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今日は何の日?

書けたので投稿。


か、勘違いしないでよね! あんたたちのためじゃ(ry



「はひ~、はひ~! マ、マークさん、残りはどれぐらいっすか?」


「二十だ」


「ちょ、さっきより増えてません!?」


「気のせいだ」


 夕暮れ時の中級区東住宅街。その外れに建っている鍛冶工房〈ヘルバルト〉にて、貴大は汗水垂らして働いていた。


 幸いにして、〈アップル・ポーション〉の効果はすでに切れ、正気は取り戻している。孤児院での奉仕作業もすでに終了している。が、ここでの仕事が、なかなか終わらない。


 現在時刻、十七時五十分。


 仕事が済んだら帰っていいと言われた貴大が、珍しく本気を出して倉庫の商品整理を終わらせたのが十六時三十分。最初の言葉通りなら、貴大はそこで帰れるはずだった。


 しかし、なぜか次から次へと新たな仕事が回され、今に至る。


「〈アイアン・インゴット〉の箱詰め二十箱、終わりましたー!」


「次は……」


(まだあるの!? 死ぬ! 死んでしまう!)


 貴大は、更なる仕事の予感に背筋を震わせる。だが……。


「……今日はここまでだ」


「了解です! ……って、え? 今、なんて……?」


「帰っていい」


 ちらりと時計を見たマークは、手のひらを返したかのように、貴大に仕事の終わりを告げた。


 マークは、腕はいいが頑固な老職人だ。もう遅い時間だからといって、中途半端に作業を残した状態では、決して仕事を終えようとはしない。


 それは、鍛冶工房〈ヘルバルト〉においては、絶対的なルール……例外が許されたことなど、今まで一度たりともなかった。


「???」


 疑問を感じながらも、前かけと軍手を外し始める貴大。その間、マークは何も言わずに鎚や挟みを片付けている。


(え? ホントに帰っていいの?)


 使った道具も全て片付け終え、ヘルバルトの入り口に立ちつくす貴大。工房の椅子へとどっかと腰を下ろし、パイプに火をつける白髪の老人。紫煙が漂う鍛冶工房に、しばし静寂が訪れた。


「……これを持って、早く帰れ」


 たばこの煙を吐き出したマークが、脇に置いていた横長の小箱を投げて渡す。貴大は慌てて受け止め……またしても首をひねる。


「こ、これは?」


 そう尋ねても、老職人は何も語らない。貴大に背中を向け、ゆっくりとパイプをふかしている。元々無口な人物だ。こうなってしまえば、今日はもう口を開きはしないだろう。


「じゃ、じゃあ、あがりまーす……おつかれさまでした~……?」


 貴大もそのことを知っていたからこそ、これ以上追及することなく鍛冶工房をあとにした。




「な、なんだったんだ?」


 自宅までの数分間の道のり。貴大はマークにもらった小箱を脇に抱え、首をかしげながら歩いていた。


「だいたい、これは何なんだよ……んん? 包丁と、ナイフ? え? ユミエルが何か注文してたのか?」


 どうにも気になって小箱を開けるも、謎は深まるばかり。


 なぜ、マークは仕事を途中で切り上げたのか。貴大に次から次へと与えるほどの仕事があったのではないのか。この刃物は何か。


 どうにもすっきりとしない。もやもやとする。何かが引っかかる―――。


「っ! おっとと」


 あれこれ考えているうちに、自宅の前を通り過ぎてしまっていた貴大。どうにも締まらないなぁと苦笑し、元来た道を引き返す。


「まぁ、大したことでもねえか」


 そう、謎は多いが、どれも小さなものばかりだ。一つ一つは、特に気にするようなことではない。たまたま、それらが重なりあっただけ。だから気にもなったし、落ちつかない気分にもなった。


