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第27話

「朝飯食ったら、邪神しばきにちょっと三の大月まで行ってくるわ」


 ソレス神殿訪問の二日後。朝食の席にて、近所に散歩にでも行くようなノリで、サラッと宏から告げられた言葉。その言葉を一瞬流しそうになり、内容に気が付いてファム達が絶句する。


「ちゃんと帰ってくるつもりではあるけど、途中でどんなことがあるかわからないから、みんなはウルスの工房に戻って作業しててね」


 そんなファム達に追い打ちをかけるように、春菜がやんわりと退去命令を出す。


 この神の城は基本的に鉄壁の要塞だ。神々ですら内部に対してはそう簡単に手出しできない。だが、今回は邪神という今までで最強の相手であることに加え、ピンチになったら転移でここに逃げてくる、という戦い方になる。その際、どうしても相手からの攻撃が城の内部に届くリスクが発生するため、中にはできるだけ人を置いておきたくないのだ。


 さらに最悪の事態としては、宏と一緒にこの城が消滅する可能性もある。もっとも、そうなってしまえば正直、邪神の特性から言ってもこの世界の崩壊は免れないのは間違いないので、ファム達が城にいようがいまいが大差ないといえば大差ない。


 だが、それでも戦闘圏内に守るものがあるかどうかは、強敵相手の戦いではかなり大きな影響が出てくる。相手が相手だけに、軽減できるリスクは可能な限り軽減しておく必要がある。


「……ハルナさん。その言い方はだめなのです」


「そうですよ。すっごく不吉です」


「正直、死にに行くようにしか聞こえないよ……」


「ん~。そんなつもりはないんだけど、ね」


 どう聞いても死亡フラグにしか聞こえない春菜の言葉に、全力で反発する工房職員たち。正直、嫌な予感しかしない。


「とりあえず、多分ちゃんと勝てはすると思うんだ。ただ、世の中には絶対なんてことはないし、ね。実際、私たちは一度負けてるし」


「だったら、親方たちが前線に立つ必要ない!」


「必要がどうとかやあらへん。あの邪神が腹立つから、一発しばいたらなおさまらんだけや」


 ファム達工房職員の前では一度も見せたことがない、どころか、いつも一緒に冒険をしている春菜達ですら片手の指で足る程度しか見たことがない、非常に獰猛な表情を浮かべ言い切る宏。その表情に思いっきり引き、同時に説得が無駄であることを悟るファム達。


「それにしても、俺たちはそんなに死亡フラグ立ててたか?」


「春菜の台詞には、それっぽいのがちょっと集中してる感じはするわね」


「それは俺も思ってた。が、身内に安全圏へ退避するよう言うのって、基本的にはどっちになる?」


「ケースバイケースね。退避させて正解だったってパターンもあるし、どっちも全滅ってパターンもあるし。後、考えすぎで特に問題なかったケースもそんなに少なくない感じ?」


「つまり、微妙なところだってことだな」


 ファム達の態度を見て、そんな緩い会話を始める達也と真琴。どちらも死んだら後がないというのに、恐ろしく平常運転である。


「ボクたちのことが心配なら、ファム達にもできることがある」


「何をすればいいの!?」


「今まで挑戦してこなかった新しいことに挑戦して、いろんなものを作ればいい。作れば作るほど、邪神の力は弱くなる」


「もう一つ言うと、ここ以外で一番宏君と関わりが深いウルスの工房でなら、創意工夫を凝らして物を作れば、それだけでも宏君の力になるよ。当然、種類も数もたくさん作れば、それだけ力が強くなるし」


「本当に!?」


「うん。私の力を増やすのは、今のところこれといった手段はないんだけど、宏君に関してはいろんな意味で創り出す事が力の源になるから」


 それを聞いたファム達の顔つきが変わる。大急ぎで朝食を平らげると、一つうなずきあって席を立つ。


「今日明日ぐらいはノルマ無視しても、納品分は大丈夫だよね?」


「ええ。今日明日どころか、一週間は余裕よ」


「とりあえずまず、ジノは八級の特殊ポーションにシフト、他の三人は現状維持で八級ポーションをやらせるのです。本当は新人全員特殊ポーションでもいいのですが、さすがに成功の目がほぼ無い作業をさせるのは忍びないのです」


「ライム、七級の特殊ポーションにチャレンジしていい?」


「どんどんチャレンジするのです。材料はいくらでもあるのです」


 食器を片付けながら、今日からの予定をどんどん決めていくファム達。今までも手を抜いていたわけではないが、今日から数日は命をかけるレベルで全力投球だ。


 余談ながら、特殊ポーションというのは宏がこちらに飛ばされた直後にバーサークベアの内臓を使って作っていた、能力値を一時的に強化するタイプのポーションだ。


 特殊、と付くだけあって、同じ等級のヒーリングポーションなどより難易度が高い。普通のポーション三種の需要が圧倒的なこともあり、アズマ工房ですら量産までは手が回らないという理由で、訓練課程以外ではあまり作っていないポーションである。


