔色はそれほどいいとはいえない。
「はい」
宏の言葉に素直に返事を返すと、背負っていた荷物からお風呂セットを取り出し、明らかに高い身分を持つと思われる少女に対しておっかなびっくりと言う感じで手を伸ばしてきたレラに素直に残りの荷物を預けると、いそいそと風呂場に向かう。その様子に苦笑しながら、レラとライムに顔を向ける。
「レラさん。悪いんやけどエルの荷物運んだって。ライムもそろそろ風呂入り」
「は~い」
「分かりました」
宏の言葉に素直に返事を返すと、元気一杯と言う感じで着替えも持たずに風呂場に突撃をかけるライム。ファーレーン人の例に漏れず、彼女も風呂は大好きである。今まではスラムだったのでまともな風呂での入浴など夢のまた夢だったが、ここにいれば毎日欠かさず温かい風呂に入れる上に、以前は見た事も食べた事も無い美味しい食事が毎日食卓に並ぶのだ。ライムに限らず、スラム組にとってはここは楽園で、レラやファムなどは本当にここにいていいのかと毎日が不安である。
「さて、エルが結構体冷えとるみたいやし、芯からあったまるメニューがよさそうやな」
「だな。ついでに、チビ達の偏食が治る奴がいい」
「となると、やっぱりメインはシチューやなあ。いっそ、テローナにするか?」
「ブルフシュなんかもいいんじゃないか?」
ファーレーンの国民食を上げる宏に対して、同じく郷土料理を持ってくる達也。ブルフシュとは、この地方でこの時期に採れる山芋の一種をすりおろして作る生地に、色々な具材を入れて焼き固めた焼き料理である。素材の味と焼き加減だけで勝負と言うこの国らしいメニューで、カロリーの割に腹もちがよく栄養価が高い、ある意味理想的なメニューだ。
更にブルフシュは使う芋の性質で、中に入れる具材を上手く選べばアツアツの状態がかなり長く続くという、冬場に持ってこいの特徴がある。今日みたいに寒い日だと、普通のファーレーン人は大体どちらかを食べる事になる。
「ブルフシュもええんやけど、全員の消費カロリー考えたらもう一声いるで」
「今思いついたんだが、テローナうどんってどうだ?」
「……ありかもしれへん。試してみるわ」
しょうゆベースの海産物のダシを取ったスープで作るテローナなら、うどんにぴったりだろう。春菜に言わせれば、それだと単なる煮込みにうどんをぶちこんだだけだ、と言う事になるのだが、味噌煮込みうどんよりはこの国の食文化に近いからいいのではないか、と思う。
いや、そもそもうどんは小麦粉の塊なのだから、コンソメスープともそれほど相性は悪くないはずだ。だったら、正統派のテローナにうどんを入れても、それほどおかしな味にはなるまい。
「とりあえず、まずはうどん打つところからスタートやな」
「何か、お手伝いできる事はありますか?」
「テローナやから、シャルプばらしてくれへん? 一昨日現場で貰って絞めた奴が十羽ほどあるから、十分足るはずやで」
「分かりました」
宏の指示に従い、単に絞めただけのシャルプを丁寧に解体していくレラ。内臓にはかなり加熱しても死なない割と頑固な寄生虫がいるため、基本的に食べるのは肉だけ、モツの類は廃棄だ。その気になれば薬や増幅系の消耗品に使えなくもないが、処理が面倒な上教材として使うにも澪以外はまだそのレベルに達していない。そして、その澪は今更これを使って練習するレベルでも無いので、現段階ではわざわざ取り置きする必要が無いのである。
もっとも、単に捨てるのは勿体ないので、今後のために寄生虫をどうにかしたうえで肥料に加工するつもりではある。何しろ、土壌改良のための良質な肥料と言うやつは、これからどれだけあっても足りない。
「今日はテローナにしたんだ?」
「正確には、テローナうどんとブルフシュや」
「なるほど、新しい料理にチャレンジするんだね!」
風呂からあがり、手早くエプロンをした春菜が、何やら気合を入れる。彼女の参戦により、テローナうどんはテローナにうどんをぶちこんだだけ、と言うレベルでは収まらない魔改造品になるのだが、それでも作り方を説明しろと言われるとテローナを作ってそこにうどんをぶちこむ、としか言えないのが業の深い話である。
