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大改装

「ちなみにこれはサービスよ」


 と、ハクさんは『ダンジョン学入門』をくれた。

 著者を見ると「ハク・ラヴェリオ」と書かれていた。なるほど、ダンジョンのことをダンジョンコアが書いているのだ、これ以上無い入門書だろう。


「ニンゲンの間ではそういうことになっている、という所が多いから気を付けてほしいの。私が考えたんだけどね……他のダンジョンコア達に特に好評だったのはコレかしら」


 ハクさんの白い指先が示す先には、『安全地帯』と書かれた項目があった。

 軽く目を通すと『モンスターが立ち入らず、安全に休める場所が存在することもある』ということが書いてあった。

「これは、ダンジョン側での『演出』よ。それらしく見えるように魔道具を用意して、モンスターにここには入らないようにって命令しておくの。そうするとニンゲン側で勝手に安全地帯だって思って警戒が緩むわ」


 なるほど、うまい手だ。そうすれば安全地帯で休憩している冒険者のDPも貰えるし、なにより実際にはそこは『安全地帯』でもなんでもない。目撃者がおらず、かつ完全に油断している冒険者ともなれば……証拠を残さず葬る事もできなくはない。勿論、その冒険者が安全地帯に入った証拠も残さないから、普通にダンジョンで死んだことになるだろう。

 ……情報媒体が乏しいこの世界において、「帝都の偉い人が出した本」っていうのはそれだけで信用度の高い情報なんだろう。マスコミみたいなもんか。


「たまーに、『安全地帯』に入れるモンスターを用意すると、『変異種が出た!』って大騒ぎになるの。毛の色を染めるとかして色違いにしておくと色々面白いわよ? 占い師のフリをしてその特徴を教えてあげると大喜びして感謝までしてくるわ、滑稽でしょう?」


 わー、それなんて言うか知ってる。マッチポンプっていうんでしょ。


 しかし確かに『そういう事』にしておいた方が都合がいい。こちらとしてもそういう認識はいくらでも使い道がある。俺はありがたく本をもらうことにした。

 ちなみに入門以上の内容はダンジョン別で本が出る感じらしい。有名なダンジョンの攻略本といったところか……多くは出ていない。


「お勉強や準備もあるだろうし、開始は3日後にしましょう。がんばってね?」

「帝都に帰るの、間に合うんですか?」

「冒険者の私は普通のニンゲンに合わせてせいぜい【収納】しか身に着けてないことになってるからわざわざ来たけど……【転移】くらい覚えてるわ。ああ、転移のスクロールは5000万DP程度で手に入るわよ。ただ、使うにしてもちょっと気軽に使えない量の魔力使うから、普通は魔術師団が協力して使うもので、単独で使うものじゃないけどね」

「……ダンジョンバトルでも時空魔法でつなげるって言ってましたけど」

「それについては『メニュー』みたいにダンジョンの機能でそういうのがあるってことよ。うちの学者に調べさせたら何らかの時空魔法である、ってことがわかったって程度ね……空間つなげてるんだからそれくらい見ればわかるっていうのに、それしか分からなかったのよ? 不思議ね」


 俺から見たら時空魔法っていう時点で不思議だから、今更か。


「それじゃ、3日後を楽しみにしてるわ。……記憶を辿り、遥かなる彼方へ路をつなげ。空を駆けよ、時を駆けよ。其処は此処、此処こそ彼方なり。交わり、重なり、繋がれ――【転移】」


 ハクさんが歌うように詠唱を行うと、ハクさんとクロウェがふわっと浮かび上がり……一瞬、強烈な光を放って消えた。


  *


 ハクさんが帰ってからもしばらくは呆けていたロクコだったが、しばらくしてようやく元に戻ってきた。正気に戻ってさっそくDPをみて、11万ものDPを見てまた目を回していた。