 錬金術のドーピングアイテムと違い、効果自体は割と控えめだがその分持続時間が長く、また錬金術で作られるドーピングアイテムと併用できるため、売りに出されると割とすぐさま売り切れる隠れた人気商品だったりする。


「何でもかんでもは無理だろうから、まずは得意ジャンルで次のステップにチャレンジ」


「その前に、後回しになってたけど、親方の指示にあった小舟づくりをしましょう」


「せっかくだから、カカシさんとシームリットさんも呼ぶのです。作業に従事する人が多ければ多いほどいいのです」


 澪と春菜からもらったヒントをもとに、どんどん話を進めていく工房職員たち。はからずも、ステップアップのための起爆剤となっているようだ。


「そういや、エルたちが飯を食いに来てねえが……」


「うちらが邪神に突撃かけるんやったら、っちゅうて、なんぞ大規模な儀式するための禊をやっとるらしいで」


「なるほどな。さて、飯も終わったし、後片付けしたら他に準備漏れがないか確認して……」


「とっとと邪神を仕留めないとね」


 静かに、だが気合十分な様子を見せ、達也と真琴が食器をまとめて立ち上がる。


「ぴぎゅ」


「ん? ラーちゃんも一緒に行くか?」


「ぴぎゅ」


 宏の問いかけに一声鳴いて答え、そのまま背中を這い上がっていくラーちゃん。かなり久しぶりの行動だ。


 ちなみに、過程が不明なままラーちゃんから増えた芋虫たちは、その大半が蝶や蛾、カブトムシ、妖精などに羽化しているが、大本であるラーちゃん自身は、いまだに多少サイズが変動する以外は芋虫のままだ。


「私たちも一緒に行くの~」


「伝令~」


「爆撃~」


「伝令はともかく、爆撃は指示があるまで勝手にやったらあかんで」


「分かってるの~」


 三段重ねで宏の頭上に陣取り、ラーちゃんともども一緒に神の船に乗り込むオクトガル達。邪神との最終決戦は、そんな風に割といつも通りの感じでスタートした。








「ソレス、調子はどうですか?」


「ここ数世紀の間無かったぐらいには好調だ」


「そうですか。それはよかった」


「新神殿には、感謝してもしきれん」


「こちらとしては、返せていない恩がさらに増えた形で心苦しいところです」


 宏達が出発のための最終確認をしているのと同時刻。最後の準備を終えたアルフェミナが、念のためにソレスの様子を確認していた。


「念のために確認しておくが、まずは太陽神として援護を行えばいいのだな?」


「ええ。ですが、あなたは三の大月を切り離したばかりです。宏殿のおかげで安定しているとはいえ、まだまだ予断は許しません」


「分かっている。だから今回は、前に出る役割をエルザとレーフィアに任せたのだ」


 アルフェミナの注意に、真剣な表情でうなずくソレス。実際、邪神からの干渉がなくなって安定はしているが、無理がきくほどでもないのはソレス自身が一番理解している。


 故に、本来なら戦神や軍神としての側面も持つソレスが、おとなしくバックアップに回っているのだ。


 獣ではあるまいし、応急処置で元気になった程度で治ったと思い込んで動き回るような、そんな考えなしな真似をするほどソレスは愚かではない。負荷の軽い援護に徹し、いざという時に少しでも無茶ができるように自身の状態を整えるのが一番の役割だ。


 無論、どうしても無理をせねばならないときはあるし、その時には限度いっぱいまで無理をするつもりだ。


「それで、こちらの準備はすでに整っているが、どのタイミングで最初の支援を行えばいい?」


「そうですね。合図をしますので、作戦開始と同時にでお願いします。どうあがいても長丁場になるのが確定している現状、できるだけロスは減らさねばなりませんが、攻撃の直前にというのもタイミングがシビアすぎますし」


「分かった」


「できることなら、休憩に入る必要などないぐらいの時間で仕留めたいところですが……」


「それはどう考えても無理だろう。そもそもの話、それなりの規模の世界一つと創造神一柱を滅ぼした邪神だけあって、本来なら我々が対抗できる相手ではない。新神殿が随分と削ってくれてはいるが、それでもまだ並の破壊神の倍以上はエネルギーを持っている。それらを踏まえると、新神殿がこちらの想定を大きく外した行動をせん限り、どう頑張ったところで一年やそこらで終わりはすまい」


「ええ。はっきり言って、システム的な不適合がなければ、この世界はとうに滅んでいます。倒せるだけまし、時間がかかることぐらいで文句を言っても始まらない。三年以内に仕留められれば御の字、といったところだというのは分かってはいますが……」


「あまり彼らを長く拘束したくない、というのは理解しているが、それで焦って仕掛けて消滅する神が出て、パワーアップでもされては目も当てられんからな。急がば回れの精神で、地道に削るしかなかろう」


 ソレスの言葉にうなずくアルフェミナ。言われるまでもなく、現状はちゃんと把握している。


 正直な話、この世界に押し付けられた邪神の権能が、破壊と消滅のみに限界まで特化したものだった事は、ある面においては不幸中の幸いだったといえよう。仮に宏のように無意識のまま無駄に柔軟に権能を使いこなすタイプだったとすれば、システムの違いによる不適合が起こらず、十全に権能を振るってこの世界を消滅させてたのは間違いない。


