エルフの女教師
持ちつ持たれつ……そんな理想的な関係は、わずか三日で崩壊しようとしていた。
「なあ……暇だから外に行ってもいいか……?」
「何を言っているんだ、君は。そんなことしたら「@wiki」が消えてしまうではないか。却下だ、却下。昼寝でもしていたまえ」
「もう眠くねえよ……」
いくら貴大でも、朝から晩まで、この研究室に拘束される九時間もの時間を昼寝に当てることはできない。昨夜も、しっかりと寝てきたのだ。昼寝ができるとしたら、九時間どころか三、四時間がいいところだろう。
では、残り六時間はどのように過ごすのか。答えは、「時計を見つめているだけ」だ。
映像水晶を出せば、「気が散る!!」と鬼のように怒られ、エルゥと同じく本を読もうと思っても、立入禁止区画にある書物の文字は古すぎるようで、貴大に読めるものは少ない。
そもそも、読書自体が貴大の趣味ではない。適度な運動に、適度な睡眠。それに美味しい食事。それが貴大の趣味らしい趣味と言えた。
また、暇を持て余した末にうとうとすることができたとしても、エルゥが不規則に「産廃ってどういう意味かな!?」、「芋虫が何でここまで嫌われているんだい?」と聞いてきて、その都度起こされる。
よって、することもなく起きたままだらだらと過ごす……これは、何かの拷問かと思えるような六時間だった。
貴大にとっての苦痛の時間は、エルゥにとっても同じ意味を持ちつつあった。
「う~ん、う~ん…………ダメだ、これも読めない……!」
レベルやジョブ制限、また、貴大が「これは公開したらヤバイだろ」と思った情報への制限が、エルゥの読書を妨げる。
「だから、言ったろ……「@wiki」は神々の書物だから、読むにはそれ相応の実力が必要なんだって……」
机にうつぶせになって砂時計をいじる貴大。「読めない項目がある!」と迫るエルゥに、「神様が決めたんだよ」と適当なことを言ったら信じたので、以来、それで通している。
スキル神「インフォ」を始めとして、この世界は案外生活に神が溶け込んでいるため、このような言もまかり通るのだ。
「馬鹿な……私は、レベル135の「錬金術師」だぞ……!? その私ですら読めない部分の方が圧倒的に多いだなんて……馬鹿な……ありえん……理解できない……」
信じはしたが、まだ納得できていないのか、ぶつぶつと否定の言葉を繰り返すエルゥ。連日に渡る貴大のお世話(という名の餌付け)で、やや溝を浅くしたこけた頬も、食いしばった歯によってぐにゃりと歪んでいる。
「ダメだ……! 読めない! これ以上は読めない!! ああああああああ……!!」
ついに、今の段階で読める情報を読みつくしてしまったのか、髪を掻き毟って頭を振りだす研究者。目が焦点を結んでおらず、見る者に恐怖を与える。
「ならよ~……止めるか、この関係」
正直、暇を持て余し過ぎてカビでも生えそうな心境の貴大だ。昼寝し放題ではあるが、ここには自由がない。それは耐えがたいことであった。
その言葉に、ピタリと止まるエルゥ。
眼だけがじっと、貴大を凝視している。
(マジでこの女はホラーだな……)
その様子も、ここ数日ですっかり慣れた。
「ダメだ~~~ぁぁぁ!!」
(ほら来た)
耳をつんざくような金切り声にも慣れたもので、予め耳を塞いで対処する。
「ダメだ、ダメだ、ダメだ!! こ、この本は誰にも読まさん!! 私が、私が一番に全部読むんだ!!!! 私が!!」
「あ~、はいはい、そうね」
本を胸に抱き、独占欲を露わにして威嚇するエルゥ。
流石、「@wiki」を読むことが夢である本の虫である。
「でもよ~、このままだと読めないぞ、それ。どうすんだ?」
「うぐぐぐ……め、迷宮に行ってレベルを上げて……」
