山賊をどうにかしよう。
俺が召喚されてから2日が経過した。
なんだかんだあってDPも179、いや、今180DPになった。ゴブリンでいえば9体呼べるな。
ちなみにダンジョンコアが破壊されていない理由もわかった。ゆたんぽ代わりにされていたのだ。
ダンジョンコアはほんのり光っていて、ほんのり温かい。
山賊の親分がダンジョンコアのある部屋を寝床にし、ダンジョンコアに足を乗っけて寝ていることが分かった。外の様子を見たいといったときに壁一面に汚い足の裏がどアップで表示されたときはさすがに引いた。
心臓を足蹴にされてるダンジョンコアさんチーッス。
「ま、まぁ? こいつらが居れば私もDP稼げるし? Win-Winってやつよ? ふふん」
自分の心臓を臭そうな足に転がされていると知った金髪ロリダンジョンコアは涙目であった。なんかかわいく見えてきたぞ。
「さて、それじゃそろそろ何かするか……」
「召喚ね! ゴブリン召喚して皆殺しね?! あ、150DPでリザードマンでもいいわね! あの親分ってやつは絶対に許さない、めった刺しにしてやるわ!」
「馬鹿野郎。そんなことしたら返り討ちだろうが」
やはり心臓をただの暖房器具扱いされたのは屈辱だったらしい。
「相手は8人、戦力が圧倒的にたりないぞ。そもそもお前がゴブリンよんでなかったら食費が浮いてもう少し溜まってたところだ」
「ふむ、維持費ってやつね、知らなかったわ。……って、あんたも『オフトン』とかいうわけのわかんないもんにDP使ってたじゃないの!」
それと一応、ダンジョンコアからの映像以外でもダンジョン内ならどこでも見られるらしい。メニューの機能で。
ちなみにロクコはそのことを知らなかった。そうだね、一部屋しかないなら必要ない機能だもんね。
「で、何するの?」
「ああ、それなんだが……なぁ、文字ってどうなってる? ロクコ書ける? あとあの山賊、文字読めるかな」
「それなら……うん、書けるわよ。山賊も読めるんじゃないかしら? 前に戦利品の本を読んでたみたいだし、簡単なのなら」
「なるほど。じゃあ、ちょっと俺が口頭で言うから、文字に起こしてくれ」
「はーい」
*
「お頭ぁ! 起きてくだせぇ!」
「んが……?」
洞窟の中で山賊の親分が目を覚ますと、そこには箱があった。
こんなもの、昨日まであっただろうか? いや、無かった。あったらとっくに気が付いている。
「なんだぁこれは? どっから持ってきた?」
「あっしらじゃねーですぜ。ですが、見張りのロドリゲスも誰も入ってきてないって言ってたっす」
「っつーことは、なにか。この洞窟の中で、ポンッと、出てきたってことか?」
「そー……なるんすかねぇ?」
箱を調べるが、特に罠とかは仕掛けられていないようだ。慎重に箱をあけると、そこには鉄兜が入っていた。
これは良い品だ、しかも新品のようだ。
「へぇ、いいじゃねぇか。高く捌けそうだ。使ってもよさそうだ」
「お頭ぁ、箱の底になんか書いてありやすぜ」
「ん? なんだこりゃ。……文字、か? おい! ブラキン、お前字が読めただろ、読め!」
「へい! えーっとぉ?」
文字の読める手下に箱を見せ、読ませる。
その内容はとんでもないものだった。
『わたし は だんじょんこあ です。 ゴブリン たおしてくれて ありがとう。 これは プレゼント です。 じかん かかるけど したい あれば もっとあげれます』
「ダンジョンコア……? おい、ここはダンジョンだったのか?」
「へぇ、いや、ここは『ただの洞窟』って聞いてましたが」
「あ、まってくだせぇお頭! あっしが冒険者だったときに『ただの洞窟』って名前のダンジョンがあるってきいたことがありやす!」
「本当かジョニー!」
山賊の親分は、はっとした。
地面からボコっと生えてて光ってて、足をのせてるとなんともいい心地に温かい石。もしや、あれがダンジョンコアだったのだろうか。
ダンジョンコアと話ができるとか聞いたことはないが、こうしてダンジョンコアからの手紙がここにある。誰かのイタズラというには……誰かが入ってくるにも見張りが立っていたし、ここにいる誰も用意できない新品の鉄兜がある。
そして手紙によれば、この鉄兜はゴブリンを倒したお礼らしい。
おそらくこの洞窟にきたときにダンジョンコアの近くにいたゴブリンを蹴散らしたことだろう。ゴブリンの5匹程度、山賊の親分にしてみればなんてことない雑魚だ。そんな雑魚を倒しただけでこの鉄兜。
「おいおいマジか……こりゃ俺にも運がまわってきたな……!」
ダンジョンの話は有名である。帝都では『白の迷宮』と呼ばれるダンジョンがある。
いや、そもそもダンジョンがあるところに帝都を造ったという話だ。
ダンジョンは、モンスターがいるが、財宝や魔法の武具等、さまざまなお宝の生まれる場所だ。そして、ここはダンジョン。だが、いままでここでモンスターなんて見たことがない。しいていえば最初にこの洞窟に来た時にいた5匹くらいのゴブリンだけだ。そしてお宝は見た。この鉄兜だ。
「俺はこのダンジョンに気に入られたようだ」
山賊の親分はにやりと笑った。
ダンジョンが気に入った者にお宝を産んでくれる……それはつまり、無限の富を手にしたに等しい。
『したい あれば もっと あげれます』
そういえばゴブリンの死体はいつのまにか消えていた。手下の誰かが片づけたのかと思っていたが……
ということは、つまり、そういうことなんだろう。
鉄兜が入っていた箱も、気が付けば消えていた。
*
「だあああああああああ!! 誰がっ! なんっで! あんなやつにお礼をいわなきゃいけないのよッ?!」
金髪ロリはのたうち回っていた。
『ペンとインク』に5DP、『木箱』に5DP、そして『良質な鉄兜』に170DPだ。
これで手持ちのDPはすっからかん、0DPだった。
なけなしのDPを、すべて、山賊の親分への『プレゼント』に使ったのだ。
「なんでよ! こんなんゴブリン呼んでけしかけたほうがよっぽど有意義じゃないの!」
「そして返り討ちにあって死ぬか? ハハハ、ごめんだね。俺はまだ死にたくない。寝たい」
「だ、だからって、こんな……ッ この、裏切者!」
「今はとりあえずこれで時間が稼げるだろ。そのうち皆殺しだから落ち着け」
「え?」
俺の口から皆殺しという単語が出たのに驚いたのか、ロクコが間抜けな顔を晒していた。
「なんで? あんた、ニンゲンだから、助けてもらうために貢物をあげたんじゃないの?」
「は? 俺は俺の寝床を安全にしたいだけだ。なのに、どうして山賊なんて危ないやつをそのまま残しておく必要があるんだ」
「ええー……じゃ、じゃあほら、同族を手にかける躊躇とか?」
「知らん。寝たい。それに俺が直接手にかけるわけじゃない…… ああ、今日はもうやることがないから寝ていいよな。よし、おやすみ」
俺は布団をかぶって寝る姿勢をとる。
「ちょちょちょ、まってよ! もう少し説明しなさいよ!」
「しょうがないな……じゃあ説明してやろう。明日な。おやすみ」
「ね、寝るなーーー?! ……ッ!」
俺が寝るのに合わせて、ロクコの声がフェードアウトした。
最初の日にした命令はまだ有効なようだ。おやすみ。