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村にはいられない

お年玉代わりだっ!


連続投稿!!

「お婆ちゃんはどこが悪いのかな?」


「へえ、シスターさん。最近、膝がいとぅて、いとぅて」


「膝かー。じゃあ、この『どろり軟膏 夏の潮騒味』だね。寝る前に薄く、まんべんなく塗っておいてね。お爺ちゃんはどこが悪いの?」


「わしゃあ、妙に疲れやすくてのう。薪割りしただけで、わしの息子のようにぐったりとしてしまう」


「あはは、お爺ちゃんはまだまだ若いよー。ほら、回春湿布『情熱ゲイン』だよ。これを腰や背中に貼っておけば、元気が出過ぎて大変になっちゃうんだって」


「そ、それ、俺にもくれないか。ここんところ、ろくなもんを食ってないせいか、俺も、その、何だ。元気がなくてな」


「『情熱ゲイン』はお爺ちゃん向けだから、おじさんが使うと逆に病気になっちゃうよ。お肉やお魚を食べれば大丈夫だと思うから、私の食糧をわけてあげるね」


 ものの見事に過疎っている村の中央広場で、メリッサは村人たちを診察していた。


 やれ、腰が痛いだの、膝が痛いだの、目がしょぼしょぼするだの、古傷が疼くだの、村の人たちは様々な悩みをここぞとばかりに桃色シスターに打ち明けている。


 メリッサはメリッサで、それら一つ一つに丁寧に対応し、パンパンに膨らんだ診察バッグからあれやこれやを取り出していく。


 俺はと言えば、その光景をただただぽかんと見つめるばかり。


 いや、正直、驚いた。まさかメリッサが、こんなにも普通のシスターっぽい治療をすることができるなんて、夢にも思っていなかった。


 だってさ、村に着くまでに、三人もの刺客をパンチ一発で再起不能にしたんだぜ? そんな破戒シスターがする治療なんて、


『【グレート・ヒール】。これで治らぬ傷はない』


『あ、あああ!? 腰がぁ!? わしの腰がぁぁぁ……!?』


『自在にぃ! あんなに痛かった足が、自在に動かせるぅ!?』


とか、


『古傷だから治療スキルは通じないって? ううん、そんなことないよ。そこをえぐれば、古傷は生傷になるよね? そうすれば、ほら! 治療スキルが通じるよ♪』


『あぎいいいい! 骨がぁ! 骨までえぐられた肉がぁ! 見る見るうちに再生されていくぅ……!』


とか、そういう荒っぽくて大雑把なのを考えていた。


 もう、ここまでの道中、診察でお爺ちゃんお婆ちゃんたちがショック死するんじゃないかとビクビクしっぱなしだったわ。


 おまけに、刺客の襲撃にびっくりして、慌てて【レーダー】を起動したんだけど、馬車の周りは敵対反応を示す赤点でいっぱい。そいつらが俺たちの移動に合わせて動くもんだから、二重の意味でビクビク。


 それなのに、メリッサは「タカヒロくんは何もしなくていいからね?」と、笑いながら襲撃者を片づけていくもんだから、心臓が不整脈を起こすかと思ったわ。


「おまたせ、タカヒロくん。診察、終わったよー」


 村に乗り入れた馬車の荷台でボケっとしていたら、いつの間にかメリッサが帰ってきていた。


「お、何だ。もう終わったのか?」


「うん。ここは困っている人が少なかったから。治せる人はみんな治して、薬も配り終わったよ」


「そうか。じゃあ、宿に行くかな。村長さんが、部屋を貸してくれるって言ってたぞ」


 街道から外れて、近くに魔物の森などの狩り場がない村は、滅多なことでは旅人が訪れない。そんな僻地では宿屋なんて運営できるわけもなく、『民家』以外の建物なんて、馬小屋か倉庫しかない。


 じゃあ、外から来た人がどこに泊まるかと言えば、たいていの場合は村長の家だ。どこの村でも村長の家は集会場も兼ねているから、行商人や巡回シスターたちが泊まるスペースは十分にあるんだよ。


 あ、でも、滅茶苦茶貧しい村なんかは、村長の家にも泊まれないな。それに、冒険者を嫌う村や、閉鎖的な村なんかもそうだ。そんな時は、屋根がある建物には入れてもらえず、否応なく野宿を強いられる。


 俺も、冒険者時代はよく野宿をしたり、馬小屋で寝起きしたっけな。何か、冒険者は乱暴者だってイメージがあるらしく、村長の家に泊めてもらえないことがままあった。まあ、トップがキリングじゃしょうがないとは言えるが、その辺りは改善していただきたいところだ。


 それに比べて、シスターは信用度が違うね。村長の方から、「是非、泊まっていってください」ときたもんだ。


 やっぱり、ファンタジーな世界でも、身分って大事だよなあ。


「はいよー。しゅっぱーつ」


「って、えええええええ!?」


 このシスター、冒険者が望んでも得られない好待遇を蹴りやがった!


 手を振る住人に見送られ、ガラガラと村から遠ざかっていく馬車。ああ、今晩の宿が幻と消えていく……!


「ちょ、メリッサ! もう夕方だぞ!? 次の村まで遠いし、今晩は泊まっていこうぜ。わざわざ野宿するこたあねえだろ」


「あはは、駄目だって」


「何で? そんなに急ぐ旅じゃねえんだろ?」


 道中、俺はメリッサから、今回の巡察にかかる時間を聞いていた。それによると、『全ての村をゆっくり回っても、まだ余裕がある』はずなんだが。


「駄目だよ。だって、村の人たちが襲われるじゃない」


「あっ……」


 振り向きもせずに答えるメリッサの言葉に、俺はハッとさせられた。


 そうだ、あまりに雑魚過ぎて失念していたけれど、俺たちは刺客に囲まれているんだった。長く留まれば、それだけ村の人に危険が及んでしまう。


 俺たちにとっては取るに足らない相手でも、一般人にしてみれば最悪の殺人鬼だ。下手をすれば、たった一人の暗殺者によって、村人全員が惨殺されてしまうだろう。


 しかし……。


「でもさ。お前、聖女なら【サンクチュアリ】が使えるだろ? 小さな村一つぐらいなら、外敵の侵入を防げるバリアが張れる。その間に俺がパパッと刺客を片づけりゃあ、後顧の憂いがなくなっていいんじゃないか?」


 結構いい案じゃないかと思って、そう提案してみた。だけど、聖女は決して首を縦に振らない。


「駄目だって」


「何で?」


 襲ってくる敵は、お帰り頂けばいいじゃないか。カンストレベルの斥候職である俺ならば、敵に感づかれることなく気絶させて、ふんじばって回るぐらいのことはできる。


 同じカンストレベルだから、それはわかっているだろう?


 そんな疑問も込めて、俺はメリッサに問いかけたんだが……。


「タカヒロくんは、教会の暗部をなめているよ」


 予想外に冷たく、硬い言葉が帰ってきて、俺はそれ以上の言葉をなくしてしまった。



区切りのいいところで終わりたかったので、今回は少なめ。


次回はメリッサについて重要な話になるので、多めになります。

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