鍛冶屋フラグ
最近、何かと働きづめだった気がする。スロットの調整でもてこずってしまった。
遊戯室の作成も、今日は休むか。で、今日こそはぐっすり寝て過ごそう。
そう思った矢先のことだった。
「ケーマ、迷宮エリアで徘徊していたアイアンゴーレムがやられたわよ」
ロクコがダンジョンのことで報告にやってきた。
アイアンゴーレム。名前の通り身体が鉄でできているゴーレムだ。うちのダンジョンにやってくるようなレベル……Dランク、よくてCランクの冒険者だと対処が難しい。
尚、通常のクレイゴーレムと違い、その身体自体に価値があったりする。なにせ鉄だからな。重いけど、資源として見た場合に人間くらいの大きさの鉄塊というのはかなりのもんだ。釘が何本作れることか。
「倒したのはどんな奴だ? 今潜ってるのは……ああ、Cランクパーティーが1組いたか。そいつらか?」
「そうね、たしかゴゾーとかいってたかしら? ドワーフで、ハンマー使いよ。魔石壊すんじゃなくて普通にハンマーで殴って倒したって感じね」
そうか、衝撃で魔力を散らしたんだな。よかった、アイアンゴーレムを切り殺したとかじゃなくて。そんな奴が来たら今のところ対処できる気がしない。
「それならあんまり心配するほどでもない、かな。アイアンゴーレムの残骸はお持ち帰りか?」
「ええ。今運んでるとこみたい。収納は持ってないのねー」
Cランクともなればアイアンゴーレムの相手くらいできるんだろうな。
そうなれば、そこそこの稼ぎになるだろう。
「そういえば、トランプの方はどうだ?」
「1階層で少しずつ配置してるけど、ハズレっぽく言われてるわね。ただの紙束だし。ギルドでも取り扱ってなくて困ってるみたいだし」
「……なら、こっちで銅貨5枚で買い取るって言っといて」
「ケーマが自分で言いなさいよ。オーナーなのよ私」
遊び方を書いたメモも一緒に入れるべきだったか……いや、トランプが出るだけでだいぶ異常なんだ、この上メモまで入れてたらダンジョンとしておかしすぎることになってしまう。
あんまりおかしいと、神の先兵に目を付けられてしまいそうだしな。
トランプ自体は過去に神の先兵が持ち込んだ実績があるから、まだなんとかごまかせるレベルだ。
「ああ、あとダイスも入れとくか。木製とか骨製とかで」
「なんかウチのダンジョンがギャンブルに浸食されていく気がするわね……」
まぁなんたって『欲望の洞窟』だからな。
……寝具も入れとくか。さすがに菓子パン入れとくのはマズいよな。
しかしアイアンゴーレムがやられたか……謎解きエリアの向こうでは、もっと強いモンスターを用意しておかないとマズそうだな。なにか探しておこう。
……ガーゴイルとかいうのもあるのか。へぇ、ゴーレムとどう違うんだろう。
*
翌日、ギルドの受付嬢さんがやってきた。なんでも大事な話があるとか……
知り合いになったんじゃなかったのかロクコや。有無を言わさず絶対命令権渡してきて「あとは頼むわ」ってどういうことなの。
で、微笑むモードのロクコに付き添い、応接室で対応することになった。
「は? 鍛冶屋ですか?」
「はい。鍛冶屋です。騒音もあるので宿や冒険者ギルドとは少し離れたところにですが、まずは冒険者ギルドと同様に出張所を作る予定ですね。一応お話を通しておこうかと」
「はぁ、急になんでまた」
「先日、アイアンゴーレムの素材を持ち込んだ冒険者がおりまして……ご存じかとも思うのですが、アイアンゴーレム自体はすでに確認されていたのですけど」
話を聞くところによると、アイアンゴーレムが湧く=鉱山みたいなものと扱われるようだ。準鉱山とかゴーレム鉱山とかいうらしい。なるほど、資源がとれるっていうのは確かにデカいもんな。しかもアイアンゴーレムは身体のすべてが鉄製で、そのまま鍛冶の素材として使えるレベルだ。なら、いっそ「ここに鍛冶屋を建てよう」ってことになるのか。
もっともそれを抜きにしても冒険者の装備を調整するために出張所は作る予定だったとか。聞いてないよ。あ、今言ったってか。
「鉱山、ってことはこの場所について地図に載るんですかね?」
「地図ですか? それはもう載っていますよ。ギルドの出張所ができた時に既に」
「あれ、ダンジョンって地図に載らないんじゃ?」
「ダンジョンの位置が地図に載っていないのは管理していないダンジョンに勝手に行かれないようにという理由ですからね。ダンジョン入り口にギルドの出張所があるようなダンジョンであれば隠す必要も無いので。むしろガンガン宣伝して誘致していく形になりますね」
……うわ、なんかしくじったかもしれない。
地図に載ったら神の先兵がふらっとやってくるんじゃ……ああ、でもそもそも神の先兵は勇者として強制的にSランクらしいからあんまり関係ないのか。どうせ見れる的な意味では。知名度が上がってしまうってのはあるだろうけど。
「そもそも魔剣がとれた時点である程度の集落にする予定ではあるとギルド長から聞いていますよ」
「……マジですか」
村作るとか言ってたの、本気だったのか。
どうやら最初からすでに間違っていた可能性が……いまさら言ってもしかたないか。
「せっかくの機会なので聞いておきますか。今この宿には食堂がありますが、酒場も作る予定でしょうか?」
「あー、それも他で作るならそちらでいいです。ウチは料理メインなのでお酒は出ませんし」
宿で酔っぱらいに盛大に騒がれたら寝てられないもんな。面倒だ。
「ではそちらの方も進めておきますね。他にも色々施設を増やすかもしれません。兼ね合いもあるので、建築場所はその都度相談に参りますね」
「助かります」
……規模はデカくなるが、そういう面倒をギルドの方でやってくれるなら別にいいかな。
どちらにしてもこのあたり一帯はダンジョンの領域だからな。
「……ところでお聞きしたいのですが」
「ん? なんでしょうか」
「…………いつのまに増築したんですか? 気が付いたら増えてましたよね?」
「ハクさんの知り合いの魔術師がパパッとやってくれましたよ」
「ああ、Aランク冒険者の……Aランク冒険者の知り合いですものね……」
うんうん、と頷く俺と受付嬢さん。
俺はハクさんの知り合いだから間違っちゃいないしな。
「あ、それと受付や食堂の方が変わっていましたね。いえ、いままでいつも同じ人だというのが……奴隷でしたものね、交換したんですか?」
「いえ、休養ですよ。お客さんが増えて連日仕事づめになってしまいましたから、オーナーのツテで紹介していただきまして」
ダンジョンのDP交換はオーナーのツテだもんな。嘘じゃないぞ。
……冒険者ギルドは嘘検知の魔道具持ってるからな、万一を考えると言葉には気を付けないといけない。実に面倒くさい。
「そうですか。……もし払い下げる場合はぜひ私に。悪いようにはしませんよ」
「ははは、あいにく手放す気はないですよ」
とりあえず話を合わせておきつつも、手放す気はない事だけ伝えておいた。
受付嬢さん、相変わらず奴隷に対してアタリが強いな。見た目は美人なだけに残念でもある。いい足してるんだけどなぁ。