 現在の邪神は、いうなれば攻撃力とヒットポイントだけが極端に高く、特定の属性を持つ攻撃以外が通じない、誰かが浄化系以外の手段でやられるたびに大幅なパワーアップをする、というだけの単純な脳筋ボスだ。


 攻撃力が極端に高いと言っても、システムエラーの影響により直接世界を滅ぼせるほどではなく、攻撃・破壊以外に能動的な行動をとる理性も知性もない。その分、システムエラーの影響を受けない素のエネルギー量の膨大さが厄介ではあるが、逆にそのエネルギー量が災いして、システムに適応することもできていない。


 故に、できるだけ攻撃を受けないように逃げ回りながらそのエネルギーを削り切ればアルフェミナたちの勝ちとなる。勝ちとなるのだが、五大神クラスの攻撃ですらよくて数百、戦闘向きの権能を持たぬ神では一けた台のダメージしか与えられない状況で、初期値が京の単位に上る、しかもこの世界の生き物の活動によりそれなりの速度で回復するヒットポイントを削れというのだ。


 しかも、三の大月を切り離したことでソレスからの干渉がなくなり、時間が経てば経つほどパワーアップする状態になっている。


 ソレスやアルフェミナが年単位の時間を覚悟するのも当然であろう。


「……どうやら、神の船が出発したようです。エアリスたちも儀式を始めたことですし、ソレスも支援の開始をお願いします」


「分かった」


 アルフェミナに促され、支援を開始するソレス。


 この時、ソレスは宏達に言及した自身の台詞が、特大のフラグを立てていたことに気が付くことができなかったのであった。








「全速力で出発! ……大気圏突破、完了や!」


 ソレスの支援開始と同時刻。出発からわずか三秒で、早くも宏が大気圏突破を宣言する。神の船の周辺には、この世界のまだ名がつけられていない地球の引力にひかれた無数の小さな岩が、衛星軌道に乗ってゆっくり漂っていた。


 振り返れば宏達の地球同様、青と白を主な色彩とするこの世界の地球の美しい姿。進行方向には、徐々に大きくなっていく三の大月。


 正真正銘、神の船は宇宙空間へと飛び出していた。


「宇宙に出るってのはそういうもんだとは分かっちゃいるが、恐ろしいスピードだな」


「詳しい数字は忘れたけど、重力振り切るんにたしか、時速二万キロやったか三万キロやったかぐらいは要ったはずやからな。準備はともかく、大気圏突破自体はあっちゅうまに終わるんが普通っちゅうか、あっちゅうまに終わらんとまずいわな」


「この船も、それぐらいのスピードは出てるのか?」


「いんや、もっと出とる。こっちの地球は大気圏自体も地球より広いからな。そこを三秒で突破しとるんやから、むしろ遅いわけがあらへん」


「私的には、そのスピードでGとかが一切ないっていうのが一番すごい事だと思う。衝撃波とかも出てなかったし」


 初めての宇宙飛行に関して、そんな微妙にずれた会話をする宏達。そこには、これから宿敵でもある邪神と戦う、という緊張感はかけらもない。


 ちなみに、宏達は現在、神の船の甲板に立って会話をしている。こちらの世界でも宇宙空間自体は無重力で空気もないのだが、神の船の甲板にはちゃんと空気があり、重力も発生している。


 本来なら突っ込むべきところではあろうが、これまでに神の船という名にふさわしい性能を見せつけてきたこの船に関しては、そういうものだと誰も気にしていない。


「さて、そろそろいっぺん、テストもかねてエルと通信やな。悪いけど、ちょっと進軍ストップの連絡してきてくれへん?」


「りょうか~い」


 通信テストのために神の船の速度を落とし、オクトガルに伝令を頼む宏。オクトガルのうち一体が転移したのを確認し、おもむろに精神波通信を開始する。


『テステス。通じとる?』


『感度良好です』


『こっちも感度良好。業務連絡やけど、五分後に城をこっちに転移させるから、転移に備えとって』


『分かりました』


 そこでエアリスとの通信を切り、三の大月に向かうように進路を微調整する。


「ただいま~」


「おう、おかえり」


「アルフェミナ様から伝言なの~」


「攻撃開始の指示任せるって言ってたの~」


「了解や。その方がこっちとしても都合ええでな」


 オクトガルからの伝言を聞き、にやりと笑いながら慎重に三の大月との距離を詰める。


 そのまま五分かけてじっくり位置調整を済ませ、神の船の最大有効射程ぎりぎりの位置で船の位置を固定し、偵察機を飛ばして状態確認を済ませる宏。


 全機無事に帰ってきた偵察機と、それらが持ち帰ってきた情報に再びにやりと不敵な笑みを浮かべる。


「予想通りやな。ここからやったら、あれからの反撃は届かん」


「反撃を受けないのはいいけど、この船の天地開闢砲が届くのって、あのあたりが限界だったよね? 今から先制攻撃で撃つの?」


「いんや。まずは神の城をここに呼んでからや。それに、天地開闢砲で砲撃する予定はあるけど、その前に軽くひと当てして確認せんとな」


 春菜の問いかけにそう答え、神の城を呼ぶための座標固定作業を行う宏。それを見ながら、月の様子をじっと観察する春菜。


「……どこからどう見ても月なのに、すごく名状しがたい感じがするよね」


「邪神に乗っ取られてるってのは、要するにそういうことなんでしょ」


 表面が脈動していたり硬質化していたり、見るたびに受ける印象が変わったりと非常に怪しく不安定で、そのくせ一貫して月という根本的な部分は一切変わらぬ三の大月。月という印象が変わらぬがゆえに、見るものにひどく名状しがたく冒涜的な禍々しさを感じさせる。


