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第21話

「お客さんだ~!!」


「ひぃ!?」


 道中特に問題なく女性型モンスターとも戦い、繊維ダンジョンのボスを仕留め、脱出ゲート的に開いた奥の通路を抜けた瞬間、宏達は虫の羽を背に持つ手のひらサイズの女の子の群れに襲撃を受けていた。


 襲撃、といっても攻撃的なものではない。内容や襲撃者の持っている感情からするなら、いたずら成分が過剰な歓迎というのが正しいところであろう。


 だが、女の子、といっても、身長が二十センチ前後しかない、というだけで、見た目や体型はミドルティーンからハイティーンの少女のそれ。しかも、種族的な文化の問題か、みんなそろって見事に全裸である。


 突撃をよけきれずに顔に張り付かれてしまった宏が、条件反射的にビビッて悲鳴を上げるのも当然だと言える。


 なお、ほかのメンバーは宏がブラインドになったおかげか、どうにか回避には成功している。


「……こりゃすげえなあ……」


「……これは、宏でなくても悲鳴上げそうになるわよねえ……」


「てか、これってスノーレディの時とおんなじパターンじゃねえか?」


 反射的に回避した後、目の前を通り過ぎた妖精的な何かの群れに、全力で引いた感じの声を漏らす達也と真琴。オクトガルほど圧倒的な数はいないが、それでも百人は超えているであろう。それだけの人数の、それも手のひらサイズの女の子がきゃあきゃあ言いながら全裸で突撃してくるのは、かなり異様な光景である。


 はっきり言って、人数とサイズに声の調子や表情の問題で、全裸だろうが何だろうが色気もエロスも何一つ感じさせない。


 が、かなり目のやり場には困る光景である。


「宏君!」


「師匠!」


 妖精っぽい何かに完全に顔面に張り付かれ、どんどん顔色が悪くなっている宏。それを見て大慌てで妖精を引っぺがしに動く春菜と澪。口と鼻、両方をほぼ完全にふさがれている事もあり、女性恐怖症的な意味だけでなく窒息的な意味でもやばい。


 実際には今の宏は呼吸できないことで死んだりはしないが、まだまだ神としての肉体に慣れていない身の上では、こういう状況ではすぐにそのことに思い至らない。そのため、鼻と口をふさがれた時点で思い込みにより息苦しさを感じ、そのまま窒息のような状態になってしまっているのである。


 そして、当人がそういう状態なのだから、当然周りの人間からも神の肉体がどういうものかなんて情報はさっくり抜け落ちる。そのため、春菜と澪は二重に慌てふためいて対応する羽目になってしまったのだ。


 もっとも、仮に宏が女性恐怖症でなく、窒息の心配もなかったとしても、外聞やらなにやらの問題ですぐに引っぺがすべきだろう、という点は一切変わらないのだが。


 余談ながら、ここまでの一連の流れは、冒頭の達也と真琴の会話とほぼ同時に進行している。春菜と澪があっけにとられていた時間は、実は案外短かったりする。


「宏君、大丈夫!?」


「……正直、なんぼのもんや、とか言えん程度には怖い……」


 春菜と澪に妖精を引きはがしてもらったその流れで、春菜の後ろに隠れながらがくがく震える宏。今までのようなフラッシュバック的なものではないが、それでも社会的な意味で最悪の流れを反射的に想像して、その明らかに行き過ぎた被害妄想に本気でおびえてしまう程度には女性恐怖症を引きずっている。


 実時間で人生の二割程度、VRシステムを使ったカウンセリングも含めた主観時間ではもう二十年以上付き合ってきた女性恐怖症だ。先の対三幹部戦でトラウマを上書きする形でほぼ克服したとはいえ、それだけ長期間患っていれば、軽度の要素はもはや性格の一部として定着してしまっても仕方がないだろう。今回はどちらかといえば、その性格として定着している要素が悪さをしている。


 ここから先の治療に関しては、性格を変えるという点が表に出てくるため、残念ながら今まで以上に手間はかかる。だが、それでも、全裸の女体に張り付かれても、青ざめてがくがく震える程度で会話そのものは普通にできるようになったのだから、急激によくなったのは間違いない。


 さらに言うなら、今までこういう時は一切女性の傍に近寄らなかったのが、今回は春菜の後ろに隠れている。そこに恋愛感情の有無があるかどうかはまだ何とも言えないところだが、少なくとも春菜相手にはそういう方向で警戒心や恐怖心を持たなくなったのだけは間違いない。


「あ~、警戒されちゃった」


「残念」


「久しぶりのお客さんだったのに、あんまりリアクション楽しめなかったよね~」


 警戒心にある種の怒気までにじませながら身構えている春菜を見て、ここが引き際だと判断したらしい妖精たち。口々に勝手なことを言いながら、わらわらと立ち去っていく。


「こら、あなた達! 何やってるのよ!?」


「わ~! 見つかった~!」


「逃げろ~!!」


 立ち去る途中に聞こえてきた奥から出てきた何者かの怒声に、蜘蛛の子を散らすように逃げる妖精たち。その素早さは、メンバー最速の春菜の眼をもってしても追いきれないほどである。


