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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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27/242

27 金欠

 午前、午後ともに実技訓練の日々が続いた。
 実技訓練は、基礎体力の錬成から技術的なこと、各魔物別の攻撃法に至るまで、全て。
 個人鍛錬もあれば模擬戦もあり、教官が直接相手をすることもある。
 また、職種別に分かれての訓練もあるし、合同での訓練もあった。
 パーティの連携のためには他の職種の者のことが分かっていないと上手く行かないし、護衛任務や傭兵等での対人戦となれば、相手の職種に対する知識や理解度の大小が勝敗を決めることも少なくはない。

 女子のパーティは、魔術師が多くて前衛が少ないというバランスの悪い構成であるため、パーティ対抗戦の訓練の時には男子のパーティと組ませたり、一時的にメンバーを入れ替えたりもする。
 マイルのパーティは、マイルが剣士役もこなせるのと、各個人の能力が高いため単独でもかなり戦えるが……。

 また、あまり実技訓練ばかりだと疲れが溜まるので、時々は座学がはいる。
 座学は、薬草や食べられる植物、毒のある植物についてや、魔物の特性や弱点、注意事項等。そして各国の歴史等の一般教養もあれば、ギルドについてや、貴族のあしらい方に至るまで、至れり尽くせりであった。

 普通のハンターは、これらのことを普段の仕事の間に経験して、またはパーティの先輩から教わったり技術を盗んだりして、失敗を重ねながら試行錯誤しつつ身につけて行くのである。
 だから、それらを全て身につけるのに時間がかかるし、身につけられなかった「抜け」も多い。なので、更に何年もかけてゆっくりと一人前へと成長して行く。
 ……それまでに、多くの者は何度目かの「失敗」のせいで命を落とすが。


 マイルは、座学で大事だと思ったことはノートを取っていた。
 同様にノートを取っている者も多かったが、一部の者は、授業は真面目に聞いているのに、全くノートを取っている様子がない。
 不思議に思ったマイルが部屋で他の者に聞いてみると、レーナが呆れたような顔で教えてくれた。

「文字の読み書きが出来ないからに決まってるでしょ」
「え? でも、それじゃあ貼り出された依頼が読めないんじゃあ……」
「ギルドの職員に頼めば適当なのを見繕ってくれるし、代読して小遣い稼ぎをしている子供がいるわよ」
「………」

 前世では読書好き…と言うか、友達がいなかったのでテレビかゲームか読書くらいしか娯楽が無かった…だったため、マイルには『読み書きができない』ということが想像もできなかった。
 ただ、それは随分と悲しく残念なことだな、と思うばかりであった。



「第3回、パーティ会議!」
 再びのレーナの宣言に、マイルが素朴な質問をした。

「あの、リーダーはメーヴィスさんなのに、どうして毎回レーナさんが仕切っているんですか?」

「「「…………」」」

「あ、すみません、今の、ナシで!!」


「今回の議題は、次の休養日についてよ!」
 何事もなかったかのように、レーナの話が始まった。

「知っての通り、私達には力が足りない、練度が足りない、速さが足りない、そして何より、お金が足りないわ!」
 レーナの悲痛な叫び。

「それで、次の休養日には、ハンターとして仕事をしようかと思うのよ。
 そのうち学校の訓練の一環として魔物狩りも始まって、狩った分はお金が貰えるって聞いてはいるけど、私達にはそれまで待っている余裕がないのよ!」

 既にレーナはお金が尽き、食堂での3食以外は何も口に出来ず、最後のインク壺も底が見え始めている状態であった。
 世間では、こういう状態を「行き詰まった」、「どん底」、「もう後がない」等と言う。

「メーヴィスとポーリンはハンター経験がなく、ここに来てから実習をする都合で登録したFクラス。マイルは少し経験がある現役Fクラスだったわね。
 でも、私はEクラスだから、ゴブリンやオークまでの魔物相手の仕事も請け負えるわ。
 駆除の依頼があればそれを請けて、無ければホーンラビットや動物狩りね。うまく行けば、ひとり当たり銀貨3~4枚にはなるわ」

「え……」
「何? 何か不服でもあるの?」
「い、いえ、何でもありません……」
 マイルは、レーナが提示した稼ぎの見込み金額があまりにも少ないので、少し驚いた。ただ、それだけのことである。


 その日の夜、ベッドの中でマイルは考え込んでいた。
 同室のみんなに魔法の指導を行うべきかどうかを。
 指導するにしても、前の、マルセラ達にしたような指導は行えない。
 マルセラ達は元々の才能が少なかったし、魔法の腕で生死を賭けた生活をするわけではなかった。だからかなりのコツを教えても大勢の運命を左右するような使い手になることはなかったし、人命がかかった場面に遭遇することも滅多にないだろう。なので約束を守ってあの知識は自分の胸にしまったままにしてくれるはず。

 しかし、この学校の者はそうではない。常に魔法の腕が命に直結するし、自分だけではなく他のパーティメンバーの腕が全員の生死に直結する。
 そんな者に魔法の威力が劇的に向上する方法を教えれば、絶対にパーティメンバーに教えるだろう。そしてパーティが解散して他のパーティにはいった者は、またそこで教える。
 それらの者は、自分の子供にも教えるだろう。仲の良い友人にも教えるだろう。中には、お金目当てで魔法教室を開いたり、貴族の子弟に家庭教師に行ったり、他国に知識を売ったりする者も……。
 まず、秘密が守られることはないだろう。

