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フリーライフ ~異世界何でも屋奮闘記~ 作者:気がつけば毛玉

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フリーライフは、今日もお仕事

 チャッ、チャッ……。

 れんちゃんとの闘いから、数日……俺は、自宅の屋上でぼーっとしていた。

 チャッ、チャッ……。

 備え付けの木製ベンチに横になり、手遊びとしてベルトに差したナイフを鞘から抜いたり戻したり……。

 すっかり春らしくなった空からは、暇人たる俺にも平等に温かな日差しが降り注ぐが、ちっとも眠くはならない。

 チャッ、チャッ……と、ナイフを弄りながら考えるのは、れんちゃんのことばかり。何故、あんなことをしたのか。何故、生き返ったのか。最後の言葉の意味は何なのか。

 考えても答えが出ない事を延々と考えていると、昼どころか夜もろくに眠れない。

「M.Cって……あのM.C?」

 れんちゃんは、M.Cに気を付けろと言った。でも、俺が知ってるM.Cは、あの「M.Cの日記」の筆者だけだ。それは煙のように消え失せているし、そもそも面識すらない。それなのに、どうやって、何に気を付けろというのか。

 「M.Cの日記」自体が、何かの罠だったとか? だから、あの日記に書かれている通りのことをしたれんちゃんが、おかしくなってしまったとか……じゃあ、それを達成させまいと俺たちの前に立ち塞がった「ワールド・ゲート・ガーディアン」は何なんだ?

 黒幕は複数なのか? M.Cと、それを妨害する誰か……そういやあ、れんちゃんは悪神にも気を付けろって言ってたっけ。

「悪神……っつっても、たかがユニークモンスターだしなぁ……」

 悪神……それは、人間には使えない最上位(第五段階)の状態異常を司るユニークモンスターだ。

 ≪Another World Online≫の設定によると、悪神は状態異常の数だけ存在しているとされ、それぞれが、「毒5」や「麻痺5」、「怒り5」などの致命的な状態異常を操るとされている。

 最上位の状態異常はちょっとやそっとの手段では解除できず、かかってしまえばすぐに死んだ方が被害が少ないと言われるほどに凶悪な効果を持つ。

 例えばだな……「怒り5」にかかってしまえば、あの「憤怒の悪鬼」みたいな存在の出来上がりだ。怒りに支配され、見境のなく暴れる者が周りに及ぼす被害は推して知るべし。

 もちろん、ソロプレイヤーにとってもまさに天敵。一対一で倒す術は、ほとんどと言っていいほどにない。

 でも、倒せないってほどじゃない。最悪の状態異常を操ると言っても、それだけの相手だ。ステータスなんかは他のユニークモンスターと変わらないから、パーティーで上手に立ち回れば対処は不可能ではない。

 事実、俺たちフリーライフも、ゲーム時代に十人規模の討伐隊に参加し、余裕で勝利を収めている。

 レベル300の天上龍とか、大魔王とか、カンストプレイヤー千人規模で挑まなくちゃどうしようもないような反則ボスモンスターと比べたら雑魚みたいなもんだ。怖いのは、ユニークモンスター特有の、思わぬところで遭遇、といった要素ぐらいなもの。

 それに気を付けろって……俺は斥候職だぞ? 危険なモンスターが近づけば、かなり離れた場所からでも察知できるのに……何を気を付けろって言うんだ。

 この街に近づいているとか? 馬鹿な。この世界では、人の手に余るような存在は、チートみたいな神の加護を受けた勇者や聖女がどうにかしているって話だ。ダンジョンなんかの中ならまだしも、人の住む街の近くで暴れれば彼らが黙っちゃいない。

 じゃあ、どうして気を付けろなんて言ったんだろう? 俺には、悪神の弱点、攻略法の全てが書かれている「@wiki」もある……それこそ、目の前に突然現れたりしない限りは、充分に回避、対処可能なはずだ。

 じゃあ、悪神はそんなに問題じゃないのか? れんちゃんも、「M.Cに気を付けろ」と言い直していた。むしろ、M.Cについて考えるべきなのだろうか……でも、M.Cの手掛かりなんて何にもないしなぁ……。

 ここで、思考が一巡する。M.C、悪神、れんちゃん……それに、れんちゃんと一緒に帰ったはずの優介。それらのことを、ぐるぐる、ぐるぐると何度も考えては振り出しに戻る。もちろん、成果なんて出やしない。

 何をするでもなく、ただただ意味のない思考に耽る……俺は、ここ数日、そんな生活を送っていた。





「……ご主人さま、もうすぐお昼ご飯です」

「ん~……ユミィか」

 いつの間にか、俺の傍にユミエルが立っていた。

 愛想笑いの一つもせずに、無表情極まりない顔で俺をじっと見ている。

 ……いつも通りだな。血色もいい。問題はなさそうだ。

 数日前までれんちゃんの【カウント・デス5】で床に臥せていたユミエルは、流石に本調子を取り戻すまでにしばらくの時間を要した。

 でも、【カウント・デス5】は体質を変えるようなものじゃないんだ。解除してしまえば、失った体力を回復させるだけで元に戻る。あんなに弱っていたユミエルも、数日休めば以前のように動き回れるようになった。

