夢の中で
はい、皆さんお待ちかね、ご奉仕メイドユミエル編です。
ユミエルさんの成長にご期待ください!
「「「第25回! 妖精会議~!」」」
「……はい?」
「「「出張版! イェー!」」」
なんだろう、これは……?
私は帰ってきたご主人さまの就寝を確認した後に、自室のベットで眠ったはず……それなのに、どうしてこんな場所に?
どことも知れない森の中。開けた広場には、苔生した石壁の裾に広がる小さな池と花畑。少し離れた場所には果樹園らしきものまである。
「ようこそ、フェアリーズ・ガーデンへ」
「ふふふ……あなたがタカヒロの大事な人ね?」
「へ~、水妖精の血が流れてるんだ~。キレイな水色の髪~、いいな~」
このやたらファンシーな生物は何だ? 虫のような羽で飛び回って……トンボの一種だろうか。
「……貴女たちは誰ですか?」
どうにも気になって尋ねる。まずはこの人(……人? 虫? まあ、人でいいだろう)たちが誰か、だ。
「わたし? わたしはフェア」
「私はピークです」
「あたしはニース。よろしくね」
ニースという一番小さな少女の周りに他のニ人が集まってきた。何をする気つもりだろうか……?
「「「せーの……我ら妖精三姉妹!」」」
「………………」
「「「………………」」」
「………………………」
「「「………………………」」」
「……………………………」
「「「……………………………」」」
「何かリアクションしてよ! も~! 恥ずかし~! あぁ~!」
フェアと名乗った少女(……いや、言葉通りなら妖精か)が、真っ赤な顔を両手で覆って空中を転がりまわる。随分と器用だ。
「やはり、これは廃止しましょう。そうしましょう」
同じく頬を染めたピークが、やや恨みがましい目でフェアを睨む。
「お姉ちゃん、元気出して~。あたしは好きだよ。ビシッ!」
「止めて~! 傷口に塩を塗らないで~!」
フェアの前で、ニースがまたもポーズを決めている。見た目はあどけない妖精だが、きっちり止めをさす辺りが油断ならない。
私を放置して、更に姦しく飛び回る妖精たち。
……帰っていいだろうか。
「……つまりは、あの指輪のせいですか」
「そうよー。あの「妖精の指輪」が、寝ているあなたの心をここに連れてきたの」
ご主人さまからいただいたばかりの大事な指輪だ。もちろん、早速指に通し、そのまま眠りに就いたのだが……それがまさか、このようなことになろうとは。
「タカヒロさんの傍に妖精種の人がいることは分かっていましたからね。貴女が【妖精種の加護】を与えたのでしょう?」
……! なぜそれを……!
確かに、私はご主人さまに【妖精種の加護】をかけている。「フリーライフ」の一員となったあの日、せめてものご恩返しとして施したものだ。
それを知っているのは、ご主人さまと私だけのはず……この妖精たちはいったい?
「そんなこわい顔しないで~! あたしたちはただ、ニンゲンさんを大切に想っている人の顔を見にきただけなんだから~」
「その様子だと、タカヒロは一人ぼっちじゃないみたいね。よかったよかった」
……どうやら敵意は無いようだ。
まったく、人騒がせな……。
「……顔を見に来ただけなら、もう用は済んだでしょう。早く私を元の場所へ戻してください」
そうだ。こんなことをしている場合ではない。質の良い睡眠をとって、ろくに眠れなかった一週間の疲れをとり、明日からまたご主人さまのお世話をしようというのに……。
「ままま! そう急がないで! わたしたち、あなたに大事な話があるの!」
「……話? 私にはありませんが」
「いえいえ、これは、貴女にとっても大事な話です……貴女、タカヒロさんに逃げられたのでしょう?」
…………!!
「ニンゲンさんから聞いたよ~。お仕事ばっかりで疲れた~、って」
「……そんな、あれは、ご主人さまのためを思って」
あの手紙に書かれていたことは本当だったのか? 本当に、仕事が苦になって……。
「流石に、週に六日は働き過ぎよー。週に三日でも多いくらいだわ」
な、なんと……!?
「嘘はダメですよ、フェア姉。とはいえ、確かに働き過ぎですね。それに、家でも疲れが抜けてなかったのではないですか? 彼がフェアリーズ・ガーデンに来たばかりの頃は、寝てばかりいましたよ」
……週三は嘘か。
しかし、このような美しい場所で寝てばかりとは……やはり、ご主人さまは疲れていたのだろうか。
「……なら、仕事を減らします」
これでもう、私を置いて逃げ出しはしないはずだ。
「それだけじゃダメだよ~」
……何?
「そうよ、それだけじゃダメダメ☆ 働くオトコには、癒しが必要なのよ♪」
これは聞き捨てならない。
「ご主人さまは私が癒しています。この間も、肩を揉んでさしあげました」
ヴィーヴィル夫人も、「男なんて肩でも揉んでやりゃ何だかんだで機嫌が良くなるもんよ!」と言っていた。
私の癒しに間違いはない。
「「「………………はぁ~」」」
なんだ? 妖精たちが、憐れみの目で私を見ている……?
「肩もみって……お爺ちゃんじゃないんだから、そんなんじゃ癒されないわよ」
「……嘘」
「嘘じゃないですよ。タカヒロさんはまだ20歳です。恐らく、肩を揉んでいた時、微妙そうな顔をしていたのではありませんか?」
「…………そういえば」
確かに、何ともいえない顔をしていた。あれは、そういうことなの……?
「ほら~、肩もみじゃダメなんだよ~。もっとイイコトしなきゃ~」
「……イイコト、と言われても」
イイコト、とは何だろう……按摩か? いや、それでは変わりない……むむむ。
「悩んでいるわね……でも、安心して♪」
「あたしたち、あのニンゲンさんを元気にしてあげたんだよ~」
「その証拠に、貴女の元にタカヒロさんは帰ってきたでしょう?その手練手管を貴女に伝授するために「妖精の指輪」を忍ばせていたのです」
なるほど、ご主人さまを癒し、励ますには、私のやり方だけでは足りなかったのか。
ご主人さまを癒したというこの妖精たちは、なかなかに頼りになりそうだ。
「……分かりました。私の名前はユミエルです。これからよろしくお願いします」
「そう、よろしくね、ユミエル」
「私の指導は厳しいですよ」
「厳しいですよ~! ビシッ!」
もう、あの時の気持ちなど味わいたくはない。この精霊たちから多くの事を学び、日々の生活に活かしていこう。
全ては、ご主人さまの健全な人生のために……!
「や~、結局外には出られなかったけど、これはこれで面白いわね!」
「ふふふ……指輪を通じて外界の様子も見れますしね。とても興味深いです」
「おいしそうなものがあったら、夢の中に持ってきてもらお~っと」
「「「クスクスクス…………」」」