 そして、この学校の魔術師達は元々才能がある。
 今の時点で、既に他の者よりかなり優れた思念波出力、明瞭度、イメージ力を持っており、充分な威力の魔法を使っている。その者達にあのコツを教えたら………。
 そう考えると、マイルにはマルセラ達と同じことを同室の者達に教える気にはなれなかった。
 しかし、みんなが卒業後すぐに死ぬというのも嫌であるし、卒業検定ではDクラスではなくみんな揃ってCクラスになりたい。
 どうすれば良いのか………。
 マイルの悩みは朝方まで続いた。



「さぁ、行くわよ!」
 次の休養日。
 朝早くから起こされ、レーナに急かされて朝食を摂ったあと、4人はハンターギルド王都支部へと向かった。

 王都にあっても、支部である。
 確かに、国内の各支部を纏めるための中枢たる総括部門があるが、ハンターギルドは多くの国にまたがる組織であるため、どこかの国が『本部』と名乗る機関を持つことはない。特定の場所に『頭』があるわけではないので、簡単に頭を潰されたり乗っ取られたりすることはないのである。大きな決め事は、国をまたいだ会議で決められる。
 そのため、組織の安全性と安定性と引き換えに、動きが鈍く、一度決まったことは簡単には変えられない等の弊害も多い。

 朝早くであるが、ギルドは混んでいた。
 と言うか、朝早くだからこそ混んでいる、と言える。
 そしてその原因のひとつが。

「ああっ、あいつら、学校の男子達!」
 そう、みんな、考える事と懐具合は同じであった。
 FクラスとEクラスの依頼ボードは既に荒らされ尽くしており、一日で終わる割の良い仕事は根こそぎであった。

「出遅れた………」
 がっくりと肩を落とすレーナ。

「ま、まぁ、常時依頼と素材採取があるじゃないですか!」
 マイルの励ましに、ようやく復活したレーナは常時依頼と素材の相場をボードで確認し、鳥やホーンラビット等がそこそこの価格であることを知り元気を取り戻した。
「さすがは王都、消費者が多いから肉の相場がいいわね。じゃ、行くわよ!」
 ハンター養成学校第12期C班、初の実戦に出撃である。


「獲れない………」
 がっくりと地面に両手をつくレーナ。
 ひとり当たり銀貨4枚を稼ぐには、全員でホーンラビットか鳥を8羽獲らなければならない。キツネならば2匹。
 鹿等の大物ならば1頭で充分なのだが、そういう幸運は滅多にない。

 狩りを始めてもう3時間。そろそろ正午だというのに、獲物はホーンラビットと鳥が1羽ずつ。これでは、ひとり当たり銀貨1枚にしかならない。
 この調子では、昼の食事休憩のあと4時間頑張ったとしても、あと3羽も獲れれば良い方であろう。4人の中で一番財政状態が厳しいレーナにとっては、まさに死活問題であった。

 レーナは見落としていたのである。
 王都は人口が多く、それに応じて新米ハンターの数も多く、そして肉の消費量も多い。
 それは、王都に近い狩り場では獲物の大半がほぼ狩り尽くされているということなのを。


 気分を変えようと昼の休憩にはいったところで、マイルは考えていた。
(そろそろ切り出すか……)

「ちょっとあんた、何よそれは!」
「え、昼食ですけど……」
 他の3人が、昼食の代わりにと食堂で貰った堅パンを水に浸して食べているというのに、マイルは収納から出した振りをしてアイテムボックスから取り出した焼肉サンドを食べつつ紅茶を飲んでいた。

「どうして温かいのよ!」
 半分以上をレーナに奪われた。


「あの、皆さん、ちょっと聞いて貰いたいことがあるんですけど……」
 食事を終えて休憩している時、マイルは遂に切り出した。
 みんながマイルの方を向き、マイルは言葉を続ける。

「獲物がなかなか獲れないのは、見つけるのが難しいということもあるけれど、魔法があまり命中しないというのが大きな原因ですよね。
 弓士がいない私達では遠距離攻撃は魔法頼りですから……」
「何よ! 私が悪いっていうの!」
 レーナが突っかかるが、マイルはそれを宥めて話を続けた。

「あの、私が魔法が色々と得意だという事はこの前お話ししたと思うんですけど、その、良ければここで狩りは一時中断して、魔法の訓練をしてはどうかと思うんです……」
「あんたが教えてくれるってわけ?」
「は、はい、まぁ……」

(年下の自分が教えるなどと言って、気分を害させたかな……)
 そう思って心配していたマイルであるが。

「そう言えば、私にばかり撃たせて、あんたは全然魔法を撃ってなかったわよね。
 いいわよ。どうせ焦っても良い結果は出ないし、気分転換に、ちょっと練習してみるのもいいかもね」

 マイルの予想に反して、素直にマイルの提案を受け入れたレーナ。
 少し驚きながらも、マイルはにっこりと微笑んだ。

 さぁ、養殖の始まりである。
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