 ある意味予想通りではあるが、どうやら妖精たちがあの種類のいたずらをするのはいつものことらしい。


「すみません、お客人。いろいろと不愉快な目に合わせてしまったようで……」


「あ、いえ、お気になさらずに」


 恐縮するように頭を下げてくる、下半身が蜘蛛になっている女性。ちなみに上半身はちゃんと服を着ている。


 その申し訳なさそうな、かつ微妙にビビッて警戒している態度に、思わず柔らかい声でそう答えてしまう春菜。


 余談ながら、現在会話に使われている言葉はマルクト語だ。それも、現代のマルクトの首都アルファト付近で使われているものに近い感じの訛りである。


「あの、それで、ここはいったいどういう場所なんでしょうか?」


「ここはいわゆる隠れ里です。私の姿を見てある程度察していただけると思いますが、ここには過去の経緯で普通の人間系種族とは共存しづらくなってしまった種族がたくさん住んでいます。繊維ダンジョンができた際にこのあたりも多少異界化していますので、ありがたいことに外部とはほぼ空間的にも隔離された環境になっていますね」


 下半身が蜘蛛の、いわゆるアルケニー種の女性の言葉に、なるほどとうなずく春菜。ざっと探知してみた感じ、女性の言葉通り軽度ではあるが異界化しており、転移だけでなく空からも侵入は不可能そうだ。


 あくまでも軽度なので、春菜の権能で転移する分には全く障害にはならない。また、神の城の転移機能で移動する分には、特に問題なく出入りできる。だが、転送石や転移魔法での移動は完全に無理で、オクトガルが無条件で出入りできるかというと微妙な範囲である。また、宏なら転移陣を設置することができるが、ほかの人間では不可能だろう。


 太陽の光はちゃんと透過しており、そのほかの物理的な条件も特に外部と変化なし。地脈の流れも水脈の流れも、外部との断絶は一切ない。本当にごく軽い異界化であり、転移制限及び出入り制限付きの不可視化結界を張ったのと大差ない程度だ。


 そのうえ、異界化の状態は大変安定しており、おそらくこれ以上変化することはないだろう。


 はっきり言って、隠れ里としてはものすごく理想的な環境だといえる。


「今の話で大体のところは分かったとして、とりあえずどうする?」


「正直な話、必要な素材はさっきのボス戦で集まっとるから、別にここの隠れ里に特に用事はあらへんねんわ」


「だよなあ」


「後、さっきみたいなんは勘弁してほしいから、今回はスルーでええんちゃう?」


「俺もそう思う」


 宏の言葉にうなずく達也。別にこの里に特に用がない以上、寄り道をする理由もない。


「ボクはここにどんな種族がいるかとか、どんな暮らししてるかとか結構興味ある」


「あたしも興味はあるけど、別に全部終わってから来てもいいんじゃない?」


「そうだね。もうちょっとで全部終わるし、達也さんもいい加減早く日本に戻りたいだろうし、ここの特産品とかはすぐじゃなくても逃げないしね」


「ん、分かった」


 一応興味自体はあることを主張する澪に対し、真琴と春菜が主に達也と宏の心情を慮って意見を言う。その意見を聞き、あっさり納得する澪。そこまでこだわりがなかったこともあり、特に不満はないようだ。


「それじゃあ、他に行くところもありますし、今日はこれで失礼しますね」


「え? あ、はい」


 たかが五人とはいえ、外部の人間に身構えていたアルケニー女性は、そのあまりにもあっさりした引き際にぽかんとしながらも、その場で一同を見送る。過去にたどり着いた人間たちと違い、本気で通過点の町や村に対するぐらいの興味しかもっていないのがはっきり分かってしまうため、どうにも反応に困るようだ。


 何しろ、ここにたどり着く時点で、繊維ダンジョンに出現する強いほうのボスをどうにかする実力者なのだ。しかも、繊維ダンジョン自体はごく普通のダンジョンであり、この里の住民に対して害意を持っているかどうかを識別する機能など備わっていない。


 そして、繊維ダンジョンはその出現するモンスターの特殊性から、大抵の場合はここにたどり着くまでに物資が枯渇している。住民の特殊性だけでなくそちらの理由でも、この隠れ里に立ち寄らないという選択肢は普通はとらない。


 ゆえに、ここに来る人間がどういう人物か見極め、外敵となりうる存在なら総力をもって叩き潰さねばならず、このアルケニー女性をはじめとした幾人かがその最初の見極めを行っていた。行っていたのだが、今回のように完全スルーの立場を取られたことは過去に一度もなかったため、思わずぽかんと間抜け面をさらしてしまったのだ。


「それで、次どこに行く?」


「せやなあ。サルベージ情報通りやったら、あと行かなあかんのは煉獄か奈落やな。ついでに、ウォルディスのどっかにある太陽神様と天空神様の神殿にも寄り道、っちゅうとこか。ただ、煉獄も奈落も難易度がようわからんから、先に神衣作ってからのほうがええかもなあ」


