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気になるあの子

 ここ数年、どうにも気になる子がいる。


 タカヒロ・サヤマちゃん。六歳も年下のオトコノコだ。


 初めて会ったのは、ニ年前か三年前か……私が勤める、お酒も飲めて、二階より上の部屋でイケナイこともできちゃう「黒揚羽」に、友達と一緒にやってきたんだ。


 思えば、変わった三人組だった。三人ともにジパング人というのも驚いたけど、彼らの羽振りの良さは異常だった。お店の子が、さり気無く「迷宮でお宝を当てたの?」と聞いていたけれど、彼らは「泡銭だ」と言う。


 服装や身のこなしから察するに、貴族というわけではない。無計画な金遣いから、商人でもないことが分かる。


 店で一番高いお酒を頼んだ時は、流石に止めてあげた。でも、「問題ない」と笑う。冒険者が、そこまでお金を持てるものなのだろうかと、当時は不思議に思ったものだ。


 お店のみんなは、当然、この世間知らずそうなボクちゃんたちに擦り寄る。【チャーム】の匂いも嗅がせて、二階へ連れて行こうと躍起になっていた。


 あれだけ金払いがいいお客さまだもの。一夜を共に過ごせば、どれだけの「おこづかい」がもらえるか……上から下まで、競うように「オンナ」も知らないようなオトコノコを誑かしていた。


 結果として、端正な顔立ちの彼は、同い年の猫獣人、ミアリーに腕を組まれて階段を上がっていった。


 少しお調子者といった感じの彼は、店で一番ちびっ子の双子淫魔姉妹、パムとパミに袖を引かれてほいほいとついていった。


 残ったのは、少し気だるそうな雰囲気の彼……タカヒロ・サヤマちゃんだった。


 誘いを恥ずかしそうに(でも、それを必死に隠して)断り、一人ちびちびと度数の高いお酒を、気取った格好で飲んではむせていた。なんでも、「こういうことをするのは、愛がないと……」とのこと。


 こういったお店で、これはよくない。みんな、目で「ヘタレ」だの、「童貞」だのと蔑んで、笑って彼から離れていく。こういう相手には、押しても逆効果だと経験則から分かっているのだ。


 酒を注文したのも、上に上がったニ人だ。彼はその残りを口にしているに過ぎない。だからみんなは、金にならない相手なんてしていられないと、最低限の接客だけで済ませてしまう。


 そのまま、忘れ去られたかのようにぽつんと一人で酒を舐めるタカヒロちゃん。その姿に、なぜか私はキュンと胸が締め付けられる。


 私の悪い癖だ。いわゆる、「ダメ人間」と呼ばれる人を見ると、元気づけたくなっちゃうの。その時も、私はタカヒロちゃんに元気になってもらおうと、密着して座り、わざとおっぱいを当ててあげた。


 淫魔の【チャーム】効果付きの接触だ。これなら、少しは元気になるはず。元気になり過ぎたら、ちゃんと責任も取ってあげるつもりでいた。


 だけど彼は、少し顔を赤らめて、恥ずかしそうに距離を取るだけだった。あれ? 【チャーム】が効いていない? 普通の人だったら、これで堪らなくなっちゃうはず……こういう時は、人の心のパワーを図る【サキュバス・アイ】の出番だ!


 むむむ……!?


 ビックリした。この子には、欲があんまりない。あるにはあるけど、普通の人に比べてとっても少ないのだ。これなら【チャーム】で水増ししてもあまり効果は無いだろう。


 それに、気力も少ない。生きるための活力である気力が少ないと、何事にも「やる気」を持てない。道理で、お店の女の子の誘惑にも屈しないわけだ。


 納得はした。でも、ますます気になる。何で? どうして? なぜ、そんなにつまらなさそうな顔をしているの? 友達と遊んでいる時、ユミィちゃんたちと一緒にいる時は鳴りを潜めているようだけど、一人になると、見ていて切なくなるような顔をする。


 そんな顔をする彼のことが、どうにも気になってしまう。


 この気持ちは、出会ってから今に至るまで、どんどん強くなっているように思える。タカヒロちゃんに、元気いっぱい笑って欲しい。オンナノコともいっぱい遊んで、この世の良いところをたっぷり味わって欲しい。




「と、いうわけで、東洋の神秘、女体盛りにチャレンジしてみました! あぁ……! 食べて……! 私ごと食べてぇ……!」


「お断りします」


 バタン!


 開いたばかりの居間のドアが、無情にも閉められる。


「え、えぇ……!? 何でぇ……???」


「……もしや、今日はお肉の気分だったのでは」


「ユミィちゃんナイス! それだわ、きっと!」


 本当にこの子は賢いわぁ~! そっか、ジパング人=お魚好きだと思い込んでたけど、お肉が食べたい日もあるわよね! お姉さん、うっかりしていたわ!


「そうと決まれば、お肉の準備よ!」


「……待ってください」


「なぁに?」


「……今、イヴェッタさんが起き上ったら、お魚が落ちてしまいます」


「っ!!!?」


 な、何てこと……! これじゃあ身動きが取れないわ!


