表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/375

お昼寝にゃんこ

 今日はいいてんき。


 お日さまもあったかいし、ほどよく風もふいている。このきせつはときどきすごくつよい風がふくこともあるけれど、今日はそんな「におい」はしない。耳もぴくぴくしないから、夜までずっとこのままだろう。


「くわ~ぁ……わふっ」


 マットがわりにもたれかからせてもらっているゴルディが、大きなあくびをした。


 そのせいで、ちょうどいいかたちからズレてしまった。ねむたいからこのままでもいいかな、と思ったけれど、きもちよくねむるために体がかってに動いた。


 もぞもぞもぞと、ゴルディによりかかってちょうどいいばしょをさがす。


 このわんこは、わたしがこんなことをしてもちっともおこらないから好きだ。あったかくて、まくらとしても使えるし。それに、あんまりほえないのもいい。かんぺきわんこだ。


「にゃう」


 うん、ここがいい。ふせているゴルディに、ぐでっともたれかかるかたちになったけど、今はこれがきもちいい。じゃあ、このままねむってしまおう……。


 と、思ったけれど、おじゃまむしが来たようだ。


「くんくん、くんくんくん……」


 このこじいんの、ダメな方のわんこだ。


 クルミア……ゴルディとちがってわんわんわんわんうるさいし、いっつもおねえさんぶりたがる(一つしかちがわないのに!)。


 やたらにおいはかいでくるし、お昼ねしてるわたしをおこしてあそぼうとさそってくる。


 ダメわんこだ。ダメダメわんこだ。ちょっとだけでも、ゴルディを見ならってほしい。


「くんくんくん、くん……」


 今も、こじいんのバルコニーにふらっとあらわれたかと思うと、わたしがきているパーカーのにおいをかぎまくってくる。しょうじき、うっとおしい。


「それ、タカヒロの? ねえ、それタカヒロの?」


 そして、ねているわたしのうでをぐいぐいひっぱって、どうでもいいことを聞いてくる。


 あたまにきた!


「ふ~! にゃっ!!」


「きゃんっ!?」


 ダメわんこのおでこにねこぱんちをおみまいして、二かいのバルコニーからすぐそばのオークの木にとびうつった。


 ゴルディとお昼ねできないのはざんねんだけど、ここにいたらゆっくりねることもできそうにない。


「わんっ! わんわんっ!」


 するすると木からおりたわたしに、クルミアがわんわんほえたててくる。知るもんか。人のお昼ねをじゃましたばつだ。


「にゃ……」


 どこかおちついたところへ行こう。お昼ごはんを食べたばかりで、まだまだお日さまは高い。しずかで、ねごこちがいいばしょはいくらでもある。


 でも、ダメわんこはダメだけどわんこだからはながいい。少しばかりとおくまで出かけよう。


 そうきめたわたしは、ダメわんこに後をつけられないよう、へいからほかの家のやねにのぼってにげだした。




「おや、黒猫さん。こんにちは」


 うろうろしているうちに、ちゅうきゅう区まできてしまった。だから、こんな人にも出あう。


 きっさてんではたらいている、おかしのおじさん。ヴぃた、びた……びたみんさん……だっけ? まあいいや。


 びたみんさんはいい人で、やたらじぶんでつくったおかしをくれる。


「ちょうどいいところに来ましたね。試作品のマカロンが出来上がったところです。お一ついかがですか?」


 くれるというのなら、もらっておく。お魚の方がすきだけど、あまいものもきらいじゃない。


 手をさし出すと、その上にそっとおかれるマカロン。はさまっているのはジャムかな? なんだかいいにおいがする。がまんできずに、すぐにかじりついた。


「にゃ~」


「ふふ、お気に召したようですね。何よりです」


 うん、おいしい。さくさくとろりとしたマカロンは、イチゴのジャムがよく合う。べたべたしたあまさじゃないから、お茶がなくてもおいしい。


「どうですか? 気にいったのなら、もう一つ。たくさん焼きましたので」


 びたみんさんが、もう一つマカロンをさし出してくる。


 でも、お昼ごはんをたべたあとだから、もうおなかいっぱいだ。おいしいけれど、そんなにたべられない。


「な~」


 だから、ささっとそこからはなれていった。びたみんさんは子どもあいてだとあれこれおせわしようとするから、あんまりここにいたらブタになっちゃう。こういうときは、早めににげた方がいい。


