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フェアリーテイル・クロニクル ~空気読まない異世界ライフ~ 作者:埴輪星人

ファーレーン編

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第1話

「それで、これからどうする?」

「これから、とは?」

「お金がどうとか、そう言う目先の事じゃなくて、この先どうするかって言う事」

「ああ、そうやな……」

 昨日は現実逃避的にひたすら鞄やら何やらを作る方に専念してしまったが、そもそも当てもなくうろうろするだけ、と言うのはあまりにも情けない。いい加減、現実を直視して、すべきことを考えねばならない。

「まあ、最終目的は日本に帰ることでええとして、そのためにどうやって情報とかその他もろもろを集めるか、やな」

 手元の石を必死になってすり合わせながらの宏の言葉に、一つ小さく頷く春菜。

「とりあえず、情報を集めるにしても、まずは街に入らないと駄目だよね」

「せやねんけど、中に入るのに税金取られへんとも限らんわけで、せめて少しは金目のもんを用意しとかんと……」

「それは、直接話をして確認してからでもいいんじゃないかな?」

「それでもええんやけど、その前にこのへんの内臓はポーションに加工してまいたいねんわ。この手の素材って、ゲーム中でも時間経過で腐っとったし」

 そう言って宏は、昨日ばらした熊の内臓をいくつか指さす。因みに、解体の時のグロテスクな光景を見て気持ち悪くならなかったのは、ゲーム中で誰もがマスターするであろう解体スキルの恩恵らしい。

「何が作れるの?」

「レベル3の特殊ポーションや。レベル5の各種ポーションにも使えん事はないんやけど、入れる瓶を作る材料があらへんし、それにどうもここらでは、ええとこレベル3のポーションぐらいまでしか材料が無さそうやから、特殊ポーションに回す事にしてん」

「特殊ポーションって、どんなのが作れるの?」

「一定ラインより上の強さを持つ熊とか狼の心臓でストレングスポーション、肝臓でバイタリティポーション、後熊の場合、胃袋から毒消しがいけるかな?」

「一定ラインって、バーサークベアでいけるんだ?」

「熊系は他の動物に比べると、比較的薬の材料に向いてる事が多くてな。まあ、一口に材料言うても結構幅があって、例えばレベル2ポーションやったら基本で五種類ぐらい、応用やとさらに倍、言う感じで材料の組み合わせがあるんや。そこにオリジナル調合で調整入れる分も含んだら、それこそ数えきれんほどのバリエーションがあるし」

 何ともアバウトな発言に、それでいいのかと問い詰めそうになる春菜。それを察したのか、補足説明を入れる事にする宏。

「まあ、言うたら同じような効果を持つ薬を、全部まとめてレベル2ポーションと呼んでるだけやろうと思うで。現実でも、そう言うケースは結構あるやろ?」

「ん~、それはそうかもしれないね。で、さっきから何を作ってるの?」

「即席の乳鉢。これがないと瓶が作られへんから」

「さっきから思ってたんだけど、同じような石同士をすり合わせて、どうして大きい方の石だけ削れるの?」

「ああ。簡易エンチャントで小石の方を強くしてるから。因みにエンチャント中級を習得済みでかつ、道具製造もしくはクラフトスキルの中級以降からできるようになるやり方や」

 知らなかった生産関係の情報をいろいろ教えてもらって、感心したようになるほどなるほどと呟く春菜。熊を解体した時にいろいろ知らない素材を集めていたから、上級の生産に届いているのは分かっていたが、ここまでいろんな事が出来るとは思わなかった。

「いろいろ出来るんだね」

「と言うかむしろ、いろいろ出来へんと熟練度が上がらへんから」

「大変そう……」

「生産は慣れと諦めと惰性やで」

 そんな事を言いながらも、ややいびつながら、実用に耐える程度の形の乳鉢を完成させる。

「それで、藤堂さんは採取とかどの程度やってる?」

「初級の熟練度十五ぐらいまで。そこで折れて町をぶらぶらする方に行っちゃったから」

「要するに普通ぐらいか」

「うん、普通ぐらい。ごめんね」

「いやいや。みんながみんな中級とか上級とかまでいっとったら、僕の存在意義はあらへんやん」

「そうだね。それに料理と歌は、確実に私の方がうまいみたいだし」

 春菜の言葉にそらそうやと返し、脇にそれかかった会話を元に戻す。

「ほな、悪いんやけど、材料集めちょっと手伝ってもろてええ? とりあえず採れるやつでええし、そんなにようさんはいらんから」

「了解。でも、大して練習してないから、あんまり期待しないでね」

「どうせようさん集めても持ち歩かれへんし、しんどくない範囲でええで」

「うん」

 宏の言葉に軽く手を振り、適当な茂みの方に歩いていく。そんな春菜を見送った後、

「ほな、いっちょ気合入れて頑張ろうか」

 軽く体をほぐすように動いて、自分が言い出した作業に入るのであった。







 ざっと穴を掘って適当な石を積み上げ、かまどを作り上げる。その後、河原で石を選別して集め、乳鉢で砕いてガラスの材料をより分ける作業を延々と続ける。ある程度の分量を用意し終えたところで、かまどに何やら処理をした薪を大量に突っ込み、単なる薪燃料としてはあり得ない火力の火を起こす。