「神衣を作るには、どれぐらいかかる?」


「染料とかはあるから、全員分で二時間ぐらいやな」


「なるほどな、了解」


 達也に問われて思いつくままに予定を口にする宏。それを聞いた達也が小さくうなずき、ほかのメンバーに視線で確認を取る。達也の視線を受けて小さくうなずく春菜達。これで完全に予定が確定する。


「ほな、ダンジョン抜けてこか。あんまり警戒させても面倒やし」


「そうだね。でも、道中での素材収集は、ほどほどにね?」


「敵の湧き方その他の事情によるでな、それ」


 などと言いながら、その場を立ち去る宏達。本当にスルーされるとは思わず、ポカンとした表情のまま置き去りにされるアルケニー女性。


 後にこの隠れ里に、宏達の関係者にとって非常に重要な人物が住んでいることが判明し、その関係者からなぜこの時に隠れ里の確認をしなかったのかと小一時間ほど問い詰められる羽目になるのだが、それはかなり先のこととなる。


 結局、この時は目の前にある露骨な誘いを、ものの見事にスルーしてのけた宏達であった。








「宏君、そろそろご飯だよ」


「もうそないな時間か」


 約二時間後。神の城に戻ってきてすぐに作業を始めた宏を、春菜が昼食のために呼び出す。


「まあ、ちょうど区切りのとこやし、飯はゆっくり食えそうやわ」


「そうなんだ。どんな感じ?」


「後は、染料と飾りパーツの反応が落ち着いて定着したら、機能開放をやって終わり、っちゅうとこやな」


「そっか。その反応が落ち着くまでに結構かかりそうなの?」


「反応が終わるまで十分ぐらいやから、そない時間かかるっちゅうわけやないんやけどな。別に反応が終わってからすぐに機能開放せなあかんわけやないから、細かいことは気にせんでもええやろう」


「なるほどね」


 宏の説明にうなずき、食堂へ移動する春菜。この城では、調理はともかく給仕や配膳はオートマタやリビングドールがやってくれるため、料理が完成すれば春菜は一緒に座って待っていられる。


「ほんで、昼は何作ったん?」


「このお城でキノコがいろいろとれたから、キノコご飯を中心にしたキノコ尽くしかな。もちろん、キノコ以外の野菜とかもいっぱい使ってるけど、ちょっと肉類少な目」


「そら美味そうやな」


 春菜の説明を聞き、上機嫌に笑顔を作る宏。割とキノコ類は好きなので、微妙にテンションが上がっているのだ。


 余談ながら、そのキノコ狩りにはライムと冬華が一緒に来ていた。そのままの流れでレラとファム、ローリエを交えて一緒に料理をし、春菜以外は味見やつまみ食いに近い形で昼食を終えている。なお現在、ファムとライム、冬華は昼寝に入っており、レラとローリエがそれぞれの部屋に運んでいる最中だ。


 本来なら教育に悪いので自分たちと一緒に食事をさせたい春菜ではあるが、現在の冬華は肉体的に不安定であるために、すぐにスイッチ切れのような形で眠ってしまう。今回もそろそろスイッチが切れるころだと分かっていたため、何も食べさせないよりはいいと判断して食堂で先に食べさせたのである。


 ファムたちはその冬華に付き合ってご飯を食べてくれたのだ。これまた、冬華みたいな小さな子供を一人で食事させるのはよくない、という春菜の判断によく分かっていないライムを除く全員が賛成し、ある程度のしつけもかねて同じメニューを一緒に食べたのである。


「ちなみに自信作は三種のキノコのホイル焼き」


 転移機能で食堂の前に移動しながら、今日のメニューについて話に花を咲かせる宏と春菜。食堂に入ると、妙に難しい顔をしている真琴の姿が。


「あれ? 真琴さんどうしたの?」


「さっき、新しい刀の慣らしもかねて、軽くダンジョンで訓練してたんだけどね……」


 そこまで告げて、深いため息をつく真琴。さすがに作り手だけあって、その言葉だけで宏は真琴の現状にピンときたらしい。


「もしかして、上手いこと使えん感じ?」


「そもそも、合体状態の維持にも苦労してる感じね」


「っちゅうても、それ以上の調整は無理やで」


「でしょうね……」


 宏の言葉に、もう一度ため息をつく真琴。宏でもこれ以上の調整が不可能であることは、言われるまでもなく分かっていた。そうでなければ、あれほどまでに製作に苦労するわけがない。


 なお、繊維ダンジョンの時は、真琴は神器の刀をほとんど振るっていない。別に出し惜しみしたわけでも使いこなせなくて使わなかったわけでもなく、単純に真琴が攻撃する機会そのものが少なかったのだ。


 また、合体状態の維持に苦労している、といっても、雑魚との戦闘に支障をきたすほど扱いに苦労しているわけではない。普通の雑魚戦なら十分な時間である十五分程度の合体の維持は問題なく行えているし、上級以上のスキルのように大きな溜めや深い集中が必要なスキルを使おうとすると合体が解除されてしまうが、特に意識しなくても発動できる初級や中級なら、いくら使っても分離してしまうようなことはない。


