ハクさんの訪問
お助け賃についてあらかじめイチカに聞いておくのをすっかり忘れていた。
あの状況でかつ「助けてくれ」とムゾーから頼んでいた場合、身ぐるみ剥いで貯金全額とか、奴隷落ちした場合の売値半額とか要求しても文句は言えないレベルらしい。
もっとも流石にそこまですると復帰が絶望的になるので、ある程度は残すのが礼儀だそうだが……
相場でも、Cランクだと1人で金貨4枚くらいになるそうな。
「さすがご主人様、見極めがウマいわぁ。今後魔剣を1本貢がせるってコトやし、そのための準備金も残しとかなあかんもんな。この条件に魔剣入れたらトントン、むしろ結構とってる方とちゃう? いやぁ、ちょっとの手間で恩も売れて、ボロ儲けやな!」
まぁそういうことなので良しとしよう。
尚、ツィーアに帰るまでもなく、冒険者ギルド出張所で金を受け取ることができた。……金貨4枚。実に美味しいです。貯金はたいてAランク飯とか言ってたくせにきっちりため込んでやがったのかこいつらめ。3枚はウゾーのらしいけど。
……DPに変換しても4000DP、いや、そのまま使ってもいいな。宿の従業員増やすか?
ウゾームゾーは、さらに宿に1泊していき、今度は2人ともCランク飯にすると意気込んでいた。で、俺とイチカの分もメシを奢ってくれるとかなんとか。ついでにパーティーメンバーであるニクの分もだ。……やっぱもっと金搾れたなぁ。ま、いいか。
こちらとしてもせっかくだから最初のCランク飯である『ステーキ定食』にしてやった。イチカから今後これがBランク飯になると聞いて、そんなのが食べられてうれしいのかもう気軽に食べられないのが悲しいのか複雑そうな顔をしていたが。
翌日、ウゾームゾーは冒険者ギルド出張所で依頼の報告をした後、笑顔で手を振って去って行った。
今回、ウゾームゾーから得ることができた収入をまとめると、
2650DPと金貨4枚、銀貨29枚、銅貨5枚だ。DPについてはダンジョン内での稼ぎに細かいところで誤差があるかもしれない計算上の値だが、まぁこんなもんだろう。
……貨幣だけで429万500円相当。いやぁ、殺さなくてよかったね! 殺してたら貯金が貰えないもん。新しい魔剣が手に入るのであれば更に美味しい。
あと、ギルドの調査・救出依頼の報酬だ。……調査依頼とはいっても、出す必要のない情報まで出すことはないからな。冒険者の方でも自分が有利になるために『嘘』とまではいかないが、ある程度情報を隠すのは普通らしい。……ま、嘘を見破る魔道具あるから、そこはね。
流した情報は、「最初はゴブリン、階段降りてからゴーレムが出た」「ウゾームゾーが居たのは階段をおりてすぐのフロアだった」「罠が仕掛けられていて、出られなかったようだ」といった、ウゾームゾーが報告しているであろう内容だ。
ちなみに罠の解除法……「魔剣を台座に戻すこと」は、銀貨10枚の追加報酬をもらった。本来5枚のところ、ウゾームゾーが『これはあいつらの情報だから、上乗せしてやってくれ』と言ってくれたらしい。……律儀な奴め。
それと、1階入り口付近の地図を描いて渡す。銀貨8枚で買い取ってくれた。結構ポンポン払ってくれるもんだなぁ、これくらいは簡単に調べられるだろうに。
というわけで、合計で銀貨28枚。良い稼ぎになった。あと受付嬢さんのほうも5日の宿泊で600DPほど、現金が銀貨5枚。
これで資金もDPもだいぶ余裕ができた形になるな。残りDPは……19532。2万超えてないのはツィーア山貫通トンネルの方で使っているからだな。地味にドリルで掘り進めて随時制圧している。
……うん、これだけDPがあればしばらくは出費も少なくて済むだろうし、大丈夫だろ。金貨いつでも換金できるし、とっておこう。
「これほどの収入が最初から入ったのは美味しいんじゃなかろうか……ボーナスあったとはいえ、たった11日で、ゴブリンにして350匹の結果になったわけだし」
「……すごいわね! でもなんでゴブリンで換算したの? ねぇ」
え、そりゃロクコにはその方がわかりやすいだろ? とにっこり微笑んでやった。
「まぁ……わかりやすいけど……釈然としない!」
ぽんぽん、と俺はロクコの頭を撫でてやる。
調査依頼というのはダンジョンを一般の冒険者に公開する前に難易度を測るもの。
Cランク冒険者やEランク冒険者が無事帰還できたという実績もできたし、それほど高い難易度には設定されないんじゃないだろうか。このダンジョンが低レベル冒険者でいい感じに流行って、それなりに安定してDPが入ってくれば……更にダンジョンをガチガチに防護できるんじゃなかろうか。
……もっとも、ダンジョン奥に設置してあるダンジョンコアだけど、冒険者が最下層に入ったとしても宿の俺の部屋にあるダミーコアとキャスリングすれば安全は確保できるし、心情的にもだいぶ安心して寝てられるな。
