第二次ダンジョンバトル、開戦
展開考えてたら結構雑になってしまったのでそのうち書きなおすかもです。
『おゥ、ケーマァ、準備はいいかァ?』
「ああ、いつでもいいぞ」
『クハハハハッ! その意気だニンゲン! 早くアタイのところまで来てくれよ? じゃないと暇でしょうがないねッ!』
「ほ、吠えても無駄だからね?!」
ダンジョンバトル当日。俺はロクコとマスタールームに待機していた。
ニクとイチカも一緒に待機している。……え? 宿の仕事はどうしたかって? うん、あの宿も周辺一帯もダンジョンだから客が来たら分かるし、見つかる前に受付なり食堂に転送してやればいいだけのことよ。
なんならゴーレムごしに接客するという奥の手もある。
1日勝負という結構な長丁場となる戦いにおいては、万全の状態で挑まなければな。途中寝ることを考えると愛用の枕は必須だろう。……もっとも、不眠不休が可能なダンジョンコア同士のバトルにおいては何日もかかることが普通らしく、実は1日というのは割と短期決戦なんだとか……
『最後の確認だァ。バトルは1日、24時間でこっちから攻勢は無し、防衛のみだァ。俺が勝ったら金貨50枚と銀貨5枚、それともう1個のクリスタル像をいただくぜェ。ケーマが勝ったら、『火焔窟』の領域で、洞窟を通す分をくれてやらァ』
「おいおい、勝利条件と追加が抜けてるぞ。俺が5階層を突破……6階層以降に到達したらこっちの勝ち、さらに……」
『忘れちゃいねェよ。最下層のダンジョンコアにタッチしたらツィーア山の半分をくれてやらァ。で、いいんだろォ?』
「そうだ。忘れるなよ? ちなみに最下層って何層だ?」
『ハハハ! バカかオメェ、そんなの言う訳ねェだろォ? だが3桁は無ェから安心しなァ』
条件の確認を終え、こちらも準備ができているかロクコたちを確認する。
「ご主人様、ゴーレム隊、いつでもいけます」
「いつの間にこんなの作ってたんや……えーっと、こっちもいけるで」
ニクとイチカにはそれぞれゴーレムを任せている。今回の主戦力はゴーレムだ。やはり材料がいくらでも手に入る……タダ同然だからな、数は力だ。ネズミは今回出しても無駄死にするだけだしな。
「それじゃいまから行くけどいいか?」
『おう、いいぜェー』
……実に締まらないが、これがダンジョンバトルの開始の合図となった。
自分でやっといてなんだけどいいのかこれ。
とにかく、お互いのダンジョンの空間がつながった。
『火焔窟』はその入口であるツィーア山の火口に、こちら『欲望の洞窟』は地下4階の冒険者が誰も来ない部屋に、だ。
入口以外につなげられるので、特にダンジョンを閉めたりすることなくダンジョンバトルができる。……もしここから逆に攻められたら即負けるな。一方的に攻撃できるからこその開始位置だな。
……そういえばクリスタルゴーレムの方だけど、どうにも鍵のかかる宝物庫に片付けられているようで、使えなそうだ。
というわけで、かねてから準備していた方法で攻め入るとする。
「それじゃイチカ。扉を開けろ」
「了解やー」
*
約束をしてから1週間。今日は待ちに待ったダンジョンバトルの日だ。
前にやったのはいつだったか……とイッテツは思い出そうとして、やめた。今はそんな場合ではない。
俺は攻める方が得意なんだがなァ。とだけ呟いた。
今回は防衛戦。初めての形式のダンジョンバトルだ。ニンゲンが襲撃に対して拠点防衛をするのはあるが、ダンジョンバトルでそれをしようというのは初めて聞いた。
「面白ェこと考え付くヤツだよなァ」
「112! アタイの出番もあるかなッ?!」
流石に最下層までは無理だろうが、5階までなら案外あっさり到達しちまうかもしれない。
「よォし、気合い入れていくぜェレドラァ!」
「ああッ! この日のためにレッドリザードも通常の10倍の量に大増量ッ! 通路がレッドリザードであふれかえってるねッ」
所狭しと、部屋だけでなく通路にもあふれ出すレッドリザードを見て、さすがにちょっと召喚しすぎたかもしれない、と反省するイッテツ。だが、嫁であるレドラが喜んでいるからまぁいいかと頭を切り替えた。
「……まァお互いにモンスターぶつけ合えばちょうどいい数になンだろォ……」
『それじゃいまから行くけどいいか?』
「おう、いいぜェー」
空間が繋がったことで、今のケーマの気の抜けた挨拶が開始の合図だったことに気が付いた。
……記憶が確かなら、普通はもっとこう、気合いの入る言葉で勢いをつけて開始するもんだったような……と思う。
「むぐぐ、気合いが抜けるよ……」
「一周回っておもしれェなァ。レドラの勢いを削ぐのが目的だったら見事達成だァ」
だが、ゲートが開いたところで特になにも入ってくる気配がない。
時間は1日、24時間しかないというのに悠長なことだ。いいのだろうか?