「おや……まあ、ネコは気まぐれといいますものね。ふふ」


 うしろからびたみんさんの声がきこえる。おいかけてはこないようだ。こんなすっきりとしたところは、ゴルディに……かんぺきわんこによくにている。かんぺきおじさんだ。


 おれいがわりに、しっぽをふりふりゆらして一声ないておいた。まだうまくしゃべれないから、これがおれいのかわり。かんぺきおじさんなら、それをわかってくれるだろう。


 こうしてわたしはかんぺきびたみんさんにわかれをつげて、また、お昼ねしやすいばしょをさがしてあるきだした。




 またいる。


 このこうえんのいちばんお昼ねしやすいばしょで、すやすやとねむっている。この人は、いつもいつもわたしの先回りをするように、まち中のお昼ねポイントにあらわれる。


 ぼさぼさの黒いかみの毛。だらしがないねがお。ちょっとだけたれているよだれ。


 サヤマ・タカヒロ。週にいちどはこじいんに来るなんでもやの人だ。


 この人は……うん、うまくせつめいできない。おせっかいなようでめんどくさがりだし、子どもはきらいだー! って言ってるのにめんどう見がいいし。


 わたしにお魚をくれたと思ったらおいかけっこをはじめるし、今日はお休みの日じゃないのにここでねてるし。うん……やっぱりよくわからない。わからないから、みょうに気になる。


 それに、まじりっけなしの黒いかみの男の人は、知ってるだけならこの人だけだ。それだけで、どうしてもいしきしてしまう。


 だって、死んじゃったお母さんが言ってたから……「おまえのお兄ちゃんは、まっ黒なかみのヒトだ」って。


 わたしには、お兄ちゃんがいるらしい。それも、人間の、ヒトのお兄ちゃんが。


 わたしはお母さんがネコじゅうじんだからにゃんこだけど、お兄ちゃんのお母さんはヒトだから、ネコのような耳もついていないそうだ。


 でも、お父さんゆずりの黒いかみの毛はいっしょらしい。このまちではめずらしい、まっ黒なかみ。すみのように黒いかみの毛。お兄ちゃんのかみは、わたしと同じでまっ黒らしい。


 だから、まちで黒いかみの毛のヒトを見かけるたびにドキッとしてたんだけど、たいていはまっ黒じゃなかったり、ほかの色がまざっていたりした。


 そのたびにガッカリしてたから、そのぶん、このヒトとはじめて会った時のおどろきは大きかった。


 わたしと同じ! 同じかみの色! そんなヒトに会ったのは、あれがはじめてだったんだ。お兄ちゃんに会えた。その時は、そう思っていた。


 でもすぐにこわくなった。ちがっていたらどうしよう、って。これだけ生きてて、今まで会えなかったんだ。このヒトがお兄ちゃんじゃなかったら、もう一生お兄ちゃんには会えないような気がした。


 だから、「わたしのお兄ちゃんですか?」とはきかなかった。「ちがうよ」って言われるのがこわかったから。


 だから、今でもほんとうはどうなのか、きいていない。きくつもりも……今はない。


 でも、どうにも気になるからかんさつはしているけれど……。


「ふぁ、ふぁるれろ~……zzz」


 いみふめいなねごとを言って、ねがえりをうつタカヒロ。


 スキルでいっつもつくっているくうきのクッションにかおをうずめて、またねだした……と思ったら、くるしかったのか「ふがっ」っと言ってもとのしせいにもどってしまった。


 これがお兄ちゃんかもしれないのか……ちょっとだけイヤなきぶんになった。


「な~……」


 でも、あのくうきのクッションはねごこちがさいこうだ。このばしょは日あたりもいいし……ねることだけは、にゃんこであるわたしにもまけていない。思わずいっしょにねたくなるほどに、お昼ねのためのかんきょうがととのっている。


「にゃ……にゃっ」


 うん、しかたない。こんなにねやすそうなら、ねたくなるのもしかたがない。ついついすいよせられるのも、しかたないことなんだ。


「にゃん」


 けっきょく、くうきのクッションにもたれかかってしまったわたし。


 タイミングよくそよ風もふいてきて……おなかもいっぱいだし、あたたかできもちがいいし、すぐにもねむくなってしまった。


「なぅ~……」


 あたまがぼんやりしていき、目がだんだんととじてきた。


 これは「まどろみ」ってものだそうだ。シスターに教えてもらった。とってもきもちがいいまどろみ……わたしはそのまどろみに身をまかせ、そのままいしきを手ばなしていった……。






「んで、なんでお前が俺のパーカー持ってんの」


「な~……」


 おきたら、おせっきょうがまっていた。タカヒロのパーカーを、わたしがきていることがバレてしまったんだ。


 でも、これはぬすんだわけじゃなくて……この前、風がつよい日にタカヒロの家のちかくでとばされてたものをひろっただけで……かえそうと思ったけど、家のまわりをこわい女のヒトたち(ダメわんこもいた)がうろうろしていたから、あとでかえそうと思ってて……。


 と、タカヒロにつたえたら、なんだかんだでゆるしてもらえた。


 それどころか、わたしのからだに合ったサイズのパーカーをかってくれた。わたしはパーカーがほしかったわけじゃないんだけど……まぁ、いいや。


 タカヒロっていつもはヘンなことばっかりしてるけど、ときどきわたしにみょうにやさしい……やっぱり、わたしのお兄ちゃんなんじゃないだろうか……う~ん?






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