「あの、これはなんですか?」
夕食後。今日完成した団欒の間、と言って案内された広めの部屋。土足厳禁と言われて靴を脱ぎ、中に入ったところで奇妙なテーブルを見つけて、小首をかしげながら質問するエアリス。
「故郷で使われてる暖房器具で、こたつって言うんだ」
「こたつ、ですか?」
「まあ、入ってみれば分かるよ」
そう言って手まねきした春菜に従って彼女のとなりに行くと、見よう見まねで掛け布団を少しめくって足を突っ込む。その後に続き、向い側に入る達也。
「……温かいです」
「でしょう?」
「ですが、この距離感だと、ヒロシ様は厳しいのではないでしょうか?」
「それは大丈夫。宏君は個人用を持ってるから」
そう言って、ちょっと離れた所にある、頑張って四人入れるかどうかという小さいこたつを指さす。
「なんだか、それはそれで寂しい話です……」
「しょうがないよ。無理をしてもいい事は何もないし」
下着の時に懲りたよ、と言う春菜に何も言い返せず、何とも言い難い寂しげな笑みを浮かべるエアリス。なお、神殿脱出の時は当人の自滅、暗殺者の時は不測の事態、と言う事でとりあえず責任を感じる事はやめにした。余り引っ張ると、それはそれで宏が居心地悪そうにするのだから、このぐらい割り切らないと駄目なのである。
「そう言えば、他の皆さんは?」
「テレスとノーラは、ヒロと澪から講義を受けてる。レラさんは後片付けでファムとライムはベッドに直行だ。本当はあの二人も勉強させたいんだが、子供に無理をさせてもな」
「後、真琴さんは今日は外で飲んでくるんだって。もうじき戻ってくるんじゃないかな?」
それぞれの用事を教えてもらい、とりあえず納得するエアリス。風呂場と夕飯の席で仲よくなったファムとライムが居ないのは少々寂しいが、自分も同じ年の頃は結構早くに眠くなったものだから、文句を言っても仕方が無い。
なお、テレス達が講義を受けているのに、春菜はこたつでぬくぬくしていてもいいのか? という問いに関しては、今やっている内容は既にマスターしており、彼女が聞いても仕方が無いという回答が返ってくる。メンバーの中ではかなり素人に近い春菜だが、それでもこの国の平均から見れば、十分職人扱いしていい技量は持ち合わせているのである。
「それにしても、このこたつというテーブルは、ぽかぽかして気持ちがいいです」
「油断して寝ちゃうと風邪ひくから、そこは注意してね」
「はい……」
春菜の注意をどことなくぽわんとした表情で聞きながら、座布団の下にある不思議な素材の床を触って確かめる。
「この部屋の床は、草で出来ているのですか?」
「うん。畳って言う、うちの国の伝統的な床材だよ」
「夏場だったら、このままごろ寝したりもするな」
「それは素敵ですね」
達也の言葉に目を輝かせるエアリス。
「それにしても、畳まで作るとかびっくりだぞ」
「よくイ草の代用品があったよね」
「まあ、あいつらの事だから、錬金ででっち上げたとか言われても驚けないんだがな」
達也の言葉に苦笑する春菜とエアリス。今までの前科を思い出すと、宏が何をやらかしたところで宏だからで済んでしまいかねない。
実際には、土壌改良の過程で大量に集まった草の中に、イ草の代わりに使えるものがかなりの量あっただけと言う余り面白みのない流れで調達しているのだが、そもそも根本的に、毎度毎度素材の収集に面白エピソードがある方がおかしい。たまには、ごく普通でありきたりな形で材料を調達しても罰は当たるまい。
「出来れば、私のお部屋にもこういうスペースが欲しいのですが……」
「ファーレーン城に和室を作るのって、結構難しいんじゃないか?」
「それに、雰囲気とか風情とか考えると、ちょっと合わないかな、って気もする」
エアリスの希望に、容赦なく駄目出しをする二人。言われるまでもなく気が付いていたからか、エアリスもそれほどショックを受けた様子はない。
「そう言う感じの離宮を作る、と言うのはどうでしょう?」
「今、国庫が大変なことになってるんじゃないの?」