 そのまま即席のかまどでガラスの精製を行い、形を整えて三十本ほど瓶を作り上げ、野営地周辺の植物系素材を獲れるだけ集めたあたりで、ばてばてです、と言う顔の春菜が、両手で抱え込める限界の量の草や葉っぱを持ってくる。

「こんなもんで、ってガラス瓶がある!!」

「ちょうど今できたところやで」

「作ってるとこ、見たかったのに~」

「それはまた今度っちゅうことで。ついでに鍋も作っといたから、さっさと薬作ってまうわ」

 そう言って、材料をすりつぶしたり混ぜたりと怪しげな作業を続け、鍋で煮込んだものを瓶に詰めていく。

「結構作れるんだ」

「そら、葉っぱとかはともかく、心臓とかがあんだけのかさでこんな小瓶一本とかいうたら、普通に暴動起こるで」

 そんな事を言いながら、三種類のポーションを各十本ずつ作りあげ、さすがに疲れたと言う感じで座り込む宏。

「お疲れさま」

「さすがに道具まで一から作るんはきくわ……」

「私だったら、絶対途中で挫折してるよ」

「と言うか、やりながら思ってんけど、さっきの口ぶりからしたら、自分歌唱スキル高いんやろ?」

「エクストラスキルがあるから、低いとは口が裂けても言えないかな?」

 エクストラスキル、と聞いて、感心したような表情を浮かべる宏。それを見て、今まで持っていた疑問に対して、ある確信を持つ春菜。だが、それを問い詰めるのは後回しにして、宏の言いたい事を最後まで聞く事にする。

 因みに、エクストラスキルと言うのは、特定の条件を満たした上で、専用のクエストをクリアすることで得られる、人知を超えた性能を持つスキルの事だ。古の英雄の必殺技からどんな攻撃も無効化する防御法、果ては神に捧げる舞踏まで幅広く存在するが、共通するのはクエストの発生条件がいまいちはっきりしていない、と言う事と、持っているだけでいろいろとシャレにならない補正がある、ということだろう。

「エクストラスキルまであるんやったら、なおの事こんなところでしこしこ鞄とかポーションとか作ってんと、何とか門番だまくらかして中に入って、広場で一曲歌ってもらった方が早かったかもしれへんなあ、と思って」

「でも、鞄とかなしに歌でお金稼いでも、そんなに持ち運べないよね?」

「まあ、そらそうやわな」

「それに、ポーションも心臓とかが腐るからもったいない、って観点だから、無駄にはならない、と思うけどどうかな?」

「そう言えば、ポーションってそういう理由で作っとったな。なんか、カル○ス作るのに牛育てるところから始めるような作業手順やったもんで、すっかり忘れとったわ」

 的確ながら、あまりにあまりな比喩に噴き出す春菜に苦笑を返し、とりあえず完成品を一本渡しておく。

「とりあえず、バイタリティポーション渡しとくわ。藤堂さん、感じから言うて力技は得意やなさそうやし」

「この手のポーションは使った事がないんだけど、どんな感じ?」

「ゲーム的には、十二時間ほど耐久値にボーナス補正がつくドリンクやな。味は保証できへんけど、少なくとも作るのに失敗はしてへんから効果はあるはずや」

「十二時間って、また長いね」

「フルに効果があるんは、飲んでからせいぜい三時間やけどな。徐々に効果が薄なって行って、六時間から九時間で申し訳程度になって、十二時間で完全に切れるねん」

「なんか、あのゲームそんなところまで無駄にリアルなんだ……」

「無駄にリアルやねん。まあ、飲み合わせの干渉まではなかったみたいやから、また今度マジックポーションとかも作るわ」

 春菜がどちらかと言えば魔法系のスキルに偏っているらしいと判断し、そんな事を告げる。

「うん、お願い。でね、東君」

「なに?」

「そろそろ、お互いに手持ちのカードを全部見せあわない?」

「手持ちのカード?」

「うん。どんなスキルをどのぐらいの熟練度で持ってたか、とか、今何レベルぐらいでグランドクエストをどのぐらい進めてたか、とかね」

 春菜の提案に、少し視線を泳がせて考え込む。

「悪いんやけど、ステータス画面見んと正確な数字が分からへん」

「大体でいいよ。私だって、自分のステータスも細かいスキルも覚えてないし」

 これが現実だと確信した理由の一つが、ゲームの能力を使えるくせに、ステータスの参照が出来ない事である。ゲームで取ったスキルに関しては、どうやって使ってどのぐらい疲れてどの程度の効果があると言うのを何となく体が覚えているため実用上は問題ないのだが、ゲームの時に最大まで鍛えたもの以外は、今現在どのぐらいと数字で言えないのが不便ではある。