「で、勝ち目はあるの?」

「あるよ。そういうルールだからな……もっとも、だいぶあっちに有利だけど」


 そう告げると、キョトンとしていた。


「そうなの? こっちのほうがサービスで1万多くDP使えるんでしょう?」

「……既に持っているリソースについての条件が全くなかったからな……極端な話、ドラゴンを引っ張ってきてダンジョンに置いたとしても『DPを使わなければ』ルール上問題ない。さすがにそこまではしないだろうけど、魔法の武器をモンスターに持たせるくらいはしてもおかしくないな」


 その手があったか、とロクコはため息をついた。


「はぁ。ケーマ、よくそんな抜け道をポンポン思いつくわねぇ……なんていうか、こすい?」

「……お前の大好きなお姉さまはそれをわかってルール提案してるからな。あれはすごい」

「さすが89番姉さまね!」

「まったくだ。あれは相当人が悪いぞ、いい意味で」


 おそらく相手がロクコだけならそういうルールの抜け穴を突くようなことはしないだろうが、それ以外にはきっと容赦しないだろう。今回は実質俺が相手ともなれば……うん、こちらも全力を出さなければな……ああ、寝たい。もう全部ほっぽり出して寝たい。けど、それで負けたらそのあとの睡眠時間が大変なことになってしまう。『オフトン』すらないのはもう嫌だ。


「というわけで、ロクコ、ニク。お仕事だ」


 今回の11万DPの中からまず最初に出したもの。

 ……それはスコップとツルハシだった。


  *


 なにはさておきまず増築だ。穴を掘る。ガンガン掘る。掘ってからダンジョンにすればDPの節約と共にゴーレムの素材が回収できる。

 回収した素材をどんどんゴーレムにして作業に加えさせる。細かい指示を現場でロクコとニクに出してもらい、俺はひたすらにゴーレムを作る作業だ。……自然回復では追いつかないので、『マナポーション(150DP)』も飲んでる。うう、苦い。飲むとすぐ体に吸収されるのか、腹がたぽたぽしたりしないでいくらでも飲めるのが救いか。もういっそ樽で出したい。マナポーション、樽。


 ……あ、飲み物(樽)の選択肢にマナポーション追加されてる。マジか、1000DPとかあるけど明らかにお得だぞ。もしかして容器が高いのか? クリスタルガラスっぽい容器だもんな。


 と、『階層追加(5000DP)』を行う。とりあえず上下に2階層ずつ追加だ。

 山の洞窟だから上下どちらにも伸ばせるのは利点だな。登ったり降りたりしないと奥までいけないダンジョンにしよう。そういう感じになるよう、二人に指示をだす。

 もっともっと掘るのだ! 石、土、なんでもいい、ゴーレムの素材を集めるのだ!


「で、地下1階……ねぇ、これほんっとうに、掘るの? かなり面倒なんだけど……DPで一気にやっちゃわない?」

「だめだ。少しでもゴーレムの素材が欲しいからな」


 地下1、2階は迷宮にするつもりだ。かなり入り組んだ通路を作ることにした。

 ちなみにDPで作ると1万DP以上かかりそうだが、自前で通路を掘って固定するのなら5000DPで済む概算だ。しかもゴーレムの素材もたくさん手に入る。


「ここは俺同様マップの使えるロクコに細かく指示を出して掘ってもらうしかない……頼むぞ」

「うぐっ……わ、わかったわよ」


 あ、そういえばすっかり忘れていたが、今のも絶対命令権使ったことになるのか。


「ロクコ。……命令権だけど、『命令だ』って言ったときだけ有効だ。それ以外は自分の判断で好きにしろ。……で、今回のダンジョンバトル終わったら絶対命令権を破棄する予定だからな」