「ダメだな。レベル150から、モンスターの厄介さは格段に上がる。だから、レベル上げの補助を生業にしている冒険者も、レベル100程度のモンスターしか現れないフィールドでの活動が中心だ」
「ううっ……!? な、なら、レベル150の君が……」
「嫌だよ、めんどくさい。それに、俺だってモンスターは怖いんだ」
「そこをなんとか……」
「いーやーでーすー」
「そんなぁ……」
遂には涙をその目に浮かべ、床にペタンと腰を下ろすエルゥ。
喜び勇んで契約したことの実態が、まさかこのようになるとは……貴大も泣きたい気分であった。
だから、この場から逃げたい一心で、思いつきのままに言葉を口にする。
「だったらさ、学園迷宮に潜ればよくないか?」
「学園迷宮?」
「そう、学園迷宮。あそこなら安全だろ」
そう言うと、エルゥは、はっ、と小馬鹿にしたかのような息を吐いた。
「君、あそこのBOSSのパミスゴーレムはレベル120だよ? BOSSとはいえ、レベルが10も離れてしまえば、いくら倒しても微々たる魔素しか吸収できない。まったく、何を言うかと思えば……」
「違うぞ」
即答する貴大。
「うん?」
「あそこのBOSSは、レベル140だ」
「は?」
戸惑いを顔に浮かべ、固まるエルゥ。
またこの説明をせにゃならんのか……そう思うと、心身ともにますますだるくなる貴大であった。
ここは、王立グランフェリア学園の一年S組の教室。
今日は貴大が来る日だということで、どこか学生たちも浮ついているように見える。
いよいよ、中層部のBOSSの撃破に手が届きそうなのだ。浮足立つのも無理はない。
そのような静かに広がる喧騒の中、教室の扉が開く。
「起立!!」
学級のまとめ役でもあるフランソワの号令により、一糸乱れぬ動きで立ち上がるS組の生徒たち。このような些細なことからも、優秀さがうかがえる。
「お~、おはよう。相変わらず元気いいな、お前ら」
「「「おはようございます!!!!」」」
「着席!!」
再度の号令で、三十名が一斉に席に座る。一糸乱れぬその動作は、壮観ですらある。
「さて、今日も午前は座学、午後は実習だ」
前置きもおかず、早速授業に入ろうとする貴大。一風変わったこの臨時講師のやり方にも、1・Sの生徒は慣れたものだ。早速、ノートを広げ、羽ペンをインクに浸す。
だが、生徒たちの予想を裏切り、臨時講師が妙な事を口にした。
「あ~、その前にだな……本日は皆さんに新しい先生を紹介します」
「「「???」」」
昨日のホームルームでは、そのようなことを担任のエリックは通知しなかった。上流社会に生きる彼らの情報網にも、何も引っかかってはいない。
貴大以上の電撃就任に、戸惑いを隠せない彼ら。その疑問を置き去りにして、貴大は教室の外へと声をかけた。
「じゃあ、先生、入ってきてください」
スーッと滑らかな音を立てて開いていく教室のドア。
そこから入ってきたのは、長身痩駆のエルフだった。
纏った白衣にウェーブがかかった黒髪を腰の上にまで垂らしてはいるが、ヘアサイドは笹穂のようなエルフ特有の耳を露出させるためにボリュームを出すのは抑えられている。
その耳にかかったシャープな形状のフレームの眼鏡の奥から覗く目は、視線が合った者に知的な印象を感じさせた。
多少痩せぎすではあるが、美人の女教師の登場に色めき立つ男子たち。
女子たちも、黒髪のエルフが持つ神秘的な雰囲気に飲まれているようだ。どこかポーっと呆けている。
(こういうのは、どこの学生でも変わらんもんか……俺も教育実習のお姉さんが来た時は妙に興奮したしな)
貴族や上流身分の学生に対し、どこか親近感を覚える貴大。女エルフはその隣に立ち、肩にかかった髪をばさりと払いのける。
それを横目で見ながら、貴大は未だにこの人物があの図書館の魔女と同一人物だとは信じがたい思いがした。
