調査依頼:天国(冒険者視点)
(※ストックが尽きたので推敲不足です。後々書きなおすかもです)
俺は冒険者のウゾー。こうみえてベテランのCランクで戦士だ。
相方の斥候、ムゾーと共に数々の依頼をこなしてきた。
そして今回の依頼は『転換期』を迎えたばかりのダンジョンの調査だ。
「元はゴブリンしか出ないダンジョンだろ? 余裕じゃないか?」
「油断するなムゾー。『転換期』後のダンジョンは構造ががらりと変わるし、極端にモンスターが増えていることもある」
「まったくウゾーは心配性だなぁ」
まったくムゾーは斥候だというのに油断がすぎる。
もっとも、それはムゾーの持つ自信から来るものだ、と俺は知っている。
「へぇ、見ろよウゾー。ダンジョンの入口に宿なんてあるぞ。話には聞いてたけど」
「今日は一泊して、明日ダンジョンに潜る、でもいいんじゃないか?」
「そうだな、賛成だ」
中々に立派な建物だ。さっそく入ってみる。
カウンターの向こうには、白黒の可愛らしい服を身に着けた女性が座っていた。
ふりふりと揺れる布が目を誘う。
「まいど! 『踊る人形亭』へようこそやで!」
パヴェーラ訛りのある美少女だ、まるで人形のように整った顔立ち、そして……でかいな。
『踊る人形亭』の人形とはこの女性のことなのだろうか? 思わず見とれてしまった。
気を取り直して値段を尋ねる。
1人1泊銅貨50枚、2人だと銀貨1枚だ。2人部屋で借りた。
ふむ、こんな山奥にあるにもかかわらず結構安いんじゃないか?
新人冒険者には厳しいかもしれんが、Cランクの俺にとっては余裕の出費だ。
「あ、飯は別料金や。風呂は入り放題やけどな!」
「風呂? ほう、この宿には風呂があるんだな」
「せやでー。温泉っちゅーてな、大人数で入れる風呂なんや。おっと、パヴェーラのほうだと結構あるんやけど、こっちじゃ珍しいか?」
ツィーアでは珍しいところだが、俺はCランク冒険者。他の町、それもパヴェーラにも行ったことがあるし、大衆浴場にも入ったことがある。
「湯浴み着の貸出しもサービスやからな。おっと、で、飯なんやけどAランクからGランクまであってな、拘ったんやでぇ」
「へぇ、じゃあ折角だしAランク……っ?! 金貨、1枚……?!」
「せやでー、Aランクの最高級飯は金貨1枚の超高額! その代わりにとてつもなくウマイ! 私が保証するで! ウマすぎて死なんようになぁ♪」
さ、さすがにそれは手が出ない。
一体どんな内容だというのか……?!
「うーむ、ここはおとなしくCランクにしておくか……え、銀貨5枚……」
「せやなぁ、Cランクは銀貨5枚や。それも結構ウマイんや。具体的に聞きたいか?」
「いや、遠慮しておく……」
値段表を見ると、Aランクが金貨1枚、Bランクが銀貨50枚、Cランクが銀貨5枚、Dランクが銀貨1枚、Eランクが銅貨50枚、Fランクが銅貨5枚、そしてGランクは銅貨1枚だった。
「ウゾー、俺は決めたぞ。Cランクにする!」
「お、おい。それだと今回の依頼の報酬と同額だぞ! どうするんだ、赤字じゃないか、金は貸さないぞ?!」
「ハッハッハ、ダンジョンで手に入れたものは別途報酬にしてもらえるんだろ? なら大丈夫さ。ねぇお嬢さん、何て名前? いつ仕事終わるの? 俺、Cランク冒険者でムゾーっていうんだけど」
ムゾー、何ナンパしてるんだお前。欲望に忠実だなおい。
「おー、そっかぁ、まいどおおきに、ゆっくりしたってー。あ、そっちのおにーさんはどない? 一応おススメはDランク以上やねぇ」
「……俺はDランクにしておく。それでも銀貨1枚かぁ、結構するな」
「それだけウマいからなぁ。まいどー。……あ、先に風呂入ったらええよ。上がるころに飯でエエか?」
「ああ。それでたのむ」
「ねぇ、名前だけでもさー?」
適当にあしらわれているムゾーはさておき、金を払う。その場で食券とかいう札をもらった。後ほど食堂に行けば食事と引き換えてもらえるらしい。なるほどな。
そして、部屋の番号を聞き、鍵を借りる。……部屋に荷物を置いたらさっそく温泉にいってみようか。
部屋の鍵を開けると、棚やタンス、寝具があった。光の魔道具はないが、ランプが置いてある。……油は別売りかな。
……む、なんだこの寝具。……綿がはいっているのか?