ダンジョン探索? うん、好きにしてくれ。大丈夫、奥まで行ってもまだ何もないから。あるのはガッカリと疲労感だけだから。
……あー、DP溜まったらそれらしくダンジョン改装していかないとなー。
*
さらに数日後、ついにダンジョンの新しい名前が決定した。
その名も、『欲望の洞窟』という。
欲望に負けると危うく死ぬこともある、ということでつけられた名前らしい。そんな警戒しなくてもいいのに。油断してくれた方が楽なのに。
制限はEランク。通常の下級ダンジョンという分類だ。まぁ、Cランク冒険者のウゾームゾーが死にかけたのは事故みたいなもんだし、そこの脱出方法は告知されるらしいからな。
「おめでとうロクコちゃん。魅力たっぷりのロクコちゃんにふさわしい名前がついたわね」
「ありがとうございます、ハク姉様!」
そんな最速情報をお届けに来たハクさんが、ロクコの頭を優しく撫でている。
斜め後ろには相変わらずの執事服を身にまとったクロウェさんが立っていた。
「……で、なんでハクさんがいるんですか?」
「ダンジョンが公表されると聞いて、一番に泊まりに来たのよ? 私がロクコちゃんの宿の一番最初の宿泊客になるために急いできたんだから」
「すみません、ハクさんは4人目です」
「なんですって……?! ……前の3人のこと教えてくださる? なかったことにすれば一番よね?」
「やめてください、一番いい部屋使っていいんで。スイートルームの一番最初のお客さんで勘弁してあげてくださいお願いします」
スイートルーム……それは、とりあえず作るだけ作ったAランク冒険者おもてなし用の部屋である。
スイートルームは寝具にとても凝っている。『オフトン(5DP)』より上位グレードの『低反発マット(200DP)』である。これを彫刻風にした高級感あふれる自作の木材ベッドと合体させた。さらに『羽毛布団(100DP)』をドン。かなりいい出来なのではないだろうか、と自画自賛せざるを得ない。
他にも無駄に家具にレリーフをいれてみたり、燭台風に光の魔道具を設置したり、ポーション瓶で作った窓ガラスにカーテンもついていたり、と、かなりのものだ。
しかも部屋には風呂とトイレもついている。それぞれ個室だ、ユニットバスじゃないぞ?
お風呂は木製だけど、ヒノキ風呂っぽくて逆に高級感を醸し出している……かもしれない。
さらにマッサージ椅子までもが部屋に置いてある。風呂上がりに付属の『タオルケット(5DP)』をかけてマッサージされつつ寝落ちだってできる。
食事だって食堂まで来なくてもボタンを押せばお持ちするという至れり尽くせりな扱いなのだ。
……ぶっちゃけ宿自体がAランク冒険者をおもてなしするという名目があったから作っただけなので、ハクさんしか使わないだろうけど!
ちなみに通常の部屋でも一泊銅貨50枚、食事を結構な高額に設定してしまったため、特別料金のスイートルームは俺の部屋ではない。あんまり高いとこに泊まってると「たかがEランク冒険者なのになぜ……?!」ってなるもんな。評判が落ちるだけならともかく、疑われるのは避けたい。くそう、ギルドの出張所さえできなければそんなに心配する必要はなく、客が居ない日くらいはスイートルームつかえただろうに……!
「で、おいくらかしら? ちゃんとお金は払いますからね、お金を払わないから一番最初のお客さんにカウントされない、とか認めませんからね?」
そんなルールはないってば!
「……あー、スイートルームの料金はまだ決めてなかったんですよねぇ」
「いちばんいい部屋、私も手伝って内装作ったのよ。……ハク姉様、一泊いくらにすればいいと思う?」
「あら、そうなの? 楽しみね。んー、なら、帰るときに適正価格を払ってあげるわ」
それはありがたい。いかんせん、高級宿には泊まったことが無いから用意してみたものの適正価格が分からないのだ。
「ああ、食事は、Aランクのものを用意しますね。それと食材はハクさんがロクコに【収納】つかって渡してることにしてる『設定』なんで、そこんとこ宜しくお願いします」
「わかったわ。ああ、当然、異世界の料理が出るのよね? はい、クロウェの分も合わせて金貨2枚よ。楽しみにしてるわ」
別に奢っても良かったんだけど、まぁいいか。貰えるものは貰っておこう。ポンっと金貨を払うあたりもうね、なんというかね。この人ケタが違うよね。あ、2桁ナンバーで実際ケタが違ってましたね。
……しっかし、今更ながら、予定しているAランク飯が100万円に相当するとは到底思えない。
やっぱり今からメニュー変更して満漢全席なりフランス料理のフルコースでも出すべきではないだろうか?
(※ストックが完全につきたので、次回投稿は未定です!……来週までに投稿できたらいいな)