君が バツゲームになるまで 関門をやめない!
(……更新時間は滑り込みセーフということで)
坂の次はターザンロープやロッククライミング、ポーズをとった形の穴が開いた壁が迫ってくるとかいう関門もあった。だがレオナはノリノリで突破していく。
そして今、レオナたちの前にはまた趣向の違う関門が立ちふさがっていた。
「ひゃあ! う、動きましたよ!? ちょ、これホントなにが入ってるんですか! 生き物、生き物ですよね!?」
「あー、こっちからは答え言っちゃいけないルールなの。頑張れミチル!」
「ヒントもダメですか? うう、もどかしいッ」
と、中身の見えない箱の中に手を突っ込んでビクビクしているミチル。箱は1面だけガラス張りで、正面に座っているレオナとスイラには中身が見えている。まぁよくある中身当てゲームだった。
ちなみに蜜柑が入っている。動いたというか転がったというか、これもよくある。
「カエル、カエルです!」
『おおっと残念、外れだぁー! 正解は蜜柑でした!』
「えええウソですウソです、だって動きましたよ!?」
『それではバツゲームでーす。どうぞー』
と、部屋にゴーレムが入ってきた。無駄に全身黒タイツで、手にはハリセン。
ゴーレムはミチルの隣に立つと、ハリセンを大きく振りかぶった。
「え、え、ちょ、誰ですか!? ……あだぁ!」
そして、スパーンと良い音を立ててミチルの頭をぶっ叩く。
大きな音が出たが、特にダメージらしいダメージは無い。多少ビックリしてフラフラしたくらいだ。
ミチルを叩いた所で、ゴーレムは引っ込んだ。
『はい、こちら残念賞の飴玉ね。次の挑戦者どうぞー』
「わーい飴玉ー。もぐもぐ」
「あ、では次行ってきますねレオナ様」
スイラが準備できたところで箱の中身が入れ替わる。今度の中身は、梨だった。
ペタペタ触るスイラ。先程のミチルの様子を見ていたのか、躊躇するのは良くないと思ったようだ。おっかなびっくり触るより効率ははるかに良いし、正解ではある。
「わかりました、梨ですね」
『なんと、正解です! どんどんぱふぱふー! あ、こちら賞品の梨です』
「入ってた中身そのままじゃないですか」
と、あまり面白みもなくスイラは正解した。そしていよいよレオナの番だ。
当然、レオナなので特別な中身を用意してある。
「いよいよ私の番ね! ……さて、なにかしら?」
すすす、とレオナが横に空いた穴から手を差し込む。そのタイミングで箱の中身をギャラリーの2人に見えるようにした。
「ええ、ちょ、それアリなんですか?」
「う、うわぁ……え、言っちゃダメなんですよね? が、頑張れレオナ様ー」
「しまったぁあ! これは3人目が突拍子ないパターンね?! ああ、何かしら! 蛇かしら、カエルかしら、それとも人間の頭!」
『ブッブー、はい、ハズレでーす。バツゲームねー』
と、ひょいっと再びハリセンを持ったゴーレムが現れた。
「え、あ、ちょ、今のは回答じゃないわよ? え、ダメ?」
『箱の中に手を突っ込んで答えたんだから回答だろ?』
「そこをなんとか! せめてちゃんと回答させて!」
『……仕方ないなぁ、泣きの1回ってことにしてあげよう。さあ、回答してー』
「わーい。ふむ、どれどれ」
ハリセンを持ったゴーレムはしぶしぶと下がっていく。レオナは改めて箱の中をまさぐった。
ちょん、と手に触れる何かがある。冷たい、そしてぷるぷるしている気がする……押し込めば指がうずまりそうだ……大きい水まんじゅう?