 でも、貴大が言う通り、大したことではないのだ。老職人の仕事がどれほどあろうが、仕事を途中で切り上げようが、貴大にとってはどうでもいいことだ。


 渡された包丁やナイフだってそうだ。帰ってユミエルに聞けば、「研ぎに出していた品です」という、何てことのない答えが返ってくるに違いない。


「どーでもいい、どーでもいい。俺には関係ねえって」


 そう結論づけた貴大は、あくびをしながら、大きく体を伸ばした。そして、ふっ、と息を吐いて一言。


「はよ飯食って寝よ」


 抱えていた謎を放り投げて身軽になった貴大は、思い出したかのようにグーと鳴く腹の虫を何とかしようと思った。そして、風呂に浸かり、しかる後に柔らかな布団の中へ。安らかな眠りにつけば、謎だと思っていたことも忘れてしまうだろう。


 あまり深くは考えない。これが、彼の生き方だった。


「さて、到着っと」


 通り過ぎた道を引き返し、自宅の玄関前に着いた貴大。


 彼は、夕食の予想を立てながら、玄関の扉を開いた。


 すると―――。


 パーーーン! パパパパーーーン!


 突然、鳴り響く破裂音!


 高速で飛来する何らかの破片!


 降り注ぐ無数の白糸は、獲物を絡め取ろうとする蜘蛛の糸か―――。


 だが、


 だが、佐山貴大はカンストレベルの斥候職である。


 全てのジョブの中で、避けること、隠れることに最も秀でた〈無影の暗殺者〉にとって、視界すら埋めようとする弾雨や蜘蛛の糸など、あってないようなものだ。


 貴大の知覚が、鋭く尖る。体に張り巡らされた神経を伝い、稲妻のように指令が行き渡る。


 そして、彼は影すら残さず、その場から退避する……はずであった。


 しかし、彼は見てしまった。「それ」を見てしまったがゆえに、その場から一歩も動けなくなった。


 彼の視界に焼きついた、その一文。自宅内部に吊り下げられた白い布に、それは書かれていた。


「なん、だと……!?」


 貴大の足を止めた一文……。


 それは、「お誕生日おめでとう」というメッセージだった。


「「「お誕生日、おめでとう!」」」


「え? えええええ!?」


 呆然とする貴大に降り注ぐクラッカーの紙吹雪と、色とりどりの紙テープ。そして、リビングから、垂れ幕の裏から、多くの人がぞろぞろと姿を見せた。


「おめでとー!」


 そう言って貴大に飛び付いたのは、犬の獣人少女、クルミアだ。クルミアは尻尾をふりたくり、貴大の頬をぺろぺろと舐めはじめる。


「た、タカヒロ、その……大丈夫? ま、まぁ、おめでと~……」


 貴大の顔色を窺うように祝いの言葉を口にするのは、まんぷく亭の看板娘、カオルだ。昼に貴大が見せた奇行がよほどショックだったのか、微妙に距離を開けている。


「よう、おめでと。……何だよ、その顔は。呆けてんじゃねえぞ」


「先生、お誕生日、おめでとうございます」


「おめでとう。ささやかながら、プレゼントを用意した。後で食べてくれ。ふふふ」


 冒険者の少女、アルティ。大貴族の娘、フランソワ。本の森に住まうエルフ、エルゥ。淫魔や、気弱そうな少女、眼鏡をかけた童顔の教師に、喫茶店のマスターや黒猫少女。


 出るわ出るわ、年齢も種族も職もバラバラな人々が、次々と現れる。


「……!?」


 突然の事態に言葉も出ないのか、貴大は目を見開いたまま微動だにしない。


「タカヒロさん、パーティー会場に移動しましょう」


 そんな彼の背中をエリックが押し、どこかへ連れて行こうとする。それでも、貴大は抵抗すらしない。時おり、「え?」と情けない声を漏らしはするが、それだけだ。途中からクルミアに手を引っ張られても、なすがままの貴大だった。


