前フリ
寝て起きて思った。
とりあえず意味もなく見回りをしたが、別段必要なかったかもしれない。
そして見回りをしても別段ツィーアからの問い合わせは無かった。
……落ち着け、まだ1、2日程度。領主が力を蓄えているだけの可能性は高い。
むしろこうして俺の動揺を誘っているんじゃなかろうか。
くそっ! なんてこった。こうなったら気を紛らわせるためにダンジョンボスを新規開発してやる。
実は前々から案は温めていたんだ。
魔道具を使って武器を作っていたが、魔道具によって発生する現象は、基本的に罠の方が強い。水を出すなら『水源』、火を出すなら『火炎罠』と、あまりDPカタログ上の罠を使っていなくて項目が少ないウチでも十分上位互換なことになる。
……お? 罠のカスタムができるようになってた。前は多分無かったはずだ。
カスタムといっても、設置時に効果範囲を若干弄れるくらいだが……うん、折角だ、カタログ上の罠をたくさん使うことで何かしらの実績解除がされないかとかも試そう。
DPは結構使うことになるが、まぁ多少はね。
ダンジョンコア内のマスタールームでは罠を設置できないので、ボス部屋で作業をする。
まずはゴーレムに罠を設置できるかを試す。
俺はアイアンゴーレムをボス部屋に連れ込み、カタログを開く。
……うん、無理だな。設置する対象に選べない。
次だ。壁に罠を設置できるか……これは普通にできるから、アイアンゴーレムを解体してインゴットにする。で、これを薄くして壁に貼り付け、壁に罠を設置してみる。
とりあえず『水源』……は、部屋がびっちょりするから『火炎罠』でいいか。
で、設置したらダンジョンの壁から炎が出て、張り付けた鉄がフタとなる形になった。
……ダメかぁ。これがうまくいったら像に『火炎罠』つけて、とか発展させられたんだけどな。
あるいは、アイアンゴーレムを基にしたのが悪かったのか? ……まぁこれはこれで、サキュバス村にサウナでも作るか。
と、ふとDPカタログに『インテリア』の項目があることに気が付いた。
見るとその中には色々と飾りがある。インテリアというからにはダンジョンの装飾だろう。
こういう装飾は今まで自前で作ってたから全然見ていなかったが、色々あるなぁ。柱とか壁とか、像とか。……って、もしかして。
俺はそこにあった石像(100DP)を選び、出す。
目の前に剣を構えて威嚇するゴブリンの石像が現れた。……ゴブリン5匹分でゴブリンの石像1つ。普通に考えれば全然使えない。
しかしなんとこのゴブリンの石像。罠を設置することができた。
どうやらインテリアにある項目はダンジョンの一部であるため、罠を設置できるようだ。
……ゴブリン像の胸から『火炎罠』の火が噴き出るのはシュールだな
俺はゴブリンの石像に【クリエイトゴーレム】をかけ、形を変える。罠を設置した範囲を作り変えてしまうと発動しなくなるようで、単純な筒の形に変えたら発動しなくなった。
どうやら「罠」を「破壊」した扱いになってしまったらしい。
そこで罠をDPで修復してみた。するといい具合にうまくいったようで、狙い通り筒から炎が噴き出るようになった。おー、火炎放射器だこれ。
よし、形を変えても罠は使えるという事が分かった。
これは大きな一歩だ。例えばこの火炎放射器をドラゴン型ゴーレムの口とかに仕込めるということだからな。
……あ、でも【クリエイトゴーレム】で弄った後には新たに罠を設置できないようだ。これは面倒くさい。可能なのは修理だけか。
しかも筒を細くしすぎたら、筒を巻き込んで火柱が上がった。……手に持ってたら大火傷してたな。あぶねぇや。
『火炎罠』の放出範囲をカスタムして絞りに絞っても、大体直径30cmくらいは必要なようだ。
カスタムも設置するときしかできないし、事前によく考えて作らないといけないな。
そしてもう1点欠点が発覚した。
ちょっと見せびらかして来ようと火炎放射器をボス部屋から出すと発動しなくなったのだ。ただ、再びボス部屋の中に戻すと発動するようになった。
追加で確認実験したところ、どうやら罠は設置したフロアと同一のフロアでしか発動しないという事が分かった。
ボス部屋から出して使えなくなったのは緊急時にモンスターを『設置』できるようにボス部屋はフロア分けてたからだな。
おそらく、罠はあくまでも設置型。部屋内の謎解きとして罠を使うことを想定しているとしたら、フロア内くらいまでは移動できる、ということだろうか。
少しややこしいが、罠を使えるのはそのフロアの中のみってことだけ覚えとけばいいか。基本的に持ち出し禁止で。
んでまぁ、この欠点を制限として守れば罠を搭載した新型ゴーレムが作れるという事だ。
おーし、頑張って炎をガンガン吐くドラゴンゴーレム作っちゃうぞー。おー。
*
寝ました。おはようございます。
ドラゴンゴーレムは作りかけで、俺は村長部屋に戻ってひと眠りした。
まぁあと1、2週間はかけてのんびり作ろうと思う。どうせボス部屋までは誰も来ないし。
「あ、ケーマ。おはよう」
「おはようロクコ。ツィーア関係では何か進展はあったか?」
「無いわよ。よかったわね」
むぅ、モヤモヤする。
自分勝手だということは分かっているが、いつ来るか気になって仕方ない。おかげで今日も8時間しか眠れなかった。
あれか、1ヵ月名前貸すと言っておいたから、1ヵ月このまま何事も無ければもう何事もないということか?
つまり――
――最長1ヵ月モヤモヤさせられるということか?
冗談じゃない。そんなことされてたまるか。
「よし、ツィーアを攻めるぞ」
「まってケーマ? 急すぎてさすがについていけないわ、説明して?」
「すまん適当言った」
攻めるのはさすがに短絡的だったな。
けどまぁ、何かしらこちらからアクションをしないといけないか……。
「……うーん。どうしたらいいと思う? モヤっとするんだが」
「ほっとけば?」
他人事のようにあっさり言うロクコ。いや、まぁ当初の方針通りだけど。
「気になると、気になるじゃないか」
「言ってることは分からなくもないけど。……ならそうね。なんかこう、別の事件でも起きれば忘れられるんじゃない?」
別の事件か……どちらにせよ、眠れなくなるって事だよなソレ。
何も無いのが一番ではあるんだけどなぁ……
「そういえば、そろそろまたワタルが来る頃ね?」
「ワタルが来たらネルネに特別休暇を与えるか。あいつの情報は結構大事だしな」
と、そのワタルがとびっきりの厄ネタを運んでくるとは、今の俺には
……なんか薄っすらとそんな気がしていた。
(今回から新章だけど、章タイトル込みで小区切りは後で付けます)