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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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青年、改めて疑問を口にする。前

王都に来るまでの顛末前編です
「はぜろ?」
「なんだかよくわかんねぇが、腹の立つこと言われてるのはわかるからな」

 ベッドの下から見上げて言うヴィントに向かい、デイルは据わった目で答える。獣相手にデリカシーを求めるのは、筋違いであるのかもしれないが、『規格外の獣』相手にそれを求めたくなるのは、本当に駄目なことだろうか。

「……そうだ、ラティナ。後でちゃんとローゼの診察を受けるんだぞ。俺は軽度とはいえ『魔素障害』にかかっているんだから……伝染(うつ)らないとは言いきれねぇんだからな」
 可能性としては低いものだが、大切なラティナ相手だからこそ不安になる『可能性』だ。だが、そんな心配そうなデイルに、ラティナは微笑みながら答えた。
「大丈夫だよ。私、『魔素障害』にはならないもの」
「は?」
 呆気にとられて聞き返すデイルに向かい、ラティナは当たり前のことのように答える。
「軽い病気位にはなったりするよ。でも、本当に大変な『魔素障害』にはならないの。命を落とすような重症の病気にはならないんだよ」
「何だ、それ?」
 聞いたことも無いような話だった。それでもラティナは、デイルの反応に不思議そうな顔をする。

「ラグ、言ってたの。『神に護られし証持つ者』に、『魔王』のちからが及ばぬように、『運命(さだめ)に護られし者』も、『魔王』のちからが及ばないって……『ラティナは、運命に護られているから、大丈夫だよ』って……言ってたの」
「いや……聞いたことも、無い話だ」
「そうなの?」

『神に護られし証持つ者』とは、おそらく高位の『加護』を有する者という意味だろう。
 だが、『運命に護られし者』とは何を意味しているか、見当がつかない。そういえば彼女は以前も『運命に護られている』という言葉を使っていたような気がする。

「ラティナ……お前を護る『運命』って……何だ?」
「……よく、わかんない……」
 答える前に、少し間があった。
 問い質したい気持ちを、ぐっと飲み込む。感情に任せて問いを投げ掛ければ、彼女は答える前に萎縮して怖がるだけだろう。
 この娘は、妙なところで頑固だ。選択を誤れば、たぶん今後も『そのこと』について語ろうとしない。
「ラティナ……それは、お前にとって……悪いこと、なのか?」
「わかんない……」
 ラティナはもう一度繰り返して、デイルを見た。彼の中にあるものが『心配』であることも見届けると、少し表情を困ったものにする。
「あのね……本当に『よくわかんない』なの……私にとっては、生まれた時からの『普通』のことで、私の親も、『当たり前』みたいに言ってたことだから……それが『他のひとと違う』ことが、よくわかんないの」
「……そうか」
 そう言われてしまえば、デイルも更に追及することは、出来かねた。
 彼の持つ『加護』も、『そういうもの』だと知られているものだからこそ、理解されている『ちから』だ。それを持たない者に、言葉だけで説明することが難しいことには、彼にも覚えがある。

 そこで、デイルは先程聞きかけて、答えに至らなかった別の疑問に、矛先を移動することにした。
「じゃあ……ラティナ」
「?」
「何でお前……此処に居るんだ?」
「え?」
「だって、グレゴールに頼んで、クロイツに連絡してもらったのは、俺が王都に着いてからで……まだ3日程度しか経ってねぇ筈だ。計算が合わねぇだろう」

 デイルが『ラティナが此処に居る』ことに、違和感を感じていた理由がそれだった。乗馬の技術を持つデイルが、回復魔法の併用という形で、騎馬に無理をさせても2日はかかる。乗馬が出来ないラティナならば、乗り合い馬車を使うとして、乗り継ぎがうまくいったとしても、最低でも一週間は必要になるだろう。
 どう考えても、計算が合わないのだった。

 デイルの指摘に、ラティナはぎくり。と、身体を強張らせた。
 その反応と、この表情には覚えがある。友人たちと遊ぶようになって、歳相応の悪戯や悪巧みを覚えたラティナの、『わかりやすい反応』だ。
 もう、そんな風に、わかりやすいところすら可愛いところなんだが。何か企んでるなっ! と、思いつつ、どきどきしているラティナの目の前で『悪戯』にわざと引っ掛かってやったりしたのも、反応が可愛いかったからなのだがっ。
 デイルはそう思いつつも、表情には出さずに、更に質問を重ねた。

「……ケニスたちに黙って、クロイツから出て来たのか?」
 でも、それだったら正直『飛び出して来た』自分は怒ることは出来ない。内心で少々汗をかく。
 だが、ラティナはデイルのその言葉には、首を横に振った。
「ううん。ちゃんとケニスの許可はもらったよ。王都に行くんなら、ちゃんと準備をしなさいって言われた」
 続いたラティナの言葉に、内心だけでなく汗が出た。
「反射的に飛び出そうとして、それはダメだって怒られたけど……」

