閑話:とある一般的なダンジョン
(本業と書籍化作業が忙しくてマッハで通常の更新ができないため、前に特典用SSとして書いて没になったままお蔵入りしてたヤツをだな)
ケーマがダンジョンバトルとかでなんやかんや活躍していたその頃の話。
とあるダンジョンコア――第629番コアが、草原に構えたダンジョンでのんびりとダンジョン経営をしていた。
彼はウサギ型ダンジョンコア。オレンジ色したウサギで、そのダンジョンの第一層はこの周囲の草原そのものだった。
「はー、冒険者ども来ないきゅねー。暇ぁー」
ぴょこぴょことほかの3匹のウサギに交じって跳ね回る第629番コア。
一応このウサギたちはダンジョンのモンスターである。普通のウサギと違い、額に一本の角が生えている、イッカクウサギだ。……角の他は普通のウサギとそう変わりは無い。
「バッタ捕まえたー。みてみてー」
「もぐもぐもぐ……草うまー」
「あだー?! 耳齧ったのだれー!」
ウサギたちはのんきにじゃれ合っている。とても微笑ましい光景だ。
言葉については第629番コアがウサギ型のため十分に意思疎通ができている。が、ウサギたちはあんまり知能は高くないのでいう事を聞かないときもあった。
「お前らー。まじめにダンジョンの見回りするきゅよー。ニンジン食いたくねーきゅか?」
「だってー。629番さまもやる気ないじゃんー」
「良い天気なんだしー、草おいしいじゃん」
「しっぽのもふもふに磨きをかけたいのー」
自由気ままなウサギたちに、629番コアはやれやれとため息をついた。
ここは平和だ。
のんびり日向ぼっこして過ごすのもいいけど、それではDPが溜まらない。
ちなみにバッタを倒すと1DPが手に入る。トノサマバッタなら5DPも入るのだ。ニンゲンがあまりやってこないこの草原では、バッタ狩りは貴重な小遣い稼ぎであった。
「あっ」
と、その時、空を飛ぶタカの姿が見えた。猛禽類のタカは、ウサギの天敵であった。
奴らはウサギを餌としてしか見ていない。このダンジョンを始めた頃はまだ地下階層もなく、何度も仲間が襲われて帰らぬウサギになったものだった。
「てめーら! 敵がきたの、返り討ちきゅよー!」
「「「らじゃー!」」」
奴につかまれたら、一巻の終わりだ。対タカ戦のフォーメーションを組む。
3匹のイッカクウサギは2匹が土台、1匹が上に乗る。
「じゃ、ボクは逃げるからあとよろしくたのむきゅよ」
「「「ええー!」」」
「なんきゅか、ボクがやられたらこのダンジョンは終わりきゅよ?」
「そーだけど」
「なんか薄情?」
「あ、まってタカ来た。迎撃、迎撃するよー」
高度を下げて襲い掛かるタカ。それめがけて、3匹のウサギが飛び上がった。
2匹が足場になり、1匹が突撃役となる。足場がジャンプし、さらに突撃役が重ねてジャンプすることで、多段ロケットのように敵に向かってぶっ飛ぶ超体当たり。
これぞ、対タカ用に開発された対空秘奥義、ぴょんぴょんアタックである!
「あっ、はずれた」
「あちゃー」
「こりゃしんだー」
しかし一発こっきり単発なうえ、外すとそのまま空高く飛んでいくだけというギャンブル性の高い奥義であった。
外れたとはいえ迎撃されたタカは、一度空に戻って仕切りなおす。
「あきらめんな! まだいけるきゅよ!」
「629番さま逃げ腰ー」
「いいから次いく! ボクも足場すっから!」
素早くフォーメーションを組みなおす。今度は629番コアも足場として参加した。イッカクウサギが第629番コアの頭の上に足を乗せ、フォーメーションを整えた。
タカが再び高度を下げ、狙いを定めてくる。
「今だっ! 第2ぴょんぴょんアタック!」
「あ、まって」
「うぉ、なんきゅか!?」
足並みを崩して崩れかける。チャンスとばかりに降下するタカだったが、丁度そこに先ほど射出したウサギが降ってきて、タカに上から頭突きを食らわせた。
そのまま地面に落とされ、色々とあたりどころが悪かったタカはそこで息絶えた。
「はずかしながら、もどってまいりましたー」
「よくやったのさんごう。ほーびにあとで毛づくろいしてやんのー」
「ぼくらも兄として耳が高いの」
もふもふとじゃれ合う3匹のイッカクウサギ。第629番コアはとりあえず頭についた土をくしくしと払い落した。
タカの死体を回収するのと合わせて、DPが150も増えた。いい収入だ。
「ふー、なんてことない敵だったきゅね。楽勝楽勝っ」
「629番さま、逃げようとしてたー」
「ねー、逃げようとしてたねー」
「……てめーら過ぎたことをぐちぐちと……ええい、そんならくれてやるの! ご褒美のイチゴをっ!」
「「「いちごー!」」」
イチゴは、ウサギたちにとってめったに食べられないご馳走であった。食べ過ぎるとお腹を壊すが、少量ならこれ以上ないほどの甘味だ。
臨時収入のDPが入ったし、少しくらいはいいだろう。第629番ダンジョンコアはやれやれと3匹のイッカクウサギを眺めていた。
「ふだんは草スポーンの雑草しか食べさせてくれねーもんなー」
「あれもそこそこおいしいけど、やっぱいちごはかくべつだよなー」
「ふへへ、いちご、いちごをよこせー。これだからしょーかいにんむはやめられねーの」
「……ほれー、さっさと戻るきゅよー。いちごいらねーっきゅか?」
「「「いちごー!」」」
ちなみにこのダンジョン『ウサギの楽園』だが、草原エリアより下、地下の階層ではそれなりの出来になっている。
魔法を使いこなす魔法ウサギや、固い鎧を纏ったようなアーマーウサギ、それに二足歩行で武器も使えるソルジャーラビットもいて、たまに訪れる新人冒険者がウサギを追いかけ迷い込み帰らぬ人となる程……その未帰還率は99%、地下階層限定で言えばいまのところ100%だ。
おかげでいまだにギルドにも場所を把握されていない野良ダンジョンなのだが、もふもふ好きのウサギ大好きな一部の冒険者にとっては、その存在をまことしやかに噂されている楽園である。
(没理由:ケーマ達が出てこないのでちょっと……
あ、そういえばオーバーラップ広報室のブログに載ってたけど、5巻は6月25日発売予定らしいです。
買ったあかつきには オーバーラップHP にある ウチの本のページ から Webアンケート に答えて「コミカライズはまだですか?」とか「ニクの抱き枕カバーはいつ発売ですか?」とか意見を出してみよう!(露骨な催促)
たぶん前巻までのと同様、アンケート回答特典で見れるSSとかイラストとかもあるんじゃないかな)