「……ご主人さま、もうすぐお昼ご飯です。下に降りてきてください」

「ん~、分かった~……」

 そう答えるも、俺はどうにも動く気にはなれなかった。頭が無駄に空回りしている分、体も重いというか……動き出すのに、しばしの時間が必要になってしまうんだ。

 分かったとは言いながらも動かない俺を、ユミエルはじっと見つめている……この視線に耐えきれなくなった時が、飯を食いに下に降りる時だ。ここのところ、ずっとそうだったんだ。今日もそうなるだろうと思っていた。

 だが……。

「……おっ? おおっ?」

 小さなユミエルが、俺の腕をぐいぐいと引っ張って無理矢理立たせようとする。

 ……何だぁ?

「おいおい、そんなに引っ張るなよ。立つ、立つってば」

 ユミエルの手を借りず、よっこらしょと重たい体を引き起こす。そんな俺を、ユミエルはじっと見ている……ホントに何なんだ?

「んん? ……ふぅ」

 立ったところで、即座に「よし、飯を食いにリビングまで行こう!」とならないのが俺のだらしがないところだ。すぐに立っているのもダルくなり、ベンチに腰を下ろす。

 すると……。

 ペチン。

 ユミエルに、頬を叩かれた。

 痛くはない。迫力も無い。「ビンタ」という響きに全く相応しくないようなはたき方だ。

 でも、「ハッ」とさせられるような……そんなビンタだった。

 呆然とする俺に向かって、ユミエルは語りかける。淡々とした、いつもの口調で……それでも、諭すように。発破をかけるように。

「……ご主人さま、シャンとしてください」

 と。

「シャ、シャンとって……だけどさ……その、仕方ないじゃん……」

 ユミエルは大きな声を出した訳じゃない。語気を荒めた訳でもない。でも、俺はしどろもどろになってしまう。まるで、悪いところ見咎められた子どものようにうろたえてしまう。

 そんな俺の目をじっと見て、ユミエルはなおも続ける。

「……私には親友がいません。なので、ご主人さまの心境を慮ることはできません。ですが、これだけは分かります」

「な、何だよ……」

「……ご主人さまが語って聞かせてくれた親友たちは、むやみやたらに人を害する存在ではないと。たった数年で、その性質を変えてしまうものではないと」

「そう、だけどさ……」

 そう。それはずっと思っていた。あの優しいれんちゃんが、躊躇いなく人を殺そうとするのはおかしいと。でも……。

「一歩間違えたら、お前は死んでたんだぞ?」

「……私は生きています」

「それは結果論だ……」

 あの時、俺がれんちゃんの心臓にナイフを突き立てなければ、果たしてユミエルの命はどうなっていたか……それは、分からない。

 最後の、「ごめん」という言葉……俺とユミエルに謝る言葉から、行動を悔いてはいたようだが……やったことは、洒落にならないようなことだ。それが、信じようとする心に楔を打つ。

 思わず渋面になる俺に、被害者であるはずのユミエルが、珍しく饒舌になって話を続ける。

「……後遺症が残らないスキル。被害が出ない場所の指定。わざと悪役として振る舞うような言動。彼の行いには、配慮が感じられます。私や、この街の人々への、そして、ご主人さまへの配慮が」

「それはっ……」

 そうだ。れんちゃんがやったことには、一つも取り返しがつかないことなどなかった。

 【カウント・デス5】は解いてしまえばそれまでだ。「毒」や「火傷」のように、処置が遅れるとその後の生活に支障をきたしてしまうものではない。

 わざわざ決めていた場所もそうだ。本当に俺と闘いたくてしょうがないのなら、出会った瞬間に仕掛けていたはずだ。それこそ街中でも……そんなことをすれば、スキルの余波だけで甚大な被害が出てしまうが。草木も生えない忘れられた荒野だからこそ、誰も傷つけずに闘いを終えることができた。

 そして、あの挑発的な言動……俺は、それに釣られて、れんちゃんを殺されても文句は言えない奴だと決めつけた。だから、【カウント・デス5】発動前に彼を殺すことができた。これがもし、言葉で人を傷つけることなどしない、以前のれんちゃんのままだったら……俺は、闘えていたかどうか。

 そうだ。そうなんだ。終わってしまえばよく分かる。ゆっくりと振り返ることができる今だからこそ分かる。今回の騒動には、全体を通じ、れんちゃんの何らかの配慮が透けて見えるということが。