「ん~……」

「東君が、何を気にしてるのかは分からないけど、少なくともこれからしばらくは、私達は運命共同体なんだよ?」

「せやなあ……。まあ、いろいろ作った後やから、今更言うたら今更か。それに、藤堂さんは大丈夫かな……」

「大丈夫、って?」

「昔な、生産関係でいろいろあったんよ。ちょうど休止期間やったから、僕自身は直接関わってへんけど、そのいろいろの絡みで一人、ゲーム自体を続けられへんなったし、嫌気さして生産やめたとかゲーム引退したとかもようさん出たしで、僕も含む職人連中は、自分のスキル開示に一般人より慎重やねん。さっきまでは緊急事態にテンパっとって、ちょっと不用心に作りすぎた感じやけど、な」

 いろいろあった、という内容をなんとなく察して、ごめんと一つ謝る春菜。生産スキルが高い人間の噂をほとんど聞かない理由を、この時初めて実感として理解したのだ。彼女が知っているのは、高校受験の最中に何かあったらしい、というそれだけである。

「とりあえず、藤堂さんは生産スキルどんだけあるか知ってる?」

「え? えっと、確か……。素材関係が採掘、採取、伐採でしょ? そこから派生の一次加工が精錬、紡織、木工、クラフトだったかな? で、最終製品にするのが鍛冶、裁縫、錬金、製薬、道具製造だったっけ?」

「大体そんなとこやな。因みに付け加えると、その他に大工、家具製造、造船、土木、アクセサリ作成があって、分類上は生産に入るんが料理、釣り、エンチャント、農業やな」

「料理はともかく、釣りとエンチャントも生産に入るんだ……」

「入るねん。まあ、エンチャントは、魔法系にも分類されとるから、魔法熟練の影響も受けるけどな」

 こうして見ると、生産と言うか製造スキルと言うのも実に種類が多い。そもそもアクセサリはともかく、大工とか土木、造船などは、春菜にとっては今初めて聞いたスキルだ。因みに、これらのスキルのうち、釣りと料理はランク分けが無く、その分最大熟練度が高い。

「で、僕がカンストしてへん製造スキルは、料理、釣り、農業、土木の四つで、エクストラスキルを取れてないんがそれプラスエンチャントと家具製造」

「……はあ!?」

「驚く事はあれへん。一次加工までは、普通に上級生産まで届いたら必然的にカンストするタイプのスキルやし、それに製造とか生活系のスキルは初級の熟練度七十を突破したら、一回のログアウトで一種類だけやけど、材料なしでもログアウト中にある程度勝手に上がるし」

「それでも、いくらなんでも信じられないよ……」

 春菜の表情に苦笑し、他のからくりを説明してやる事にする。

「藤堂さんがどう思ってるかは知らへんけど、生産スキルって実は、格上狩りをしてる時の攻撃スキルを除けば、熟練度を上げるための累積作業時間が一番短い系統やねんで。ただただ単純に、作業以外の要素が煩雑でシビアなだけで、材料関係の問題が解決すれば、結構上級って上がるん早いねん。それに、一部除いて、ほとんど全部並行で育てへんと、材料が揃わへんし」

「それでも、ねえ……」

「他にもからくりがあってな。初級生産スキル全部を五十まで上げると、メイキングマスタリーって言う、作業時間および作業負荷軽減と成功率上昇、材料の歩留まり向上、採集時の材料増量の効果があるスキルを覚えられるねん。これを覚えると、熟練度向上のための試行回数が跳ね上がるから、ものすごくスキル上げがやりやすくなるんや」

「そんなスキルがあったんだ……」

「あんまり知られてへんって言うか、職人連中でも、知らんかって取りそこなって中級を突破できんかった奴がおるし。因みに、これ取って大体二年あれば、材料集めの狩りに付き合ってくれる身内がおるって条件で、藤堂さんが上げたスキルぐらいは全部上級カンストできるで」

 その話と取得条件を聞いて、何ともまあ本末転倒なスキルだと呆れるしかない春菜。一番きつい時期に役に立たないあたり、非常に悪意を感じる仕様である。因みに宏は、生産職人同士の横のつながりで、採取系を除くなにがしかのエクストラスキルを習得している人間は四十人いる事を把握しているが、そのうち彼を含む十五人が、一般的な生産スキルを全て上限まで上げきっている。さらに言うならば、エクストラスキル習得数こそ宏が職人中トップだが、エクストラスキル以外の生産スキルを全てマスターしている猛者が一人、宏よりも多い数の一般生産スキルをマスターしたうえで、エンチャントや土木のエクストラを持っている人間も一人いる。

 要するに、このゲームの生産は、上位に行くほど作業そのものは楽になるのだ。

「本末転倒やって思うやろ? でも、これを簡単に習得出来たら、今度生産が楽になりすぎるんちゃうか、って気もするから、こんなもんでええんちゃう?」

「そうかもしれないけど……」

「まあ、そう思っといてくれた方がありがたいかな。で、最後のからくりやけど、大工、造船、土木、農業、釣りの五つは、放置の効率が他より大きく設定されてるねん」

「そうなの?」

「うん。特に大工、造船、土木は、中級あたりから普通にゲーム内時間で連続五日とかかかる仕様やから、このへんのスキルは例外的に、放置の経過時間がリアルやなくてゲーム内時間で判定されるようになってんねん。それに、他のスキルに比べて試行回数が少なくても熟練度上がるし」

