真意
「ごめんな……ごめんな、貴大……」
「謝るな! なんで今更謝るんだよ……なんで、こんなことしたんだよ……!」
月を天に頂く荒野の真ん中で、俺は魔素の粒子に消えようとしている蓮次を抱きかかえていた。
蓮次の足はもう細かく砕け、宙に溶けて消えていた。俺が握りしめた手も、端からさらさらと解けていき、砂時計のように落ちていっている。
カンストプレイヤーたる俺たちは、細胞の一片に至るまで魔素の塊のようなものだ。肉や骨の欠片すら残さず、蓮次は世界に循環する魔素へと還元されようとしている……。
「ごめん……ごめん……ユミエルちゃんもごめん……」
「だから! だから、謝るなよぉ……!」
もうすぐ消えてなくなってしまう蓮次は、「ごめん」とだけ繰り返す。後悔するぐらいなら、何故あのようなことをしたのか。何故、そんなに申し訳なさそうな顔をしているのか……。
「ごめん……でも、死ぬ瞬間……今、この時でしか、伝えられないから……でないと、ログに残る……俺には自由が……げほっ!」
「ああっ!?」
ふっと、握った手が軽くなる。蓮次が咳き込むと共に、奴の両腕が砕けて消えた。
遂に、蓮次は四肢の全てを損失してしまった。
このような状態にあっても、痛覚だけは残っているのだろう。いつもにこにこと微笑んでいるような奴には似合わない苦しげな表情を見せる。
それでも、口だけは動かし続ける。「ごめん」という言葉と、他の何かを俺に伝えようとして。
「もう時間がない……貴大、これだけは覚えていてくれ……」
「あ、あああ……!」
遺言だ。蓮次は、遺言を残そうとしている。俺には、そう思えた。
先ほどまで憎くて憎くてしょうがない相手だった。殺しても殺したりないと、それほどまでに憎たらしい相手だった。殺意をぶつけるに相応しい存在に堕ちてしまったのだと、そう思っていた。
いいじゃないか、そんなクソみたいな奴が何を言い残してくたばっても。もう友だちでも何でもない。俺の大事なものをぶち壊そうとした奴の遺言なんか、酔っ払いの戯言と同じだ。
……でも、俺の体は緊張に強張っていく。
儚げで、申し訳なさそうな笑顔で「ごめん」と謝る蓮次。いつになく真面目な顔で、俺に遺言を残そうとする蓮次。幼馴染で、得がたい親友だった蓮次。
今更ながらに、俺のしたことが取り返しのつかないことだと気付く。
俺はまだ、蓮次を……いや、れんちゃんを、捨て切れていなかったことに気付く。
そのれんちゃんが、遺言を……死に際の、最期の言葉を言い残そうとしている!
「嫌だ! 聞きたくない!」。咄嗟に、そんな言葉が口をついて出てこようとした。遺言を聞いたらそれで最後だと思うと、考えるよりも先に体が動こうとした。
だけど、それよりも早く、れんちゃんは口を開く。
最期の言葉を、俺に伝えるために……口を開いた。
「悪神に……いや、M.Cに気をつけろ……」
それだけ言い残し、れんちゃんは砕けて消えた。
親友の体が転じた莫大な魔素は、カンストプレイヤーの俺には欠片たりとも吸収されることもなく、火葬場の煙のように天に立ち昇って消えていった……。