 分かるんだ。あれだけの事を仕出かしたれんちゃんが、根っこの部分では以前のままだということが。

 でも……。

「どんな事情があっても、れんちゃんは人を傷つけるような奴じゃ……むぐ!?」

 考えれば考えるほど、悲観的な思考になってしまう。そんな、坂道を転がり落ちていくような俺を抱きとめたのは、小さな妖精種の少女だった。

 ベンチに座り、俯いていた俺の顔を貧相な胸に押し付けたユミエルは、ゆっくりと俺の頭を撫でてくる。

「……ご主人さまの親友なのでしょう? ならば、貴方が信じないでどうするのですか」

 慰めだろうか? ……ったく、似合わないことを。

 と、心の浅い部分では悪態を吐くが……内心、その気づかいが嬉しかった。

 だからだ。俺は顔をずらして、額をユミエルの胸に付けたまま、ぼそりぼそりと泣き事みたいなもんを漏らしてしまう。

「……俺だって信じたいさ。でも、また闘おうって言われたんだ。すげえ嬉しそうな顔で」

「……先手必勝です。頭のネジが緩んでいるのなら、斥候職の力を余すところなく発揮し、剣を抜く前にふんづかまえてしまえばいいのです」

「お前もまた狙われるかもしれない」

「……もう不覚はとりません。手癖が悪い方には、私自らお仕置きします。強くなって、鞭と鞭とで返り討ちです」

「おいおい……はは」

 抱擁から離れて顔を上げれば、「ふんす!」って感じで得意げな顔をしているユミエルの顔が……いや、表情は変わんないんだけどさ。何故かそう見えた。

 なんか、そんなユミエルを見ていると、難しく考えるのが馬鹿らしくなってきた。何で俺は悪い方に、悪い方に考えていたんだか……悪い癖だ。

「そうだな。おかしくなった奴は、元に戻してやりゃあいいだけの話だもんな。それこそ、お前がするみたいに、鞭でビシーッ! ってさ」

「……その通りです」

 ユミエルの頭に、ぽんと手を置いて立ち上がる。今度は、鉛を縛りつけられたかのような倦怠感は感じられなかった。

 ここで、思い出したかのようにぐーっと腹の虫が鳴く。ここんところ、ろくに飯も食ってなかったからな……そりゃあ、腹も空いてるはずだ。

「ははっ、腹減ったわ。今日の飯は何だ?」

「……奮発して、ローストチキンです。丸焼きです」

「ふ、二人でか!? ヘビーすぎるぞ……!」

 縮んだ胃でどこまで食べれるか……ホントにこのメイドは手加減を知らんな。

 更なる闘いの予感に冷や汗を垂らす俺と、涼しげな顔のユミエル。俺たちは連なるようにして、屋上を後にする。

 以前と変わりない顔で「闘おう!」と笑うれんちゃん。

 申し訳なさそうに、「ごめん」と微笑むれんちゃん。

 どちらがあいつの本心なのか……そもそも、れんちゃんはどんな状態なのか。断言するには判断材料が足りず、まだまだ分からないことがいっぱいだ。

 でも、分からないことでいつまでもうじうじと頭を悩ませるなんて、人生の無駄遣いだ。ストレスフルな生活なんて、「フリーライフ」らしくない。

 れんちゃんは、また来ると言った。そん時になったら、こいつが言うように、ふんづかまえて問いただしてやりゃあいいだけのことだ。

「だよな、ユミエル?」

「……何がですか?」

「ははっ、何でもねーよ!」

 無表情ながらもきょとんとするユミエルの顔に、ついつい笑ってしまう。

 そうだ。これでいいんだ。楽しむ時は楽しむ。やる時はやる。それを間違わなければ、人生たいてい何とかなるもんだ。

 違うと言う人もいるかもしれない。まだ若いのに知ったような口を……と笑われるかもしれない。

 でも、案外それで何とかなるもんなんだ。肝心なところを間違えなければ、躊躇わなければ、やり直しはきくんだ。

「だよな、れんちゃん、優介」

 三寒四温なんてどこへやら。温かな、春らしい日が続くグランフェリアの片隅で、俺は今日も生きている。

 悩みも無く、束縛すらない人生じゃないけれど……それなりに、自由な人生フリーライフってやつを楽しんでいる。

 明日はどうなるか分からない。その日暮らしを批難する人もいない訳じゃない。でも、ここでなら……この街でなら。隣にユミエルがいるのなら。

 結構、どうとでもなるんじゃないか……そんなことを、思っていた。





「ところで、ユミエルさん。何でまたローストチキン? 俺やお前の誕生日はもう少し先だろ?」

「……今日は仕事始めですから」

「……あー、何だか体がダルイなー。仕事なんてとんでもない。明日からでよくね?」

「…………」

「無言で鞭を振るうのは止めっ……アーッ!」

 ピシャーン!

 ……訂正。これからの人生、もう少し優しさが欲しいです。




エピローグ最終話は、第二部に繋がるお話です。

お楽しみに!



……「ヘビー過ぎる」の表現は、分かる人には分かるネタ(‐ω‐)
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