 言われて納得する春菜。因みに、フェアリーテイル・クロニクルでは、ゲーム内時間四時間で現実の一時間である。そして、例に上がったもの以外は、作業時間を現実の経過時間に合わせた上、熟練度やメイキングマスタリーに応じた補正をかけるようになっているため、製薬上級などを放置で上げようとすると、一年やそこらの放置ではマスターできない。

 いろいろと楽になる仕様がこっそり仕込まれている生産関連だが、結局VRシステム自体に組み込まれた接続時間制限の四時間、ゲーム内で十六時間を、スタミナやMPの回復時間以外全て採集や加工に投入できる精神構造をしていなければ、とても上級には到達できない。逆に言えば、それが出来てちゃんと情報を持っているのであれば、たとえ高校生であっても、五年で宏ぐらいの領域に到達することは可能な、良くも悪くも単純な積み重ねが全てという仕様になっているのである。

「因みに、土木と大工は高校受験の頃、何件かギルドとかNPCの城作る仕事を引き受けて育ててん。これやったら一カ月に一回覗くだけでええし、付属の施設までパッケージで一括で作ってくれるから、ほっといてもガンガン上がるしな。それに、城とか家作るときだけ、整地とかの土木作業と築城作業をワンセットで指定できるねん」

 宏が受験に入る前は、まだ職人がらみのトラブルは発生していなかった。そのため、こういった依頼を受けて物を作る余地はあったのだ。多分、今ではそこまで楽にあげる事は出来ないだろう。

「お城まで作れるんだ……」

「作れんねん。物凄い時間かかる上に、メイキングマスタリーでも大して期限が短くならへんけど、その代わり、関連施設抜きでも十とか二十とか平気で上がりおる」

「船も似たようなやり方でカンスト?」

「うん。これまた高校受験の後半ぐらいにな。こっちはNPCから受けた船団製造クエストで上げた他、城作らせてもろた知り合いのギルドが冗談で軍艦作る、言いだしたからそれに便乗して作ったりとか」

 予想以上に奥の深い話に、自分の楽しみ方が浅かったと思い知る春菜。そんな面白そうなクエストが転がっていたとか、不覚にもほどがある。

「で、エクストラスキルは、鍛冶をカンストした時に、いろいろやってて仲良くなったNPCから変なクエスト引き受けて、そのまま指示に従ってうろうろしとったら神殿の前で見たことない材料で武器作れ、言われて、製造に成功したら『神の武器』って言うスキルが追加されて、もしかしてと思っていろんなところに顔出したら、同じ流れであれこれ覚えてん」

「あ~、私が取った時と似たような流れ。因みに私のは『神の歌』だった」

「他にも、腰蓑と草の鎧簡易版を作ったった自称キ○キ○ダンサーが、『神の舞踊』ってスキルをゲットしてるらしいで」

「この分だと、他の生活スキルも似たような感じかな?」

「全部が全部、そうでもないやろうけど、少なくとも二次生産は大体が『神のなんとか』やと思うわ」

 因みに、生活スキルに関しては、他にも演劇、演芸、楽器演奏、洗濯、調教、交渉、商売など幅広く存在するが、その効能はピンキリである。中には全員大工と演劇、演芸スキルを持つ劇団ギルドなどもあり、宏は一度、彼らと一緒にド○フばりのコントのセットを作る手伝いをした事がある。そんなものまで作れる柔軟さに、フェアリーテイルクロニクルの奥の深さをしみじみとかみしめたものだ。

 なお、生活スキルのほとんどはランク分けが無く、その分最大熟練度が高い仕様になっている。とはいえ、戦闘スキルと違って最大まで育てる人は少なく、またエクストラスキルが存在しないであろうものも多い。

「まあ、とりあえず僕の手札はこんなところかな? 戦闘スキルはせいぜい基本攻撃と挑発が上級、スマッシュが辛うじて折り返してるぐらいで、他は全部初級やし」

「魔法は?」

「そこまで手が出えへんかったから、生産の時に役に立つ生活系魔法とか生産用魔法とか以外は触ってへん」

「そっか、了解。でも、それだけエクストラスキルを持ってたら、パラメーターはすごい事になってるんじゃないかな?」

「耐久と精神とスタミナはすごいで。他はまあ、レベル相応やと思うけど。因みに、グランドクエスト第一章クリア済みで、レベルは百二十四や」

 レベルを聞いて、二度びっくりする。案外高い。因みに、耐久と精神とスタミナが凄い、と言う理由は簡単で、何故か生産スキルはどれもこれも、それこそエンチャントや料理ですら、必ず耐久と精神が上がるのである。しかも、序盤のマゾさを超えさせるための餌だからか、結構補正量も大きい。