「ど、どうすれば……!?」


 テーブルに横たわったまま、何もできずにうろたえるばかりの無力な私……でも、ユミィちゃんはやはり頼りになる女の子だった。


「……食べてしまえば良いのでは?」


「それよ! ユミィちゃん、ナイスアイディア!」


 思いもよらない突破口に、一筋の光明を見出す私。要領もいいユミィちゃんは、すでにお箸と取り皿を用意している。


「……では、いただきます」


「あっ、あっ、ユミィちゃんお箸使い上手……! とってもお上手……!」


 もむもむと、私の体に飾られた「オサシミ」を食べていくユミィちゃん。一定のリズムで繰り返される箸による刺激は、私を未知の領域へと誘ってゆく……。


 結局、お箸の絶妙なタッチにくったりしてしまった私は、お肉の用意ができなかった……とほほ。






「ハッキリ言って、タカヒロちゃんはおかしいと思います!」


「何すか、イヴェッタさん……」


 夜半に差し掛かろうという時間、私はタカヒロちゃんの部屋を訪ねていた。お仕事? 今はこっちの方が大事!


「はい、これ! これをどう思う!?」


 後ろから引っ張り出したのは、わざわざ取り寄せた中東風の踊り子衣装を身に纏ったユミィちゃん。ブカブカしたズボンと、ぴっちりした上着のアンバランスさ、それにへそ出しルックが相まってとってもセクシー! 口元を隠した薄布が、蠱惑的な目元を強調して、女の私でもゾクゾクしちゃう!


 でも、タカヒロちゃんは相変わらずつれない態度だ。


「似合っているとは思いますけど……それが、何か?」


「ちっがーうでしょぉーーー!? そこは、押し倒して、○○を××して、■■するところ……」


「ストップ、ストーップ!? 何てことを口にしてんだ!?」


「むぐぐ……!」


 慌てたタカヒロちゃんに口を塞がれてしまった私。しばらく抵抗していたんだけど、思った以上に力強いタカヒロちゃんに押し倒されてしまったら、何だか、ぽわーとしてきて……。


「なに目を閉じて唇突き出してんすか。やりませんよ、俺は」


「ちぇー、もったいないの」


 まったく、本当にお堅いんだから……。欲が少ないと言っても、無いわけではないんだ。少しはその気になってくれてもいいのに……。


「なんでタカヒロちゃんは、オンナノコとイイコトしないの?」


「そりゃあ……してみたいなって思う時もあるんすけど、その、そういうことは恋人と……」


「なんてシャイボーイ! ははぁ……さては、童貞なのね!? 笑われたくないからって、お店に来ないのね?」


「うぐっ!?」


「大丈夫、私は笑ったりしないから。誰でもみんな、最初はヘタっぴなものよ?」


 お貴族様でも、騎士様でも、タカヒロちゃんと同じ冒険者だって、筆降ろしに「黒揚羽」に来る子はみんな、お店の子たちの笑いの種にされる。でも、いっつも可哀そうだなって思っていた。初めてなんだもの、緊張だってすると思う。そこを、私たちプロが上手に導いてあげないと……。


「いや、だから、そういうのは、やりたいからやるんじゃなくて……ほら、ムードとかあるでしょ?」


 まだ言い訳してる。ムード? したい時にするのがにゃんにゃんというものだ。少なくとも、私たち淫魔はそう。お店に来るような男の人だってそうだ。それなのに、ここまでの拒否反応……大人の女は怖いのかしら?


「ん~……どうしてもお姉さん相手じゃ怖いっていうのなら、ユミィちゃんはどうかしら?」


「はぁ!?」


 放置されたままのユミィちゃんをグイと胸元へ引き寄せ、タカヒロちゃんの前へと突き出す。


「ユミィちゃんなら、タカヒロちゃんにとっても懐いているわ。きっと、健気にご奉仕してくれるわよ。どう?」


「ユミィは家族みたいなもんです! それに、まだ子どもじゃないっすか!」


「十四歳なんて、もう立派なオトナよ! 子どもだってつくれるわ」


「なおさらダメじゃないっすか! そういうのは、本人の意思が大事なんすよ!」


 アダルティなお姉さんでもダメ、ロリロリなユミィちゃんでもダメ。タカヒロちゃんは難攻不落の要塞だわ。だ、打開策は……。


「ユミィちゃんでもダメなの……わかったわ……」


 こうなったら、もはやあれしかない。タカヒロちゃんもきっと満足のにゃんにゃん。それは、


「3ピ」


「出 て け !!!!」


「きゃ~ん!」


 窓から外へ蹴り出された。思った以上の勢いにストップをかけるため、背中に隠した翼をバサリと広げる。


 姿勢を整え、空中にホバリングして、ようやく後ろへ振り返る。でも、すでに二階のタカヒロちゃんの部屋は固く閉ざされてしまっていた。


「も~、奥手なんだから~……」


 こうなってしまっては、忍び込むこともできない。タカヒロちゃん家の防犯が完璧なのは、身を持って知っている。ムリヤリ押し入ろうとしたら、電気がビリリだ。


「こうなったら、ユミィちゃんに頑張ってもらわないと……」


 タカヒロちゃんの一番身近にいるユミィちゃんならば、もしかするともしかするかもしれない。


 私は、タカヒロちゃんが元気になればそれでいいんだ。それが誰の手によるものでも、まったく気にしない。そして、元気になったタカヒロちゃんと、楽しくにゃんにゃんしてみたい。


「気長に待ってよっと」


 こういう時は、焦ってはいけない。あくまで、タカヒロちゃんの意志によってオンナノコに手を出して欲しい……誘惑もするけどね♪


 見事な満月を見上げ、翼を大きく羽ばたかせ、私は少しばかりの空中遊泳を楽しんでからお家へ帰った。






「……で、ご主人さま。私とにゃんにゃんするのですか?」


「しねーよ!」






これでサイドストーリー2はおしまい!


エロシーン?本作品は非18禁ですよ?ははは!


次章は、「マイホームパパ編」です。


お楽しみに。

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