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人工知能戦争2035~Deep Learning War~ 作者:@IngaSakimori

第1章 『欧州E連合制圧戦』

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第09話『SSAN フランクリン・ブキャナンは浮上する』

「潜没状態止め。急速浮上開始」
『急速浮上開始。衛星リンク問題なし』
『EC-8との超地平線戦術リンク開始』
『全VLS解放』
「SSAN『フランクリン・ブキャナン』、戦闘態勢に移行」

 大西洋の一地点。数隻の駆逐艦が遊弋する海域に、突然、巨大な艦艇が浮上した。

 しかしそれは潜水艦ではない。波を蹴立てて進むその姿は、ズムウォルト級を彷彿とさせる鋭角的なシルエットではあるが、紛れもなく海上艦であり、そして空母かと見まがうほどに広く平坦な甲板を備えていた。

『超地平線戦術リンクによる照準を行う』
『照準データ━━GPS、INS、地形照合、多重入力問題なし』
『全ミサイルのセルフチェック正常』
「ミサイル第一波、発射!!」

 シュワンツ大佐はこのSSAN『フランクリン・ブキャナン』級一番艦の艦長である。
 もっとも、(クラス)といっても、『フランクリン・ブキャナン』の同型艦はまだ存在しない。現在、姉妹艦の建造が行われているが、恐らくこの戦役には間に合わないだろうというのが、上層部の判断である。

90年前の戦争(第二次世界大戦)とはあまりに違うからな……)

 数秒の時間差をおいて、次々とVLSから発射・上昇していくミサイルを見送りつつ、シュワンツ大佐は思う。
 日刊輸送船、隔週刊軽空母、月刊正規空母を実現できた時代とは異なり、現代の戦闘艦艇はテクノロジーの塊である。
 それを大量高速建造できるような時代も、いつかは来るかもしれないが、すくなくとも今年で52歳の彼が生きている間には到来しそうになかった。

『ミサイル第一波発射完了まであと75秒』
『全周索敵問題なし。海中に敵性反応なし』
「引き続き警戒を厳にしつつ、第二波の準備を継続」

 シンプルな指示を出すと、シュワンツ大佐はどっかりと艦長用のシートに身を沈めた。

 核融合超空母『ジェファーソン・デイヴィス』がそうであるように、このSSAN『フランクリン・ブキャナン』もまた、 (ship's )(mission )(center)は巨大な装甲球体の内部に設置されている。

 全周360度にわたって展開されるリアルタイム映像は、球体内部にくまなく貼り付けられた曲面ディスプレイによるものであり、映像にオーバーレイして無数の戦術情報が表示されるシステムもまた、同様である。

『空軍のB-21が攻撃を開始しました』
「了解」

 オペレーターの言葉もまた、ポップアップした情報ウィンドウの内容を声に出したものにすぎない。耳で聞く前に、シュワンツ大佐はその内容を目で見ている。

 わざわざ言葉で伝達する必要があるのか━━とも思う。

 しかし、戦いとは相手に損害を強要し、我がダメージに耐え抜くレースである。
 もし、曲面ディスプレイの情報が正しく表示されない事態が発生したとき、オペレーターの声は最後の伝達手段となるのだろう。

『第一波発射完了』
「直ちに第二波発射開始」
『第二波発射開始。第一波のフランス到達まで55分』
『第二波の照準変更なし。超水平線戦術リンク問題なし』

 広大な『フランクリン・ブキャナン』の甲板。そのほとんどを覆い尽くすように設置されているのがVLSである。無数のマンホールにも似たその穴は、発射のタイミングだけ開いては、ミサイルを吐き出す。

(まるでモグラ叩きだな)

 絶大な破壊を暗示するその光景が、シュワンツ大佐にはゲームの一コマのようにも思える。

『フランクリン・ブキャナン』がその腹に抱える巡航ミサイルの数は実に400を超える。
 排水量25000トンの船体は、航行に必要な施設を除いてすべてがミサイルで占められているといっても過言ではなく、まさに移動する火薬庫そのものである。

 だが、まともな軍事常識を持った者ならば、誰もが疑問に思うはずだ。
 ━━そんな火薬庫そのものの軍艦は、あまりにも敵の攻撃に弱いのではないか? と。

「第二波発射完了と共に急速潜行用意」
『潜行準備。第二波発射完了まであと2分』
『護衛艦は潜水艦の脅威に備えよ』

 その答えが(Submer)S(sible)S(Ship)A(Arsenal)N(Nuclear)(Powered)という『フランクリン・ブキャナン』の艦種名にあらわれている。
 すなわち、『フランクリン・ブキャナン』はSS(潜水艦)であり、A(火薬庫)であり、そしてN(核動力)の艦艇なのである。

 潜水艦であることで、対艦ミサイルによる攻撃の脅威を事実上無力化し、火薬庫であることで絶大な火力投射能力を発揮する。
 そして核動力━━つまり、超空母『ジェファーソン・デイヴィス』のような核融合炉ではないにせよ、原子力推進とすることで、母港出港後は攻撃を行うほんの数分間しか海上にその姿を露出しないのである。

(海の中へ潜ってしまえば一安心……もちろん、周りにナイトがいてくれるからこそだが)

 さらに潜行状態においても、『フランクリン・ブキャナン』は駆逐艦やフリゲートといった海上艦艇と共に航行する。この運用によって、もっとも恐ろしい攻撃型潜水艦からの脅威を低減することができるのだ。

 そして、攻撃型潜水艦が恐ろしくないゆえに、また海上艦とセットで行動するがゆえに、『フランクリン・ブキャナン』の潜行可能深度は第二次世界大戦のUボートや伊号潜水艦並みに浅い。

 その運用を考えれば、深く潜る必要がないのである。
 さながらそれは広大な海の中にいながら、周囲を頑丈なコンクリートブロックのごとき護衛に守られているかのようだった。

『潜行完了。現在の深度50メートル』
『周辺に脅威無し。護衛艦との低周波リンク、正常』
『ミサイル第一波、間もなくE連合沿岸のレーダー探知範囲に入ります』
「さて、プールの中でゆっくりと見物させてもらおうか……世紀の大花火が打ち上がる光景を」

 与えられた任務を果たした安堵感と共に、ようやくシュワンツ大佐は自らに大きな溜め息をつくことを許した。
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