 キャラクターレベルには上限が設定されていないが、グランドクエスト第一章をクリアするまでは百が上限である。とはいえ、難関で有名なグランドクエストも第一章までは大したものではなく、普通にやればさほど詰まることなくクリアできる。そのため、ほとんどの人間が百から二百レベルの間に居る。ただし、生産スキルでは一切キャラクターレベルが上がらないため、基本的にそれほどレベルは高くない。春菜の友人も製薬の初級をマスターしたところで挫折したのだが、その時点で春菜とは四十ぐらいレベル差がついていた。

「結構高いやろ? 材料集めでそれなりにダンジョンに潜ってるから、自然と上がってくるねん。因みに、基本的に前衛、っちゅうか壁役がメインやから、挑発と基本攻撃が上がってるねん」

「珍しいと思ったら、そういうこと。でも、それだったら私としては結構やりやすいかも」

「ほほう? と言う事は、藤堂さんはやっぱり後衛タイプ?」

「後衛って言うか、遊撃かな。補助魔法とか状態異常、いわゆるバフスキルとデバフがメインのバランスタイプ。各種バフは、エクストラ以外では最高性能のやつまで覚えてるよ。レベルは百五十三」

「ふむふむ。熟練度はどんなもん?」

「女神の加護だけ最大。他は七割ぐらいかな? 状態異常は全部折り返したところ」

「そらまたすごいなあ」

 一般に知られている補助魔法のうち、最も強力なものをマスターしていると聞いて、ひどく感心してしまう宏。補助魔法は熟練度が伸びる条件が特殊で案外育てにくく、しかもパーティでの寄与度が低くカウントされるため、熟練度はともかく、キャラクター経験値に反映されにくい。その上けっこうMP消費も大きく、複数使う必要が出てくる事もあって、途中で切るプレイヤーも多い。生産ほど不遇ではないが、システム的には性能以外の面で結構扱いが悪いスキル系統なのだ。当然、キャラクター経験値は入らない。

 格上を殴ると熟練度上昇が早くなる攻撃系スキルや、大ダメージを回復すると成長が早い回復スキルと違い、補助魔法は上りが一律だ。そんなところも、パーティでの重要度の割に育っているプレイヤーが少ない原因である。すべてのスキルにおいて、熟練度が上がって効果が強くなっても、基礎消費が小さくなる事はあっても増える事はないのは、補助魔法を育てる上での数少ない救いであろう。そのため、普通に戦闘が出来てかつ熟練度の高い補助魔法を使える人物は回復役以上に需要が多く、ドロップ品なども優先的に回してもらえる事が多い。

「後は回復が女神の癒しを折り返したぐらいまで、攻撃は中級攻撃魔法各種と中級魔法剣をいくつかMAXにしてる。得意な武器系統は細剣系かな?」

「手数と手札の枚数で勝負するタイプか。ほんまにバランス型やね」

「うん。かっこいいからこのスタイルにしろって言われて、おだてられてね」

 春菜の照れの入った苦笑に、彼女でもお調子者みたいな事をするのか、と目の前の綺麗どころの評価を改める。確かに見栄えとしては、レイピアでの魔法剣を主体とした、手数と手札の枚数で華麗に相手を圧倒するスタイルが良く似合う女性だが、クラスで見た性格としては、むしろ足止めと状態異常を多用して、堅実に地味に仕留めるタイプかと思っていた。

 なお、フェアリーテイル・クロニクルの戦闘系スキルと魔法系スキルは、ゲーム中最も多くの種類を持っている。そのうち、スキルが初級、中級、上級と分かれているのは基本攻撃と基本射撃、各種武器スキルと魔法修練だけである。それ以外の、いわゆる技に分類されるものは、取得条件を満たすと上位の強力な技を覚えられる仕組みになっていて、それがランク分けの代わりになっているのだ。その取得条件はランク分けされているものと違い、必ずしも下級スキルをマスターする必要がある訳ではない。

 技や魔法の覚え方は、条件を満たした上でNPCから教えてもらうのが基本だが、自分で編み出す、文献などから復刻する、プレイヤーから教えてもらう、などの方法でも可能である。ただし、自分で編み出すのは恐ろしく難しく、知られている限りではレベルが上位三人のプレイヤーが一つ二つ編み出した程度である。そのうち一つがエクストラスキルだったという噂だが、真偽の程は定かではない。

 因みに補足しておくと、ランク分けのない生産・生活スキルは熟練度五百で、それ以外のスキルは熟練度百でマスターとなる。

「後は、細かいスキルいろいろと、歌唱のエクストラスキルと、料理をマスター、かな?」

「歌唱のエクストラがあるんやったら、呪歌とかは使わへんの?」

「あれ、範囲が広すぎる上に対象の識別ができないから、使い勝手が悪いんだ……」

「そっか。そう言えばキ○キ○ダンサーも、特殊舞踏は見てる人間全員巻き込むから使い勝手悪い、って言うとったわ」

 とにもかくにも、無駄なところでリアリティを追求するゲーム、フェアリーテイル・クロニクル。おかげさまで死にスキルも多い。歌唱も舞踏もエクストラスキルまで存在すると言うのに、実質単にNPCからおひねりを巻き上げるためだけのスキルになり下がっている。