『育ての親子』である訳だが、妙なところで似ているとでも、思われたに違いない。

「じゃあ……ラティナ。お前、何したんだ?」
「あのね……ええと……ヴィントとね……」
 ラティナはおどおどと視線を泳がせると、やがて観念し、白状するかのように、経緯を語り始めた。
「わん」
 その隣で、清々しいほどに、悪びれない幻獣(わんこ)が、良い返事をしていた。


 クロイツで受け取った、王都から届いた便り。それには、簡潔な飾り気の無い言葉ではあったが、デイルの病状と大事には至らないこと、そしてローゼたち高位の藍の神(ニーリー)の神官により治療が行われていることも記されていた。

 それでも、ラティナは激しく狼狽した。
 衝動的に『踊る虎猫亭』から飛び出そうとするのを、察知したケニスに強く止められる。
「ラティナ!」
「やだ、離してっ! デイルっ、デイルのところに行くのっ!」
 掴まれた腕にこめられた力は、ラティナが振りほどけるほどに緩くは無い。それでも彼女は眸に力を込めてケニスを見上げた。
「離してっ!」
 剣呑な光が、強く、灰色の眸の中に灯ることもケニスは見て取って、彼は静かな、それでも強い意志の籠った声を響かせる。
「駄目だ」
 びくっ。と、少しラティナが怯んだ。かつて、冒険者としてパーティーを率いていたケニスの声には、そうさせるだけの『力』がある。
「ラティナ……っ。王都に行くなんて、無茶なこと……」
 声を挟むタイミングを失っていたリタが、青い顔でラティナを後ろから抱き締める。妊娠中のリタを、力づくで振り払うことは、ラティナには出来ない。ケニスはそこで彼女の腕から手を離した。
「でも……でもっ」
「王都に行くなら、準備をきちんとしてからだ。旅装も行程も整えずに行けるほど、旅は甘くは無いこと、ラティナは知っているだろう」
「え?」
「ケニス?」

 ケニスの答えに、リタだけでなくラティナも驚く。
 ケニスは二人の反応は気に留めず、店の常連客たちへと視線を向ける。
「ジルヴェスター、王都の方に、信頼出来る知り合いは居るか?」
「心当たりが無い訳じゃない」
「それなら、ラティナに紹介状を書いてやってくれ。王都側の街道に詳しい奴は居るか?」
「おう、俺の得意先はそっちの方だ」
「最近の街道の動向と、女の旅人でも安心して泊まれる宿が知りたい」
「それなら、夜まで待ってくれ。他の奴等にも聞いて、詳しくまとめておく」
「頼む。後……」
 てきぱきと指示を出すケニスの姿に、ラティナが慌てたように口を挟んだ。その表情からは、いまだ驚きが抜けていない。
「ケ……ケニス」
「なんだ?」
「止めたんじゃ……無いの?」
「止めて欲しいのか?」
「ううん。行きたい……」
「なら、準備はきちんとしろ。旅装と装備も整えろよ。後で俺が確認を入れる」
「う……うんっ」
 弾かれたように、自室へと駆けのぼって行ったラティナを見送ってから、我に返ったリタが咎めるように夫に向かう。
「ケニス、何考えて……っ」
「あの様子なら、無理に止めても、一人で抜け出して王都に向かいかねん。無茶をさせるなら、ちゃんと準備をさせて、確実性を高めた方向で『無茶をさせる』方が建設的だ」

 追い詰められたラティナの表情には、止めるならばケニスを打ち倒しても、自分の意志を通す。という危うさがあった。
 今、なんとか説得し、納得したように見えても、目を盗んで一人で王都に向かうだろう。見張っていても限度がある。門番に話を通すこともできるだろうが、そこで押し問答にする大事(おおごと)に発展させたくはない。

「本当は、女だけのパーティーにラティナの付き添いを頼みたいところだが……」
 ケニスの呟きに、ジルヴェスターも苦い顔をする。
「さすがにそれは難しいな……」
 男性に比べ、女性の冒険者の数自体が少ない。その上で、信頼できる女性だけのパーティというのに、これだけ急には、話はつけられない。
「下手な男にラティナを任せるよりは……ヴィントの方がまだましか」
「わふ?」
 表の騒ぎに顔を出した『わんこ』に顔を向けて、ケニスが少々苦々しそうに言えば、ジルヴェスターも溜め息まじりに応じた。
「こればっかりは、歳も関係ねえからな」

 心配で不安定になっているラティナを慰めるという理由で、元々紳士性とは無縁の職である冒険者なんていうものが、彼女に良からぬことをしないとは限らない。

「ラティナ一人でも、王都までは街道も整備されているから、なんとかなるとは思うがな。一番心配なのが、ラティナの身の安全だ」
「嬢ちゃんの魔法使いとしての能力は、どんぐらいなんだ? 」
「攻撃魔法や防御壁系の魔法も覚えたらしい。自衛の手段は持っている。だから、後は詠唱の時間を稼ぐ手段があれば良い」
「なら……この『犬』の方が安心なボディーガードか」
「わふぅ?」
 話題の中心になっていることだけを察したヴィントは、不思議そうに首を傾げていた。
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