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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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01 転生 1

私の3作目の作品になります。
更新間隔は1~3日くらいの予定です。
前作の2作品は毎日更新で大変だったもので……。
前作は2つとも完結しました。本作も、完結まで頑張ります!
よろしくお願い致します。
「ここは……」

 目が覚めると、そこは知らない部屋であった。
 白い壁、窓にかかった薄いピンクのカーテン、机やクローゼット等のアンティーク調の家具、手作りっぽいぬいぐるみ……。
 まるで幼い少女の部屋であるかのような室内。そして、ベッドに寝ている自分、栗原海里くりはらみさと、18歳の、アデル・フォン・アスカム、10歳よ。

 ……って、え、何? 私は、栗原海里、10歳で、アスカム家の長女、って、違う、なにコレ、頭、頭が痛い………。



 そのまま気を失った少女が次に目を覚ました時には、頭の痛みは消え、全てを思い出していた。

「あ~、そういうことか……」

 自分は死んだのであった。10年前に。






 栗原海里くりはらみさとは、二人姉妹の長女として、ごく普通の家庭に生まれた。両親は真面目で優しく、2歳下の妹は、少し生意気だけど明るく元気な良い子だった。そして海里は、普通の者より少しばかり『出来る子』であった。

 その片鱗は、赤ん坊の頃から既に現れていた。
 言葉を覚えるのも速かった。2本の足で立ち上がり、歩き始めたのも幼児の平均よりかなり速かった。

 勉強に。スポーツに。芸術に。将棋に。大人との会話に。
 幼稚園で、そして小学校でもその『出来る子』振りは次々と発揮され、教師も周りの者達も皆、海里に過大な期待をかけた。かけ過ぎた。
 祖父母達も舞い上がり、この子は天才だ、将来はきっと有名になる、と騒ぎ立てた。そして父方の祖父母と母方の祖父母で海里の奪い合いが始まったり、他の孫達との比較、妹との比較等、海里にとって辛いことだとは思いもしないのか、親族の不和の種を撒き散らした。

 救いは、両親がそういうことを全く気にせずにごく普通に育ててくれたこと、そして普通ならば僻んで捻くれてもおかしくないのに、妹がとても素直な良い子に育ってくれたことであった。

 しかし、家庭ではひと息つけたものの、学校では常に注目され、決して苛めは無かったのだが、仲の良い友人というものもできなかった。皆、海里を特別な人扱いしていたので。

 そして不幸だったのは、海里は決して『天才』ではなかったことである。
 もし海里が、人とは違う感性を持ち、閃きにより斬新なアイディアを生み出す天才型であったなら、もう少し楽であったかも知れない。しかし、海里は『秀才型』であった。
 あくまでも、考え方も感性も普通の人。ただ、頭の回転が速く、幼い時から論理的な思考を行い、読書好きのため多くの知識を蓄えていただけの、『スペックがかなり高いだけの、普通の人』であったのだ。
 そのため、皆の過大な期待や、特別視する眼が辛かった。自分も、皆と一緒に馬鹿話をしたり、男の子の話題で盛り上がったりしたかった。

 人に囲まれてはいるが、孤独な日々。
 高校生になってもそれは続き、一緒に出掛ける友人もいない海里はたまの息抜きのゲーム以外は勉強くらいしかやることもなく、そのせいかどうかは知らないが、結果的には、周りの者が期待した通り、某難関大学への合格を果たすこととなった。


 そして迎えた高校の卒業式の日。押し付けられた答辞も卒なくこなし、高校を後にした。大学ならばもっと自由に生きられるだろうか。あの大学に入学する者は、皆が私のような思いをしてきた人達ばかりなのだろうか。そう思いながら……。

 道を歩く者の大半は、学校から溢れ出た卒業生達。在校生はまだ解散にはなっていない。
 開放感からか、ふざけ合いながら歩く高校生、いや、つい先程まで高校生であった者達。そしてその中のひとり、友人とじゃれ合う少女が振り回した鞄が車道を走る10歳前後の女の子の自転車に当たり、その衝撃によろけた女の子は車道側に転倒した。

 迫り来る大型車。前をちゃんと見ていなかったのか、とっさに反応できなかったのか、ブレーキは間に合いそうになかった。

 気が付くと、既に海里の身体が動いていた。車道に飛び出し、女の子に向かう自分の身体。
(なんで私が……。もっと近い位置にいた人なら、充分余裕を持って助けられたのに、どうして誰も動かなかったの? 私じゃ間に合わない……)

 他の者は誰も動こうとはせず、ただ海里を見ているだけ。
 あの子は運動神経がいいから。
 あの子なら助けられるんじゃない?