 まさしく、邪神である。


『エル、聞こえるか?』


『はい』


『今から呼ぶけど、そっちの準備は出来とるか?』


『いつでもどうぞ』


 エアリスの返事を聞き、一つうなずく宏。そのまま無言で、さくっと神の城を呼び出す。エフェクトも何もなく、何事もなかったかのようにあっさり出現する神の城。


 こういう時のお約束を一切合切無視した、あまりにあっさりとした風情のない召喚シーンに、思わずといった感じで澪が口を開く。


「……師匠」


「なんや?」


「こういう時は仰々しく厨二病風味満載の台詞で呼び出すか、せめて派手な魔法陣とエフェクトで格好つけて転移させないと……」


「なんで自分の体の一部動かすのに、そんな面倒で恥ずかしい真似せなあかんねん」


「お約束とか風情とかを理解しないなんて、師匠はクリエイター失格……」


「どうせこの後仰々しい事やりまくるんやから、城呼ぶぐらいでわざわざそんな手間かかる真似してられるかいな」


 その、城を呼ぶぐらい、というのが澪的には重要なのだが、もはや体の一部としてなじんでしまっている宏には、そのあたりの感覚は既にぴんと来なくなっているようだ。


「そういや、今更気になったんだが、ファム達はわざわざ追い出したのに、エルとアルチェムは最前線に連れていていいのか?」


「それに関しちゃ、簡単な話や。うちらがやられた時の儀式の反動でな、エルとアルチェムは今、神の城と魂がリンクしてもうてんねんわ。半年もしたら切れる程度の一時的なもんやけど、逆に言うたら半年はどこおっても一緒やから、それやったら設備が整っとる神の城の聖堂で儀式した方が安全や」


「……それでさらにリンクが深くなる、ってことはないのか?」


「そっちは大丈夫や。なるとしたら、半年以内に僕があの二人と肉体関係持った時だけやけど、ありえると思うか?」


「……半年なら、絶対にありえないな」


 宏の説明を聞き、深く深く納得する達也。五年ぐらいの期限があればともかく、半年ではエアリスやアルチェムの気持ちがどうとかに関係なく、まず絶対に不可能だろう。


 女性恐怖症がある程度解消したというのに、最も信頼している異性である春菜相手ですら、性的な対象として見るような度胸を持たないヘタレが現在の宏である。


 近いレベルで信頼しているとはいえ手を出せば犯罪臭が漂うエアリスや、その覚悟を決めるには距離が遠いアルチェム相手に肉体関係を迫れる訳がない。


 逆にエアリスやアルチェムの側からはどうなのか、というと、エアリスは宏と肉体関係を持つには成長が足りず時期尚早だという自覚があり、アルチェムはいまだにその手の知識には微妙に疎い。故に、この二人の方から押し倒す選択肢はあり得ない。


 むしろ、五年どころか十年あっても、そこまで行けるのかすら疑問である。


 世の中には、後で問題になることなど絶対にありえないと分かっていても、どうしても据え膳を食えない男というのが普通に存在するのだ。


「さて、話がそれまくったけど、本格的に攻撃しかける前に、今日のために昨日夜なべして作ったあれこれで軽くひと当てや」


「……この船の装甲板を張り替えただけじゃなかったの?」


「なあ、真琴さん」


「何よ?」


「邪神とやりあうっちゅう話になっとって、僕がその程度でお茶濁すとでも思っとったん? せっかくバルシェムから先代バルシェムの牙とか鱗とか骨とかもらったんやから、がっつり準備するに決まっとるやん」


「……確かに正論だし、あたしも昨日こっそりいろいろ準備してたからそこは否定できないんだけど、正直あんたがやることっていろんな意味で余計な不安を感じさせるのはどうしてかしら?」


「そんなん知らんがな。まあ、ごちゃごちゃ言うとっても進まんし、さっくりいくで」


 真琴との不毛な会話を切り上げ、ポケットから宏がスイッチを取り出す。それを頭の上に大仰にかざすと、高らかに宣言しながらスイッチを押し込む。


「今週の、ビッ○リドッ○リメカや!」


「おいっ!」


 宏の宣言に、思わず全力で突っ込みを入れてしまう達也。その間にも、神の城や神の船からトンボ型のメカが『トンボ、トンボ』などと言いながら無数に飛び出している。


 余談ながら、ヒーロー側が男女のペアで悪役がコミカルな悪女、出っ歯でドジョウひげの小男、角刈りマッチョなデブの三人組、悪役の爆発はドクロ型のキノコ雲で毎回首領にお仕置きをされるかのシリーズは、宏達の時代でも何度かリメイクされて放送され続けている。