 ただ、それで十分かというと間違いなく否。故に、真琴は思い切りへこんでしまうのである。


「ねえ、宏君。分離機構無しはどうしても無理なの?」


「鞘がなあ、今ある素材、どころかこの世界の素材ではまず間違いなく無理やからなあ」


「そっか」


「なんぞ、僕の権能使いこなせば素材なんぞなくても何でも作れる、っちゅう話やけど、到底そんな風には思えんでなあ……」


「そうだよね。もっといろいろできるって言われても、私たちだと本当に? って疑いが先に立っちゃうんだよね」


 真琴につられるように、深く深くため息をつく宏と春菜。どれもこれも一朝一夕でどうにかなるものでもないが、それでも色々な意味で前途が多難そうなのがつらい。


「結局は、練習あるのみやねんなあ……」


「ただ、真琴さんはともかく、私とか宏君って、練習しちゃっていいのか気になっちゃうんだよね……」


「失敗したり加減間違えたりしたら、冗談抜きで世界崩壊の危機とかにつながりかねんからなあ……」


 色々あって神になってしまった二人の深い嘆き。物騒なことを言っているが、決して誇張表現でも何でもないのが厄介なところであろう。


 それでも、一度死んで復活する、という分かりやすいプロセスを経た上で、アルフェミナから細かい説明を受けた春菜はまだいい。生産系プレイヤーとして当たり前の行動を重ねた結果、意図せずに条件を満たして気が付けば神になってしまった宏の場合、自分が神となった自覚すら最近になってようやく芽生えたところであり、どうしてもそのあたりの感覚が曖昧である。


 それゆえに潜在的なスペックは春菜をはるかに凌駕していながら、宏のできることは人間であったころとそれほど変わっていなかったりする。せいぜいが無意識に素材の品質を最高級品に作り替えたり、本来その材料からはどう逆立ちしても作れないものを作ってのけたりする程度だ。


 幸いにして、宏の権能は宏自身の認識力と想像力に依存し、確実にできると明確に認識している事以外はできないため、無意識のうちにその力を暴走させて破滅を引き起こす、ということはまず起こらない。だが、それは裏を返せば、できると認識すればどんなとんでもないことでもできてしまうため、生産でヒャッハーしてテンションが上がっているときは、とんでもないものを作ってしまってシャレにならない影響を世界に与えてしまいかねないという問題がある。


 自分が何をできるか把握していない創造神ほど、危険な存在はない。把握できていないだけに自身の権能に対する防御や保護が甘く、知らぬ間に力をかすめ取られたり第三者に悪用されたりする事例は、神々の世界において枚挙にいとまがない。


 とはいえ、人間をはじめとした生物から創造神に神化した存在は全員、度合いの差はあれ神になった直後は神になった自覚が薄くできることをほとんど把握していない。なので、ある程度の期間は神としての自覚と権能の把握のために必要だと、先輩の神々はフォローや後始末をしてくれるのが通例となっている。


 もっとも、あくまでもある程度の期間、だ。ちょっと待っててと頼む時間の単位に恒河沙だの阿僧祇だのが平気で出てくるような時間感覚をしているのが、創造神をはじめとした高位の神や仏の世界ではあるが、一応期限は期限だ。権能の把握と制御のための練習は、いずれ避けて通れない問題として立ち塞がってくるのある。


 余談ながら、宏と春菜の時間感覚は現在、このあたりの神々特有の気が長すぎるものと五分前行動を普通とするちょっと真面目系の普通の人間のものとが共存している。


「その点、達也はいいわよね。さっきのダンジョンでも杖の扱いに苦労してる様子はなかったし」


「そうでもねえぞ。あの杖使うと、肉体的な負荷がねえってだけで常時地脈接続してるのと変わらねえ状態になるから、ちょっと手元狂わせると暴発させそうになるんだよ」


「でも、使えないわけじゃないんでしょ?」


「まあ、もうちょいで完全にコツはつかめそうだから、あとは場数ってところだな。単に普通に戦闘する分には聖天八極砲で弾幕張るほどの難易度はねえから、素材が揃う頃には多分普段使いには困らなくなってると思うぞ」


「あたしたちより、はるかに使いこなせてるじゃない。こっちはそれ以前の段階だってのにさ……」


「そうは言うがな。あくまで普段使う分にはどうにかなりそうだってだけで、地脈接続とかエナジーライアットとか、練習できそうにない類のはいろいろ不安要素があるんだが」


 特にエナジーライアットがやばそうだ、という達也の言葉に、その特性を思い出して遠い目をする一同。神器を使って一切加減せずに撃ったエナジーライアットは、月ぐらい粉砕するんじゃないかという不安がよぎってくる。


「……ボクだけ、そういう悩みと無縁……」


 宏達の会話を聞いていた澪が、寂しそうにぽつりとつぶやく。彼女に関しては、制御すらまともにできないようなエクストラスキルの類も持っていなければまだ神器装備も完成していない。ゆえに、強力すぎるあれこれの扱いに悩む、という話題からは完全に外されてしまう。


