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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

冒険者ギルド編

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ネズミと英雄アルティ

『アルティ! おい、アルティ!! 生きてるか!? おい!?』

「親父、か……」

「憤怒の悪鬼」と対峙して、どれだけの時間が流れたのだろう。

 十分? 三十分? それとも五分も経ってないのかもしれない。

 回避のために極限まで研ぎ澄まされた感覚は時間を長く、長く引き伸ばし、時間の経過の感知すら狂わせる。

 もうずっとこうしているようにも思えるし、まだ始まったばかりのような気もする。

 ただ、変化は如実に表れていた。

 【物理軽減】の効果を持つ「百年樹の胸当て」は弾け飛び、「ポケット爆弾」も尽きた。「ハイポーション」どころか、普通の「ポーション」ですら先ほど尽きてしまった。

 もはや、あとはない。「憤怒の悪鬼」がなにをしようと、オレは死んでしまうだろう。

『アルティ! そこを離れろ!! あと三十分、いや、二十分もあれば、オレたちが着くことができる!! おめえは逃げろ!!』

「逃げる……」

 【コール】の射程距離に入ったためか、親父以外の主力メンバーからも続々と通信が入ってくる。みなが口々に「逃げろ!」だの、「あんたは死んだらダメだ!!」などと言っている。

 でも……。

「なに……おかしなこと言ってやがる。冒険者は弱い者を捨てて逃げない……そう教えてくれたのは親父たちだぜ……」

『アルティ……!』

 そうだ、オレは逃げられない。「強い者が偉い」のは、弱い者を護れるからだ。魔物から逃げ回るネズミを蔑むオレが、魔物が怖くて逃げ出すだなんてできない。強い者が日頃偉そうにできるのは、ここで引かないからだ……!

(それなら……最後にできることは……決まっている)

 そう、回復薬も尽き、身を護る防具すらない今のオレに……「冒険者」にできること。それは、逃げ出すことじゃあない。



「【首狩り】に賭ける……!」

『『『っ!!!!』』』



 【首狩り】。それは、オレみたいな「軽装戦士」や「盗賊」、「アサシン」が習得するスキルだ。

 ヒト型の魔物(頸動脈があり、血が流れている)の首をダガーで搔っ捌き、一撃の元に絶命させる即死攻撃……しかし、零距離でなければ使えないという性質上、それには危険が伴う。

『止めろ、アルティ!! お前には無理だ!! 止め(ブツッ)

「へへ……すまねえな、親父」

 【コール】は切った。これから、限界を超えた集中が求められるのだ。雑音は邪魔だ。

 もしも、【首狩り】に成功すればそれでよし……成功しなければ、オレはカウンターを喰らってミンチだ。

 それでも、オレの死体を「憤怒の悪鬼」が貪り食うだけの時間は稼げる。どうせ死ぬなら、わずかな望みに賭けるべきだろう。

「母さん……ゴメン」

 胸のロケットをギュッと強く握る。オレが冒険者になったお祝いに、母さんがくれたお守りだ。中には家族の姿を収めた小さな映像水晶が入っている。

 「あんまり無茶しちゃダメよ? アルティは女の子なんだから」……これを首にかけてくれた時の母さんの言葉が耳に甦る。

 でも、結局無茶ばかりして、心配性の母さんを困らせてばかりだった。それが今となって、妙に申し訳なく思えてくる。

「ゴガアアアアアアアアアアアア!!!!」

「ちっ……感傷にぐらい浸らせろよ……」

 どうやら、もう追いつかれたようだ。前線基地から離れるように誘導していたが、デカイ図体の割に思った以上にスタミナがある。元気に雄たけびを上げ、衰えを見せない健脚で突進してくる。

「よし、来い!!」

 自分に活を入れるかのように負けじと大声を上げる。

 ここまできたらもう、オレがするべきことはネズミのように逃げ回ることじゃあない。

 真正面から敵とぶつかり、奴の首を落とすことだ!!!!

「ゴアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「いくぞおおおおぉぉぉぉぉ!!!! 【首狩り】!!」

 お互いがダッシュで距離を縮める。互いの瞳に自らが映るまでの距離に、一息に近づく。ダガーを力強く、かつ精密に走らせる。

 「憤怒の悪鬼」が引き絞った拳を放つより早く、電光のような「疾風の短剣」の軌跡が奴の首へと吸い込まれていく。

(とった!!!!)

 完璧だ! オーガの首すら【首狩り】で落としたことがあるオレには分かる!! これは必殺の一撃だ!!!!

 そのまま、「憤怒の悪鬼」の首に「疾風の短剣」が当てられ……。

 キンッ!

 赤黒い表皮に弾かれて折れた。

「なっ!?!?」


 失敗した!!


 そう気づくと同時に「憤怒の悪鬼」の拳がオレの胸に直撃し、「キンッ」と、釘を折るような妙に軽い音と共にオレの意識は暗転した。





 気が付くとオレは地面に仰向けに転がっていた。

 やや視線を下げると、そこには「憤怒の悪鬼」の姿が……ああ、やはり【首狩り】は失敗したのか。

(でも、何で生きている……?)

 あの時、確かに直撃を喰らったはずだ。全身に激痛が走るが、ただそれだけだ。なぜ、上半身がひき肉となって宙にばら撒かれずに残っているのだろうか……。

 しかし、いずれにせよ、死期が伸びたに過ぎない。「憤怒の悪鬼」は未だ健在で、こちらに歩を進めてきている。あと一分もあれば、今度は間違いなく叩き潰されるだろう。

(親父……母さん……みんな……)

 女だからって舐められないように、家名を汚さないように頑張ってきた。誰よりも冒険者らしくあろうと努力してきた。

 でも、オレじゃ駄目みたいだ。オレは、どうやらまだまだ力不足らしい。だって、魔物を前にして、スカーレットには相応しくない無様な姿を晒しているから。

 不甲斐ない自分を許して欲しいとは思わない。ただただ、親父たちが間に合うことだけを願う。せめて、この悪鬼に殺されるのは自分だけでありますように……。

(さよなら……)

 目は閉じない。せめて、最期まで勇敢な冒険者らしくありたい。おかげで、もはや目の前にいる「憤怒の悪鬼」の拳に力が入るのすら分かる。



 そして、「憤怒の悪鬼」は……拳を振り上げた。

 と、同時に、鬼の頭がゴトリと音を立てて地面に落ちた。



(……………………えっ?)

 切断された首から、天に向かって迸る魔素。まるで悪趣味な噴水のようだ。地面に落ちた頭は怒りの形相のまま固まっているが、それすらすぐに砕けて魔素の粒子へと変換されていく。

(な、なにが……!?)

 これは、【首狩り】でオーガを倒した時の状況にそっくりだ。でも、オレじゃあない。失敗したんだ。それにオレはもう動けない。じゃあ、一体誰が……?

 痛みに飛びそうな意識を奮い立たせ、首だけを何とか動かして辺りを見回す。

 いた。黒装束に身を包み、血のように赤いダガーを右手に携えている男の背中が見える。冒険者か……?

 「憤怒の悪鬼」の首を一撃で落とすなんて……オレにはできなかったことをいともたやすくやってのけるその力に、心がジンと痺れる。いったい、何もんだ……?

「ふ~……間に合ったか。雑魚しか出てこねえと思って油断してたぜ……」

 どこかで聞いた声を思い出そうと必死になるが、薄れゆく意識ではろくに考え事もできない。そして、答えが出ないまま、あまりの痛みにとうとう耐えきれずに意識を失う瞬間……そいつがこちらを振り返った。

 そいつは、ネズミ……タカヒロ・サヤマの顔をしていた……。



………………
…………
……



「しかし、あぶねえところだったな……」

 あと一歩のところで間に合わず、アルティが「憤怒の悪鬼」の一撃をまともに受けた時は冷や汗をかいたが、どうやら「身代わりのロケット」を身につけていたようで、すんでのところで命は繋いでいた。

