度胸
(誤字報告してくれる人ありがとう。あんまり多いと時間のある時じゃないとできないから返事できないけど……。というか、話数が増えたせいか最近は小説編集ページ開くまでに数分かかるんだけど何この仕様)
俺は目を覚ました。ズキリと頭に痛みが走る。
……いったい何が。俺は確か……ん? ここは、宿の部屋か? しかもスイートルーム。
俺はレオナ相手に何か確認しようとして、罠に嵌ったんじゃなかったか?
なぜここに居るんだ。記憶が飛んでる? それともこれはまだ夢の中か?
コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「わたしです、ニクです」
ニクの声だ。俺は部屋に入る許可を――出す前に、自分の恰好を確認した。
裸だ。
そして布団。なぜかこれが神の掛布団だ。スイートルームのベッドはマットレスに羽毛布団だったはず。
そしてそして体に感じる重み。見るとロクコがロリ形態で俺に抱きついて寝ていた。
こ、こちらは寝間着を着ている。セーフか?
「ちょっとまてニク。状況を確認したいんだが、扉越しに質問に答えてくれ」
「はい」
「……レオナが去ったのは何日前だ? イッテツとダンジョンバトルをした日だ」
「はい、おとといですから……2日前、です」
……なん、だと? 1日の空白期間があるぞ。
これは、非常に怖い。単に意識が無くて起きたのが今、っていうのなら良いんだけど、レオナがなにかしでかしたとみるのが妥当だろう。
俺は幸せそうに腹の上に涎を垂らすロクコを、心苦しいが、起こすことにした。
「……おい、ロクコ起きろ。おい」
「ケーマぁ……じゅるる、はむはむ」
「うぉぁ、へそを舐めるなくすぐったい。そしてもぞもぞ動かないでお願い変な感じになっちゃうから! 起きてください頼む」
「へあ!? あ、ケーマ! ……正気に戻ったのね!?」
ロクコの目覚めの第一声を聞いて、益々不安が募る俺。
一体、昨日の俺は何をしでかしたんだ!?
「昨日は大変だったのよ、ケーマが明らかに正気じゃなかったわ。けど気付いたのが私とニクだけで」
「……ええっと、どう正気じゃなかったんだ?」
「いきなり私を抱きしめて愛をささやいて来たわ。いやその、情熱的なのは嬉しかったんだけどあれはケーマじゃない感じだったわね。だから神の掛布団に連れ込んで寝かしつけたのよ」
つまり、神の掛布団の治療効果を使った、と……状態異常も治るんだったか?
……ん? 待て待て。落ち着いてる場合じゃない。神の掛布団には夫婦じゃなきゃ天罰食らうって効果があったはずだ。天罰はどうなった? あれか? 夫婦判定でOK出てるのか? え、おい。神公認で夫婦なのか俺とロクコ?
「なぁロクコ」
「何よケーマ?」
「……俺とロクコって――ってその前になんで俺全裸なの? あの、お願い服着させて」
「あ、うん。よかったいつものケーマだわ。……全裸なのは私と神の掛布団を使うにあたってケーマが脱いだからね。床に服落ちてるはずよ」
ロクコの言った通り、床に服が落ちていた。……俺はいそいそと服を着た。
「……」
あの、まじまじと見ないでください。着替えみられるの恥ずかしいです。
と、ロクコに見られつつ着替え終わった。
さて、それじゃあ聞くか。
「あー、その、でさ。ロクコ。1つ聞きたいんだが」
「うん、なによ改まって?」
「……俺とロクコって夫婦、なの?」
「え?」
きょとんとした声でロクコが言った。……まって、その「え?」はどういう意味だ?
