そろそろ帰るか
(本日3話目です)
ゴブリン、捨てておいていいのかな……ここ畑じゃないんだけど。
森の中に投げいれとくか?
と、悩んでる間にニクとイチカがウサギ(首なし)を持って森から出てきた。早いな。
「ご主人様、おにく狩ってきました」
犬耳娘の狩猟本能が刺激されたのかな? ほんのりと笑みを浮かべるニク。満足げだ。
とりあえず3人で仲良くウサギを逆さ吊りにして、血が出なくなったら袋にポイっと仕舞う。
「ゴブリンは証明部位の他に魔石もとっとく? まぁ割に合わんからほっとくんが多いけど、Fランク入りたてだと小遣い稼ぎに結構やってたで」
「ゴブリンに魔石があるのか?」
イチカ曰く、脳味噌の中に埋まってるらしい。せっかくなので1匹分の魔石をとって見せてもらう。
証明部位の耳を切り落としたのち、剣で頭をゴっと切り開いてグチャグチャかき混ぜて……うおぇ。……出てきたのは、10DPで交換できる魔石よりも小さなクズ魔石だった。5個くらい集めたら10DP魔石くらいにはなるかな……?
「魔石があるんを魔物っちゅーからな。一応ちっこいけど、魔物ってからには魔石が体のどっかにあることが確認されてるんよ。もしウサギにも魔石があったら、明日にでもウサギは魔物っちゅーことや。……んー、これだと銅貨1枚で売れるかなぁ……ああ、コレ昨日の宿にあった光の魔道具に使ったら一晩で消えると思うで」
確かにゴブリン5匹で銅貨30枚になるなら、わざわざ銅貨1枚のクズ魔石までとるのは手間でしかない。明らかにその時間で新しくゴブリンを狩ったほうが得だ。
……今回は捨てちゃってもいいかな。手間がかかりすぎる。
一応イチカからクズ魔石はもらっておいた。ゴーレムに試してみるか。
ウサギ肉をもって町に戻ると、早速串焼肉屋の屋台のところまで行く。
「おう、ウサギ肉狩ってきてくれたのか?」
「ああ、これだ。査定頼む」
袋から首なしウサギを取り出し買い取り額を決めてもらう。
もちろん全部最高額の銅貨12枚。6匹で、72枚だ。受け取りはギルドでするからここではお金は貰わない。ゴブリンの報酬と合わせたら、銀貨1枚と銅貨2枚か、報酬が銀貨になると大分すっきりするな。
「くっ、いい仕事しやがるぜ。……っと、そういえばそっちの姉ちゃんは新しい仲間かい?」
「せやで! イチカっちゅーねん。よろしゅう! いやー、いい匂いやなぁ。ウチ、串焼肉食べたいわぁ、ご主人様ー買うてー?」
「はっはっは! だとよ兄ちゃん? 買うなら少しおまけしてやるよ、どうする?」
「……んじゃ、3本くれ」
「まいどー!」
銅貨15枚を渡して、串焼肉を4本受け取る。1本多いのは3本分のおまけということらしい。
俺は2本をイチカに、1本をニクに渡した。
「しっかし兄ちゃん、別嬪さんじゃねぇか。ちっこい嬢ちゃんも将来楽しみだが、なかなか面食いだな」
「なかなか掘り出し物だったよ。食べ物にはうるさいけどな」
「ハハ、ならうちの店を贔屓にしてくれよ。ああ、そうそう。兄ちゃんから買った肉だが、いつもより美味いと評判でな。できれば定期的に売ってくれるとありがたいんだが」
「こっちもウサギ狩りばかりやってられないからな……ランクも上がったし」
「おお、そいつぁおめでとう。ならウサギじゃなくてもいいぜ。ボアでもなんでも、焼いて美味い肉なら何でも買ってやるよ。うちは元々肉屋で、屋台は副業だからな。なんでもさばいてやるぜ」
「そういえばゴブリン狩ったんだけど」
「ははは! ゴブリンは煮ても焼いてもマズくて食えねえよ」
ですよねー。
「で、ウサギ肉を美味くする秘訣は教えてくれねぇのか? 銀貨20枚までなら出すぞ?」
「へぇ……結構奮発するんやね。教えたったらええやん? そしたらいつでもウマい肉食えるんやろ?」
イチカが奮発っていうからには、確かに奮発しているのだろう。
実際、肉がうまいのは俺もありがたいが……教えたらすぐ広まるよなぁ。そのために聞いてるわけだし。
よし、ここは教えないでおこう。ウチの宿でウリになるかもしれないしな。
「まだしばらくは秘密ということで」
「ま、仕方ねぇな。気が向いたら教えてくれ」