「そうでもありませんよ。むしろ、横領の罰金とか没収した財産とかで、城の修復や土壌改良事業ぐらいでは使いきれないほどの臨時収入がありましたし」
「……そういうお金を、そんな風に無駄遣いするのはどうなのかな?」
春菜の突っ込みを受け、誤魔化すようにこたつの中を覗き込むエアリス。そんな事をしているうちにふと、現状について気になる事を思い出す。
「そう言えば、急に三人も大人の人を雇って、人件費とかは大丈夫なのでしょうか?」
「ちゃんと収入あるから安心して」
「最近、弟子連中もカレー粉は安定して調合できるようになってきたから、その売り上げが結構あってな」
「そうなんですか」
「そうなの」
達也と春菜の説明に納得するエアリス。焼くと煮込むが基本のファーレーン料理とカレー粉は、春菜達が思っている以上に相性がいいらしい。それゆえ現在作れば作るだけ売れている、と言う感じだ。大量に調合するための道具を用意してあるため、庶民でもちょっと背伸びすれば手が出る値段で販売できているのも大きい。もっとも、屋台でカレーパンをできるほど大量かつ安価に出回っている訳ではないので、今のところ春菜の屋台が競合する事は無い。
因みに、買っていくのは当然料理人が一番多いが、その次に多いのは意外にも冒険者だったりする。野営の時に適当に調達した肉や草が、こいつをちょっと振りかけるだけで随分と食べやすい味になる、という理由である。同じ理由で、街から街へ移動することが多く野営の機会が少なくない仕事をしている人間には、非常によく売れているらしい。
なお、終わりが近いという理由で今日は全員で土木工事に赴いたが、基本的に新人達は三日ごとのローテーションでスラムの土壌改良工事に参加している。一人、もしくは二人が土木に行っている間、残りの人間が採集や調合を行うという流れで訓練を行い、全員カレー粉は問題なく、等級外ポーションも五分五分程度の精度で調合出来る技量を身につけつつある。
「ついでに言うと、カレー粉の調合自体は、ライムが一番活躍してるらしい」
「流石に宏君や澪ちゃんほどじゃないけど、計量が凄く早いんだよね。だからものすごくたくさん作れるんだよ」
「均等に混ぜる作業はテレスとノーラが頑張ってるんだけどな」
お手伝いできるというのがよほどうれしいのか、ライムはものすごい集中力と素晴らしいスピードで材料の計量を済ませる。記憶力も良く、分量を口頭で指示しただけでも一度も間違えた事は無い。もっとも指示が口頭なのは、読み書きがまだ不十分でメモを用意していても意味が無いのも原因だが。
「順調なのですね」
「うん。びっくりするほど順調」
「少なくとも俺達がファーレーンを出る頃には、等級外ポーションと各種調味料の注文はどうにかこなせそうらしい」
「そうですか」
アズマ工房が順調で、働く人みんながやりがいを感じているという表情を浮かべている事に、嬉しさと寂しさを感じてしまうエアリス。
「まあ、出ていくっつっても、後二カ月はかかるんだがな」
「たったの二カ月です」
「そうだね。今までだって、あっという間だったし」
着々と近付いてくる別れの時。その気配を感じ、寂しさと切なさを隠しきれないエアリスであった。
「何や、エル。まだ起きとったんか」
講義を終えてみかんの入った箱を持って上がってきた宏が、エアリスの存在に気がついて苦笑する。三十秒ほど遅れて入ってきた澪が、特に何もコメントせずに春菜の向かいに座る。
「ヒロシ様と、お話がしたかったんですよ」
「別に、明日も明後日もあるやん」
「それでも、そんなにたくさんの時間はありませんよ」
「まあ、それもそうか」
エアリスの反論にあっさり頷くと、箱から適当にみかんを取り出して、籠に盛る。
「やっぱり、こたつっちゅうたらみかんやで」
「だよね」
目の前に盛られたみかんを手に取り、宏の言葉に同意する春菜。柑橘類の種類が豊富なファーレーンでは、日本で年末ごろによく食べられる手のひらサイズで素手で皮がむけ、袋ごと食べられる甘い品種の物も普通に出回っている。
「こたつでみかんは幸せ……」
