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じゃあ、またね

「くそぉ……! くそぉ……!」


 涙が後から後から湧いて出てくる。


 ぽたりぽたりと滴り落ちては、乾いた荒野に吸い込まれては消えていく。


 どうしようもない喪失感が、俺から涙を絞り取るように、この身と心を締め付ける。


「れんちゃん……れんちゃぁん……!」


 二年前は、親友たちともう会えないと思ったから泣いた。


 でも、今回はそうじゃない。そんな悲しみとは、比較にならない。


 永遠の別れを迎えたからだ。この手で親友を殺したからだ。


 俺は、俺の意思で、共に笑いあい、共に過ごした親友の命を断った。脈打つ心臓を、抑えきれない殺意のままに抉ったんだ。


 それは、不可逆な行為……蘇生スキルでももう元には戻せない、絶対的な死を与えるスキルの行使。


 俺は、そんな恐ろしいスキルを使ってしまった。


 人だけは殺すまいと、力に溺れまいと誓った。カンストプレイヤーは、そこら辺を歩いている奴なら……いや、例え国が相手でも、やり方次第では壊滅させられるだけの力を持っている。


 だからだ。だから、三人で誓った。異邦人たる俺とれんちゃん、優介は、みだりに力を振るわないと。どうしようもない場合は使う……でも、人だけは殺さないと。


 殺してしまえば、もう元には戻れない気がしたから。変わってしまえば、元の世界の家族や友人に会えなくなると思ったから。この世界の平和に暮らす人たちとも、思うところなく接することができなくなると思ったから。


 だから、どうしようもないクズ野郎に出会っても、あくまで最終的な裁きはこの世界の人たちに任せた。


 どちらの世界でも、多くの「普通の」人がそうであるように、殺人だけは犯さないようにした。この世界に転移し、自分たちが異常な力を持っていることに気が付いた日、三人でそう約束したんだ。


 それが……そう言ったその口で、俺は死を告げた。


 【心臓貫き】と。


 明確な意思で「敵を殺す!」と世界に宣言した。


 そして、この手でれんちゃんの心臓にナイフを突き立てた……。


 俺は、俺の意思で、俺の手で、俺の足で……俺の全てを使って、自ら、親友を殺した。


 ユミエルが人質に取られていた。仕方がない。頭のどこかでそう囁く声もする。


 でも、違う! 違うんだ……そうせざるを得なかったのは、俺が最後の最後まで動けなかったから……。


 三日も時間があったのに、「れんちゃんを殺して【カウント・デス5】を解除する」という選択肢しか残せないほど、時間を浪費してしまったから……。


「あああああ……!」


 他に、他に何かあったはずなんだ! きっと、れんちゃんを殺さずに、ユミエルも助けられる……そんな道が、あったはずなんだ……!


 きっと、れんちゃんを正気に戻せて、また一緒に過ごせる未来を掴み取れたはずなんだ……!


 生きてさえいれば……俺が殺さなければ、そうできたはずなんだ……!!


「れんちゃん……れんちゃん……!」


 悔しさと不甲斐なさに、食いしばった歯の隙間から呻き声が漏れる。


 それは、答える者なき人の名前で……。


「何かな?」


「っ!?」


 誰も答えないはず。この不毛の荒野には、もう俺しかいなかったはず。なのに、俺の言葉に返事が……誰だ!?


 思わぬ声に驚き、ビクリと震えながら振り向いた、その先に立っていたのは……。


「やあ、いい闘いだったね」


 丸くて大きな月をバックに爽やかに笑う、端正な顔立ちの青年。


 俺がこの手で殺したはずの、れんちゃんだった……。






「え、れん、れんちゃん……? し、死んだはずじゃ……!?」


「うん、心臓を貫かれて即死したね。相変わらずいい腕だ、貴大は」


「じゃ、じゃあ、何で生きて……!?」


「生き返ってっていうか……死ねないっていうか……まあ、秘密ってことで」


 そう言って、笑顔のれんちゃんは人差指をピンと立てて唇に当てる。


 秘密って……この世界のルールとして、即死スキルを受けたり、修復不可能なほど体や魂をバラバラにされたら、生き返れないはずだ。


 それは、絶対的なルール……冒険者時代、ユニークモンスターの即死攻撃を受けた奴に俺たちができる限りの蘇生法を試みて、その全てが失敗したことから、それは確かな事のはずだ……。


 だとしたら、どうやって……!?


 疑問に硬直する俺に、生き返った親友は朗らかに話しかける。


「あ~、やっぱりズルみたいなものだから、体の色んなところがダルいよ。力が入らないっていうか……ユミエルちゃんにかけた【カウント・デス5】も解けちゃってる。あはは」


 その言葉に、またビクリと震える。そうだ、れんちゃんが生き返ったってことは、またユミエルに手をかけるかもしれない。


 それだけは……もう、親友と殺し合うようなことにはしたくない。


 ここでこいつを縛りあげて、正気に戻してや……。


「おっと! 怖い顔! いけない。いけないよ、貴大。俺も闘いたいけど、本調子じゃないんだ。今のままじゃ、あっさり負けてしまいそうだ。楽しくないだろ、それじゃ?」


 一歩踏み出そうとする俺に先んじて、れんちゃんは後ろに大きく跳びのく。


「時間はかかるけど、俺が元気になるまで待っててくれよ。それじゃ!」


 着地すると同時に、れんちゃんはまた軽く後ろへジャンプする。


 ……その先には、異世界転移のダンジョンがあった場所に開いた大穴がっ!


「待っ……!!」


 この距離じゃ、手を伸ばしても届かない。れんちゃんは、落ちたらただじゃすまない、深い深い大穴に落ちていった……。


 はずだった。


「れんちゃ……ん……?」


 穴の縁に駆け寄った俺が見たのは、いつ見ても変わらぬままの大穴。それだけだ。暗視スキルを用いても、どこにも人などいない。まるで、穴に吸い込まれて消えてしまったかのように、れんちゃんの姿は消えていた。


「れんちゃん……?」


 後に残されたのは、多くの疑問と、それに固められた俺だけ。


 結局、れんちゃんは何がしたかったのか。


 死に際の言葉の意味は? 彼はどこへ消えた? そもそも、即死スキルを受けてどうして生き返れたのか。


 分からない。俺には、何一つ分からない。


 この度の、親友との突然の再会から始まった闘いは……。


 このように、釈然としないまま幕を閉じた。








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