「……あれ!?」
「頼むロクコ。もっとはっきり答えてくれ」
「……あ、いやその。……パートナーよ?」
「目を逸らすなロクコ」
「…………じゃあ夫婦」
じゃあってなんだよ、じゃあって。
「……夫婦、じゃ、ないよな?」
「じゃない、わね……」
深刻な顔でうつむくロクコ。うん、この状況ならそうなるわな。
「……ヤバいな。これは神の掛布団の、神も真っ青な天罰を食らうかもしれん……! どうしようロクコ」
「え!? あ、そ、そっち? えーっと。あー、その、それなら大丈夫よ。私が許可出したら大丈夫なようになってるから」
「えっ、それ本当? 専用アイテムってそんな設定もできたの?」
「あーうん、そうよ」
マジかよ、そんな調整ができるならもっと早く言ってくれよ。
「それは何よりだ。……はぁ、安心したら眠くなってきた。布団借りていいか」
「え? あ、えーっと」
「あ、そうだな。ニクを待たせたままにしてたっけか。ニク、用件はなんだ?」
「いえ、ようすを見に来ただけなので。無事に、もう元に戻ったなら、いいです」
ニクはそのまま戻っていった。
よし、二度寝しよう。
「ねぇケーマ? ……私達、その、どういう関係かしら? 夫婦じゃ、ないのよね?」
「……そうだなぁ。夫婦じゃあないよな。別段結婚もしてないし、手続きとかもしてないし」
「ならなんなのかしら? ケーマは、私と夫婦なのは……イヤ?」
泣きそうな顔でこちらを見てくるロクコ。
……イヤじゃないけどさ。俺だってロクコのことは悪く思ってない。むしろこの世界での相方としてはロクコ以外に考えられな あ、ニクいるわ。けどニクはガチ幼女で抱き枕だからなぁ。となるとやはりロクコしかいないわけで。
でもここで夫婦とか言ったらあとでハクさんに殺されるよな。2回。【超変身】状態で1回殺されて、命のストックが無くなったところでもう1回。つまり永眠するまで殺すのをやめてくれないだろうってことだ。
「恋人、って感じでもないし……もうパートナーで良いんじゃないか?」
恋人とか言うのもなんか今更だし、恋人っていってもハクさんに殺されると思うし。殺されたくないし、恋人とか夫婦とかの既存の枠に当てはまらない『パートナー』というスタイルで押し通すのもいい気がする。今までずっとそれだったわけだしな。
「なら他に恋人とかそういうの作ったら、私、拗ねるわよ!」
「拗ねるのか。反対するとかじゃなくて?」
「ケーマが特に理由もなくそういうの作るとは思えないし、そこは別にいいわ。でもめっちゃ拗ねるわよ? 焼きたてのメロンパンが3分で湿気るくらい」
「まぁ無いと思うけど、その時はめっちゃ機嫌取るよ」
「なら許す!」
俺はぽふぽふとロクコの頭を撫でた。
……にへー、とロクコが笑う。ロリ形態なのもあって実に微笑ましい。
「あー、その。ニクと寝るのも控えた方が良いか?」
「え? ニクは抱き枕でしょ、なんで控えるの?」
ロクコのこだわりポイントが分からん。まぁニクを抱き枕として使い慣れてしまっている今、いきなり使うなと言われても少し困るからいいんだけどさ。
「でもあれね。ニクってばケーマ愛用の抱き枕なのよね。……私にも貸して? 前々から使ってみたいと思ってたのよ。代わりにケーマにも神の掛布団使わせてあげるから」
「よしわかったいいだろう」
交渉が成立した。天罰が下らないなら神の掛布団をためらう理由はもはやない。
いやまぁ、それに慣れてありがたみが無くなってしまう恐れはあるが、ありがたみを享受するのをためらう理由にはならない。
「なら3人で一緒に寝るのもありね。神の掛布団で」
「おお! それはいいな、早速ニクを呼び戻して二度寝しよう」
「まって、ニクは仕事のシフトはいってるし、今のとこは2人だけにしましょ。ニク入れるのは夜で良いでしょ。……あと寝るのはお昼までだからね?」
「はいよー」
なんか、俺とロクコのあやふやだった関係に着地点が見つかったな。
ここは神の掛布団で添い寝する元凶となったであろうレオナにお礼を言っておくべきだろうか。いややめとこう、レオナだしな。
それにしても、パートナーという関係をゴリ押ししてしまおうとは……ちょっと前の俺では考えなかっただろう。
俺とロクコは、いや俺が、恋人だの夫婦だのの枠にこだわり過ぎていたのかもしれない。
なんというかそう。
度胸が付いた感じ?
(次話から新章にするとしてな、どうするかな?
というわけで日曜更新できたけど次の水曜日には間に合わないかもしれない)