 「身代わりのロケット」……≪Another World Online≫において、「致命傷を受けた場合、一度に限りHP10の状態で耐えることができる」下級の蘇生アイテムは、この世界においても効力を発揮するようだ。

 女の子としてはあるまじきほどにボロボロになってはいるが、死んじゃあいない。【ハイヒール】をかけて大雑把に怪我を治してやる。あとは、前線基地のテントに放り込んでおけば、じきに目を覚ますだろう。

「でもやっちまったなあ……」

 勢いに任せて【首狩り】で「憤怒の悪鬼」を一撃で倒してしまった……【首狩り】は比較的早くに覚えやすいスキルだが、使い勝手はいいんだ。自分より10はレベルが上のモンスター(BOSS以外)でも、ウィークポイントを突けば一撃で倒せてしまう。

 もちろん、密着するほどの至近距離まで近づくために危険は伴うが、レベル250になっても充分に使えるスキルである。だから、HPが多いユニークモンスターと戦う時は咄嗟に【首狩り】などの暗殺系スキルが出てしまうんだ。

 今回は、それが裏目に出そうな気がする。

 「「憤怒の悪鬼」を一撃で倒した冒険者が出たぞ!!」となれば、面倒事が次々と回されてくるだろう。昔、似たようなことになった奴を見て、他人事ながらげんなりした覚えがある。

(い、いやだ……! そんなのは嫌だぞ、おい!?)

 アルティが俺を「ネズミ」と呼んでいることも、今となっては面倒事が回されずに済むと感謝しているほどなのだ。そんな俺が「優秀な冒険者」という名の便利な使い走りにされてしまうのだけは、断固阻止したい。

(何かないか……なにか……!?)

 そのような事態を避けるために、何ができるのか……オープンチャンネルの【コール】からは、『アルティ!? アルティィィィ!?』と、キリングの悲痛な叫び声が聞こえる。ここに来るのも時間の問題だ。

(なにか……なに……ん?)

 目には見えない何かに追い詰められていくかのような心境に、キョロキョロと意味もなく辺りを見回す。すると、折れた「疾風の短剣」が目に入った。アルティのものだ。

 【首狩り】には、レベル差がありすぎる場合(50以上だったかな?)に実行すると、武器が破壊されるというリスクがある。【首狩り】だけで強敵に挑もうとする馬鹿を戒めるためのものだろう……まあ、失敗=死というこの世界では、そんな馬鹿はアルティぐらいのものだろうが。

 まてよ、【首狩り】……?

(これは…………そうか!)

 名案が思いついた。誰も困らずに事態を終息させることができるとてもいい案だ。

「アルティが【首狩り】に成功した、ってことにすりゃいいんだ!!」

 どうせ、この世界の奴らはレベル差50以上で【首狩り】は必ず失敗するとか知らないだろう。レベル100ちょいのアルティが、レベル200の「憤怒の悪鬼」の首を狩ったとしても、「ただ1人引くことがなかった勇敢な冒険者だからこそ、このような偉業を成し遂げた」とかテキトーな説明をつければ納得するはずだ!

 特にキリングの親父は脳筋だからな……毛ほども疑うことをしないだろう。

(そうと決まれば、こいつを前線基地に放りこんでくるかな)