イチカが残念そうな顔をしていたので、今日のウサギ肉……一週間後に俺達が食べる分をとっておいてもらうことを約束してもらった。銅貨25枚、先払いだ。……忘れずに食べに来るとしよう。イチカが怖いし。
それからギルドに寄ってゴブリンの報酬とあわせて銀貨1枚と銅貨2枚を受け取る。
で、ようやく山籠もりに向かうわけだ。一応、来週にはまた顔を出すと伝えておいた。
拠点に帰るために西門に向かう。
「なぁ、山籠もりするには装備が甘いんちゃう? ああいや、【収納】あるんは知ってるけど」
「そうだな、あまり大っぴらに使いたくないからそれらしい準備があったほうがいいな」
そういえば前はそれで西門でちょっと危なかったんだよな。
よし、と、イチカに今日の報酬の銀貨1枚を渡す。
「これで装備を整えられるか?」
「3人で……んー、食いモンふくめて3日分ってとこかな? 一週間分には足りんな」
「ああ、拠点があるからそこで調達できるし、それでいい。中央公園で昼寝して待ってるわ。ニクも一緒に買い物行って来てくれ」
「わかった。じゃあ買うてくるわ。おつりで買い食いしてエエよな?」
「……一応どれくらいの金使ったかは報告してくれよ?」
「まかせときー♪」
すごく不安だ。が、ここは元Cランク冒険者を信じることにしよう。
*
「この肉サンドイッチうまいわぁ。んんー、シャキッとした野菜に肉の油が絡まって絶妙な加減になってるなぁ、匠の技やな! いい味と歯ごたえやな。しかもこの風味は……チーズや! チーズが入っとる! これはうれしいでぇ。食が進む……ごっそさん!」
起き抜け早々に飯テロをされた。くそう、腹減ってきた。
「そんな顔せんでも、ご主人様の分もちゃーんと買うてきたわ、食お食お」
見るとニクも手にサンドイッチを持ってる。で、イチカは2個目、と。ちゃっかりしてるな。
サンドイッチを食べながらイチカが買ってきた装備を確認する。
火打石、テント、食糧、水筒、毛皮、食糧、ナイフ、食糧、水筒、食糧……って食糧多いな!
「あたりまえやん、食いモンは食ったらなくなるんやから、そら多くもなるで」
まぁ、着替えとかは『浄化』があるからいらないし、暖を取るには『発熱』とかいう水をお湯にできる程度の生活魔法がある。火まで出すとなると火打石や魔法スキルにある【イグニッション】とかが必要になるけど。
生活魔法がある分、山籠もりで一番必要な消耗品はおのずと食糧になるというわけだ。
あとは適当に加工や調理やらに便利なナイフと、寝る時に下に敷く毛皮ということらしい。
しかしこの毛皮、白くてふわふわしておる……ってこれウサギの毛皮じゃないか。祟ってこないよな?
「あとはいろいろ入れる袋やね。ご主人様は【収納】あるからホンマはいらんけど……」
「で、いくらだったんだ?」
「サンドイッチな! これでいてなんと銅貨6枚とお買い得だったんよ!」
「ちがう、そっちじゃない」
「そんなん、決まってるやろ。全部使い切ったわ。いやぁ、ギリギリサンドイッチ買えてよかったわー」
使い切ってやったぜ、褒めろ! と言わんばかりの笑顔だ。
いや実際、銀貨1枚渡してから思った。1万円で3人が3泊できるだけの食料と装備をそろえろって結構キツイんじゃないかと。実際キツイだろうと。
「実際、ニク先輩つけてくれて助かったで? だいぶ値切れたからな。ああ、店番が男やったのも運がよかったなぁ♪ ウチの胸元ガン見されたから、それで銅貨15枚は値切ってやったで」
営業妨害してないかそれ。
「まぁ、実際よくやった。ありがとうな。もうちょっと資金渡しておけばよかったか?」
「くれるんなら貰うけど? あ、飯の支給でもええで?」
……『ただの洞窟』に帰ったらメロンパンとかハンバーガーとか食わせてやろう。
というわけで、今度こそちゃんとした装備を整えて、ツィーア山に向かう。
そういえば俺、ダンジョンマスターなのにそれっぽいこと全然してない気がする。むしろ人里に下りて冒険者やるとか、絶対ダンジョンマスターの仕事じゃないよな。
山賊が居たころの引き籠って寝ている生活が恋しくなってきたぞ?
明日、閑話を4話分投稿したら次の章になります。
※↑の閑話は隔離されました