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私、能力は平均値でって言ったよね! 作者:FUNA
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02 転生 2

「能力は、平均値でお願いします!」
「え……」
 海里の言葉に、ぽかんとした表情になった、神を名乗る青年。

「いや、転生して戴く世界は、あなたの世界よりかなり遅れた世界ですよ? 治安状況も悪く、盗賊も蔓延る剣と魔法の世界で、魔物や魔族もいます。何か飛び抜けた能力がないと、安全に生きて行くことが……」
 神様が心配そうにそう言っても、海里の意志は変わらなかった。

「いえ、構いません。私の能力や外見、生まれる身分その他は全て、その世界での平均的なものにして下さい。転生、ってことは、その世界の人間として生まれるんですよね? それなら、その世界の平均的な能力を持った者として、自分の力で幸せになってみせますよ、今度は……。
 それに、現代知識があるだけでも、充分に有利ですしね」

 海里の意志が変わらないと見て、神様は頷いた。
「分かりました。
 あと、その世界のことなのですが、実験ケースとして大規模な干渉を行い、魔法が使えるようにした世界なんです。一定濃度になるまで自動的に増殖するナノマシンが散布されており、生物の思念波に反応して様々な現象を起こします。化学変化、物理変化、その他諸々の、まぁ、あなた方にとってはまさに魔法としか思えない現象ですね。
 実は、あの世界は幾度目かの文明の崩壊を迎え、全ての技術を失い人間は僅かな生き残りのみとなったため、救済策と実験を兼ねて通常ではやらない大規模な手出しをしたのですが、ナノマシンによる魔法モドキがあまりにも万能過ぎて、ある程度の復興は果たしたものの文明の進歩が停滞してしまいまして。
 そのため大失敗と判断され、だれも面倒を見ずに放置されてしまった世界なんですよ……。
 我々も少し責任を感じてはいるのですが、住民の皆さんはそれなりに生き生きとして暮らしておられますので、そう悪い世界でもないのですよ。ただ、文明が進歩することなく延々と同じ状態が続いていることと、治安が悪くて、危険が多くて、人が簡単に死にやすいというだけで……」

(いやそれ、『そう悪くない世界』なの?)
 そう思う海里であったが、まぁ、それは仕事で頻繁に町の外へ出る男性達のことだろう、あまり町から出ない女性にはそんなに危険はないだろうと思い、自分を納得させた。

 元の姿で転移するのではなく、向こうの世界の子供として新たに生まれるのだから、向こうのことを今詳しく聞く必要はない。普通に、子供として向こうでゆっくり学べば良いのだから。
 そう思って、海里はあまりあれこれと聞く気はなかった。そのため、神様からの最低限の説明を少し聞き、自分からは特に質問もしなかった。



「では、転生処理を始めます。
 両親となる夫婦は、子供を授かれない予定であった夫婦ですので、本来生まれるはずだった子供の魂が、等の御心配は無用です。あなたのために用意された受精卵ですので。
 それでは、幸せな人生となるようお祈りしております。……神を詐称する私がお祈り、というのも少し変ですがね。
 あなたには、本当に感謝しております。あなたのお陰で、いつの日か地球の人々がより高次な存在へと昇れる日が来ることでしょう。
 どうか、良き人生を………」





 そして今、海里はアスカム子爵家唯一の子供、アデル・フォン・アスカム、10歳……、のはずだった。
 しかし、どうやら様子がおかしいようだ。

 記憶が戻ったのが10歳、というのは別にいい。少し遅いような気がするが、18歳の精神を受け入れるのに乳幼児の脳や身体では負担が大きいこと、幼児プレイは勘弁して欲しいこと、言葉を覚えるのが面倒だった等の理由から、少し成長してから記憶が戻る、というのは大歓迎だったので。
 だが、統合された『アデルの記憶』をよく反芻してみると……。

 二年前。
 両親が行くはずだった近隣領主家でのパーティーに、当日になって父親が突然の体調不良。急遽祖父が代わりに出席することとなり、その帰りに盗賊に襲われて母と共に死亡。
 比較的治安が良く、ここ何年も盗賊など出たことがなく、その後も全く被害がないというのに、何故かその1回限りの盗賊の登場。

 葬儀の翌日から子爵邸に入り込んだ女と、女が連れて来たアデルと同年齢の少女。
 それからは、パーティーには父とその女が出席し、娘として紹介されるのは、女が連れて来たプリシーという名の少女。アデルは子爵邸に放置された。
 使用人も大半が入れ替えられ、昔からの者は、料理人くらいであった。
「……そういうこと、なのかなぁ」