 海里が少女の身体をすくい上げて歩道へと放り投げた直後、海里の身体は、ようやくブレーキが効き始めたばかりの大型車に跳ね飛ばされた。




「目が覚めたようですね、栗原海里さん」
 海里が意識を取り戻すと、二十歳前後の青年が地面に横たわる自分を見下ろしていた。
「ここは…。私は確か、クルマに跳ね飛ばされて……」
 身体を起こしながら呟く海里に、青年は気の毒そうな顔をして言った。
「ええ。そして、あなたはお亡くなりになりました」
「え……」

 何を馬鹿な、と言いたかったが、あの状況で無事に済んだとは思えない。それに、落ち着いて周りをよく見回してみると、なんだか白い。地面も、周囲も、そして青年の衣服も。これはいったいどういうことなのか……。
 混乱する海里に、青年が丁寧に説明してくれた。

「ここは、皆さんの概念で説明するならば『天国』のようなものであり、私は『神』に相当する立ち位置でしょうか。実際には違うのですが……」



 青年の話によると、どうやらこういう事らしい。
 世界は、エントロピー増大の法則に従っている、と。

 エントロピーとは、熱力学、統計力学及び情報理論等において定義される示量性の状態量である。乱雑さの尺度、と言ってもいいか……。
 閉鎖系において、放置していればエントロピーは増大の方向に向かう。
 お湯がはいったコップと水がはいったコップをくっつけていれば、そのうち同じ温度になる。その逆、同じ温度のぬるま湯がはいったコップをくっつけていても、お湯と水になることはない。厳密には、理論的にはそう断言してはいけないのだが、通常的にはそう考えていいだろう。

 世界の自然現象、生命活動等のほとんどは、物質やエネルギーが不均衡だから成り立っている。全てのものが均等に混ざり合い、エネルギー差が無い世界。それはつまり、何の変化も起こらない、静止した死の世界だ。

 世界は全て、死へと向かっている。
 悪魔とかの仕業ではなく、物理法則という名の絶対神の手によって。

 だが、それに逆らう者がいた。

 生命。

 混ざり合った物を分離し、規則性を持った物を造り出す。
 あたかもエントロピーを減少させているかのように見えるその活動。
 本当は、それすらもより広い閉鎖系から見ればエントロピーは増大しているのだろう。物質の分離や物の製造、生命活動自体にすらエネルギーを消費する必要があるのだから。

 しかし、その必死の活動は、見ていて微笑ましいものであった。遙かな昔にその段階を乗り越えた先達たちにとっては。

 そして、生命による活動は、文明レベルがある程度に達すると、多くの場合破滅する。なぜか、理論的な確率値を大きく越える確率で。
 それはまるで、『世界の法則』というものが意志を持っているかの如く。

 そして、暇潰しというわけではないが、危険な段階に達した文明を見つけてほんの少し手助けをする、というのが『彼ら』の習慣であるらしい。
 あまりあからさまな援助は行わず、あくまでも自力で乗り越えたという体裁を保つため、特定の個体に対して「夢で見た」という形でヒントを与えたり、睡眠中にこっそりと知識を入れ込んだり……。

 だが、なぜか知識を与えた個体は死にやすい。明らかに確率値を越えて。その原因は、『彼ら』ですら分からない。いくら分析しても、原因が判らないのである。
 生命バランスが微妙に崩れるのか、それともまさか、本当に『世界の意志』などというものが………。


「ええっ、じゃあ、私の苦しみや死って、全部あなたのせい……」
「ではありません」
「ええっ?」

「私が支援していたのは、あなたが助けた、あの少女です。あなたには全く関与していません。あなたの苦しみとやらも、全て元々あなた自身のものですね」
「………」
 がっくりと地面に両手をつく海里。
 どうやら、海里の運命は、元々こうだったらしい。

「実は、あなたをここにお呼びしましたのは、お礼をするためなのです」
「え……」

「あの少女は、あそこで死ぬはずでした。
 事故や病気には充分注意していたのに、なぜか突発的な転倒、そして偶然にも携帯電話に気を取られたドライバーのクルマが。短期未来予測には無かったのですよ、あのような事象の生起は! 本当に、どうなっているのやら…。
 それで、とにかくすぐにカバーすべく、瞬時に使える可能性のあるものをサーチしたのですが、これまたなぜか全く使えるものが無く……。
 近くにいた人間達も、全く反応しなかったのです、なぜか。まるで、あの少女の死が最初から決められていたかのように。
 そう、まるで、あなた方の世界で言うところの『予定調和』であったかの如く……。

 そして、最早これまで、この少女に掛けてきた苦労もここまでか、と諦めた時、あなたが現れたのです。
 絶対に間に合わないはずの距離。もっと近くに他の者がいるから自分が動く必要は感じないはずの位置。私のサーチや短期未来予測の範囲外の存在。
 ただの、普通の人間の身でありながら、世界の予定調和を打ち破り、私の短期未来予測をすら潜り抜けて、自らを犠牲にしてあの少女を救ったあなた…。

 知っていますか。あの少女は、将来、人類が他の恒星系へ行くために必要な技術の基礎理論を作り上げることになる予定なのですよ……」

(そうか…。私自身は何も成し遂げられなくても、その手助けができたわけか。ならば、私の存在、私の人生にも意味はあったのか……)

「そこで、あなたには、私の心からのお礼の気持ちを込めて、新たな人生を贈りたいと思います。いわゆる、記憶を持ったままの転生、というものですね」
「え、ええぇ~っ!」

 海里は驚いた。
(まるで、勉強の息抜きにと少しやってみた、あのゲームのようだ…。
 でも、ゲームだと、この後……)

「それで、あなたの世界より文明が遅れた世界で不自由なく暮らすため、何か優れた能力をお付けしたいと思うのですが、どのような能力をお望みでしょうか?」

(や、やっぱり来たぁ!)
 海里は、即答した。

「能力は、平均値でお願いします!」
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