 やがて、貴大を中心とした一行は、「パーティー会場」へと辿り着く。そこは……。


「え? まんぷく亭……?」


 貴大の目の前には、造花や紙細工で飾り立てられたまんぷく亭があった。


「そう! まんぷく亭です! いらっしゃーい、タカヒロちゃん!」


「誕生日おめでとう! 今夜は貸し切りだ! 思いっきりはしゃげ! がはは!」


 店の中から店主夫妻が現れ、貴大を中へ中へと誘う。すると、貴大の鼻孔を芳しい匂いがくすぐり始めた。


「じゃじゃーん! みんなで一生懸命作りましたー!」


「おお……!?」


 店内のテーブルとカウンターの上を埋め尽くすは、料理の山、山、山……どれも力作だということが一目で分かる逸品で、匂いだけでも舌がとろけそうだ。


「はい、マークさんからの誕生日プレゼントはここに置いて。はい、ここに立って♪」


 パーティー会場の奥から現れたミーシャに、促されるままに動く貴大。


 事ここに至って、ようやく彼も気がついた。これは、自分の誕生日会なのだと。


 そして、まんぷく亭の奥まった場所に一人立たされるということは、「アレ」が始まるのだということを。


「みんな~、準備はいい? じゃあ、さんっはいっ!」


「「「ハッピバースデー、トゥーユー♪」」」


(ぐうっ……!)


 仕切りやのケイトの号令に合わせ、まんぷく亭に響き始める誕生日を祝う歌。貴大は、居たたまれないやら恥ずかしいやらで顔を赤くしてしまう。それを見た参加者の顔には、優しげな笑みが……。


 暖かな空気が、まんぷく亭に満ちていた。


「「「ハッピバースデー、ディア、タカヒロくんー♪」」」


 そして、歌も終わりに近づいた時―――参加者が、ざっと左右に分かれて道を作り出した。


 訝しむ貴大の目の前には、店の外へと続く一本道ができあがり……その先には、一人の少女が立っていた。


「……ハッピバースデー、トゥーユー」


 美しい少女だった。肩口まで伸びた水色の髪を揺らし、貴大の元へと歩いてくる少女。


 それは、貴大のパートナー。〈フリーライフ〉の、四人目の仲間。


 妖精種の少女、ユミエルは、貴大の前でピタリと止まり、お盆の上に乗せたバースデーケーキを彼へと差し出した。


「……お誕生日、おめでとうございます」


 この時、貴大はもう胸がいっぱいだった。心から溢れだす言葉を口にしなければ、その想いに潰れてしまいそうだった。


 だから、そっと……しかし、この場に集った全員に、確かに聞こえるように言った。


「俺のために、こんな誕生日会を開いてくれてありがとう……すっげー嬉しい。嬉しいよ……」


 ここで、ぐっと言葉に詰まる貴大。


 だが、誰も急かすことなどしない。誰もがみな、暖かな目で彼を見守っていた。


 やがて、貴大は口を開いた。本当に伝えたいことを伝えるために―――。


「でも、俺の誕生日、来月だぞ……?」


 ビシリ。


 まんぷく亭に満ちていた暖かな空気が、音を立てて凍りついた。参加者諸共、凍りついてしまった。


 イースィンド王国において、誕生日を間違えて祝うことは、大きな侮辱行為とされていた。


 それを盛大に行うということは、どういうことなのか……笑顔のままに凍りついた参加者の姿が、それを如実に語っていた。


 誰もが微動だにしないパーティー会場……そこに一陣の風が吹き、バースデーケーキに立てられたろうそくの火を消してしまった。


 会場は薄闇に包まれる……。


「申し訳ございませんっ!」


 バターン!