ほとんど条件反射と言う感じでみかんに手を伸ばした澪が、皮をむきながらしみじみと呟く。彼女がこの組み合わせを最後に体験してから、既に数年の時が流れている。もう二度と体験できないとあきらめていた事が、こちらに来てから次々とできるのは嬉しくもあり、複雑でもある。
「やっぱりそっちに行くんだな」
小さい炬燵の方に入った宏に、苦笑しながら突っ込む。天板に小さく「男性専用」と書かれているのが、逆に妙な肩身の狭さを感じさせる。籠が小さいのも、盛られたみかんの数が少ないのも、何とも言えずさびしい。
「そっちに入るん無理やて、分かっとるくせに」
「まあなあ」
そう言って、二つほどみかんをゲットして宏の方のこたつに移動する達也。
「で、テレス達は?」
「下の片づけしとる。そろそろ上がってくるんちゃう?」
噂をすれば影、入り口の方から声が聞こえ、テレス達三人が戸惑ったように部屋の中を覗き込んでいた。
「この部屋は土足厳禁やから、靴脱いで入ってきて」
「あ、はい」
「分かったのです」
言われた通り靴を脱ぎ、恐る恐る部屋に入ってくるテレスとノーラ。宏達の言葉だからか、レラは特に構える事無く入ってきている。
「折角だから、こたつに入ってよ」
「こたつ? このテーブルの事ですか?」
「そそ」
テレスの問いに答え、空いているところを適当に指し示す春菜。それに従い、見よう見まねで掛け布団をめくって足を突っ込む三人。エアリスと同じテーブルとか、本当にいいのだろうかと思わなくもないが、当人が自分の身分について何も言わず、彼女達の言葉遣いだとかそう言ったものに対しても特に何も言わないのだから問題ないのだろう、と割り切っている。
「こ、これはものすごく危険なのです……」
その暖房器具の危険性に、真っ先にノーラが気がつく。
「ここに一度入ってしまったら、自分の意志で出ていける気がしないのです……」
「暖かいですよね、このテーブル」
などと言いながら、春菜とエアリスにつられて、無意識にみかんに手を伸ばすノーラとテレス。
「あ、そうだ」
みかんの皮をむきながら、何かを思い出したように声を上げる春菜。その様子に、室内の視線が集まる。
「年越しそば、どうする?」
「あ~、そんな時期やなあ、確かに」
春菜の言葉に宏が応じる。別段こだわりがある訳ではないが、折角和室にこたつまであるのだから、年越しそばを食べるのもいいだろう。
「年越しそば、ですか?」
「そう。ボク達の故郷では、一年の最後の日にそばを食べる習慣がある」
「そのそばを、年越しそばって言うんだ。確か、何か言われがあるとは思うけど、私は聞いた事が無いかな」
「まあ、他のパターンから言うならば、新しい年も長くそばにいられる事を願って、ってとこじゃないのか?」
ファーレーンの人達を代表してのエアリスの質問に、日本人達が端的に答えを返す。日本の縁起物は、こういう語呂合わせのようなものが多い。日本に限らず縁起物と言うのはそういうものなのかもしれないが、日本の場合独特の習慣に語呂合わせが絡んでいる事も少なくないので、単純にそう言う語呂合わせや言葉遊びが好きな民族なのだろう。
「その話するんやったら、お節料理も考えなあかんやん」
「あ~、そうだよね。それもあるよね」
「まあ、レイっちとかエルとかマー君とかも来るんやったら、作っとくんもありやない?」
宏の言葉に頷く日本人達。地味な割に作るのに手間がかかるものも結構あるが、全体でみると彩り華やかなお節料理は、季節ものとして悪くない。
「因みに、お節料理って言うんは、新年の最初の三日ほどに食べる、ちょっと手の込んだ料理の事や」
聞かれる前に応えた宏の言葉に、納得の表情を浮かべるファーレーンの人達。
「この国で言うところの、モスレムと同じですね」
「モスレム? どんな料理?」
「小麦粉を練った生地でお肉をくるんだものと野菜をくるんだものを交互に串にさして焼いたもので、新年祭のときだけ食べるものです」
「料理自体はそんなに特別なものじゃないみたいだから、入ってる肉と野菜がポイント?」
春菜の問いかけに頷くエアリスとレラ。