 なので、今回ばかりは、宏がネタを知っているのは年齢詐称でも何でもなかったりする。それが行動の正当性につながっているかどうかは別だが。


「てか師匠、今週のってことは、来週もあるの?」


「来週まで戦闘が続くようやったら考えるわ」


「澪、突っ込みどころはそこじゃないからね!」


「他のところを突っ込んでたらキリがない」


「いや、そうだけど……」


 ようやく話を元に戻したと思ったら、まさかの理由で再び脱線する日本人チーム。強大なラスボス相手に余裕である。


「それにしてもすごい物量だけど……」


「全部をダイレクトにぶつけるわけやあらへん。……うし、邪神の波長把握、オンラインアップデートや!」


 春菜の疑問に答えながら、両手を叩いて謎のオンラインアップデートを開始する宏。次の瞬間、トンボ型のメカだけでなく神の城に船、果ては宏たち自身が身に着けている装備品まで光り輝く。


「よし! まずは邪神のパッシブ防御無効化完了や! 次は基本防御特性解析!」


「邪神のパッシブ防御?」


「破壊神だけあってな、対策なしで一定範囲内に近寄ると、神器やろうが神やろうが問答無用で消滅しおるんよ。まあ、神様はそう簡単に消滅せえへんけど、その分余計なことに力を割かれるわけやから美味しないわな」


「なるほど。でも、その確認のためにいくつかメカ壊されてるし、邪神が結構パワーアップしてる感じもするけどいいの?」


「必要経費や」


 何かを壊せば壊すほどパワーアップする邪神。他と一線を画す素材で作られた宏の生産物とはいえ、小型メカ数体を破壊した程度で起こるには過剰なほどのパワーアップを遂げた邪神に懸念を示す春菜。


 そんな春菜の懸念に、やたら力強くそう答えつつ、二十体ほどのトンボ型メカの犠牲と引き換えに得たデータを解析する宏。あんなバカでかい構造物、それもダメージの与え方次第ではかえってパワーアップするようなものを消滅させるのだ。効率よくやるためには、この程度の手間と犠牲をいちいち気にしてはいられない。


「ええ感じやな。攻撃特性と基本防御特性もほぼデータ採れたし、次のオンラインアップデートで攻撃準備は完了しそうや」


「じゃあ、それが終わったら切り込めばいいの?」


「いんや、まずは規模のデカい攻撃をありったけ叩き込むとこからやな。ぶっちゃけ、春菜さんらが上陸して殴り始めんのは、神様方の最大火力攻撃が一通り終わって、僕がジオカタストロフ叩き込んだ後や」


「了解。それで、オンラインアップデートは?」


「今からや。それと、ちょっと思いついたことあるし、ついでに一緒にやってまうわ」


 そういって、再びオンラインアップデートを開始する宏。先ほどと同じく宏の作ったものが次々と輝き、見た目に反映されない種類の進化を遂げる。


「アップデート完了。続いてセンチネルガードの強制進化や!」


「えっ?」


「進化開始! ……完了! ガーディアンフィールド増幅展開! センチネルガード起動、ガードターゲットはこの世界の神様全部や!」


「ちょ、ちょっと宏君!?」


「アルフェミナ様に通達! 今から天地開闢砲の全砲門で最大出力砲撃するから、それ終わったら総攻撃開始!」


「りょうか~い」


「伝令行ってきま~す」


 春菜の慌てる声を綺麗にスルーし、砲撃準備を進めていく宏。神の船のチャージが完了したところで、ローリエへの通信を開く。


『こっちはエネルギーチャージ完了や。そっちはどない?』


『現在95%完了です。96、97、98。……完了しました』


『照準は一応任せるけど、こっちで考えとることがあるから、何が起こっても驚かんといてや』


『了解しました。トリガーをお預けします』


 この世界始まって以来、空前絶後の規模を誇る大規模破壊攻撃。その準備をすべて終えた宏が、トリガー代わりのスイッチに指をかけながら春菜に視線を向ける。


「春菜さん、百パー当たるように確率制御とかできる?」


「……それぐらいならなんとか」


「ついでやから、射程延長のために各砲門の前にゲート開いて、あの月の至近距離に一束になるように展開するっちゅうんも頼んでええ?」


「了解、何とかするよ」


 先ほどガーディアンフィールド展開時に宏が発したとんでもない台詞。それについていろいろ問い詰めたいのをぐっとこらえ、頼まれた作業を完了する。


「準備完了。いつでもいいよ」


「ほないくで。天地開闢砲全砲門、フルパワーシュート!」


 気合の入った掛け声とともに、手元のスイッチを押し込む宏。トリガーに合わせて惑星や恒星の三つや四つ、余裕で粉砕して消滅させるだけの砲撃が一気に解き放たれる。


 それが春菜の創り出したゲートをくぐり、邪神周辺の微妙な力場の影響で逸れそうになりながら不自然な軌跡を描いて直撃コースに戻り、エアリスたちの儀式を始めとしたさまざまな要素により徹底強化された二十と三発の天地開闢砲は、一つとなって三の大月を撃ち抜いたのであった。