「学園で安全にレベルを上げることができる」と知った時、エルゥはすぐさま駆けだそうとした。レベルを上げ、「@wiki」の閲覧可能領域を増やすためだ。
貴大はそれを必死で止めた。ぼさぼさの髪にやせ細った体に、ボロボロの白衣を引っかけているとあっては、学園迷宮どころか街中でも死霊「レイス」に間違えられ、問答無用で討伐されそうだ。
「その格好を見ろ!! TPO! TPOをわきまえて!!!」
「なんだね、それは。古代語か何かかね」
貴大が言っていることが理解できないとばかりに、「格好? これでいいじゃないか」と、おそらく武器や回復薬が入っているであろう鞄を抱え、再度走り出そうとする。
またもそれを止める貴大。
「だから、お前は良くても世間ではアウトなんだよ、その格好は!! それに、学園迷宮は学園関係者しか使用できないぞ!?」
「なにぃ……!?」
どちらかというと後半の言葉に足を止めるエルゥ。
「君の権限でなんとかならないのか!?」
「俺はしがない臨時講師だよ……部外者を連れて迷宮には入れねえよ」
判明した事実に、歯を食いしばるエルゥ。
問題打破のために、勢いに任せて思いつきを口にする。
「ならば、私も臨時講師になる! それなら何も問題はないはずだ!!」
「はあ……? 王立学園の講師って、そんなに簡単になれるもんなのか?」
「わからん! だが、私の頭脳を持ってすれば、採用は容易いはずだ!!」
それが最善策だとばかりに、そうだ、そうだ、そうしよう、と、またもや出かけようとするエルゥ。
「だから、その格好じゃ外に出れねえって!!」
「むう……しつこいな、君も」
そんなやり取りは、結局エルゥが折れるまで何回か続いた。
「ふう……髪なんて久しぶりに切ったが、ずいぶんと頭が軽くなったな。これはいい」
「……誰だ、お前」
外出できるように身だしなみを整えるべく、地下階の司書たちの控室へとエルゥを連れていく貴大。噂の幽霊のようなエルゥの容姿に、何人かの司書が絶叫をあげて怖がっていた。
それでも、事情を知っている者がいないわけではない。エルゥの姿を見た年配の司書は、「あら、珍しい」と朗らかに笑っていた。
話が分かるその者らを中心にしてのエルゥ改造計画……幽霊のような女を、どうやったら世間様に見せられるようになるか。しばらくの間、意見が交わされる。
結果、服や体の汚れはどうにかなるが、兎にも角にも、余りに伸びすぎた髪を切らねばどうしようもないということで、急遽散髪が行われることとなった。
それからしばらく経って出てきたのは、まるで髪の毛のお化けのようなエルゥではなく、肩の下辺りでカットされている波打つ黒髪を、気だるそうにかきあげるエルフの女性だった。
「失礼だな、君は。私だよ、エルゥだ」
見知らぬ……いや、よく見てみれば、エルゥと似通った箇所がいくつも見受けられる女性は、自身をエルゥだという。
「うそぉ!? あの、ムッ○みてえな毛の化けもんが、アンタみてえな美人のエルフなわけねえだろ!?」
「なんだい、ム○クとは……よく分からないが、けなされていることだけは分かったよ」
不機嫌そうに眼鏡を右手の人差指で押し上げるエルフ。その仕草には、ここ数日で確かに見覚えがあった……しかし、
「いや、だって、エルゥにはそんなエルフ耳ついてなかっただろ!?」
指差す先には、ピンと斜め上に伸びるエルフ特有の横長い耳が、ぴこぴこと揺れている。
「ああ、これかい? 耳に髪がかかってうっとおしかったんだ……それで見えなかったんじゃないかな?」
「あれは耳にかかる、ってもんじゃなかったぞ……!」
「それもそうだね。ははは」
思い返せば、横にもピンピンとはねたり、膨らんでいたりの出鱈目な髪形だった。あの耳が隠れるスペースも十分にあったのだ。