「お肉はバルーナという動物のもので、一組の番で一年に一頭しか生まれない、ちょっと貴重な生き物です。平均で三度、長くても四度子供を産むと寿命を迎えるのですが、その時のお肉が一番美味しいのも不思議な生き物です」
「それ、よう絶滅せえへんなあ……」
「だから貴重で、新年祭のときに寿命が来たもののお肉しか食べないんですよ」
エアリスの説明を聞いての宏の突っ込み、それに対するレラの言葉にひどく納得する一同。因みに、見た目は牛と鳥のあいの子のような姿をしているが、別段キメラとかそういう類の生き物ではないらしい。そう言う哺乳類か鳥類か分類に困りそうな生き物が普通に居るあたり、さすがファンタジーと言ったところか。
「野菜は?」
「そちらはこれと言って特別なものは入っていません。ただ、この季節に取れるものがふんだんに使われるのが決まりみたいなものですね」
レラの解説に、割と真剣に聞き入っている春菜。地味にテレスとノーラも大真面目に聞いているあたり、彼女達も食には割と全力投球である。
「因みに、モスレムは新年祭のときに、国もしくは領主から住民に振舞われる料理です。領主が直接見回らないような小さな町や村では、新年祭のために共同でバルーナを飼育しているそうです。その費用も国費で賄われていますが、流石に伝統という事で、この件について文句を言う人はいませんね」
「この日ばかりは、私達のようなスラムの住民が城や広場に入っても、誰からも文句を言われません」
「なるほどなあ」
まだファーレーンに飛ばされてきてから半年に満たない事もあり、知らない文化や風習も山ほどある。自炊するのが早かった事もあり、地味にファーレーン料理もそれほどの種類を食べていない。
これは実は、非常にもったいない事をしているのではないか。図らずもそんな事を考える宏と春菜。相変わらず、こういうところは思考ルーチンが実によく似ている二人だ。
「そう言えば、モスレムを新年の最初の日に食べるのって、何か意味があるのか?」
「はい。役目を終えた古き命を食べる事で、過去の事を忘れることなく糧として新たな年を生きることを誓う、ある種の儀式のようなものです」
「なるほどな」
やはり、所変われば品変わる、と言うべきか。ファーレーンも歴史が古いだけに、節目節目に色々と独自の習慣がある。
「それやったら、新年祭の前夜祭で年越しそば食べて、年明けたらモスレムってのもええんちゃうか?」
「それも素敵ですね」
「何やったら、前夜祭の時にこっちに抜けて来れるんやったら、年越しそばぐらいは用意するで」
その宏の言葉に目を輝かせ、迷う事無く頷くエアリス。この時のやり取りがきっかけで、姫巫女が一年の最後の日に儀式の一環として年越しそばを食べる習慣が定着し、醤油やダシの定着とともに一般にも広がっていくのだが、流石にそんな未来の事は知る由もない宏であった。
「そういやさ、インスタントめんの製造関係って、結局どうするの?」
翌朝。結構遅くまで飲んでいたにもかかわらず、特に二日酔いの兆候も見せていないウワバミ女がそんな事を聞いてきた。
「流石に残り時間考えたら、そこまでは無理やで」
「あんただったら、製麺機ぐらいどうとでもなるんじゃないの?」
「そら確かに、インスタントラーメンの製造ラインぐらいはどうとでもなるけどな。予想される需要に対して最終的に供給があれな事になるから、多分えらい値段になると思うで」
「その前に、ライン一本作った程度だったら、王家に根こそぎ買い上げられそう」
「……それもそうね」
面白半分で騎士たちに食べさせた時の反応を思い出し、苦笑しながら澪の突っ込みに同意するしかない真琴。ファーレーンに限らずこの世界では、いわゆる携行食の発達は地球の歴史と比較しても遅いと言わざるを得ない。そのため、騎士たちの食いつきはものすごいものがあった。
なまじ腐敗防止のおかげでいつでも新鮮なものが食べられ、容量拡張のおかげで単位面積当たりの貯蔵量が大きいため、干物のような貯蔵や持ち運びに便利な食べ物の研究はあまり進んでいない。取り出してすぐ、もしくは軽く火であぶる程度で食べられるものなど、せいぜいパンとチーズ、肉の燻製ぐらいなものだ。
