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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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205 情報収集

「じゃあ、嗅覚の確認です!」
 マイルが、獣人並みの嗅覚があるのはレーナさんではなく自分である、と主張するため、ファリルちゃんがそう提案した。ドワーフだと思っていたマイルが獣人の仲間かも、と思うと、少し嬉しくなって、それを自分の眼で確認したかったのである。猫耳が付いている自分や、牙が生えているレーナと違って、マイルは外見的には獣人の血を引いているらしき特徴がなかったので。

 そして厨房へ姿を消したかと思うと、すぐに戻ってきたファリルちゃん。その両手には、それぞれ水がはいったカップが握られていた。
「この片方に、エールが一滴だけ垂らしてあります。普通の純血の人間には絶対判らないですけど、嗅覚で追跡ができるなら、これくらい簡単に判別できるはずです!」
「任せて下さい!」
 これで、ファリルちゃんに自分の活躍を証明できる。そう思ったマイルは、意気込んだ。
 元々人間より鋭敏な嗅覚であるが、そのままでは動物や獣人には及ばない。なので、身体強化魔法を使い、嗅覚を大幅に引き上げた。そう、あの、追跡時のように。いや、更に上、犬や狼にも匹敵しようかというくらいに強化した。失敗は絶対に許されないのである。

「よし、嗅覚最大! 勝負!!」
 マイルは、片方のカップに顔を近付けて、鼻から大きく息を吸い込んだ。
 すうううぅ~……
 嗅覚に全神経を集中させ、意識の全てをその解析に充てるマイル。
 水とカップの臭い、ファリルちゃんの移り香、そして調理場に渦巻く料理や食材の臭いに、大将夫婦の臭いも混じっている。そして食堂に立ち込める様々な臭い……。
「よし、次はこっち!」
 再び、鼻から大きく息を吸い込むマイル。
 すうううぅ~……

 ぱたり
 そしてマイルは、意識を失い、床に倒れ込んだ。
 それを見て、自分のお尻のあたりを右手のてのひらでパタパタと扇ぎながら、小さな声で呟くレーナ。
「……悪かったわよ……」

 そう、獣や獣人は、いくら嗅覚が優れていても、悪臭には耐えられる。感覚器官や脳の構造が、そうなっているからである。なので、以前マイルが森で作った、あのとんでもない兵器ででもない限り、そうそう臭いで酷い目に遭うこともない。あの森でも、吐いたり気絶したりはしたものの、発狂したりショック死した者はいなかったのだから。
 しかし、人間は違う。
 元々嗅覚がそう敏感ではないので、そういう安全機構があまり備わっていないのである。
 その人間であるマイルが、嗅覚を獣人以上に引き上げて、そして完全に無防備な状態で思い切り鼻から吸い込んだら。……レーナのアレを。

「大丈夫でしょうか……」
 そう言いながら、心配そうな顔で、床に倒れたままピクピクしているマイルを足で突っつくポーリン。
 そして、黙って見ていたメーヴィスが口を開いた。
「まぁ、とりあえず……」
「「とりあえず?」」
「食事にしよう。冷めると味が落ちるからね」
 いつの間にか、テーブルには料理が並べられていた。決して床に横たわるマイルの方に目を向けようとはしなかった、引き攣った顔の大将夫婦の手によって……。


「どうして起こしてくれなかったんですかあっ!」
 気が付くと、食事の時間や、「ファリルちゃんと遊ぼう!」の時間どころか、既に翌朝になっていたため、怒るマイル。
「あんたが寝ていたんだから、仕方ないでしょ。さ、さっさと朝食を食べに行くわよ」
 実は、昼過ぎに寝てしまい、夜に目が覚めて眠れなくなったレーナ達3人と、同じく誘拐されてからずっと寝ていたため眠れなかったファリルちゃんは、夜中から朝方まで、ずっと一緒に遊んでいたのである。それを知ったマイルが怒りの叫びを上げたが、もはやどうしようもない。レーナの言葉に、ぐぎぎ、と歯を噛みしめるばかりであった。



 そして3日後。
 いつものようにハンターギルドに顔を出した『赤き誓い』は、ようやく、ギルドマスターに自室へ呼ばれた。おそらく、マイルが待っていた、誘拐犯達の取り調べ結果を教えてくれるのであろう。

「まず、褒賞金だ。受け取ってくれ」
 そう言って机の引き出しから取り出したふたつの革袋を、どん、と机の上に置くギルドマスター。
 経費を節約する時は布袋であるが、威厳を持たせる時や、御祝儀的なものの場合は、豪華感を出すためか革袋が使われる。今回は単なる依頼報酬ではなく『褒賞金』なので、革の袋を用いたのであろう。……受付嬢のフェリシアは、やたらと革のものを使いたがるが、それは、経費的にはよろしくないのであった。

「こっちがギルドからの褒賞金、そしてこっちが国からの褒賞金だ。犯人達の一部は犯罪奴隷にはできないそうなので、その分は別途、国から補償金が出ておる。まぁ、犯罪奴隷になる者も、終身奴隷ではなく有期奴隷だから、かなり安いけどな。盗賊というわけでもなく、誰も殺していないため、決まった年数のみの有期犯罪奴隷になるらしい。一部の者は、それすら免れたらしいがな」