「とりあえず、私の手札はこんなものかな?」

「ってことは、なんかあった時は熊の場合と同じように、僕が相手を抑え込んでる間に藤堂さんが始末、言うところかな?」

「そうだね。痛い仕事を押し付けて悪いけど、お願いね」

「了解。まあ、藤堂さんみたいな美少女が殴られるよりは、僕みたいな地味なんが殴られる方がええやろう」

「美人かどうかは置いといて、そろそろ少女って年じゃないと思うんだ、私」

 春菜の指摘に少し考え込む宏。

「高校三年生とか大学一年生って、微妙に表現に困る年代やと思わへん?」

「そうだよね」

「……まあ、難しい事は置いといて、食べるもん調達しよか?」

「……そうしよっか?」

 それた話に見切りをつけ、とりあえず目先の問題を解決する事にした二人であった。







「意外と街まで距離あるなあ……」

「だよね」

 翌日、二日間お世話になった野営地を片付け、街を目指して移動を始める二人。そう、二日間である。なんと彼らは、屋根も碌にない雨ざらしの土地で、二日も生活していたのだ。鞄を作ってなお、二人分の敷き毛布代わりになる大きさの熊の毛皮があったとはいえ、実にのんきな話だ。

 結局あの後、移動するには時間が微妙だと言う事になり、だったらガラス瓶作ってるところ見たいからもっとポーション作って、と言う春菜のわがままに応え、手頃なレベル2ポーション各種を気力が持つ限界まで作る羽目になったのだ。まあ、道具類は揃っていたので、最初の特殊ポーションよりは楽に数を作れたのだが。

 因みに、こんなラフな作り方でもレベル4から下のポーションぐらいは失敗しないのは、どうやらエクストラスキル「神酒製造」と「神薬製造」の恩恵らしいのだが、確証を得られないので黙っていた宏である。

「まあ、考えてみれば、バーサークベアがおるぐらいやから、町から結構離れてるんはしょうがないか」

「二人揃って、変なところに落とされたよね~」

「ほんまや」

 とりあえず、あいまいな記憶を頼りに街を探すため、ある程度人が通っていると思われる小さな道を歩く。決して街道のように整備はされていないが、獣道と言うほど頼りなくもない。言うまでもなく、宏は春菜と過剰に距離を取っている。

 あたりは森と言うほど鬱蒼としているわけではないが、草原と言うほど開けているわけでもない。地形や植生、生き物の分布から、ファーレーンの首都ウルスの近郊だろう、と言う予想までは二人の間で一致したものの、じゃあ、どっちに行けばいいのかと言うあたりで意見が食い違い、とりあえずバーサークベアがいたのと反対方向に行こう、ということで落ち着いたのだ。何しろ、そっちに行けば本格的に森の中に入る羽目になる。

 なお、ウルスはゲームのスタート地点で、βテストの頃から実装されていたゲーム最古の地域である。βテストでは、十分以上に広いファーレーン全域が実装されており、結局テスト中に全てを見る事はかなわなかったという話だ。

「あれ、街道じゃないかな?」

「それっぽいなあ。次はどっちに行くか、やけど……」

「看板とかもなさそうだよね……」

 ある意味当然と言えば当然だが、このわき道がどこにつながっているか、などと言うのを記す看板はどこにもなかった。昔このあたりでよく草むしりをしていた覚えのある宏でも、その手の看板の見覚えはない。もう五年近く前の記憶なのでうろ覚えだが、確かこのわき道は、付近に住む住民や冒険者が薬の材料を集めるために良く入る道であり、その先の森も似たような土地だったはずである。

「どっちやったかなあ……」

 広い街道の真ん中付近まで出ると、とりあえず手掛かりになるようなものがないかを探す。

「藤堂さん、覚えてない?」

「全然。私、このあたりを歩いたのってもう四年以上前だし、ウルス自体、二年ぐらい来てないし」

「僕も似たようなもんやからなあ。ずっと辺境で引きこもりやっとったし。ウルス自体にはクエスト漁りにとかで去年ぐらいまで結構来てんねんけど、基本外に出る必要なかったしなあ……」

「私は拠点がダールだったから、このあたりの土地勘はもう、全然なくなってる」

 お互いにため息をつきあう。誰か人がいれば、どっちに行けばいいかぐらいは分かるのだが、悪い事に人通りが全くない。普通なら隊商などが行き来しているはずだが、どうやら丁度タイミング的に空白の時間帯だったらしい。

