幼女の夜這い
「と、いうわけよ」
「うん、どうしてそうなった」
まぁ簡単に言うと俺がマーキングしておいた幼女がホイホイ来たのでキヌエが保護したと。ついでに友達になって色々おしゃべりして情報を引き出したらしい……。
キヌエの意外な優秀さにびっくりしつつ、とりあえずピンクの幼女についてまとめられた情報を確認する。
・「秘密だけど、私ってサキュバスなの」
・「これでも多分キヌエよりお姉さんなんだから!」(精神年齢が外見らしい)
・「ふぁ!? ケーキってすごくおいしい!」
・「ええと、お姉さまはもっとすごいサキュバスなのよ?」
・「キヌエはお友達だから、お姉さまに襲われないように守ってあげる」
・「あ、でもケーキ作れるキヌエはきっと重宝されるわ!」
という発言を得ることができたらしい。
……相手がちょろすぎやしないか?
「キヌエは逆に罠の可能性もあるって言ってたわね」
「それで情報が発言の原文ママってわけか」
判断は俺に任せる、ってことだな。信頼されてるというか手際が良いというか。
幼女がサキュバスなのはいいとして、姉が控えているのが気になるところだな。
「おいネル、早速の仕事だぞ」
『はーい、サキュバス退治っすね!』
「いや、俺の護衛だ。夢の中でな」
思惑に乗ってやろうじゃないか。少しだけな。
*
ミチルはキヌエの協力の下、村長の眠る宿の一室にやってきた。
どうやらサキュバスを警戒して人の多い宿の方に寝床を移していたらしい。
「うう、ありがとうキヌエ。私のためにこんな協力までしてもらっちゃって」
「あらあら、私達は友達じゃないですか。気にしなくていいですよミチル」
「友達……キヌエ。キヌエが困ったことあったら言ってね、なんでも手伝うから!」
「ふふふ、それなら今度、この宿のお仕事でも手伝ってみますか?」
「うん!」
ミチルの満面の笑みにキヌエも微笑みを返した。
「あら、部屋に鍵がかかってますね。どうしましょう?」
「大丈夫! 私はサキュバスだから夢渡りで部屋に忍び込むことができるのよ! でも本気で寝ちゃうとそこで実体に戻っちゃうんだけどね」
「それじゃあ、廊下で寝るのかしら? お掃除はしてるから汚くはないけど。そうだ、毛布持ってきましょうか」
「大丈夫、夢渡り中は実体が消えるから。それじゃ、またね」
と、ミチルは夢渡りのスキルを使う。空気に溶けるようにミチルの体は消えていった。
視界が切り替わる。扉や壁、床すらも無視して寝ている人のみが見えるという、サキュバスやインキュバスといった夢を渡る者のみがもつ視界だ。寝ている人は白い光の塊に見え、それ以外は黒く、何も映らない。
さらにサキュバスのミチルには、白い光の塊のうち男性のみ輪郭が赤く見える。この赤い輪郭が入れる対象である印だ。(もっとも、多少苦労するが赤い輪郭が無い者にも入れないことも無い)
宿で、かつ夜なので他の部屋でも寝ている人も見えているが、目的である村長以外は無視だ。
この視界に遮るものが無いように、ミチルは扉を無視してふわりと村長の白い塊に近づいた。
赤い輪郭を撫で、とぷん、と村長の夢に入る。
するとそこは、先日と同じ豪華な部屋だった。
そして、先日と同じくベッドに横たわって寝息を立てている村長。
「……今日こそ魅了を成功させるんだからっ!」
ミチルはもぞもぞとベッドにもぐりこむ。とても寝心地が良いこのベッドは寝てしまいそうになる……が、もし寝てしまうといつのまにか夢から追い出されて実体化してしまうのだ。(ただし夢を見てる主が注目してる間は追い出されないらしい)
眠気を誘うベッドに抗いながら、ミチルは村長の横にすぽっと頭を出した。
添い寝している状態になったところで、ゆさゆさと村長を揺らして起こす。
「村長様、村長様」
「うーん……はっ、き、君は先日の幼女じゃないか」
「え、えっと。……わ、私と気持ちいいことしませんか?」
先日の衣装は色気よりもはしたなさの方が強かったようなので、今日は元々の服のままだ。それでもサキュバスのデフォルトということもあり色々と肌色が多いが。