 一部の者、というのが、危険な魔術師は放置できないからか、それとも何か別の事情、つまり貴族や有力者からの介入があったのか等は分からないが、それは『赤き誓い』にとっては既に関係のないことである。司法に口出しできるような立場ではないし、そのつもりもない。
 アシスタントとしてギルドマスターの斜め後ろに立っていたフェリシアが机の上のふたつの革袋を取り、リーダーであるメーヴィスに渡してくれた。どうやらフェリシアは、『赤き誓い』に関することは全て自分の担当だと、完全に決めつけているようであった。そして勿論、それに文句を言えるような者が存在するわけもなく、他のギルド員達は、それを当然のことのように受け入れていたのである。

「「「「ありがとうございます!」」」」
 いつものように、儀礼として一斉に頭を下げた後、メーヴィスが、今回も革袋の中身を確認しようともせずにそのままマイルへと渡し、アイテムボックスへと収納された。勿論、後で勘定するのであるが、ここでそんなことはしない。……カッコ良くないから。

「それで、取り調べの結果は、どうでしたか?」
 そして、気になっていることを、ズバリと聞くマイル。
「ああ、奴らは我が国だけでなく他国の者も含めた、中流階級の上から上流階級の下、といった階層の奴らで、どこかで仕入れた邪教思想にかぶれた連中だそうだ。元々は東の方の国が発祥の地らしく、何処どこの国、という局限はできないそうだ」
「東の国……」
 『赤き誓い』は、メーヴィスとポーリンの母国でありマイルがハンター登録を行った国、ティルス王国から西へと向かい、マイルの母国であるブランデル王国を経由して、更に西進を続けてこの国へとやってきた。つまり、隣国ではなく、もっとずっと東の方、といえば、完全に反対側であった。ちょっと戻って、というには、かなり面倒であった。
(でも、今、問題が発生しているのはここなんだから、そっちは、また今度でいいや……)
 あまり危機感のないマイルであった。

「それで、まぁ、奴らは神の召喚、というか、『神の御降臨の儀式』を行ったということらしいんだがな。攫った少女を依代よりしろにするつもりで、危害を加えるつもりはなかった、と主張して、事実、全く危害は加えられていなかったため、殺人未遂ではなく、ただの誘拐ということになった。人身売買にも違法奴隷にも該当しないしな。
 いや、誘拐だけでも充分重罪なんだが、被害者が、人間ではなく獣人だしな。それに、縁戚らしい一部の貴族や商人が圧力を掛けてきた。まぁ、係累が重罪犯や邪神教徒というのはマズいから、嫌々ながらの圧力らしいが……」

 大嘘である。あの時確かに、彼らは「生け贄」と言っていた。それに、「不浄の生物」とか言っていた獣人を、神の依代になど使うわけがない。
 しかしそれは、マイル達が決めることではない。彼らの発言は、「生け贄」という言葉も含め、全て証言済みである。その上で、政治的配慮か何かでそう決定されたのであれば、それはもう、一介のCランクハンター風情にはどうしようもなかった。

「そうですか……」
 マイルは、それ以上の情報収集を諦めた。
 それに、ギルドマスターが聞かされた話も、本当のことかどうか判らない。これ以上は、聞いても意味がないだろう。
 マイル以外の者は、誘拐犯達が処罰され、同様の事件が二度と起こらなければそれで良く、彼らの目的とかは『もう終わったことであり、どうでもいい』という感じであった。そして、いくら貴族等から圧力があったとはいえ、勿論無罪になるようなことはなく、ちゃんと『幼女誘拐犯』としての処罰はしっかりと行われる。ただ、「邪教」とかの部分はスルーして、他の者に迷惑がかからないように配慮しただけである。
 犯罪奴隷を免れた者達も、決して無罪放免というわけではない。牢に収監されるなり、巨額の保釈金を払うなり、何らかの処罰は受けることになる。そして今回現場にいなかった仲間達についても、ちゃんと調査されるらしい。
 ……尤も、主要人物の大半が捕らえられた今、もうまともな活動はできないだろう、とのことであったが。以後は監視の目もあることであるし。官憲だけでなく、迷惑を受ける親族や係累の者達によって。

 『女神のしもべ』も、既に事後説明と報酬の受け渡しは終わっているらしく、『赤き誓い』と『女神のしもべ』にとっては、この件はこれで一段落、であった。
「じゃ、今日は普通の仕事をするわよ!」
「「「おお!」」」
 そしてギルドの1階へと戻り、依頼ボードを物色する『赤き誓い』の面々であった。



 ごそり

 深夜、皆が寝静まった宿の一室で、もぞもぞと起き出す者がいた。
 そう、マイルである。
 防音と防振の魔法を掛けているため、2段ベッドの上段でごそごそしても、他の者達が目覚める様子はなかった。
 熟睡していたマイルであるが、耳元で囁かれるような、鼓膜の直接振動によるナノマシンからのモーニングコール……全然「モーニング」ではなかったが……により起こされたのであった。『おはようマイル君。今回の君の使命だが……』とかいう、怪しげな台詞によって。
 勿論、その台詞はマイルの指定によるものであった。
 そしてマイルが呟いた。
「よし、これから、『間諜大作戦』の開始です!」
 何やら、怪しげな作戦、マイルの単独行動が始まるようであった。
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