「そこは安心し。兄貴ですらこれやねんから、どうせ神弓ができたらしばらくはその性能に振り回されるに決まっとんでな」


「それはそれで、あんまりうれしくない」


 いつの間にか入ってきたオートマタが並べていく料理に見入りながら、宏の予言に微妙な表情を浮かべる澪。苦労を共有できないのも寂しいが、かといって別段、進んで扱いの難しい装備に振り回されたい訳でもない。そのあたりは色々複雑なのだ。


「とりあえず、その辺の話は置いといて、せっかく出てきたんやから飯にしよか」


「……そうね。基本的に、練習あるのみって結論しか出ない悩みだし、グダグダ言ってても仕方がないものね」


 そういって、いただきますの挨拶もそこそこに箸を取り、目立つ場所にドドンと置かれた焼きマツタケをつまむ真琴。超絶的な技術で焼き上げられたマツタケは、その香り高さを引き立てて食べるものの幸福感をこれでもかと引きずり出してくれる。


 もっとも、マツタケは香りはともかく、味という面では単体で食べても大したことはない。シイタケやシメジに比べれば、どうしても味の印象は薄くなる。


 しかも、今回のキノコ尽くしに限って言えば、焼きと土瓶蒸しで出されたマツタケも、申し訳程度に添えられた肉料理のソースに使われたトリュフも最高級のキノコではない。


 そのキノコは、ホイル焼きとキノコご飯の中に潜んでいた。


「……なあ、春菜。このキノコ、見たことないんだが何のキノコだ?」


 真琴がマツタケに手を付けるとほぼ同じタイミングで、達也がホイル焼きの中から引っ張り出した、見たことのない形状をした正体不明のキノコ。それについて怪訝な顔をしながら、達也が春菜に問う。


「このお城でとれた、おそらく今まで未発見のキノコ。神力的な何かがあふれてたから、まず間違いなく体に害はないよ」


「それ、違う意味で食って大丈夫なのか、って疑問があるんだが……」


「大丈夫大丈夫。神米とかリヴァイアサンとか食べまくってるんだから、今更だって。それに、そのキノコすっごくおいしいから」


 笑顔でにこやかに断言する春菜に、違う意味での不安が大きくなる達也。味については、最初から心配していない。おそらく、腹をこわすとかそっち方面の意味においては、食って大丈夫だというのも事実だろう。


 だが、パラメーター上昇とか種族的な何かとか、その絡みについて取り返しのつかないことになりそうな、そんな言いようのない不安がどうにもぬぐいきれない。


 そもそもの話、女神である春菜と単なる人間にしか過ぎない達也とでは、大丈夫の基準は大きく違うはずだ。そうでなくても春菜の場合、これまでも食って死なないからという理由でとんでもない材料を調理してきた前科を持つ。それで体を壊したことがないのは事実だが、時折死ななければいいというものでもないだろうと突っ込みたくなる食材を出してくる女の言い分を、どこまで信用すべきかは永遠の課題であろう。


「……」


「……」


「……」


 食うべきかスルーすべきか真剣に悩んでいた達也が、真琴と澪も同じように難しい顔で正体不明のキノコを睨んでいる事に気が付く。どうやら、同じ疑問、というか不信感を抱いたらしい。


 その達也の視線に気が付いた真琴と澪が、考えを問いかけるように達也に視線を向ける。目と目でいろいろ通じ合った後、お互いにけん制しあうように、押し付けあうようにアイコンタクトをかわしあう。


 そんな達也たちの不毛なやり取りを無視して、シイタケのてんぷらを平らげた宏がホイル焼きの攻略に取り掛かる。肉体的にも存在的にもその手の問題とは無縁なだけに、春菜が作るものに警戒する必要を感じないのだろう。


「このキノコ、ごっつ旨いやん」


「でしょ?」


「味も香りも、今まで食べたことあるキノコの中で最高やな、これ」


「私もちょっとびっくりしたよ。味だけじゃなくて栄養価も高いし、間違いなく究極のキノコだよね」


 ホイル焼きとキノコご飯をバクバク食べながら、そんな風に楽しそうに語り合う宏と春菜。その光景だけを見ていれば間違いなく、他人からは恋人同士として扱われるであろうやり取りだが、残念ながら宏はおろかラブラブ光線を垂れ流しにしている春菜ですら、今回は料理人目線で恋愛感情一切関係なく目の前の食事について語り合っている。


 この二人が友達以上恋人未満的な関係からまるで進展しないのは、せっかくある程度女性恐怖症を乗り越えたというのに自身の恋愛感情について向き合う勇気がないヘタレな宏が一番の問題ではあるが、こんな風に計算でも何でもなく素で恋愛系のイベントをスルーしてしまう春菜の側にもかなり問題があるのは間違いないだろう。