「うん、しんぼうたまらん。幼女ハァハァ」
「きゃっ!? そ、村長さん!?」
興奮した様子の村長にガバッと押し倒されるミチル。なんということだ、まさか普段の衣装の方がこうも魅力的だったなんて、と思いつつも、血走った目をした村長に一抹の恐怖を覚える。
「あ、あの、やさしくしてください……その、夢の中なら大丈夫なんですがっ、その、念のため、念のためですよ?」
「フフフ、任せてくれたまえ。こう見えても僕は紳士だからね」
「きゃっ、や、そ、そこは……んんっ! きゃう、ひゃあ!?」
村長は、おもむろにミチルの足の裏をくすぐり出した。
「ハァハァ、幼女の足の裏ハァハァ」
「きゃはははっ、く、くすぐったいですぅ、あはっ、ひゃう、あはっ、あははひゃッ!」
そうして、村長の気が済むまで足の裏をくすぐり続けられるミチル。
腹筋とかがだいぶ鍛えられたと思う……夢の中だけど。
*
「うるさくて眠れねぇ……いや、夢の中だけどさ」
幼女の笑い声をベッドの下でお布団に入ったまま聞きつつ、俺はぽつりとボヤいた。
俺は、ネルに身代わりを頼んだ。
サキュバスは夢の中で自在に姿を変えられる存在だ。そこでネルには魅了状態の俺を演じてもらい、相手の出方をうかがうことにした。
いわゆる囮捜査だ。
ちなみに護衛は近くに置いときたかったので指輪に戻して俺がはめている状態だ。憑依をしなければ問題はない。
……それにさすがにドールと添い寝はちょっとな。鉄の塊で硬いし重いしひんやりし過ぎてて寝れないし、なにより囮捜査には存在そのものが怪しすぎる。
あと起きた後は俺が魅了されたフリをしなければいけないのだが、基本的にサキュバスが色仕掛けをするのは夢の中。起きた後は魅了済みが前提なので、適当に演技しておけばバレないだろうとのことだ。本当だろうな?
まぁ失敗しても別に困らないしいいか。
……というか、ネルは俺の事どう思ってるんだ。ちょっとやり過ぎじゃないか?
もうちょっと穏便に済まないもんか……と思ってるとネルから念話が飛んできた。
『これくらいしないと魅了された感が出ないんですよ』
「まじかぁ……」
『あと声出さないでください。バレたら台無しでしょう?』
うん、夢の中だしテレパシーも普通にできるよね。じゃあ程々に頼むわ。
『それじゃ、さらに頑張って演技しますから! あとはよろしく頼みますよ?』
念話でネルがそう言うと、ベッドの上で進展があった。
というかネルがさらに攻めを強めたようだ。
「……足、舐めるけど、良いよね?」
「ひ……ひう、う、や、やめてくだ……あっ、いえ、イヤという訳じゃなくてですね、ちょっと、こ、呼吸が……あとこのままだとなんか色々漏れます……」
「ぺーろぺろぺろぺろぺろクンカクンカぺろぺーろ」
「にゃひぃいっ! くひゅっ、かひゅっ……あ、ひぃぃぅ……ッ!」
息も絶え絶えにどたんばたんとベッドの上をのたうち回る音が聞こえる。
……これ、俺がしたことになるのかぁ。なんかヤだなぁ。
とりあえず、耳栓して寝ることにした。夢の中だけど。
そして、朝。
「……うーん、微妙によく寝……うわっ」
目が覚めた俺が横を見ると、ピンク髪の幼女……ミチルが横になっていた。
しかし意識があるか怪しい虚ろな目で、コヒューコヒューと息をして、さらに時折りびくんっと痙攣している。目には涙の痕。力なく小さく開いた口からは涎も垂れていた。
大丈夫かコレ。
えーっと、目が開いてるし、寝てる訳じゃないよな?
「お、おい?」
「はひゃいッ! はっ、あ、はぁ、はぁ……い、生きてる……はぁ、息ができるって素晴らしい……ッ」
あ、よかった。大丈夫そうだ。
すーはーすーはーと深呼吸をするミチル。
そして、「よしっ」と一息ついたところで俺と目が合った。
「……ひぃ!? そ、村長様ァ!」
「お、おう」
ずざざざっと壁まで思いっきり距離を取られた。どうしようコレ……あ、魅了されてる演技しなきゃ。
「さ、昨晩は激しい夜だったよ、ベイビー? 俺、何でもいう事聞いちゃうぜ?」
「……」
しまった。さすがにわざとらし過ぎただろうか。