「そうか、お前、エルフだったのか……」
今明かされる衝撃の事実に、何だかドッと疲れてしまう貴大。そんな貴大を引きずって、エルゥは意気揚々と学園へと向かったのだった……。
(まさか、学園長自ら一発でOK出して、翌日から早速出勤とはな……有名だったんだな、ああ見えて……)
エルゥの突然の来訪に、下にも置かない歓待ぶりでもてなす教師陣。その三分後には学園長が駆け付けて、臨時講師どころか正規採用の教師として雇うという話になった。
今や、教師としてのエルゥの立場は、働き始めてしばらく経つ貴大より上である。
何だか世知辛いな……と、貴大は遠い目をしていずこかを見つめていた。
「それで、タカヒロ先生。そちらはどなたですの? 新しい先生とは?」
物思いにふけっていた貴大に、フランソワが生徒を代表して質問する。
だが、それに答えたのは貴大ではなく、問題となっている新しい教師であった。
「それには私が答えよう。私は、今日からこの学園の教師となった、エルゥ・ミル・ウルルだ。全ての教科を教えることができるが、学園迷宮での実習が主な担当となるだろう。よろしく頼む」
「全ての教科を教えることができる」のくだりで、学生たちがざわめきだす。
無理もない。エリート校である王立学園において、「教えられる」ということは、その教科に関する学問に精通している、ということだ。
たいていの教師は、多くて三教科、普通は一教科しか教えることができない。当たり前だ。専門性を求めれば、あちこちに手を広げていては知識は深められない。
例えば、魔法学、魔物学の二科目に造詣が深いエリックは、Sクラスの担任に抜擢されている。教授できるのがニ教科だけであっても、十二分に優秀な人材なのだ。
この学園の高等部において、教科は十四科目ある。それらを全て「教えられる」と断言するのは、いったいいかなる理由からだろうか。
疑問を解消すべく、再度フランソワが質問する。
「エルゥ先生。失礼ですが、以前はどのようなお仕事に就いていらしたのですか? 全ての教科を教えられる、と豪語するするからには、納得させるだけの理由がおありですわよね?」
この疑問も、もっともである。
それに対し、エルゥは何でもないことのようにさらりと返答をする。
「ああ、私は王立図書館の立入禁止区画で研究員をしていてね。年がら年中本ばかり読んでは研究に勤しんでいたんだ。だから、高等部程度の知識なら教えることは造作もないんだよ」
「まあ、立入禁止区画の研究員!?」
騒然となる学生たち。そのざわめきは、段々と大きくなっていく。
立入禁止区画の研究員、という言葉には、それだけの力があるのだ。
元々、王立図書館の研究員は、エリートの中でも特に知性や閃きに秀でた者でしかなることができない。
立入禁止区画の研究員とは、そこから更に選別され、ほんの一握りの人材しかなることはできない、まさにイースィンド王国の中でも最上位の頭脳の持ち主と言っていいだろう。
そのような雲の上の存在が、Sクラスとはいえ学生に過ぎない自分たちの授業を受け持つとくれば、喜びよりも驚きや困惑が先に来るのが人間というものだ。
「あの、タカヒロ先生? 本当の話ですか、今のは……?」
未だ混乱覚めやらぬ学生の一人が、第三者である貴大に質問をする。先ほどの言に客観性と信憑性を持たせたいのだろう。
それに対し、貴大も自然体で、当然のことのように答える。
「ああ、ホントだぞ。エルゥ先生は立入禁止区画の研究員だ。研究の合間を縫って、お前らの授業を担当してくれることになった」
「「「おおおぉぉ~~……!!!!」」」
いよいよ信じることができたのか、貴大の言葉に感嘆の声をもらす1・Sの生徒たち。
その様子を見て、貴大はほっと胸をなで下ろした。