「よし。棒でも倒して……」

「それで真ん中に倒れたらどうするん?」

「その時は、どちらにしようかな、で」

「それやったら、最初からどちらにしようかな、で決めたらええんちゃう?」

 宏の非常にもっともな突っ込みを受け、苦笑しながら一つ頷く。そんな事をごちゃごちゃやっていると、ちょうど春菜がさした方向に、人影が見えた。

「藤堂さん、誰かおるみたいや」

「本当だ。ちょっと話を聞いてみよっか」

 第一村人ならぬ第一異世界人発見、とばかりに、こちらに向かって歩いてくる人影に歩み寄っていく。もちろん、悪い人だった時のための警戒は怠らない。

「なんか様子がおかしいなあ」

「うん。凄く切羽詰まってる感じ」

「背負われとる人、えらい顔色悪いで」

「……声をかけてみる」

 意を決して、春菜がその二人組に近付いていく。いざという時のために割り込めるよう、ナイフを抜く準備だけは怠らずに、春菜の後をついていく宏。初対面の相手の警戒心を解く、という観点では、宏より春菜の方がはるかに適任だと言う理由による役割分担だ。

「あの……」

「申し訳ないが、今急いでいる」

「その人、どうしたんですか?」

「ポイズンウルフの爪にやられた。応急処置はしたが、毒が全身に回ったら終わりだ。そういうわけで申し訳ないが……」

 急ぐ足を止めずに早口で言いすて、二人が来た方に早足で進む。

「東君、ポイズンウルフの毒って、さっきの毒消しで……」

「消せるはずやで」

 何ともご都合主義的な状況に釈然としないものを感じながら、それでも死人が出るよりましだろうと一本差し出す事にする。

「藤堂さんは、毒消し系の魔法は無理なん?」

「ポイズンウルフの系統に対応してるのは覚えてないんだ。あまり受ける機会ないし、あの系統の毒はほとんどの人が耐性持ってるから、そんなに一生懸命は覚えなかったし」

「あ~、そうやなあ」

 毒や麻痺と言った、いわゆる状態異常に分類されるものは、高い耐久値を持つか耐性を得ることで効きにくくなり、かつ治りやすくなる。毒や麻痺と言っても原因が様々で、薬だと対応する毒消しか上級生産でのみ作れる万能薬を、魔法で治療する場合も同じく対応する異常が治療できる魔法か高位の治癒魔法を使わないといけない。中盤以降の毒一つとっても五種類は入り混じってくる状態異常に対して、いちいち治療するより耐性を得て防ぐ方が早いという結論に達する人が多かったのだ。

 そのため、耐性の取り方が一般的になる前からヒーラーをやっている人を除き、肉体系の状態異常を回復させる魔法が充実しているプレイヤーは少ない。宏などにいたっては、面倒だから万能薬を持っていく、などと言うレベルだ。しかも、調合をいじった最上級の万能薬だと、六時間の間全ての状態異常を予防する、などと言うことも可能なものだから、余計に状態異常治療系の魔法は影が薄い。もちろん、一般のプレイヤーはそんなすさまじい万能薬が手に入る立場ではないので、高レベルダンジョンだとそれなりに重要にはなってくる。

 が、宏や春菜のような、戦闘面ではボリュームゾーンに位置する連中にとっては、それほど重要度が高くなく、しかも鍛えるのもなかなか難しいので(効力の低い毒薬を飲んで、というやり方は、治療魔法が育つより先に状態異常耐性が強くなってしまう)、どうしても放置されがちな系統である。むしろ、毒をわざと食らった上で通常のHP回復魔法を使って、毒が抜けるまで粘るやり方で耐性を鍛える方が、早くて楽なぐらいだ。

「そういうわけやから、試しにこれ飲ましたって下さい」

「……本当に効くのか?」

「バーサークベアの胃袋で作った毒消しやから、遅行性の毒にはよう効きますよ」

 半信半疑のまま、それでも目の前の二人が自分を担ごうとしている様子が無かったため、賭けに出る事にしたらしい男性。背負っていたもう一人の男を下し、その口に慎重に瓶を近付ける。辛うじて意識が残っていたらしい毒にやられた男が、コクコクと液体を飲み下すと、少しずつ呼吸が落ち着いてくる。

「藤堂さん」

「ん」

 薬を飲ませている間にざっと傷の状態を見た春菜が、初級の回復魔法を発動させて傷口をふさぐ。

「多分、これで大丈夫やと思います」

「やけに効きが早い薬だな」

「冒険者向けの調合やから、たかが毒を抜くのに、あんまりちんたらやってたらあかんのですよ」

 宏の言葉に納得する男。二人の見ている前で、中毒になった男がゆっくり立ち上がる。

「本当によく効く薬だ……」

「助かったよ、お二人さん」

「いえいえ。たまたまちょうど薬を持ってただけですし」

「そうそう。材料腐らすんもったいないから、いうて作っただけの薬なんで、気にせんといてください」

 勿体ないから、と言うレベルでこれだけの薬を作れるのが、どれほどの希少価値かを明らかに分かっていない二人を、唖然とした顔で見つめる男達。思わずまじまじと宏達を観察してしまう。

 ぱっと見た印象では、どちらもひよっこ、という年齢なのは間違いない。体格や体型から察するに、辛うじてファーレーンの成人年齢である十五歳は超えているようだが、上で見積もっても二十歳には届いていまい。童顔なうえ全体的な雰囲気が緩いと言うか子供っぽい感じで、間違ってもこんな高度な薬を作り出せるようには見えない。春菜の体型が日本人の平均だったら、十二歳ぐらいに間違えられてもおかしくないぐらいだ。