が、その考えはすぐに撤回された。
開いた通路の向こうから、大量の水が流れ込んできたのだ。
「……はァ?!」
津波のように通路を走る水。『火焔窟』の熱い床や壁でジュゥと鳴る水。……レッドリザードをまとめて押し流す水。
「……はァアアアア?!」
なんとも信じられない光景だった。
ここは火山。出入口は山頂付近にしかない。水なんてせいぜい雨が少し入ってくる程度だった。
それが、通路を埋め尽くす程の水。……その先頭では水の勢いに押し流されたレッドリザードが固まりになって流されている。
水はダンジョンを走り抜け、あっという間に階段にたどり着き、第2階層へ。
溺れて、壁にたたきつけられて、他のレッドリザードに押しつぶされて、味方を示す緑色の点がどんどん数が減る。
「な、何が起きているッ?! これは一体なんだッ?!」
「は、ははは……なんだコレェ……?」
しかもこの津波、敵の反応があるのだ。イッテツの見るモニターではいくつもの、いや、マップを赤一面に塗りつぶすほどの赤い点が表示されていた。
それはつまり、この水を通すのはマズイということ。もう第2階層を通り抜け、第3階層へ到達。ここまでの時間、まだ30分と経っていない。
(……この早さで2階層を突破できるってェことはァ……24時間で50階層も突破できるんじゃないかァ? ククク、まさか本気だったたァなァ!)
実際、30分で2階層のペースなら24時間で96階層で、ほぼ2倍の規模でも行ける。
「だが、このままいかせるわけにはいかないなァ。ならこうだァ」
イッテツの行動は的確だった。まだ水が到達していない第4階層にダンジョン外に出る横穴をあけたのだ。
さすがに敵が居る階層を改装することはできない。第3階層まではもう諦めておこう。
すぐさま第4階層までたどり着いた水が、今度は山の外に向かって流れ出ていく。大量のレッドリザードと敵性反応も流れていく。
「……ククク、やるじゃねェかケーマァ。おいレドラァ!」
「え、あ、はァッ?! いったいなんだったんだいッ?!」
「クカカカ! 知らねぇけど3層突破されたァ! ボス部屋に送るぞォ、あいつらはすぐ来る、気合い入れろォ!」
「えええッ?! なんか早くないかいッ?!」
「死にそうになったら戻すけどなァ、油断して殺されるなよォ? ぜってェなんか『ある』からなァ!」
「あッ、ああッ!!」
レドラは慌てながら5階のボス部屋に転送された。
*
「何よこれ、えげつないわね……」
「何って、水攻めだよ。基本だろ?」
「基本なの?!」
そりゃ、出入り口が山頂付近のひとつだけ、となったら流し込んでしかるべきだろう。
しかも火系のダンジョンとなればもう水を流し込まなければ逆に失礼ってなもんだ。ハクさんから情報を聞いた時点でこれはもはや決定事項だった。
というわけだから、ダンジョンの一部屋……大部屋の天井に『水源』を設置した上で完全に密室に。そしてバトル開始後に扉を解放し、どばっと流し込んだ。
もちろんただの水だけではない。ミジンコ(1000匹組で1DPとものすごくリーズナブル)を混ぜている。顕微鏡も無いこの世界でミジンコとか、水に混ぜた所で何も見えないだろう。小さすぎてこちらも非常に使いにくい。自由に動かせないし、目も使えない。だが味方の点は表示されていたし、マッピングもできた。
念のためいくつか水ゴーレムをボール状にしておいたものも入れておいたのだが、逆にこちらはT字路とかで壁に水がぶつかった時の衝撃で自滅してしまった。……水ゴーレムは何かに包んでおかないと弱いな。
しかし、イッテツの反応も早かったな。ダンジョンに横穴をあけて排水するとは。
だが、これは想定通りだ。
「さて、前回は使わなかったが、今回は第2陣、ゴーレム部隊による侵攻だ。ロクコ、ニク、イチカ。プランBでいくぞ。準備はいいか?」
「バッチリよ。……でも、プランBって、これ本気?」
「はい、いつでもいけます」
「正直ニク先輩についていくんでやっとなんやけど……やれるだけやってみるわ」
3人の返事を聞き、俺は頷いた。
「よしッ、ゴーレム兵団、出陣!!」