 皮肉にも、前世では両親と妹だけが心の拠り所であったのに、今世ではその3人が敵であるようだ。両親も、連れ子…というより、多分父親が浮気相手に生ませた子供…であるプリシーも、アデルをまるでいない者のように無視するか、わざとらしく馬鹿にしたり苛めたりの毎日であった。
 だが、それもあと3日。
 厄介払いのつもりか、子爵と義母はアデルを全寮制の王都の学園に押し込むことにしたらしい。その出発が、3日後に迫っていた。
 海里、いや、アデルにとっても大歓迎であった。



 そして3日後。
 家族に見送られることもなく、乗合馬車で王都に向かうアデル。
 当然の如く、子爵家の馬車など使わせては貰えない。
 荷物もほとんど無く、僅かな着替えと洗面具、身の回りの品のみ。
 向かうのは、王都にあるエクランド学園。
 貧乏な下級貴族の3男以下や中堅クラスの商人の子供、そしてごく一部の、奨学金を受けた非常に才能のある平民が通う学園である。

 王都にはもうひとつ学園があり、そちらには王族や貴族の子弟、大商人の跡取り息子等が通う。実は義妹…恐らくは父の子なので実妹…のプリシーは来週からそちらに通うことになっており、両親はその時にプリシーと一緒に王都へと向かうらしい。勿論、子爵家の豪華な馬車で。そして学園には、子爵家の王都邸から通うとか。


 暇な馬車で、アデルは考え事に時間を費やしていた。他にやることが無かったので。

(やっぱり、邪魔な私を排除、なんだろうな。前妻の子は不要、後妻の子に婿を取らせて、かな。
 私がいると、年齢的にプリシーが不倫の子だと丸分かりだし、連れ子だと言うと、子爵家の血を引いていないから婿を取って跡取りにはできなくなる。そうなると私を跡取りにせざるを得なくなるからね。だから、私がいないものとして、その位置にプリシーをはめ込む、ってことかな。
 まぁ、まだこれから男の子ができるかも知れないけどね。
 殺されたりさえしなきゃいいか。万一に備えてか、政略結婚でどこかに嫁がせるためにか、一応は生かしておいて貰えるようだし)

 実は、入学に際して、アデルは両親から『アスカムの家名を名乗ることの禁止』を言い渡されていた。どうやら、完全にアデルをいないものとして扱い、プリシーを長女とするつもりらしい。アデルは『何かに使えるかも知れないから、一応取っておく』程度に考えているのか、あるいは流石に殺すのは気が引けたのか……。

 アデルは、3年間の学園生活でこの世界のことを色々と学び、卒業と同時に行方を眩ますつもりであった。子爵領に戻っても、苛められつつ飼い殺しか、どこかの中年オヤジのところに売られるだけだろうから。『政略結婚』という名の人身売買で。
 何とかして、逃げ出すための知識と資金を貯める。
 それが、アデルの学園生活における目標であった。

(でも、どうして貴族の家に生まれたんだろう? 能力や立場等は全て平均的に、って頼んだ…のに……、って、あぁっ!)

 アデルは、以前から気になっていたその疑問の回答に、ようやく行き当たった。

(王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵。
 奴隷、平民、騎士爵、男爵、子爵。
 上から5番目。下から5番目。うん、確かに真ん中だぁ………。
 って、違うでしょ! 人数分布はどうなってるの、人数分布は!
 それに、それは平均値どころか、「中央値」ですらない。中央値は、構成要素全てのうちの中央であって、決して分類項目の中央という意味ではない。
 間違えるなら、せめて「最頻値」くらいにしといてよ……)

 本来ならば、平均値、中央値、最頻値のいずれであっても『平民』となるはずであった。選りによって、このような決め方をされなければ。



 考え事にも飽きたので、2日目からは拾った木片を削って人形造り。前世から手先が器用で、そういう才能も持っていたのである。
 使うナイフは、貴族の娘が嗜みとして常時携帯している小さなもの。
 曰く、賊や男に襲われた場合は、身を穢される前にこれで自害せよ、と。

 いや、自害に使うより、これで相手を刺せば良いのでは、と思いながらも、決してそういう用途ではないナイフで木片を削る。
 何か、バターを切るみたいに簡単に切れるのが不思議であったが、余程良いナイフなのか、そういう種類の木片だったのか…。
 そしてしだいに出来上がってゆく木の人形は、素朴な木彫りの人形というよりは、『フィギュア』と呼びたくなるような、この世界としてはいささか斬新なものであった。


 馬車の乗客は、幼い少女がナイフでスパスパと木片を切る姿を見て、気が気ではなかった。いつ指を切り落とすかと心配で心配で……。
 
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