「え、ちょ、これ食べ物? あ、回答じゃないわよ」
『さーどうでしょう。ヒントになっちゃいますからねー。あ、でも強いて言えば私は食べません。……なんたってゴーレムなもんで!』
「あっはっは、ゴーレムはご飯食べないものねー……うーん、この感触は」
力を込めれば潰れそうな、触り心地の良いそれ。
レオナはそれがぴくんと動くのを感じた。間違いない、これは生きている。生き物だ。
「……スライムかしら?」
『それは……最終回答ですか?』
「最終回答よ!」
どこからともなくドラムロールが流れる。
『…………』
「…………」
そしてにらみ合うこと十数秒。あれ、長くないか? と感じた頃、ようやく「じゃかじゃん!」とドラムロールが途切れる。
『残ッ念ッ! 正解はゼリーでしたー!』
「そっちかー! しかもゼリーってスライムとものスゴく似てるアレじゃないの!」
『ええ、だから泣きの1回を許可したんですよ、2回言えばどちらかでも当たるから。あーあ、外しちゃって。確率100%からの50%、ものすごくフェアな勝負だったんだけどなー。じゃ、そういうわけだからバツゲームです』
ハリセンを持ったゴーレムが三度現れる。レオナの横で、思いっきりハリセンを振り上げた。
「きゃー♪ 優しくお願いしますっ、きゃー……はうッ♪」
ばしいーん! と、激しい音を立ててレオナの頭にハリセンが直撃。
……ゴーレムとレオナは、少しの間余韻に浸るように動きを止めたが、司会であるウーマの声で直ぐに動き出した。
『はいはい、ゴーレムさんお疲れ様でした。レオナは参加賞の飴ちゃんね。次の部屋は右の扉へどうぞー』
「はいはーい。さ、行くわよ、スイラ、ミチル!」
「「はい、レオナ様!」」
レオナたちは意気揚々と次の部屋へ向かっていった。
尚、次の部屋はアツアツおでんの関門である。
*
レオナたちが去った後、ハリセンを持ったゴーレムはおもむろに自分の頭をつかみ、取り外した。
……正しくは、ゴーレムのハリボテを着たセツナが、である。
「っぷはぁ! あー、ゴーレムのガワ、暑かった……」
「お疲れ様ですセツナさんー」
俺は、セツナがレオナを殴る機会を作るため、ゴーレムのガワと「バツゲームになったらハリセンで頭をぶっ叩く」というルールを用意した。
レオナはなかなかバツゲームにはならなかったが、ようやく1回、バツゲームとなった。何気にスイラはノーミス、ミチルもさっきのが初めてのバツゲームだった。
何気に肉体派バラエティ競技はクリアしないと進めないこともあり、レオナがサポートしていたからな。……まぁ、バツゲームになるまでぐるぐると手を替え品を替え、最終的にはほぼバツゲーム確定の関門を用意する予定だったが。
そんなわけで、ゴーレムは、セツナが中に入っていた。そして、セツナはゴーレムに扮してレオナの頭をハリセンで思いっきり殴りつけた。……つまり、セツナはレオナをぶっ叩く、という目的――約束の条件を果たしたことになる。
コレで一方的に約束が叶っているのであれば、レオナに余計な手を出して冷めさせるようなことも無いのだが、そうでなければどこかでセツナがゴーレムの中から出てくる所を見せる必要があるだろう。
……できれば叶ってる方が良いなぁ。
「で、レオナをハリセンで殴ったわけですけど……どうでしたかー?」
「うーん、おばあちゃんに直接叩いた事告げないとダメだと思ってたんだけど、なんか呪いが解けた感じする。ちょっと確認したいから脱ぐの手伝って?」
「はいはーい。かぱっとー」
ネルネの手伝いによってセツナはゴーレムの中から抜け出す。レオナがバツゲームになるまでの待機中、ずっとハリボテを着ていたせいでセツナの肌や服は汗でじっとり湿っていた。
「んー……ん。ふむ」
体をまさぐるようにポンポンと叩くセツナ。
パッと見た感じ、変わっているようには見えないのだが――
「……うん、呪いは解けてるね」
セツナが微妙な顔になった。呪いは解けたが、他に何かあったのだろうか?
「それは、なによりですー」
「ありがとうネルネさん」
「はいー、謝礼は別途いただきますねー? なんなら体で払っていただいてもー」
「うん、約束だしできる事なら何でもするよ。なんなら1ヵ月タダ働きとかでもいいよ」
「ふむー。まぁそれは上司に聞いてみますねー。……ところで、レオナに何されてたんですかー?」
「……え、ええっと。……ぼ、ボクの体には秘密があるんだけど……」
セツナは恥ずかしそうにもじもじした。
確かに、一応聞いておきたいな。レオナがどういう事をしたのかってことで。
「自分が元は普通の女の子だったと認識する呪いをかけられてたんだよ……! ナユタにもあわせて!」
……え、アレ自前だったんだ。へぇ。
(そういえばもう1個の連載のほう、何気に更新しました)