 気絶したままのアルティを抱え、前線基地へと歩き出す。

 基地の奴らに俺が考えたシナリオを話して回れば、命が助かった奴らのことだ、頼まずとも「アルティの活躍」をベラベラ話して回るだろう。

 そうすりゃ、「英雄アルティ」の誕生だ……くくく。

 なんとかめんどうな事態を回避できた喜びを噛みしめながら、俺は前線基地へとゆっくりと歩を進めていった。





 「憤怒の悪鬼」の首を切り落とした「繁殖期」の一件から、俺の周囲をアルティがウロチョロし始めた。

「ねえ、タカヒロ……あの娘、なに……?」

「知らねえよ……」

 今も、まんぷく亭で飯を食う俺を、少し離れたカウンター席からチラチラチラチラ見てくる。正直、気になって仕方がない。

 近づいて話を聞こうとすると逃げるし、よしんば話ができる状況でも「このネズミ野郎!! オレに近づくんじゃねえよ!!」と怒りだす。何だってんだ。

 「憤怒の悪鬼」は、結局アルティが【首狩り】で倒したということになった。

 レベルも130へと一気に上がり、ジョブも「軽装戦士」の派生「ライトストライカー」へと変わったことがそれを証拠づけている。

 実は、レベル200のユニークモンスター「憤怒の悪鬼」から流れ出た莫大な魔素が、近くにいたアルティに流れ込んだだけなんだけどな……。

 そうとは知らない冒険者連中により、アルティは英雄扱いだ。

 アルティをテントまで運んだ俺は、近くにいたのに見ていただけと言われ、相変わらずおこぼれを狙っていたとされて、ますますネズミ扱いだ。

 これは、我先に逃げ出した連中が、自分の不甲斐なさをごまかすために俺を更に貶めているだけなんだけど……まあいいや。めんどくさいことにならずにすむ。

 ただ、あれは何とかできないもんか……。

 今もこちらを睨みつけている赤毛の少女を横目に、俺は大きなため息を吐いた。



………………
…………
……



(くそ……いつになったら実力を見せるんだ……?)

 今日もネズミ……タカヒロ・サヤマは、のんびりと配達の仕事をこなし、中級区の食堂で飯を食っている。

 ここ一週間観察しているが、ほとんど変わりげの無い生活だ。これじゃあまるで、「普通の」何でも屋みたいじゃないか!!

(違う……奴は、絶対に何かを隠している)

 あの時、オレは確かに見たんだ。「憤怒の悪鬼」の首を切り落とし、事もなげにしている奴の姿を!

 でも、誰も信じちゃあくれない。

 みんながみんな、オレが「憤怒の悪鬼」の一撃をもらいながらも【首狩り】に成功した、と褒めたたえてくる。

 臆病なネズミは「憤怒の悪鬼」に近づくことすらできませんよ、と口にする。

 確かに、レベルはアホみたいに上がったさ。ジョブも上位のものとなった。でもそれは、莫大な魔素に変換された「憤怒の悪鬼」の一番近くにオレがいたからなんじゃないだろうか。

 これじゃあまるで、オレが奴のおこぼれを頂戴したみてえじゃねえか! 日頃蔑んでいるあのネズミ野郎の!! 屈辱だ……!

 同時に、あることに気づく。

 もしかして、あいつ、本当は強いんじゃないか、と。

 強くなければ、「憤怒の悪鬼」相手に余裕で【首狩り】を決めることはできないだろう。少なくとも、オレよりかは強いはずだ。いーや、そうでなきゃおかしい。

 なぜ強さを隠すのか、オレにはさっぱり分からない。だが、隠しているというのなら、見つけ出してやる!!

 奴がオレより強いことが証明できたなら、みんなもオレの言うことを信じてくれるだろう。

 オレは弱い奴も嫌いだが、ウソも嫌いだ。自分がうそつき呼ばわりされている現状には我慢が出来ない。絶対に暴いてやる!

 そう思って奴の観察を続けているのだが、一向に強さの片鱗を見せない。

 時間ができたら公園で寝てるか、犬娘たちと遊んでいるか、まんぷく亭という食堂で給仕の女とくっちゃべっているかだ。

 いったい、いつ修行をしているのだろうか……?

 いや、奴もオレを警戒しているのかもしれない! 強さの秘密を暴かれるのを!!

 いいだろう、ならば、オレとお前の根気比べだ!! オレは負けはしないぞ!!!

 親父、母さん、みんな、見ててくれ! オレは絶対に負けないからな!!




アルティさん、それはストーカゲフンゲフン。

さて、主人公が実力を垣間見せた冒険者ギルド編、いかがでしたでしょうか?

さて、次は「図書館の魔女編」です。請うご期待!
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