ネズミと冒険者ギルド
ドMの皆さま、お待たせしました。口が悪くて男勝りな女の子が出てくる冒険者ギルド編、開始です!ユミエルも相変わらずです(笑)
「……ご主人さま、知っていますか。今日は月に一度の冒険者ギルド定例会なんですよ」
「へ~、そうなんだ……で?」
「……ご主人さまは、何でも屋・フリーライフの店主として、定例会に出席せねばなりません」
「そりゃあ、知らなかったなぁ~……ひゅ~ひゅひゅ~(口笛失敗)」
「……このやり取りも、何でも屋を始めて何回目ですか。諦めが悪いですよ」
「だってさ~! あいつら、俺に仕事回そうとしてくるんだぜ!? ありえねぇぃひぇいっ!?」
ドガッ!!
貴大の髪を一束切り飛ばし、居間の壁に深くめり込む無骨なナタ。ユミエルの【投擲】スキルは今日も冴えわたっている。
「……あり得ないのはご主人さまです。定例会に出なければギルドから仕事が回ってこなくなりますよ」
「い、いいんだよ!! ギルドの仕事なんて面倒なもんばっかじゃねえか! 俺ぁ、地域密着型なんだ! 細々とご近所さんの依頼を週にニ、三回ぐらいこなせればだな……」
今日は暴力に屈しないようだ。ナタにも怯えず、ダダをこねる貴大。
その様子を見て……。
「出席しなさい」
「ハイ」
ユミエルの目が冷たく光る。言葉が端的にズバッと飛び出す。堪忍袋の緒が切れるまで時間が無いことを示す兆候である。これは、貴大の体のどこかがズバッと切れるまでの時間がないことも意味している。
即座に貴大は否応なく頷く。どうやら、パブロフの犬のように条件反射を訓練されているらしい。店主の立場がかたなしである。
「……いいですか、ご主人さま。ギルドホールに行ってすぐ帰ってきて、「定例会に「行って」きました」とか言うんじゃありませんよ。ちゃんと出席するんですよ」
「お母さんか、お前は……わぁーたよ! ちゃんと出席してきます! それでいいんだろ?」
「……それでいいんです」
いつも通り、通常運転の何でも屋・フリーライフ。これから起きる騒動も、店主にとってはいつものことなのかもしれない。
………………
…………
……
「相変わらず、馬鹿みてえにでかいよな、ここ」
俺は今、中級区にそびえ立つ冒険者ギルドの本館を見上げていた。
しかし、まぁ、甲子園球場並みにでかいよな……ギルドホールだけじゃなくて、宿泊施設、訓練用施設とかもあるからか。
冒険者時代にこの国に来てからの付き合いだから……かれこれ、もう二年もここに通ってることになるのか。まあ、何でも屋を始めてからは定例会以外では寄りつかないが。
「定例会……あ~、くそ、だりいなあ……」
どうせ今月もやっかいごとを押しつけられるだけだ。
何が「何でも屋を営むあなた達に仕事を回してあげているのです。感謝してくださいね?」だ、受付のババア……ギルドの面目を保つために手当たり次第依頼を引き受けて、面倒なもんだけこっちに回すなっつーの……。
「はあ……仕方ねえ、入るか」
そう、こうしてても定例会は終わらない。腹をくくってさっさと中に入るとするか……。
「おい、「ネズミ」が来たぜ……」
「おぉ、相変わらずしょぼくれてやがんな」
「ああはなりたくないもんだぜ……ひひ」
あ~……冒険者のみなさんの嘲りにもすっかり慣れた自分がいる……「ネズミ」と呼ばれても、特に腹は立たない。どうせギルド内喧嘩両成敗を怖れて手は出してこないんだ。ほっとこ……。
と、思ってる矢先にこいつは……!
「よう、「ネズミ」! まだ生きてやがったか。ネズミは流石にしぶといな。で、今度は誰のおこぼれを掠め取ろうってんだ?」
「「「ははは!!」」」
俺を面と向かってバカにするこの男勝りの小柄な女は、アルティ・ブレイブ=スカーレット=カスティーリャ。真っ赤な髪をショートにしているためにはっきりと見える眼は、これまた燃えるように真っ赤だ。
名前の一部が示すように赤の色合いがとても高い娘は、まだ若いが、大手冒険者グループ「スカーレット」のメンバーだ。それどころかボスの娘だ。
レベルもそれなり(115だったかな?)な「軽装戦士」であるこいつは、俺を「ネズミ」と呼び始めた張本人でもある。
きっかけは、些細なことだった。
冒険者時代の俺は、主に盗賊系の上位ジョブ「マスター・シーフ」で活動していた。素早く動けるようになるし、何よりレアを含めてのアイテムが出やすくなる(ドロップ率アップ&発見率アップ)という恩恵が魅力的だった。
あの頃の俺は目的があったし、今と比べて精力的に活動していたから、色んな奴らとパーティーを組んでよく冒険に出かけていたんだ。
ただ、俺はレベルがカンストしていたから、どうしてもドロップアイテムが欲しいモンスター以外は全てパーティーの連中に倒させていた。
自慢の速さで敵をかく乱し(どうしても危ない時は助けはしたが)、基本的に取り逃しのモンスター以外には手を出さずにレベルアップをさせてやろうという心づもりだったんだ(倒した者が一番経験値……この世界では魔素吸収だったかな? が高いんだ)。
どうやら、それが余計なお節介だったらしい。俺は彼らの目には、「モンスターからチョロチョロ逃げ回って、瀕死で逃げ出そうとするモンスター以外にはろくに攻撃しようとしない奴」と映っていたらしい。
そんなある日、アルティに言われた。「臆病者のてめえは、冒険者失格だ。チョロチョロチョロチョロ駆けずり回りやがって……まるで「ネズミ」だなぁ、おい?」ってさ。
「スカーレット」は何かと注目を集める冒険者グループだ。当然、ボスの娘のアルティの発言もすぐに伝播する。
それ以来、俺は影に日向に「ネズミ」と呼ばれ、蔑まれるようになった。何でも屋になった今でも、だ。
まあ、気にならないと言えばウソになるが、我慢できないほどじゃあない。どうせ、街の外が主な活動範囲の冒険者連中と会うのは、定例会で月に一度ぐらいだ。
本当のことを話して回る労力を思えば、言わせたままにしておく方が楽だ。どーせあいつら俺の言葉を信用しないしな。
「ネズミ、お前、よかったな? 今度のおこぼれは大きそうだぞ?」
「??? 何のことを言ってるんだ?」
おこぼれ? ギルドが定例会で回す仕事のことか? 別に大きくなくても……。
「とぼけるんじゃねえよ。お前も知ってるだろう? 今月は「繁殖期」だぜ? ……それともお前、怖くて逃げようってのか! おいおい、心の底までネズミになっちまったのかよ!」
「「「ハハハハハハハ!!」」」
侮蔑の色を隠しもしない台詞を吐き捨てるアルティ。周りの者はそれを聞いて高笑いをする。ネズミは情けない奴だと。男として終わっていると。
(……聞き捨てならんな)
ああ、聞き捨てるわけにはいかない。この言葉だけは、無視するわけにはいかない……!
(「繁殖期」だと……!?)
あ~、もうそんな季節か……めんどくさいなぁ……。
今回も四話構成です。毎回そうするつもりです。感想欄で「もっと書いて」と希望が多かった話は、○○編2という形やサイドストーリーで書いていきますね。