 今回は細かい指示を間違えないように命令権を利用する都合上、破棄はダンジョンバトルの後ということにした。


「ふえ? ……あ、うん。……いいの?」

「一心同体のパートナーだからな。できるだけ対等な方がいいだろ」

「パートナー……う、うん、そうよね! ダンジョンコアとマスターは一心同体だものね!」

「おう、それじゃここは頼む。……命令じゃないぞ?」

「まっかせて、頑張るわ!」


 ロクコはにこっと笑って、再びゴーレムに穴掘りの指示を出しに行った。


 ……で、ニクのほうは……入口付近に落とし穴をいくつか掘ってもらっていた。

 さらに言うと、その中の1つだけ横穴が通じており、ここにひとつ『ダミーコア(5000DP)』を設置しておく予定だ。

 落とし穴からの抜け道とか、定番だよね。まぁ置いておくのはダミーコアだけど。

 もっともダミーコアにはキャスリング機能があり、一瞬でダミーコアと本物のダンジョンコアを入れ替えることができる。つまり、ダミーコアを置けば置くだけ本物のダンジョンコアが避難できる。

 ハクさんはダミーコアにタッチしたら負けのルールだから実質キャスリングが使えないけど、こっちは使えるのだ。隠せるものは隠してしまおう。

 ……見つかっていないダミーコアの数が俺たちダンジョンの残りHPみたいなもんだ。


「落とし穴……いっぱい掘ります。床板、きっちりおきます」

「よし、いい深さだ。終わったらスパイクを刺して……自分が落ちたりしないように気を付けろよ? 落とし穴ができたら上にフタをするからな」

「はいっ」


 ちなみに落とし穴のフタは薄~く作った床板ゴーレムだ。

 ゴーレムは労働力以外にも建材としても優秀だった。もっともわざわざ床板をゴーレムで作るとかいうのも俺くらいなもんだろうけど。DPの節約は大事だ。

 あ、迷宮にも壁ゴーレムを設置しておいて、こっそり移動させていつの間にか正解ルートが変わってる、とかしても面白いな。不思議な迷宮になりそうだ。ちょっとロクコに連絡いれとこう。


 さて、迷宮の先では謎解きエリアとしよう。

 ここには『スイッチ式の頑丈な扉(1000DP)』を用意した。ゴーレムで装飾してスイッチを隠し、謎を解いたら扉が開くようにするのだ。

 ちなみにこういうのは、完全に開かないようにしてしまうのはマナー違反……というわけではなく、強度が普通の扉並に落ちて、破壊可能なオブジェクトになってしまうようだ。ダンジョンとしての力が働かなくなるというよくわからない理由で、逆に言えばダンジョンの力が働いていれば非常に頑丈な扉となる。

 ポイントは「簡単に開けられる」こと。謎解きも「普遍的に誰もが回答できるもの」であれば良い。


 といっても、これは扉だけの話だ。


 ゴーレムで隠しているだけで、扉自体は「スイッチを押せば開く」という非常に簡単すぎる謎解きにより、消費DPに比べ非常に高い強度を実現した。

 欠点として、ゴーレムを破壊されてしまえばそれまでなのだが……あからさまに謎解き要素を見せておけば『解かなきゃ開かない』って思ってくれるんじゃないかな? と期待しておこう。

 ……一見簡単に解けそうで実は解けない、というのもアリだな……解くのに失敗したらゴーレムでできた床がくぱぁっと開いて部屋ごと落とし穴になる、っていうのも面白そうだ。


 さてさて、まだまだいろんなトラップを仕掛けないとな。

 出来合いのDPで設置できるトラップに、お手製のトラップをたっぷり混ぜてやろう。できれば出来合いトラップには無い、一味変わったトラップを仕掛けたいところだ。思いつけばだけど。


 …………ああ、睡眠時間が削られてしまう。

 俺、この戦いが終わったらぐっすり寝るんだ……。




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― 新着の感想 ―
[一言] 最初の頃はロクコとえっちなことしたいとか思ってたけどハクのことを考えたら手を出したら死ぬなこれ。主人公がロリコンじゃなくてよかった。 幼女にツルハシ持たせて働かせるなんて絵図が酷いな
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