「……なあ、アルフェミナ」


「……さすがとしか言いようがありませんね……」


 見事に直径の半分を超える特大クレータが穿たれた月面を、唖然とした表情で見ていたソレスとアルフェミナ。数秒の硬直ののち、ぐちゃぐちゃになった感情を吐き出すように言葉を交わしてどうにか気持ちを立て直す。


 非常識なことに、宏が放った最初の一撃は、邪神相手に見た目相応のダメージを与えていた。


 何が非常識かといって、本来天地波動砲や天地開闢砲は破壊特化の兵器。浄化とか聖属性とかそういったものは含まれておらず、邪神に向けてぶっ放した日には、パワーアップさせることはあれどダメージを与えることなど一切あり得ない、そんな攻撃なのだ。


 それで殴って、この場にいる誰の攻撃よりも大きなダメージを与えたのである。ソレスやアルフェミナが唖然とするのも当然であろう。


「とりあえず、呆けていても始まりません。各員、最大火力で仕掛けるように!」


「了解!」


 アルフェミナの指令に、同じように呆けていたレーフィアが即座に立ち直って応じる。そのレーフィアに従い、次々と突撃を敢行する神々。


 そんな神々全員に、どこかから現れたオオカミが付き従う。


「このオオカミは、誰の眷属ですか?」


「工房主殿のセンチネルガードであるな! 実にありがたい支援である!」


 突撃組の一柱が発した疑問に、火力を高めながらイグレオスが答える。火力とともにイグレオスが発散する暑苦しさも増すが、イグレオスの最大攻撃は暑苦しさが威力に直結しているので仕方がない。


「ふん! ふん! ふん! ふん! ふん!」


 暑苦しさが最高潮に達したところで、法衣を脱ぎ捨てたイグレオスが何かの儀式でも行うかのように連続でポージングを決める。レーフィアが放った大津波が収まり、邪神の表面が完全に流しつくされたところで、イグレオスのポージングが最高潮になる。そのまま最後のキメポーズをびしっと決めたその瞬間、三の大月の表面を紅蓮の炎が焼き尽くす。


 温度だけでいえば、青や白の炎には到底届かない紅蓮の炎。だがその炎は鉄鉱石を溶かし精製するのに最適な、ものを生み出すための温度を保っていた。


 邪神にとっては、ピンポイントで苦手な温度帯の一つである。しかも、レーフィアが放った海水由来のミネラル分が次々に結晶化して吐き出されているのだ。苦手どころの騒ぎではない。


「ふむ。ならば、こういうのも効きそうですね」


 イグレオスの炎に身もだえする邪神を見て、エルザが三の大月に干渉する。もはや分離は不可能なほど邪神と融合しているとはいえ、完全に取り込まれているわけではない三の大月。


 月とはいえ大地は大地であり、まだ取り込まれていない部分であればエルザの権能で十分干渉は可能だ。そして、まだ無事な部分が動けば、連動して邪神に取り込まれてしまっている部分も動く。


 たとえ自身の一部ではなかろうと、いかに邪神が強大な力を持っていようと、地続きとなっている部分の変化からは影響を受けるのだ。


 結果、三の大月が持つ金属資源がイグレオスの炎により精製され、高品位な地金として次々に生み出されていく。


 炎そのものよりも、大地が動くことよりも、自身の体の一部から新たな素材を生み出される事により、邪神はさらに深く傷ついていった。


「ナイスアシストである!」


「今だからこそできるやり方です。宏殿にちょうどいい贈り物となりますし、どんどん作ってしまいましょう!」


 これまでのうっぷんを晴らすかのように、実にいい笑顔で生産活動を続けるイグレオスとエルザ。


 これまで、ソレスに対する影響と邪神教団からの妨害、さらに邪神との戦いで滅ぼされてしまった神の仕事に対する穴埋めなどが重なり、ここまで大規模な攻撃は不可能だった。


 宏達の手によって邪神教団が事実上の壊滅に追い込まれ、三の大月がソレスから切り離されたことにより、時間制限はあれど何をやっても問題ない環境が整ったがゆえのはっちゃけぶりである。


 なお、なぜ時間制限があるのかは単純な話で、いかに邪神を滅ぼすためとはいえ、いつまでもその他の仕事をほっぽり出してはいられないからだ。特に地脈の管理が主な仕事であるエルザの場合、あまり長時間放置しているとあちらこちらで不必要な天変地異が続発する。


 そんなことになれば世界の存続も怪しくなる。それに、個々の生物の生死などいちいち気にかけはしない神の立場とはいえ、大量の死者が出ることに心を痛めない訳ではない。必要であれば割り切って気にかけない、というだけで、不必要な天変地異を起こして平気なほど、エルザは冷酷になれる女神ではないのだ。


