第1話ダン編 隊長からの課題
鏡で自分の顔を見る。
……はぁ。
思わず溜息が漏れてしまう。
外に出れば少しは気分が変わるかと思ったが、駄目だ。
俺はダン。騎士をしている。
王子の他国訪問に護衛として付いて行っていたので、屋敷に帰るのは一月振りだ。
やっとゆっくり寛げると思っていたのに、俺は今、難しい問題を抱えている。
自分で言うのも何だが、俺は剣の腕前はいい。仕事も真面目にこなしている。
なのに……、昨日隊長に怒られた。仕事だけを真面目にやればいいというものではない、と。
笑顔が無いのが駄目らしい。
仕事に笑顔など、必要無いだろう?
他の騎士ともっと仲良くしろと言われても……、別に普通に接してるだけなのだが。
何がなんだかさっぱり分からない。
取り敢えず笑顔を練習してこいと言われたが……。
はぁ……。これが難しい。
思えば子供の頃から『笑わない子』とよく言われた。
双子の妹は愛想も要領もいいのに、何故こうも違うのだ、と。
そんな事言われても、俺には分からない。普通にしているだけなのに。
はぁ……。
溜息ばかり出る。
もう一度鏡に向かい、笑顔の練習をしてみた。
頬をもっと上げればいいのだろうか?
右手でグッと上げてみるが……、笑顔にはならない。
投げ遣りな気持ちになった時――。
「…………?」
目の前に布が落ちてきた。白くて少し大きめの布だ。
おそらく何処かの屋敷の洗濯物が飛んで来たのだろう。
俺はその布を拾い、辺りを見回した。いったいどの屋敷のものなのだろう?
すると……。
「――――!」
塀の上に女が居る!?
いつの間に……、笑顔の練習に集中していて気付かなかった。騎士だというのに、何たる失態。
いや、それよりあんなところで、いったい何をやっているのか。身なりがよいので泥棒には見えないが、髪には葉が付きドレスの裾が少々破れているのが何とも怪しい。
唖然とする俺に、女はヘラヘラと笑う。
「こにーちーわー。わたーし、サツキ言うか? 怪しいと違うねー!」
……何だ? この変な女は。