 友達からスタートする形でお互いのことをよく知って、気が付いたらお互いに惹かれあっているような、ある意味では当たり前の形で恋をしたい、という願望を抱いていた春菜。日本にいたころにその望みを叶えられなかった原因の大部分は、寄ってくる男がそういう恋愛ができるような手合いではなかったことにあるのだが、せっかくの機会をこういう形でスルーしてつぶしていた春菜自身も、普通の恋から遠ざかる原因をせっせと作っていたのではないかと問われると、全く否定できないところである。


 そんな、女のほうが男にぞっこんだとは思えない、内容や光景とは裏腹に甘さのかけらも感じさせないやり取りを見ていた達也たちが、なんとなく吹っ切れた顔でキノコを口にする。このままだと十年一日という感じで今のようなやり取りを続けそうな宏と春菜を見ていると、いろんな意味でどうでもよくなってしまったのだ。


「……確かに、このキノコうめえなあ……」


「……このメニューでマツタケありがたがってたあたし、何なのかしらね……」


「……真琴姉、そのあたりのこと考えたら、日本に帰ったあと何も食べられなくなる」


「……そうね。ってかこのキノコ、妙に力が湧いてくるんだけど……」


「そこはもう、神の城でとれた高品質の神の食材だから、で済ませるべき。髭の配管工が食べたら巨大化しそうなキノコぐらい、あっても全然おかしくない」


 キノコ尽くしだというのに、あっという間にほかのキノコをわき役にしてしまった謎キノコに、あっという間に降参する達也たち。不安を口にしていたのも最初だけで、気が付けばモクモクとキノコご飯とホイル焼きを平らげる作業に集中してしまう。


「今回はキノコご飯とホイル焼きやったけど、てんぷらとか蒸籠蒸しとか、あと鍋も美味そうやな、このキノコ」


「そうだね。まだまだいっぱい収穫してるから、また今度間を見て色々試してみるよ」


 なんとなく無言になっている達也たち三人を横目に、うまい食べ方を検討し始める宏と春菜。いつものことではあるが、基本的にどこまで行っても色気より食い気の二人だ。


 この点にあえてフォローを入れるならば、このキノコに関しては、宏と春菜がどんな食べ方がうまいかに意識が向いてしまうのも、仕方がない部分はある。何しろこのキノコ、煮てよし焼いてよし揚げてよし、ダシに使っても美味く、どんな調味料と合わせてもそれぞれの個性と最高に調和する、無敵のキノコなのだ。料理人が調理法を考えてしまうのは当たり前であろう。


 実はこの時、神である宏と春菜を除く全員が神キノコをたくさん食べた影響で、ゲーム的に表現するなら低いほうの能力値がいくつか一ポイント上昇していたのだが、ゲームと違いステータス画面など見ることができない現実世界ゆえに、最後まで誰もそのことに気が付かなかったのであった。








「……おかしいわね……」


 煉獄上層。入ってすぐに遭遇したモンスターとの戦闘を終えたところで、合体状態の刀を眺め、真琴が微妙に首をかしげる。その後ろには、三枚におろされたケルベロスの死体が大量に転がっていた。


「どうしたの、真琴さん?」


「さっきまでに比べて、やけに刀の合体状態が維持しやすいのよ」


 春菜にそう答えながら、どうにも納得がいかない、とばかりに、神器・虚神刀を睨み付ける真琴。先ほどまでの扱いにくさはどこに消えた、と、小一時間ほど問い詰めたくなる。


 そもそもこの虚神刀、異常なまでに合体状態が維持しにくいのも当然で、相反する属性を持つ刀の神器二振りを強引に合体させて形成しているのだ。下手をするとお互いに相手を打ち消しあって消滅しかねないのだから、むしろホイホイ合体できるほうがおかしい。


 そこまで無茶なことをしている刀だけにその性能は絶大で、虚神刀にかかれば物理無効だろうが絶対無敵だろうが関係なく、どんなものでもスパスパ軽快にあっさり斬れる。刃を地面に向けて手を離せば、鍔で引っかかるまで何の抵抗もなく地面に埋まるぐらいだ。


 しかもこの虚神刀、人間が扱えるように、何重にもリミッターをかけてこの性能だ。人間がかろうじて扱える、というところまで性能を落としているがゆえに、製作者である宏をはじめとした神々を本当の意味で斬るには最低でもエクストラスキルを使う必要があるが、逆に言えば、人間が扱えるところまでリミッターをかけていてすら、神殺しが可能になっているともいえる。


 これまで宏が作ったものの中で、一二を争うほどヤバいものなのは間違いない。


 この場合問題なのは、仲間のために神殺しが可能なものをホイホイ作ってしまうことなのか、神殺しが可能な刀ですら一番やばいものだと断言できないことなのかは議論の余地がありそうだ。


「神衣のせいじゃねえのか?」


「それも考えたんだけどさ、この服って能力値の底上げとか、そのあたりの機能はないのよね?」


「一応あるにはあるんやけど、増幅しすぎてえらいことなるから、生命力とかのリソース系能力以外はスイッチ式にしてんねんわ」


「だったら、そいつを無意識に起動してるってのは?」


「オンにしとったら、あんなもんではすまんでな」


 達也の思い付きに対し、一番ありそうな要素を明確に否定する宏。そもそも、神衣の能力値増幅機能についてあえて説明しなかったのは、それが決して他の神器の制御にプラスになる要素ではないからである。