風呂があると聞いて、寝具は木の板であることも覚悟していたのだが……おお、手が沈み込む! これだけで十分銅貨50枚の価値があるな。
よし、次は風呂入ってみるか。
脱衣所には自由に鍵のかかる棚がある。これはパヴェーラの浴場にもあったな。
む、これが湯浴み着か。たしか自由に着替えていいと言っていたな。服を脱いで湯浴み着に着替え、服を棚にしまう。……む、この湯浴み着、俺の服よりいい仕立てじゃないか。このまま着て帰りたいくらいだ。
そして風呂場に入る。……確かにこれはすごい。
石造りの立派な風呂だ。風呂にはりつめた湯からは湯気が立ち上っている。
……こんな山奥で、これほど豊富な水を使うとは。水源があったのだろうか。
だからこそ宿をやっているのかもしれないな。
俺はさっそく自分に『浄化』をかけて風呂に入る。
「お、おぉぉ……」
思わず声が漏れる。……いいな、これは。実に。
たしかにこれは宿のウリになる……他に食事はまだだが、既にもう満足しつつあるな。
*
ムゾーも途中から入ってきて、とても驚いていた。
風呂から上がる。是非、また来よう……いや、泊まるのであれば自由に入ってよかったんだったな。明日の朝も入ろう。
……む? なんだこの椅子は……銅貨をいれる場所がある?
見ると、壁に説明が書かれていた。どうやらマッサージをしてくれる椅子のようだ。ダンジョンで見つかった魔道具か。
ただし、椅子に座ったまま寝てしまったら、他の人に降ろされて床に転がされても文句は言わないように、とのことだ。
……銅貨1枚で5分か。椅子のマッサージというのも気になるし、やってみるか。
椅子に座り、銅貨を投入する。
ちゃりん、という小気味いい音の後、椅子が急にブルブル震えだした。
お、おお、な、なんだこれは。いままで感じたことのないマッサージだ。……おぉ、おぉぉおおぉおお?!
震えにゆったりとした強弱があり、確かにこれは、おぉぉ……
「おい、起きろウゾー。こんなところで寝てると風邪ひくぞ?」
「ふぉっ?! お、おぉ、ムゾーか。いや、寝てたみたいだ」
俺はムゾーに起こされるまでぐっすり寝てしまっていたようだ。ううむ、椅子のマッサージ、恐るべし……
「へへ、それじゃ飯にしようぜ。俺ぁ銀貨5枚のCランク飯なんだ、もう腹ペコなんだよ」
「お? そういえば俺も銀貨1枚のDランク飯だったな。どんな違いがあるんだろうなぁ」
食事は食堂で提供するとのことで、食札と交換で食事を受け取る。
待たされることも無く、食事はすぐに出てきた。
「どうぞ、です」
褐色の幼い獣人が食事を運ぶ。カウンターにいた女性と同じひらひらした服に身を包んでいて、とても可愛らしい。
四角いお盆にいくつかの皿が乗っている……濃い茶色のスープに、パン。サラダ。これで銀貨1枚なのか? いや、既に良い匂いがしてとても上質な食事だということが分かる。
「パンのおかわりは、1つ銅貨10枚です。あと、食後、デザートがついてきます」
「デザート? 今もらえないのか?」
「つめたいので、今だすのはおすすめしないです。それでもいいですか?」
冷たい? いったいどういうモノなんだろう。
ここはおすすめ通りに従って食後にもらうとしよう。
「お? なんだウゾー。少なくないか?」
「いやいや、十分な量だろうこれは。それがCランクの飯か、なんか多いな」
「そりゃお前。俺のはCランク、ウゾーの5倍だぜ? ハッハッハ」
ムゾーのほうの飯は、俺のものより1皿、ステーキが多かった。パンも2個だ。
厚めのステーキは羨ましいな。……あれ? スープの色が違うな。あっちは、白い。
「しかもこれ、デザートつくんだぜ?」
「俺もつくよ。……ステーキ、か。うまそうだな、何の肉だ?」
「ボアじゃないか? ……うおっ?! なんだこのパン、ふかふかしてて、甘いぞ?!」
「というか、白い…なんだこれ、このパンすごいな……っとと、スープ食う前にパンだけでパン全部なくなっちまうぞこれ」
俺は慌てるようにスープを口に運ぶ。
……?! 驚いた、これは、味がすごい。肉の味がする。というか、よくみると肉がごろごろ入っている。野菜もはいっていて、具がたっぷりだ。
「うぉ、なんだこれ、ウサギ? ……いや、ボアか? もしかしてミノタウロスなんてことはないだろ……」
「ははは、ミノタウロスとか、銀貨1枚で利益でんのかよ。しかも、客はまだ俺たちしかいないんだぞ?」
「だよな。……そのわりにそっちのスープと色からして違うんだが……おい、そっちのはなんだ?」
「うん? んー……?! すげ、とろっとして、ふわっとしてる感じだ。あれだ、牛乳? あれを使ったシチューってスープだと思う、これ。……ああ、そうだこれ、帝都で食ったことあるよ」
「うまそうだな。少しくれよ」
「やだよ、これは俺のんだ!」
だよな、俺もこっちのスープはやりたくない。
俺はサラダをかっ込む…… !? な、なんだ、なんなんだここの料理は。サラダですら俺を驚かせる。
……これは、ドレッシングか? 黄色っぽい、白い、……油?