「とにかく助かった。薬の代金を払いたいんだが、いくらだ?」

「最近の相場がよう分からへんので、当座の生活費程度の金額と、近くの街までの案内でお願いします」

「……分かった」

 値段を聞かれて困り、正直にそう答える。どうやら訳ありらしいと判断した男その一が、とりあえず医者代と考えていた額の半分を出す事に。ぶっちゃけ、相当足元を見ているが、二人ともそれを分かった上で受け入れているらしい事は見てとれる。

「それで、こんなところでどうしたんだ?」

「ちょっと、迷子になりまして……」

「土地勘がないので、どっちに行けば街があるのかが分からなくて困ってまして」

「しかも、無一文なんで、街についたところで中に入れるかどうかもはっきりせえへんで……」

 土地勘どころか、この国の一般常識その他も微妙に欠けている雰囲気の二人に、思わず顔を見合わせる男たち。薬代で足元を見るぐらいのしたたかさはあるが、さすがに恩人を無下に扱うほど腐ってもいなければ荒んでもいない。どっちにしてもウルスまでは行く予定だったし、連れていくついでにどの程度の知識があるか確認して、必要な事は教えてやる事にする。

 そもそも、ヘタレくさい男の方はともかく、女の方は結構な使い手のようだから、下手をすると二人がかりでも撃退されかねない。言葉の端々から漏れる情報からすると、女はヘタレくさい男のボディガードかもしれない。

「そういう事情なら分かった。丁度これからウルスに行くところだったから、ついてくるといい」

「ありがとうございます、助かります」

「なに、助けられたのはこっちだしな。そうそう、自己紹介がまだだったな。俺はランディ、そいつはクルト。ウルスを拠点に活動してる冒険者だ」

 男たちの言葉に合わせ、宏達も自己紹介を返す。仲間を背負っていた男がランディ、毒を食らった方がクルトらしい。どちらもがっちりした体格で、さほど魔力を感じない。どうも二人とも、魔法はほとんど使わないようだ。クルトの方がやや砕けた性格をしているようだが、正直それほど違いを感じない。

 なお、この二人いわく、冒険者ランクは下から三番目の七級だそうで、いわゆる中堅の入口ぐらいの力量らしい。どうやらそこらへんの設定はゲームと同じらしく、宏もゲーム中では七級冒険者だった。春菜はもう少し上の五級だが、廃人の中には難関で知られているグランドクエスト四章中盤まで進んでいるのに、冒険者ランクが八級や九級で止まっているような偏った猛者も居るとの噂である。

「それで、こんなところで文無しで迷子って、いったいどうしたんだ?」

「なんかよく分からない現象が起こって意識が飛んで、気が付いたらあの森の入口あたりに居たんです」

「……最近よく聞く話だな」

「……僕ら以外にも、そういう人がおるんですか?」

「あくまでも噂だがな。とりあえず、ファーレーンでは王宮の指示で、そういう人間は保護する事になっているから、一度そっちの方に顔を出すといい」

 その言葉が理解できず、思わず怪訝な顔をする宏と春菜。あくまでも噂のはずなのに、王宮が指示を出して保護をしている。おかしな話だ。

「その話やと、国の上層部は与太話みたいな噂を信じとる、いう事になりますけど……」

「そうなるな」

「それって、偽物とか出てこないんですか?」

「どうやってか、本物を識別してるらしいぞ」

 春菜の疑問にクルトが答えるが、余計に疑問が増えるだけで何の答えにもなっていなかったりする。

「本物を識別してる、って言う事は、最低でも一人は本物が居た、って言う事かな……?」

「分からへん。分からへんけど、なんか変な話や」

「元々そう簡単には行かないだろうとは思ってたけど、思った以上にややこしい事になりそうだね」

「参ったもんやな……」

 どうにも、いろいろとタイミングが良すぎる。薬については、ぶっちゃけ偶然もいいところだろうとは思うが、王宮の方はまず間違いなく、何かが関わっている。とはいえど、多分関わらずに済ませるのは難しそうだ。

「とりあえず、何にしても先立つものは必要やから、金策を考えんとあかんやろうなあ……」

「ちょっと歌って稼いでみるよ。アカペラになるから、上手く行くかは分からないけど……」

「ほう、ハルナは歌が得意なのか?」

「それなり、と言う感じかな?」

「ちょっと、歌ってもらってもいいかい?」

 クルトの申し出に一つ頷くと、大きく息を吸い込んで、そのよく通る美しい声をあたり一帯に響かせる。そこらをうろうろとしていた動物たちまで足を止め聞き惚れるあたり、さすがは「神の歌」と言ったところか。

「……本当に、君達は何者だ?」

「ただの通りすがりの迷子です」

「右も左も分からへん田舎者で、誰かに助けてもらわんと、明日にも餓死しかねへん若造です」

 答えになっていない答えを返し、いろいろな事をはぐらかす宏と春菜であった。
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