 むしろ、ベースとなる使い手の能力が伸びれば伸びるほど、神器の暴れ馬ぶりはひどくなっていく。それが当人が鍛えて伸ばした能力ではなく、アイテムなどで強化したものの場合は、さらに制御が困難になるへそ曲がり仕様になっているのが神器というものだ。


 宏が神斧レグルスや神鎧オストソルの制御に困っていないのは、作ったのが宏自身であるのもさることながら、神器がへそを曲げる気をなくすほど圧倒的な制御能力を持っていることが大きい。


「ただまあ、神衣の影響っちゅう可能性自体は否定できんわ」


「というと?」


「基本的に神器っちゅう奴はへそ曲がりで、使いこなしたいんやったら俺に認めさせてみい、っちゅう感じでやたら使い手に負荷かけるんやけどな。神衣だけはコア素材が春菜さんの血肉やからか、他のんに比べたら着用者に対してはものすごい穏やかやねんわ。せやからもしかしてやけど、あまりに苦労しとる真琴さんを見かねて、こっそり補助とかしてくれとる可能性はあるでな」


「なるほどね」


 宏の言葉に、なんとなく納得した様子を見せる真琴。春菜の性質を引き継いでいるなら、そういう面で穏やかなのはありそうな話だ。


「ただまあ、穏やかや、っちゅうたところで神器は神器やから、ちゃう形で試練みたいなんはあるみたいやけどな」


「……どんな? って聞こうかと思ったんだけど、なんとなく分かっちゃったよ……」


 宏の言葉に、どことなく遠い目をしながらケルベロスの死体が山積みされているはずの方向に視線を向ける春菜。その視線の先には、ケルベロスの死体から変化した魔剣・ケルベロスファングの山が。


「いくらなんでも、あれはやりすぎだと思うんだ……」


「確か、魔剣化の確率って大体0.02%ぐらいやったっけ?」


「大体そんなものかな」


 仕留めたケルベロス数十体がすべて魔剣になったのを見て、そのありえなさを論じる春菜と宏。確率はゼロではないので絶対に起こらないとは言えないが、普通0%として扱われるような数字ではある。


 余談だが、0.02%というのは、ネットゲームなどでは一般的な上級レアアイテムのドロップ率である。レアアイテムがすなわちいいものである訳ではなく、また0.02%の確率で落とすアイテムが必ずしもレアアイテムというわけでもないため、この0.02%という確率に翻弄されて恨みを抱いているプレイヤーは少なくない。


「ねえ、師匠。この産廃どうするの? というか、まだファーレーンのバルド戦で拾ったやつも処分してないのに、こんなに大量にあって、使い道あるの?」


「どう考えても使い道あらへんのが悩ましいところやでな」


「だと思う。と言うわけだから、いくら試練の一環でもごみの大量発生はよくない」


 どうにも使い道のないケルベロスファングの処分に困り、宏の言葉を受ける形で神衣に向かってそんなことまで言ってしまう澪。言われた神衣のほうも、そんなことを言われても困るに違いない。


「……なんか、こう、前途多難ねえ……」


「この調子でドロップが増えるのは、どう考えても面倒だよなあ……」


「そうね。それにしても……」


「どうした?」


「いや、ね。ケルベロスファングって、最終装備でこそないけど、煉獄に来たらまず真っ先に狙うべき武器だったはずなのよね。それがゴミだの産廃だのって、時代が変わったわよね……」


「……それを言えるのは今の俺らだけだから、安心しろ」


 攻略組の廃人であった真琴の、回顧とも嘆きともつかない言葉に、苦笑しながら慰め七割ぐらいの突っ込みを入れる達也。おそらくゲームに戻れば、このケルベロスファングの山はオークションで一本数百万クローネの値段でも秒殺されることだろう。


 職人たちが引きこもっていて高位装備の修理に難を抱えているゲームのフェアクロにおいて、ケルベロスファングは廃人にとって比較的狩りやすく数がこなしやすいケルベロスのレアドロップである事から、煉獄攻略では非常に重要な立場に立っている。まずはこの剣を複数入手するところから煉獄の攻略が始まる、といっても過言ではない。


 煉獄で手に入る武器としては最下級だが、それでも他のダンジョンで手に入る大半のボスドロップとは一線を画す性能を誇り、何より高確率で煉獄武器固有の特殊能力である与えたダメージに比例する自己修復機能がついているのだ。


 武器そのものに闇と炎の複合属性がついているため、そのあたりの属性に耐性を持つモンスターが多い煉獄ではやや不利ではあるが、そもそも煉獄では通常攻撃など牽制以外の役には立たない。攻撃スキルの属性は基本的に武器の属性より優先されるのだから、基本スキル攻撃しかしない煉獄では、武器自体の属性相性など大したデメリットでもない。