 さらに目先の話を言うならば、地脈の管理を怠って天変地異を大量に起こしてしまった日には、それによる破壊と大量の死者により、せっかく削った邪神がパワーアップしてしまう。


 邪神を削る事に専念しすぎて邪神がパワーアップするなど、本末転倒もいいところだ。


「……そろそろ、限界のようですね。資源を感知できなくなりました」


「うむ。こちらも炎の維持が出来なくなった。潮時であろう」


「では、一度通常業務に戻ります」


「吾輩も通常業務に戻る。アズマ工房の第二波が終わったあたりで戻れば、ローテーションとしてはちょうどよかろう」


「そうですね。しかし、あれだけやって四割は削れていないあたり、さすがというか……」


「もとより長丁場は覚悟の上。むしろ、開幕早々で四割近くも削れている、と考えるべきなのである」


 邪神のエネルギー残量を確認し、渋い顔をしながら離脱するエルザとイグレオス。予定より大幅にダメージを与えているとはいえ、対邪神にいろいろ特化させた天地開闢砲二十三門に加え、五大神の二柱が放つ最大の攻撃と、それを利用した生産活動までやっても四割はいかなかった。


 今後叩き込める攻撃には同等以上のものがほとんどなく、また自身が破壊されているという事象によりわずかとはいえパワーアップしている邪神には、同じ手段ではほぼダメージを与えられない。


 そう考えると、先の長さはうんざりするほどだ。


「そういうわけだ、アルフェミナ。悪いが、吾輩とエルザは、一時的に離脱させてもらう」


「分かりました」


「一応こちらが押しているのだ。焦るなよ?」


「分かっています」


 念を押すイグレオスにうなずいて見送り、戦況に目を向ける。とはいえ、邪神からの攻撃はセンチネルガードがほぼ防いでくれており、逆にこちらからの攻撃は大きなものはほぼ出尽くしている。


 ここから先、宏達が開幕で見せた以上の予想外を起こすか、邪神側が何らかのきっかけで大幅にパワーアップするか、もしくは何か見落としている要素で大きく状況が変わりでもしない限り、基本的にはひたすら根競べだ。


 イグレオスの言葉ではないが、こういう状況では焦った方が負けである。


「そろそろ、一度アズマ工房にバトンタッチでいいのではないか?」


「……そうですね。こちらの攻撃もそろそろ適応されてしまっていますし、あまりだらだらと攻撃を続けて彼らが焦れて無謀なことをしても困りますし」


 アルフェミナやソレスとともに戦況を見守っていたアランウェンの提案。それにうなずくアルフェミナ。今は与えるダメージと回復量が均衡するかややダメージが上回っているが、恐らく遠くないうちにそのバランスは逆転する。


 神々の攻撃に関しては、間違いなくこのあたりで一度仕切りなおす必要がある。


「第一陣、戻れ!」


 アルフェミナの決断を受け、アランウェンが全体に指示を出す。この時、大多数の神は指示に従って戦場から離脱したが、どんな時代、どんな集団、どんな戦場にもはねっかえりは存在する。


 今回の戦においても戦神系の下級神が数柱、離脱前の最後のひと当て、とばかりに素直に指示に従わずに突撃を敢行していた。


 そのうち三柱に関しては、単にすでに攻撃態勢に入って十分すぎるほどスピードが乗っており、当てた勢いをもって離脱したほうが早くて安全だったという命令無視でも何でもない理由だったのだが、それ以外がいけなかった。


 ほとんどの神が離脱し、攻撃密度が下がったところに突撃をしたのだ。当然、いい的になる。


「ギャッ!?」


「があ!」


「あう!」


 必死に守っていたセンチネルガードの奮闘もむなしく、邪神の猛攻を防ぎきれずに三柱ほどがセンチネルガードごと粉砕され取り込まれ、消滅。


 さらにその余波に離脱中の三柱が巻き込まれ、この戦闘ではこれ以上攻撃を続行できぬほどのダメージを受けてしまう。残りのはねっかえりも無事では済まず、全員が目や足、利き腕といった戦いを行う上で重要な部位を消滅させられ、戦神としての命脈を断たれてしまった。


 いかに戦神に名を連ねていようと、所詮下級神では必ずしも戦略眼や戦術眼に優れていたわけではなかったことによる悲劇である。


 一口に戦神と言っても様々であり、中には単に個人の武芸に優れているだけの実戦経験皆無な神も存在する。また、戦神系の神々は過去の邪神との戦いにおいて最も数を減らしていた系統であり、生まれてから数百年程度の若い神も多数含まれている。そんな神でも引っ張り出さねば手数が稼げぬぐらいには、この世界の神々は人手不足だ。