 お嬢様、気絶。


「ひゃんっ!? わうう!?」


 わんこ、混乱。


「やっちまったああああああ!?」


 冒険者、咆哮。


「あは、あははは……」


 看板娘、自失。


「さすがの私も、これには苦笑い」


 エルフ、自嘲。


 そして、妖精メイドは……。


「   」


 彫像のように固まってしまっていた。


 その後、「まだ終わってないからノーカンな!?」と貴大が提案し、参加者全員が「ノーカン! ノーカン!」と唱和したことによって、「早過ぎたお誕生日会」はなかったことになった。


 そして、「飲んで忘れよう会」へと名前を変えたパーティーの会場は、大いに賑わったという……。




「なーんでみんな勘違いしてたんだか」


 その日の深夜、パーティーがお開きになったことによって、自宅へと帰ってきた貴大。彼は、どうしてみながみな、自分の誕生日を誤認していたのか、不思議に思っていた。


「ドッキリパーティーがしたいんなら、【スキャン】を使えば、ステータス欄が見れるってのに。誕生日もそこに書いてる……よな、やっぱり」


 ベッドに寝転がったまま、中空にステータス・ウィンドウを表示させる貴大。そこには、レベルやジョブ、ステータスのほかに、年齢や生年月日が表示されていて……そこで、彼はある事実に気がついた。


「……【ジャミング】を起動してたんだった」


 【ジャミング】。それは、他者からのステータス閲覧を妨害するスキル。貴大はカンストレベルを隠すために、このスキルを用いてステータス欄を偽りのものへと変えていた。どうやら、その効果が誕生日の項目にまで及んでいたようだ。


「いや、どこをどんな風に変えるかは本人でしか設定できないはず……え? でも、誕生日なんか変えた覚えはねえし……と、とにかく、元に戻そう!」


 いそいそと、誕生日の項目を【ジャミング】の範囲から外す貴大。そして、ホッと一息。


「ふ~、こ、これでいいはず……しかし、いつ変えたんだか。酔っ払った時とかか……? や、やべえ、ありそう……!」


 時々、意識を飛ばしてしまう貴大だ。この日も、〈アップル・ポーション〉を飲んでから数時間の記憶がなかった。いまいち自分の記憶に自信が持てなくなるのも、仕方がないことだといえた。


「で、でも、今日の誕生日会はノーカンだったから! セーフ! セーーーフ!」


「……アウト」


「ひっ!?」


 聞こえてきた声に、ビクリと廊下に顔を向ける貴大。


 すると、そこには仁王もかくやといわんばかりの、お仕置きメイドの姿が。


 いつも通り表情一つ変わらぬユミエルだが、付き合いの長い貴大には、彼女の体から立ち昇っている怒気が見えた。


「……話は聞かせていただきました」


「ど、どこまで……?」


「……酔ってステータス欄を書き換えた、まで」


「あわわわわわ……!」


 ゆらりと、音も無く貴大に近づくユミエル。その尋常ならざる様子に、貴大は蛇に睨まれたカエルのごとく硬直してしまう。


「……先日、お聞きしましたよね? 誕生日は四月二十日で合っていますか、と。その時、あくびまじりの生返事をされたことに、もっと疑いを持つべきでした」


 一歩、一歩とユミエルが近づく度に、段々と息苦しくなってくる貴大。だが、ユミエルは止まらない。


「……わたしは、してはならないことをしてしまったのだと思ったのですよ。先ほどまでは、ご主人さまにお仕置きをしていただこうと、それだけで頭がいっぱいでした。ですが……お仕置きが必要なのは、ご主人さまのようですね」


 ガタガタと震えだす貴大の体。


 バチバチと紫電を放ち始めるユミエルの体。


 それら二つは、さほど時間を置かずに重なり合って……。


「き、記憶にございません! 記憶にございませァァアアアアババババババ!」


 【スパーク・ボルト】が、炸裂した。


 〈麻痺3〉状態となった貴大は、ベッドから床へ転がり落ち、陸に上がった魚のようにビクリビクリとはね回る。


 しかし、どうやらこれで終わりではないらしい。ユミエルのスカートの裾から、ゴトゴトと音を立て、無骨なお仕置き道具が次々と現れる。


 夜は長い。お仕置きは、まだまだ続きそうだった……。








『ぷっ、くすくす……あ~、気が晴れた! レンジさんに勝つなんて生意気なんだもの。これぐらいしなきゃ、ね』








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