 それらの事情により、狩場を煉獄に移したグループは常時血眼になってケルベロスを追い回し、毎日のように数千匹、数万匹を狩っている。狩りをしているのは必ずしも煉獄初心者ばかりではなく、先に進んでは装備が破損して再び予備を確保せざるを得ない上級者や、新しい階層に挑む前の準備として使いつぶすためのものを確保しに来ている最前線組も結構な数がいる。


 また、入手しやすく比較的使いつぶしやすいという理由から、予備武器を手に入れるための予備武器として、わざわざ片手剣スキルを鍛えてまで使っているプレイヤーも珍しくなく、常に需要が存在するのが本来のケルベロスファングなのだ。


 使いつぶすための武器に数百万クローネは高いのではないか、と思われそうだが、そもそもゲームのフェアクロにはチロルという通貨単位はない。それに、五年も続いているネットゲームでの数百万は、トップクラスの廃人にとっては基本的にはした金である。オークションでの本気の競り合いだと、数千億ぐらい平気で飛び交うのが、ネトゲ廃人の世界だ。


 もっとも、ケルベロスファングは超が付くほど優秀な武器ではあるが、スペック自体は今の宏が本気を出して全力を注ぎこんで作ったオリハルコン製の武器には劣る。もはやつなぎ装備すら神鋼製で、しかもチーム内の誰も使わない片手剣となると、ゴミだの産廃だの言われ放題でも仕方がないだろう。


「しかし、何だ」


「何よ?」


「考えてみれば最初にケルベロスファング引いて以来、一回もドロップ装備引いてなかったよな?」


「言われてみれば、確かにそうね」


「春菜がいるってのに、今までよくドロップ装備に引っかからなかったもんだな」


「まあ、引いたところで処分に困るだけだから、別にいいんじゃない?」


 次のモンスターが湧く前にと一生懸命ケルベロスファングを回収しながら、そんな益体もない話を続ける達也と真琴。神が自らの手で作った神器にかなう装備など存在しない。それが分かっているが故にできる贅沢な会話であろう。


「しかし、ちょっと疑問なんだが、煉獄でドロップ武器を出す奴ってどれぐらいいるんだ?」


「基本的に、ほとんど全部のモンスターが何かの装備に化けるけど……」


「……それ、ヤバくないか?」


「……ヤバいわね。倉庫の不良在庫的な意味で……」


 達也の懸念に、真琴がひきつった顔で同意する。宏達が知りうる話ではないが、ゲーム時代の神器ですら、それを超える装備は存在しない。そして、いま彼らが身に着けているものは、宏が装備している神斧レグルスと神鎧オストソル以外は、ゲーム時代に存在しなかった、神器を超える神器である。


 神衣に至っては、神の血をダイレクトに使って神の手でその潜在能力を解放されたトンデモ装備であるため、基礎防御力だけでも煉獄産の最上位防具で固めた戦闘廃人の防御力を超える。


 宏が今までと変わらないノリで作っては強化するためいまいち実感が湧かないが、既にスペック勝負はインフレなんて言葉で言い表せない領域に突入してしまっているのだ。


 そんな状況で半端な高性能装備など大量にドロップしても、うかつに処分できない不良在庫として倉庫に積みあがるだけである。煉獄産の武器は素材にするにしても余計な特性がついている分使いづらく、さらにそれで作ったものも結局使い道がない点はあまり変わらない。


「さっき澪が突っ込みいれてたし、さすがにいくら何でも出てくるモンスター全部がドロップアイテムに化けたりはしないでしょ」


「そうだよな。春菜の血肉が入ってんだし、素材が一切取れなくなるような真似はしないよな、多分」


「でも、春姉の血だし、試練は試練、とか言ってこのままいく可能性もある」


「せっかく頑張って気休め言ってんだから、そういうこと言わないでくれる?」


「達兄、真琴姉、現実はちゃんと直視する」


 前途に不安が残る状況に、祈るように軽口を叩きあう達也と真琴、澪ではあったが……


「げっ。エキドナが全部杖に化けやがった」


「うわあ、グロリアスペインが山盛り……」


「元から誰も使わない槍とかメイスとか、どうしたらいいんだろうね?」


 やはり神器の試練に甘さなど一切なく、情け容赦なくモンスターが不要な装備品に化けていく。更には


「うわあ、懐かしい。アンチェインじゃない」


「どうしたんだ?」


「こっちに来る前、あたしこれがメインウェポンだったのよ」


「へぇ? そういやお前さん、基本は大剣使いだったよな」


「そうそう。って、えっ? なんで虚神刀が反応してんのよ? ってちょっと待った! 危ないから暴れるな!!」


「あ~、俺以外を使おうとするなってか……」


 へそを曲げた神器が中ボスドロップの武器を粉砕して回ったりと、中層を突破するころには精神的にへとへとになって遠い目をする羽目になる宏達であった。

今回一番の被害者は、無駄に警戒させられた挙句に置き去りにされたアルケニーの人だと思います。


あと、神器はどいつもこいつもこんな感じです。簡単に使われるようなのは神器とは呼べません。

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