因みに、肉の燻製は保存食ではなく寄生虫対策で生まれたものだ。昔の焼き方がアバウトだった時代、表面を焦がさずに中まで火を通すのが難しく、生焼けの肉を食べては寄生虫にやられていた人間が少なくなかった頃に、その被害をなくすために虫を追い出そうと煙でいぶしたのがこの世界の燻製肉の始まりである。
「そもそも、ラインだけ作っても新製品の開発とかできへんから、やっぱりちゃんと製法マスターした人間はいるで」
「新製品、ねえ」
これまた納得するしかない意見ではある。自分達が知っている限りで、現時点で存在するインスタントラーメンは袋二種にカップ二種。しばらくは物珍しさや利便性で売れるだろうが、定着してしまうと飽きられかねない程度のラインナップしかない。それでも利便性などで一部の層には売れ続けるだろうが、向こうの世界ほどの広がりは見せないのではないか、と言う懸念は残るレベルだ。
「そういや、ヒロは新しい奴、作ってねえのか?」
「カップのそばとうどん、それからカップ焼きそばをそれぞれ二種類ほど作ったけど?」
「定番だな」
朝食に出されたカップに入ったスープを飲みながら、宏と達也の会話を聞くとはなしに聞いていたエアリス。新製品、それも焼きそばと言う単語に、好奇心いっぱいの瞳を向ける。
「カップ焼きそば、ですか?」
「そこに食いつくのか」
妙なところに食いついたエアリスに、思わず苦笑する達也。そばでは無く焼きそば、と言うところが目の付け所が違う。
「あの、焼きそばとは、鉄板の上で肉と野菜と麺を炒めて、お好み焼きに使うソースで味付けしたものでしたよね?」
「せやで」
「それをインスタントめんで再現するというのは、どういう感じになるのでしょう?」
エアリスの質問に、テレス達も興味津々と言った感じで宏の方を見ている。
「実演するんが早いとは思うけど、朝からそんなには食えんやろう?」
「……残念です」
「いや、昼に食べたらええやん」
「いいんですか!?」
「カップめんで満足できるんやったら、別にかまへんで」
宏の言葉に、満面の笑みを浮かべるエアリス。時折ドキリとするほど色っぽい表情を見せるようになった彼女だが、こういうところは全力で子供だ。
「それはそれとして、新年祭はどうする?」
「とりあえず、前夜祭は工房全体で屋台出すつもりで申請はしてきてるよ。ちゃんと大きい屋台を調達してるし」
真琴の問いかけに春菜が答える。今までは基本的に春菜一人で売り子をやっていたため、屋台で用意できる料理の数も量も知れていた。だが、テレスとノーラにファムのバックアップも期待できる今回は、もう少しいろいろ手を広げてもよさそうだと宏と色々企画を練っている。
「因みに、なにを売るつもりだ?」
「カレーパンと各種揚げ物はまあ定番として、おでんとたこ焼き、お好み焼きもありかなって思ってる」
「また、手を広げるわねえ……」
「当然、真琴さんと澪ちゃんも売り子やってもらうつもりだから」
春菜の言葉に、微妙にひきつった顔を浮かべる二人。
「あの、ハルナさん」
「何?」
「ノーラとテレスは、一体どんな事をすればいいのですか?」
「お好み焼き担当かな? たこ焼きは澪ちゃんの担当だし、揚げ物はまだ揚げ加減の見切りが上手く出来ないと思うし、お好み焼きはちょっと練習すれば普通に焼けると思うから」
ノーラの質問に答え、あっさり担当を振る春菜。因みに今回、お好み焼きは平たい串を生地で挟むようにして焼く事で、箸を使わずとも食べられるようにする予定だ。焼きそばが無いのは、箸が使えるのが現状、王族の一部とこの工房の人間ぐらいしかいないからである。
「後、余裕があれば肉まんなんかも出したいんだけど、出来そう?」
「仕込みの方はまあ、問題あらへんで。量ったり混ぜたりするんは、ライムが居ればどうとでもなるし」
「了解。じゃあ、そっちを達也さんと真琴さんにお願いかな?」
「あたしに蒸し加減を判断しろとか、なかなかチャレンジャーね」
「そこは、道具でどうにかするんがこのチームのクオリティや」
と、文化祭か何かのノリで企画を詰めていく一同に、どことなく悔しそうな顔をするエアリス。