「お、食っとるねぇ。どうよ、うまいかー? うまいやろー。ああ、サラダについてるそれは『まよねぇず』っちゅーんやで?」
受付にいた女性がやってきて、隣に座る。……うぉ、なんかすごい良い匂いがする……
「ちょ、俺の隣にきてよー!」
「ははっ、堪忍なぁ、ウチ、しつこい人は好みじゃないんよ。けど暇なんで説明しに来たんやわ。えー、そっちの白いスープ。兄ちゃん正解や、それは牛乳を使ったシチューってスープやな。このあたりじゃ見ないけど、帝都では結構普通に食われとるな」
へぇ、ムゾーの言ってたことは正解だったのか。
「で、その茶色いシチュー。おどろくなや? 牛肉のシチューなんよ!」
「……は? 牛肉、て、あの牛だよな。え、祝い事でもあったのか?!」
牛肉というのは、祝い事があった時か、老いた牛を潰すときくらいしか食べられないと聞く。
帝都の方では牧場というのがあって、それ以外の時でも食べられなくはないらしいが、かなり高いらしい。
「ちょ、ちょっとまって。それじゃ俺の白シチューより茶色いシチューのほうがいいじゃん!」
「はっはっは、そんなことないで。……そっちのそのステーキ、なんと牛肉なんや。しかも今はまだお客さんも少ない……ちゅーか、お客さんが初めての客やからな、厚めにオマケしてあるで?」
「まじか! ……うおお、これ、これが牛肉かぁ……銀貨5枚の価値は余裕であるな」
そうか、まだできたばかりの宿だった。ある意味開店記念という祝い事でもある。
……すごい質の食事だ。やはりこれは特別なのだろうか?
「あ、ああ、せやせや。今は特別期間でなぁ、普段はまぁボアになるんちゃう? 実はこの宿を建てさせた冒険者をしっかりばっちり歓迎するために、練習で色々準備しとるっちゅー話なんや」
「この宿を建てさせた冒険者?」
「……Aランク冒険者って話やで、これ以上はヒミツや。仕事やしなー」
Aランク冒険者か……たしかにそれを歓待するには、牛くらい潰すことも考えられる。
料理人が牛肉の練習のために調理したお零れがこの料理、ということだ。
しかし、これほど香辛料のきいた味付け、牛肉がボア肉だとしても十分銀貨数枚の価値はある。
パンもうまく、ペロリとすべて平らげてしまった。
「おっと、そろそろデザートの頃合いやな。先輩! もってきたってー!」
「は、いっ……」
と、先ほどの獣人がデザートを持ってくる。
白…いや、黄色い。台形だが、上から見ると花のような不思議な形をしていて、茶色いソースがかかっている。
「これは……?」
「『ぷりん』っちゅー、デザートや。ああ、コレはDランク飯以上にしかついてこないからな、おススメしたんもこれが理由や……覚悟して食いや……甘さにとろけるで?」
ごくり、と、ムゾーと一緒につばを飲み込みスプーンを持つ。
女性はニヤニヤとそれを見てくる。
スプーンを差し込み、掬い上げる。ぷるん、と『ぷりん』が震えた。
そして……
……その日、俺は天国を見た。
(なるべく頑張りますが、クオリティ下がりつつあるのでおとなしく不定期更新になります)