 そして、物事に置いて状況を悪化させるのは、大抵の場合経験が少なく自信過剰で人の話を聞かない奴だと相場が決まっている。


 そこに大した反撃をできていないように見える邪神と味方が押している状況、さらにこれまでの彼の創造神や邪神相手にたまりにたまったフラストレーションが重なったのだ。


 ある意味では起こるべくして起こった出来事であった。


「邪神のパワーアップを確認。いずれ起こるだろうとは思っていたが、予想外に強化されているな」


「……ワーレン、部下の手綱ぐらいきちっと握っていてください」


「……済まぬ」


 目の前の惨劇とソレスからの報告、それらを受けて戦神ワーレンに文句を言うアルフェミナ。ワーレンも自身の部下のあまりに愚かでふがいない行動に、苦い顔を隠せない。


 不毛な会話をそこで切り上げ、善後策を練るために邪神を観察しようとしたアルフェミナの視界に、複数の閃光が飛び込んでくる。


「とりあえず、あの連中のおかげで発生した破片のうち、大きなものは消しておいた。だが、数が多すぎて細かいものはかなり取りこぼしている。連中のコアになったような大きなものはすべて消したが、場合によっては三幹部のような存在が復活するかもしれん」


「……本当に、アズマ工房の皆様に対して申し訳ないほど、厄介な状況になりましたね……」


「邪神のパワーアップと回復が、イグレオスが離脱した後に稼いだ分をチャラにして若干余るぐらいの範囲だったことが不幸中の幸い、か……」


「いえ、それだけでは終わらないようです」


 アルフェミナの指摘を受け、ソレスとアランウェンが邪神と三の大月を観測する。その観測結果は、かなり厄介なものであった。


「……三の大月の残りが、取り込まれてしまったか」


「……私が打ち込み、新神どのが補強した楔が完全に外れてしまっているな」


「どうやら我々は、とんでもない判断ミスをしてしまったようですね……」


 焦ったほうが負け。そう分かっていた削り合いの初っ端で、末端の焦りがいきなり戦況の悪化を招くのであった。








「……こらヤバいことになっとんなあ」


「……うん。どうする?」


 下級の戦神たちが起こしたミス。それを確認した宏と春菜が、戦神ワーレンの表情がうつったかのような苦い顔で対応策を考える。


 予定が狂ったこともあり、状況はかなり悪化していた。


「とにかく一番まずいんは、かなりの量の破片が地上に落ちてもうたことや。あれなんとかせんと、後方かく乱されて一気にこっちが押し込まれかねん」


「だよね。具体的な落下状況とか、分かる?」


「こっちでは把握し切れてへん。っちゅうか、そういうんは春菜さんの方が得意なはずやで」


「そうなんだけど、今回は私もちゃんと把握しきれなかったから……」


「そうなると、あとはエルかローリエが観測し切れてるかどうかやな」


 宏の言葉に、小さくうなずく春菜。堕ちた邪神の破片が春菜の観測方式に強く干渉することもあり、今回に限っては儀式中のエアリスか神の城の観測設備全てからデータを即座に得られるローリエの方が正確なデータを取れる可能性が高いのだ。


「とりあえず、そっちに関してはいったん後回しや。上陸していてこます予定やったけど中止やな。まずは兄貴と澪だけここから最大出力で一撃入れて離脱、それから破片については把握できたデータをもとに対応や」


「了解。さっきみたいに、ゲート開いて増幅状態で当てるようにすればいいかな?」


「せやな。っちゅうわけやから、兄貴、澪。サクッとアムリタとソーマ飲んで、全力であれにエクストラスキルや」


「ん、了解」


「タイミングは合わせた方がいいな。澪、十五秒くれ」


「分かった」


 状況の変化に合わせ、総攻撃という予定をさっくり破棄して次の行動に移る宏達。だが、邪神は十五秒も時間をくれなかった。


「っ! 邪神のエネルギー放出量、急増!」


 達也が神の城の地脈と接続し、杖の持つ増幅系固有エクストラスキルを展開したタイミングで、邪神が本能に従い全力での広域攻撃を発射しようとする。


 それを察知した春菜の悲鳴交じりの報告に、宏は即座に覚悟を決めてすべき行動に移った。


「こらあかん! ちょっと攻撃潰してくるわ!」


「宏君、それはいくら何でも無茶だよ!」


 春菜の泣きそうな声での制止を無視し、邪神の注意を引くように最も目立つ場所に飛び出す宏。全方位に向かって解き放たれる、純粋に破壊し消滅させるためだけのエネルギー。


「オストソル、防御機構全開! アラウンドガード! 金剛不壊!」


 下級神どころか中級の神ですら食らえばひとたまりもない攻撃。それがあたり一帯を飲み込もうとする直前、持ちうるありったけの防御手段を展開し、宏は邪神の攻撃をすべて一人で抱え込む。もはや手出しが不可能と悟った春菜が、少しでも宏が無事で済むように、と、祈るような気持ちで出来る限りの手段を講じて攻撃の威力をそぎ、宏の防御力を強化する。


「仲間死なすことに比べたら、これぐらい、なんぼのもんじゃい!」


 そんな宏の絶叫と同時に攻撃が着弾。攻撃を放った邪神を巻き込んで解き放たれた破壊力により、空間が軋み歪み、因果律が狂い、外部からの観測が不可能になる。


「宏君、返事して、宏君!!」


 完全にエネルギーが沈静化してなお観測が不能となった三の大月一帯に、春菜の悲鳴が響き渡るのであった。

おかしいなあ、おっさんホイホイとか余計な小ネタとかは挟まないはずだったのに……

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