「親方、エルが何だか悔しそうなのです」
「エルさん、どうかしましたか?」
「いえ、皆さんがすごく楽しそうなのに、どう頑張ってもおそばを食べに来るぐらいの時間しか抜けてこれないのが寂しいというか……」
エアリスの、本当に悔しそうな顔に苦笑するしかない一同。手伝いは論外にしても、せめて屋台に買い物には来たかった。そう全身で主張しているエアリスが、非常に微笑ましく感じてしまう。
「まあ、自分は役割が役割やからなあ」
「分かってはいるのですが……」
基本的にもの分かりがいいエアリスだが、まだまだ子供に分類される年齢である。やはりこういう好奇心は押さえられないし、人が楽しそうにしているところに自分だけ入っていけないというのはなかなか苦痛だろう。
なお、ライムを除く下っ端連中は、エアリスがこんなところに出入りするのが不自然なほど高位の貴族、下手をすれば王族かもしれないと言う事を昨日と今日できっちり悟っているが、賢明にも本人が打ち明け話をするまでは気がつかないふりをし、彼女が遊びに来た事は外に漏らさないと固く決意していたりする。理由は簡単、恩人に対する忠誠心に加えて、我が身がとても可愛いからだ。
「もうしばらくしたら、エルちゃんの方もあれこれ落ち着きそうなんでしょう?」
「はい」
「だったら、その時に一緒に遊びに行こう。考えてみれば、私達もウルスの観光名所とか、全然見にいってないんだよね」
春菜の日本人的発想に、思いっきり呆れたような顔をするテレスとノーラ。宏達も苦笑しか出ない。
「そもそも各国の首都など、普通は観光などするものではないのです」
「あの、ノーラ。それ以前に、観光のために旅行する人間自体、余程でない限りそんな人数はいません」
「ノーラは微妙に観光目的交じりでうろうろしていたのですが?」
「だったら、ノーラが私に突っ込むのっておかしくない?」
「おかしくないのです」
面の皮が分厚いウサギ人間、ノーラ・モーラ。妙に口が回るのが非常に面倒くさい。
「あ、あの、ファーレーンは結構観光旅行も盛んな国ですので……」
「そうなんですか?」
「はい。ファーレーンは交通機関が結構発達していまして、少なくともウルスの中産階級なら、その気になって休みを作ればカルザスやメリージュ、その周辺の各都市ぐらいに遊びに行くのは金銭的にはそれほど難しい事ではありません」
帝王学の授業で教わった通りの内容を解説するエアリスに、感心したような表情を浮かべる一同。
「とは言え、皆さんの場合は、そんな一念発起して観光、と言う程度の話ではないんですよね……」
「ん~。まあ、残り時間が少ないのは確かだけど、ウルスを出ていく前に一度は遊びに行けると思うから」
「はい!」
そんな風にエアリスをなだめる春菜。こうして、とりあえず新年祭がらみでちょっとピリピリしていたエアリスは、上手い具合に気分転換が出来たのであった。
なお、カップ焼きそばは蓋が糊で張り付けられている平べったくて丸い容器の未確認飛行物体な名称のものではなく、大体それと対の扱いをされる事が多い、大阪あたりでは二食分を超大盛りとしてコンビニなどで売っている以外はあまり見かけない方を食べようとしたため、
「熱っ!あっ……」
カップ焼きそば初心者がやりがちなミスをして湯きりの時に中身を全滅させてしまい、しょんぼりする事になってしまうエアリスであった。
なお、余談ながら……。
『仕入れた材料、もう空やで』
「こっちも、カレーパンとたこ焼きは終わったよ」
「お好み焼きの生地が切れたのです」
「おでん、最後の卵と昆布が売れたわよ」
「揚げ物、あと一品」
「肉まん、終わりました」
新年祭前夜の客足の前にはたかが工房一軒が用意した材料程度では全くの無力で、日が落ちるまでには全ての料理が終わってしまう。予想より早くに終わってしまったので、せっかくだからと祭りを冷やかして帰った春菜たちは
「思ったより早かったな」
「お帰りなさい」
どてらを羽織ってコタツに入り、年越しそばを食べているレイオットとエアリスを見ることになるのはまた別の話である。