(やれやれ、受け入れられたか……これであの地下階のヒマ地獄に戻らんですむわ)
エルゥがこの学園で生徒とともにレベル上げに励めば、しばらくは「本を読ませろ」と迫られることもないだろう。
今後は、週に一度だけ図書館に通い、上がったレベルでどこまで閲覧可能になったか試す程度でいいそうだ。
実質的に仕事は増えているのだが、暇を持て余すあの地下階に籠るよりはマシだ。そう考えた貴大は、あえて仕事の増加について、思考の外へと追いやった……。
(さて、こいつにはどう説明したもんかな……)
学園での仕事が終わり、自宅に帰った貴大はユミエルに肩をもまれていた。
定職が決まって以来、このメイドはとても機嫌が良い。図書館での仕事(という名のサボり)から帰ってきた貴大に、いつにも増してあれこれ世話を焼きたがるのだ。
今も、「……図書館でのお仕事に加え、学園でのお仕事もこなされてはお疲れでしょう。せめて、マッサージをいたします」と、騙していることへの罪悪感から遠慮する貴大を強引に椅子に座らせ、柔らかな手つきで肩をもんでいる。
「……ご主人さま、気持ちいいですか?」
「あ、ああ、気持ちいいよ……」
「……それは何よりです」
心なしか、かける言葉も優しさに満ちている。なんだこいつ、本当にユミィか? と、貴大は妙な汗をたらしてしまう。
これでは、肝心の話が切り出せない。
まごつく貴大。
「あ、その……だな、お前に、言いたいことが、その……あるんだが……」
「……はい、なんですか? 仕事でご苦労なされたお話ですか? なんでもお聞きしますよ」
まるで聖母のような寛容さ。
いよいよ、こいつは「ドッペルゲンガー」じゃあるまいか、と混乱してしまう。
が、意を決し、ついに件の一件を切りだした。
「あ、誤解せずにだな、聞いてほしいんだけど……その、な? 俺、今度から図書館には週一で勤めることになったんだわ……」
「……仕事を週1に減らされた? ……何を、やったのですか?」
すうっ、と、背後から冷気が漂ってくる。
毎度おなじみの……いや、今までにかつてない感覚に、ゾクゾクと震える貴大。
「い、いや、違うぞ! 俺がヘマをしたわけじゃあない!! ただ、先方から週一でいいとだな……!」
「……失敗をせずに真っ当に働いて、どうして一週間で仕事を五分の一にまで減らされるのですか。ウソを吐くならもう少し考えてください……これは、おしおきです」
氷のように冷たい目となったユミエルが、貴大の眼前にゆらりと回り込み、おもむろにエプロンの前かけから「ハリセン」のような物体を取り出す。
それを見た途端、ぎょっと固まる貴大。
そのハリセンは彼にとって、とても見覚えがあるものだった。それも悪い意味で。
「そ、それは「竜皮扇」……!? おま、どこでんなもん!!」
「竜皮扇」。プレイヤーがモンスタードロップ素材から作るアイテムであり、「ホワイトドラゴン」などの上位モンスターの素材を用いているために見た目に反した威力を誇っている。
更には、対峙する者に「叩かれなくてはならない」と思わせ、必中させる効果【ツッコミ】も併せ持っている。
そのハリセンにしか見えないA級武器を片手に、じりじりと迫るユミエル。狭い家だ、数歩下がれば壁に背中が当たり、もはや逃げ場はない。
「……ご主人さまからいただいたアイテムボックスに入っておりました。このような事態を見越してのことですね? その精神は立派です。さあ、覚悟はよろしいですね?」
ただ単に、整理整頓が苦手なだけである。そのように自虐的な意図は毛頭ない。
そう説明する間もなく、手に持つ凶器をゆっくりと見せつけるように振り上げるユミエル。
そして、純白の「竜皮扇」が音を立てて迫り……。
「や、やめろ……! やめアーッ!!」
その夜、貴大は意識を失うまで何度も何度もしばかれた……。